■ゆのはエンドの銅大的な蛇足

※これは、『ゆのはな』の最終ルート、ゆのはエンドのエンディングとエピローグの
間に挿入される私的なシナリオです。あの後、いったい何があってあのエピローグへ
到達したのか。私的にいろいろと考えてみました。
 エピローグを見終わった後で、興味があったらお読みくださいませ。

拓也:ん……
 山を下りようとした俺はとつぜんの冷気にぶるり、と身体を震わせた。
拓也:これは?
 ふりむく。
 そこにゆのはがいた。血の気を失った白い顔。無惨な血の跡。
 ゆのはではなく、ゆのは姫。
 虚ろな顔に、にぃ、と笑みが浮かんだ。
ゆのは:そこに……いた……
拓也:ゆのは! どうしたんだゆのは!
ゆのは:ととさまを……かかさまを……殺した……
拓也:何を言っているんだ?
ゆのは:その刀でみんな、殺した。
拓也:え?
 ぎょっとして俺は自分の手を見た。そこには血塗られた刀が握られていた。
拓也:どういうことだ、これは。
ゆのは:殺した……拓也がみんなを……私を……殺した
拓也:なんだって?
 気が付くと、周囲の風景が変わっていた。
 空には暗く厚い雲がたれこめ、ついさっきまでのように雪が降り続いていた。
拓也:いや、違う。
 何かが違った。空気の匂いが。肌の感触が。
 ここはおかしい。
 ここはゆのはな町じゃない。
 俺は周囲を見回した。
 木々の形が何か違う。
 山肌の感じがどこか違う。
 木々の間から見えていたふもとの風景が――違う。
ゆのは:拓也――拓也――
拓也:ゆのはっ?!
 俺はゆのはを見た。暗い瞳の奥に、暖かな光があった。
拓也:これはいったいどうしたんだ。
ゆのは:わ……私にもよくわからないの。でもここがどこだかは分かる。ここは私が
死んだ場所。いえ、ここは私が死んだ“時”。
拓也:え?
ゆのは:ここは1000年前のゆのはな郷。
拓也:どうして――こんな場所に。
ゆのは:きっと、つじつまを合わせるため。
拓也:つじつま?
ゆのは:もうひとりの私、祟り神であった私はここで殺された。だから私達が一緒に
なって死ぬためには、この地に来る必要があったの。
拓也:それは分かる気がする。でも、じゃあどうして。
ゆのは:それだけじゃ足りなかった。1000年の時を隔てた私達が一緒になるには、
もうひとつ――同じ死に方をしないといけない。
拓也:それって――
 腕にある鉄の重み。
 俺は血塗られた刀を見た。
 まさか。
 まさかまさかまさか。
ゆのは:拓也お願い。私を――殺して。
拓也:冗談じゃないっ!
ゆのは:お願い。そうしないと。
拓也:できるわけないじゃないか!
ゆのは:私だって拓也にそんな事して欲しくないっ!
 ゆのはの悲しそうな叫び声に俺は思わず目をしばかせた。
ゆのは:でも、そうしないと拓也が――どんどん変わっていく。
拓也:え?
 俺はその時、自分が鎧を身につけているのに気が付いた。時代劇なんかで見るような、
古い鎧だ。
ゆのは:つじつまを合わせるために、拓也は私を殺した武士に変わりつつあるの。
このままだと拓也は身も心も武士と同じになってしまう。私を殺した武士と同じに。
だから、せめて――

 拓也、自身の手で。

拓也:そんな事ができるものかっ!
 俺は手にした刀を放り投げようとした。だが、どれだけがんばっても刀を握る手が
開くことはなかった。
ゆのは:お願い! 今私を殺せば、拓也は、拓也だけは元の世界に帰ることができるから。
拓也:いやだ。何か方法があるはずだ。何か。
 俺は歯ぎしりしながら言った。ゆのはを殺してまで助かるつもりなんかない。この
命はゆのはに助けてもらった、ゆのはの命なんだ。
ゆのは:あきらめ……て。
 その声はすごく弱々しかった。ゆのはの声と同じだけど、ゆのはじゃない。
ゆのは姫の声。
ゆのは:私はもう……あきらめた……から。もう恨む気持ちも……ないから。
生きるのだって……あきらめ……たもの。
拓也:あきらめろ――だって。
ゆのは:いつかはこんな時が来ると思っていた。滅びる……時が。
拓也:滅びる時――あきらめる――
 雪の冷たさが、じわじわと肉体だけでなく、心にまで染みこんでくる。
 さっきと同じ。ここに来る時に感じたのと同じ冷たさ。
 ここに来る時と――?
 爆発した、俺の愛車。
 その熱で、俺はここまで来ることができた。
 俺の愛車、クワゥテモック。
 祖国の滅びを前にして、最後まであきらめなかった勇者。
 そうだ。
 俺はあきらめない。
 たとえ結果がどうなろうと、あきらめたりはしない。
 俺の手が握るべきなのは、こんな血塗られた刀なんかじゃない。
 俺の手にあるのは、刀じゃなくて――
 命の次の次の次に大事な
拓也:こいっ! テスカポリトカっ!
ゆのは:え?
拓也:よっしゃーっ。
 俺の手には刀ではなく、テスカポリトカが、愛用のギターが握られていた。
ゆのは:た、拓也っ、何をやっているのです!
 べべん。
 うーむ手がかじかんでいるのでうまく演奏できない。
 が、そこはハートでカバーだ。
拓也:よし、歌うぞ、ゆのは。
ゆのは:え?
拓也:歌うんだ。ゆのはの死のつじつまを合わせるために俺がここに来たならもっけの
幸い。つじつまがどんどん合わないようにしてやろう。
ゆのは:拓也はバカです! そんなムチャクチャな事をしたらいったいどうなるか
わからないんですよ!
拓也:わからないからいいんじゃないか。少なくとも俺がゆのはを殺してエンドなんて
いうのよりよっぽどいい。
ゆのは:よくありません! このままだとまた元のように雪がゆのはな町をつぶして
しまうかも知れないんですよ?
拓也:なんとかなる。
ゆのは:なんともなりません! 何か拓也にいい考えがあるとでも言うのですか!
拓也:ないよ。
ゆのは:それみなさい、ですから
拓也:俺にはないけど、誰かがいい考えを出すかも知れない。
ゆのは:え?
拓也:ゆのはな町にはたくさんの人が住んでいる。俺やゆのはでは分からない事でも、
みつ枝さんや渋蔵なら何か思いつくかも知れない。尚樹さんならインターネットで
アイディアを募集してくれるだろう。
ゆのは:それは……でもそんな事をしたら……
拓也:なあ、ゆのは。俺が集めていたお賽銭はどこから来た? 俺が作ったのか? 
違うだろ。あれはみんながバイトとして雇ってくれて、それで出してくれたお金だ。
ゆのはな町のみんなのお金だ。お金を集めてもいいなら、知恵を集めたっていいじゃ
ないか。
ゆのは:……拓也はやっぱり、バカです。
 べんべん。
拓也:そりゃ認める。
ゆのは:だから……バカな拓也だから……そんな事を思いつくのです。
拓也:うん。
ゆのは:バカだから……私まであきらめたくなくなっちゃうじゃないですか。
拓也:あきらめないでいようぜ。で、何かリクエストは?
ゆのは:うーん。
拓也:指がうまく動かないから、あまり複雑なのは弾けそうにないけどな。
 実はほとんど動かない。
ゆのは:じゃあ――『春よこい』を。
拓也:そいつはいいな。
 俺はだましだまし、ギターをかきならした。
 そして俺の歌声と、ゆのはの歌声が、白い風景の中に響いた。

 春よこい 早くこい 
 あるき始めた みいちゃんが
 赤いはなおの じょじょはいて 
 おんもへ出たいと まっている

 1000年のむかし。
 ゆのは姫が死んだその場所に。
 ゆのは姫だけじゃなくて、大勢の人が殺されたその場所に。
 春を待つわらべ歌が流れた。
ゆのは:あ?
拓也:お?
ゆのは:拓也、元に戻ってる。
拓也:ゆのはも、傷が消えてるぞ。
 お互いに言われてはじめて気が付いて自分の姿を見直す。
ゆのは姫:あなたはもう――私じゃない。
 その声は、空から聞こえた。
 ゆのはが浮かんでいた。ゆのは姫。けど、こちらにも傷や血はない。
ゆのは:え?
ゆのは姫:ふたりで一緒になって、そして何もかもをおしまいにしようと思ったけど。
あなたはもう、私じゃない。
ゆのは:そんな。
ゆのは姫:千年の時が、そして拓也が、あなたを変えてしまった。もうあなたと私が
ひとつになることなんてできやしない。私はアイスクリームなんか食べたことないし。
男の人を愛しあったこともないもの。
ゆのは:でも、それじゃ。
ゆのは姫:だから、私が何もかも持って行く。恨みも、悲しい気持ちも。神としての
力と一緒に。
拓也:どこへ行くんだ。
ゆのは姫:あるべきものは、あるべきところに。私はととさまとかかさまの所へ行くの。
ゆのは:そんな……
拓也:そこが、いいところだといいな。
ゆのは&ゆのは姫:え?
拓也:いや、その……なんかヘンな事を言ったか?
ゆのは:当たり前です!
ゆのは姫:く……くすくすくすくす。
ゆのは:あ。
ゆのは姫:だからこそ、なのね。だからこそ、あなたなの。あなたでないとダメなの。
ヘンリー3世があなたをゆのはな町に導いたのは、あなたが、草津拓也だから。
拓也:ヘンリー3世が?
ゆのは姫:拓也には大事な、大事な役目があります。だからここで拓也の旅が終わっては
いけない。あなたはもっと旅を続けなくてはいけない。ゆのは――もうひとりの私。
ゆのは:う、うん。
ゆのは姫:拓也をよろしくね。拓也は莫迦で阿呆で単純で、騙されやすくてしょうがない
奴だけど。
ゆのは:そうだね。
拓也:いやふたりで納得しないで欲しいんだが。
ゆのは姫:そういうのを全部ひっくるめて、拓也なんだから。
ゆのは:うん。
ゆのは姫:拓也。
拓也:おう。
ゆのは姫:元気で……まぁ言われなくても元気に過ごすとは思うけど。私をお願いね。
拓也:任せておけ。

 雪がやんだ。
 天には星。
 地には雪。
 俺のとなりには、ゆのはがいた。

ゆのは姫:では、おわ
拓也:じゃあ、またな。
ゆのは:またね。
ゆのは姫:……う、うん。またね!!

 ざあっ――
 雪が散った。
 舞い散る桜の花びらのように。一足早い春の訪れのように。
 舞い上がった雪は、天で光となった。

ゆのは:……行っちゃった。
拓也:じゃあ、俺達も行こう。
ゆのは:どこへ?
拓也:どこにでも。行きたいところへ。

 そして俺とゆのはは。
 手をつないで、山を下りたのだった。

(そしてエピローグへ……)

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