注意:これは『龍の守護者』シリーズの第7話です。第6話の『悪夢』をお読みになってから読まれると、より楽しむ事ができます。
あの9月11日の同時多発テロ以降、ホワイトハウスはさらなる強固な警備 を受ける事になった。 シークレットサービスが増員されただけではない。 陸軍と海軍海兵隊の特殊部隊も常時詰めている。 さらには周辺の建物にもさりげなく特火点が幾つも設置されていた。 冗談抜きで、そこを攻撃するのであれば軍隊が必要であった。 ラングレーでは、それだけの事ができるのは今も昔もイギリス野郎(ライミ ー)だけだと冗談を飛ばす者もいた始末である。言った本人はかつて米英戦争 において、ホワイトハウス──当時は白くなかったが──に戦火が及んだ事に ひっかけた洒落のつもりだった。 うかつに冗談を言うものではない、と日系の上司は諭した。言葉にはそれ自 身に呪(しゅ)がある。それを口にする事が、それを招き寄せる事になるかも 知れない、と。 馬鹿馬鹿しいと忠告された者は思った。彼は典型的ないわゆるWASPであ り、高い教育と訓練を受けた合衆国のパワーエリートだった。そんな冗談もう かつに口に出せない、悪い予測に前もって対策を立てる事すら怯えるようだか ら上司の母国である日本はあのていたらくになっているのだと。 けれども、 彼がこの混乱を生き残っていたら、果たしてどう思っただろうか。 混乱。そう、戦場においてはすべてが混乱する。ワシントンは今や黒煙たな びく戦場となっていた。 ホワイトハウスを落とすのに一個軍が必要だというのなら。 よろしい、その一個軍を送り込もうではないか。 その単純ではあるがそれゆえに誤つ恐れの少ない王手(チェック)を打って きたのは、 やはりというかなんというか。 イギリス人だったのである。 イギリス兵はワシントンに空と川の二方向から突入してきた。文字通りの意 味で世界の最強国であり、口には出さなくとも世界の支配者であるとの自負を 持つ超大国の首都に一撃を加える事ができたのは、世界で最もプロフェッショ ナルな軍隊を持ち、世界で最も外套と短剣(ナイフ・アンド・コーツ)を操る 腕に長けた老いたるかつての超大国だけであったのである。 ギャラルホルンが60億全ての人類に終末(ラグナロク)の音を響かせてか ら、三ヶ月後の事である。 その部屋はプラハにあった。 その部屋には23人の魔術師(マギ)がいた。 いずれの魔術師も協会に所属する、名だたるメンバーである。ほとんどが老 人であるが、外見だけなら若いのはもう少し多かった。ほとんどが男であるが、 百年前に比べると女性の比率は確実に上がっていた。 だが言うまでもなくこの部屋に入る資格は老若男女の区別などではなく協会 における血筋と格であった。23人の魔術師と、その直接間接的な配下にある 魔術師を合わせれば、協会全体の魔術師のほぼ7割を占める。 「ブリトン人はうまくやっておるようだな」 まるまると太った初老の──実年齢は300才以上である──男が言った。 「これまでのところは」 これまた小太りのいかにもな英国紳士が諧謔をにじませる声で答えた。 「SASの諸君は大いに努力しておるようです」 「しかし時代は変わりましたな。まさか我らがそろってテレビの画面で最新情 報をながめる羽目になるとは」 どこからどう見てもラテン系な若者がアルマーニのスーツから煙草を取り出 してくわえた。その陽気な顔に皮肉の色が濃い。 本当であった。地球上のどんな地をも見通せる力を有した魔術師が23人そ ろって、壁面の日本製大型液晶テレビに映るワシントンの光景をながめていた。 画像は安定していない。『BBC』と『LIVE』の文字が右下に表示されて いた。 「ワーテルローの時には、使い魔の目を通して観戦していた。やろうと思えば 今でも出来る」 古風な軍服を着、襟元にプール・ラ・メリット(ブルーマックス)を付けた いかめしいカイゼル髭の男が言った。 「だが、誰もやろうとはしない。どうにも収支が合わないからです。これでは 出来ないのと大差ありません」 「何が言いたい」 「いやなに。我々がこの映像をぼけっとながめている。その事が、我らのこの 世界での本当の地位を表しているように思えましてね」 場の雰囲気がじわ、と険悪な物になった。 「この若造が──」 「いや、若いマルティアーノの言う通りだよ」 品のいいさっぱりとした服装の老婦人が言った。 「これがワーテルローの時なら、私らはこんな場所で悠長にお茶なぞ飲めやし なかった。降臨してきたどっちの陣営も、まずは私らを自分の勢力に取り込も うとやっきになったろうからね。だが今は違う。龍皇も、そしてあいつらも、 私らなぞ無視して戦っている。なぜなら私らなしでもこの世は動くからね。そ れが証拠に真っ先にあいつらが制圧したのが」 「ユナイテッド・ステーツ」 歌うような抑揚をつけて英国紳士が言った。 「そう。核のボタンとニューヨーク証券取引所さ」 「さよう。もう頃合いですな」 関雲長のような美髯と風格をたくわえた男が言った。 「我々が闇の貴族を気取られるのも、表の社会があってこそです。我らの魔力 がまだ価値を持つ間に、この世界を救うべきです」 「やっておるではないか。こうして英国を動かし、彼らの軍がアメリカにたど りつくのを陰から支援した。わしの子飼いでももっとも腕が立つ三人がやつら からの攻撃を防、」 どんっ。 その時、ホワイトハウスの中にまで入り込んだカメラの画像が縦に揺れ、ブ ラックアウトした。 ぴりりりり。ぴろろろろ。ぱらんぽろんぴりん。 テレビ画面の急変に合わせて、23個の携帯電話が一斉に鳴った。全員が、 これはさすがに憮然とした表情で電話を取り出す。 「私だ」 言語こそ違え、同時に23の口から同じ言葉が出た。 電話の向こうから何事か話が続く。それに対する答えも、23通りの言語で おおむね同じであった。 「……そうか。引き続き監視を続けろ」 ここまで全員の反応が同じだと何か出来の悪い芝居を見せられているようで ある。 携帯電話をしまいながら、アジア系の顔立ちをした背広の男が言った。 「我々は全員ハリウッドに就職すべきですな。どんな大根でもフィクサーの役 にはなれる」 「すべてがブラックジョークのようだ」 「でなければ悪夢か」 「むしろ喜劇(ファルス)だと主張したいね、ボクは」 「テレビに注目したまえ。すぐにつながるぞ」 映像が回復した。 そこに映し出されたのは、金髪で碧眼の、まだあどけない少女だった。ここ にいる全員が、その少女の名前を──名前であったものを知っていた。 ソフィア・プラグノヴァ。ロシアの協会重鎮の愛娘。魔術の腕は未熟だが、 高い潜在力を持ち、その二つがそろっているがゆえに三ヶ月前の開戦劈頭にダ ウンロードされた。 そして今は合衆国の支配者である。 「しばらく見ないうちに、人間も便利な物を作るようになったな。せっかくな ので利用させてもらう」 きれいなロシア語だった。 「もう報告されているであろうが、そなた達の攻撃は失敗に終わった。我らの 目をくらませていた魔術師はことごとく狩りだした。常人(つねひと)の軍隊 では我ら、」 とたたたたたた。 軽快なサブマシンガンの音が聞こえてきたかと思うと画像が再び乱れた。 「老いたりとはいえ大英帝国、やりますな」 「だてに世界で一番性悪の覇権国家を演じてきたわけではないようで」 「ところで、ソフィア嬢の服装は、あれは?」 「日本の学校で生徒が着用している制服というものです。分類ではブレザーと 呼ばれるタイプになります」 「お、そろそろ終わったようだな」 ちょっと髪が乱れ、少し埃をかぶったソフィアが憮然とした様子で言葉を続 けた。 「……訂正する。イギリス兵は雑草のようにしぶとく、魔術の援護がなくとも バラの刺のように厄介だ。だが、もはや嫌がらせにしかならぬ」 母親ゆずりの美しい長い髪の毛をかきあげる。その仕草は、11才の少女の それではなかった。 「悪い事は言わぬ。我らの側につけ。蜥蜴は数が少なく、そして切り札である 遺産を失っている。此度こそ我らが勝つ。長き戦は終わり、約束された救いが 来よう。そなたらが望むのであれば天界への道も開かれておる。だがあくまで 戦うというのであれば容赦はせぬ。蜥蜴もろともこの星を核の劫火で焼き尽く してくれよう」 そして画像は今度こそ完全に途絶えた。 ふぅ、とゆったりとしたローブを着た老人がため息をついた。 「失敗か。送り込んでいたわしの六人の息子はことごとく殺された。卿らも同 様であろう。もはや二の矢は放てぬ」 「いや、損害に見合った価値はあったと見るべきだよ、サイリーダス」 老婆が目を炯々と光らせて言った。 この婆さん、逆境になると生き生きとするな。彼女の若い頃(18世紀)を 知っている何人かがそう考えた。 「あいつらは力は手にしたがそれをもてあましている。軍事力にせよ経済力に せよ、使おうにもどうにも強すぎるのさ。そして何よりも世の中が根本的に変 わってしまった。昔のように力が強ければ何をしても許される時代じゃない」 「それを理解したからこそ、我らに共闘を持ちかけた」 「まさか誘いにのるつもりではあるまいな? ソドムとゴモラの町がどうなっ たか忘れたわけじゃあるまい? あいつらは人をなんとも思っていないのだぞ」 「そのへんは龍皇も似たり寄ったりだ」 「その通り。どっちにもこの星は渡せないね。けれどこれで私らは駆け引きが 出来るようになった。うまく立ち回って、あいつらを一掃するチャンスを掴む んだよ」 「一掃? まさかあんたが考えているのは──」 「その通り。やつらにも龍皇にもない切り札が今も人の手の中にある」 じろり、と、一座を見回して老婆は言った。 「天梁の遺産がね」 まあ、そういう会合があったのは後になって知ったわけだが。 そのころ、俺は飛騨山中にいた。 三ヶ月前に負った手傷はとうに癒えていた。だがあの時以来、俺は一度も紫 苑=龍皇と会っていなかった。てっきり遺産を寄こせと龍の一族を率いてやっ てくるに違いないと踏んでいたので、これは予想外であった。龍皇だけではな い。龍族はまったく音無しの構えだった。どこにいるのか姿も見せない。 しかたないので天梁の名と金で集められるかぎりの情報を収集し、三ヶ月か けてようやく龍の一人を見つけだす事に成功した。岐阜県吉城郡宮川村。人口 千人あまりのこの山間の村に、はためいわくにも人にダウンロードした龍がい る。 「探したぞ」 「由比奈ちゃん。このお兄ちゃん、誰?」 赤いランドセルを背負った少女が隣りのやはり同じ背格好の少女に聞いた。 学校の帰り道だ。世界がラグナロクに突入しようがどうしようが、日本の母親 が子どもを学校と塾に通わせるのをはばむ事はできない。 「親戚のお兄ちゃん。久しぶりだね、有樹兄ちゃん」 にっこり笑って答える小学生の少女の中に、齢数万年を経た龍が潜んでいよ うとは周囲の誰も気づかなかったようである。 「ふーん」 「由比奈、話がある」 「わかった。じゃあね、早麻理ちゃん。また明日」 「うん、また明日」 早麻理ちゃんとやらが十分に離れた後で俺は龍に向きなおった。 「子どものふりがそんなに楽しいか」 「楽しいともさ。わしらに子ども時代がなかったとでも思っているのか?」 「いつの話だ」 「主観時間でいえば、7万4千年あまり昔。銀河標準時間では……さて、4億 年前になるかな」 「いいかげん生き飽きたろう。はやいところ冥界か仙界かどこかによそへ行く 気にはならないのか」 「そうだな。もう頃合いだろう」 意外な言葉に俺は目をしばたいた。 「どうした? 何を驚いている?」 龍は、正しくは龍がダウンロードした由比奈ちゃんは、薄い笑いを浮かべた。 それは幼い少女が浮かべるには透明すぎる笑みだった。 「今も天界に戻ろうと画策しているのは龍皇とその取り巻きだけだ。天界の追 っ手とこうやって万年単位で戦を繰り返すのも、もう倦んだ。いや、正直なと ころ──」 由比奈ちゃんは白い繊手を俺に伸ばした。そして俺の手を掴むと、指を絡め てきた。 「こうして人の子として生き、そして死ぬのも悪くはないと思っている。すで に人間は第三階梯の生命体へ進化する段階に来ている。これまで様々な器を借 りて天界の追っ手と戦いを繰り広げたが、それももう終わりだ」 「たいへん独りよがりで迷惑な話だ。その肉体を由比奈ちゃんに返せ」 「返すもなにも、もうすでに半分わしの方がくわれかけておるよ。肉体に根ざ した人間の精神はそれほどに強い。わしのような若い龍にはまぶしすぎる」 「とてもそうは見えないが」 「? おぬしがそれを言うのか?」 「どういう意味だ?」 「ふん。気づいておらんか。まあいい。それで知りたいのは龍皇の居場所か?」 「そうだ」 「残念だが、知らぬ」 「言いたくないというのなら、ちょっと手荒な事になるぞ」 「本当だ。わしのようにもう戦いを放棄した龍の間でもちょっとした騒動にな っておる。龍皇は主戦派の龍だけ連れてどこかに消えた。どこに行ったか誰も 知らぬ」 俺はじっと少女の瞳を見つめた。すべてが普通の少女でありながら、そこだ けは黄色い龍眼だった。 俺にはこの龍が嘘をついていないのが分かった。直感など信じる方ではない のだが、分かったのだ。 「……まいったな」 「天界の連中も今頃困り果てておるだろうよ。盟約には相手が戦おうとしなか った場合の事など定められておらんからな」 「そこだ。俺が心配しているのはあんたらの戦いの決着じゃない。それに巻き 込まれる人々の心配を──」 龍が、あるいは由比奈ちゃんが、きゅっ、と俺の手を握る力を強めた。 「嘘はいかんな」 「嘘?」 「おぬしが心配しているのは『人々』ではない。わしに対してならそれでもい いが、自分に対してまで嘘をつくのは感心せんな」 俺と龍はじっとにらみあった。 ぱぱらーぱらぱぱー。 着メロが流れた。 「失礼」 俺はつないでいない方の手で携帯を取りだした。 「天梁、すぐに戻れ」 田所だった。 「何があった?」 「ソフィアちゃんの方がちとやばいことになってる」 「わかった」 俺は電話を切った。ポケットにしまう。 「お兄ちゃん」 「あ?」 由比奈ちゃんの瞳は黒に戻っていた。 「がんばってね。それと、龍さん達をあまり責めないで。ずっと、ずーっと、 ずうぅーっと、さみしかったんだから」 それが、その言葉が、龍の擬態でない事がこの時もなぜだか分かった。 「それじゃ」 握った手を離そうとする。と、由比奈ちゃんが俺のその手をぐい、と引っ張 って俺の頬にちゅ、とキスをした。 「ファイト!、だよ」 わずかに頬を赤らめながら由比奈ちゃんが言った。 「ああ」 俺はうなずいて由比奈ちゃんの手を離した。きびすを返して歩き出そうと── ぐい。ひじを引っ張られる。 「まだ……いっ?!」 「キミ、ちょっと話を聞かせてもらおうか」 そこには怖い顔をしたお巡りさんが立っていた。 由比奈ちゃんは全速力で逃げていた。 学園の大講堂は、その姿を大きく変えていた。 雰囲気としては、バトル・オブ・ブリテンの防空指揮所が近い。確か『空軍 大戦略』という映画では教会の建物を使っていたような気がするのであるがど うだったろうか。 中央の巨大な世界地図には模型部の連中が作った様々なフィギュアが並んで いる。 その周囲をぐるりと取り囲むようにして設置されたオペレータ席には我が学 園の女の子達が座り、キーボードとマウスを操作している。もちろん男もいる のだがなぜ女の子が圧倒的かというと、この一切合切を取り仕切っているやつ が田所だからである。そうした部屋の雰囲気もますます映画を思い出させる。 「遅かったな」 ここのヒュー・ダウディング大将こと田所が俺を見つけて近寄ってきた。こ の半月は24時間ここに詰めているはずなのにやけにこざっぱりとした格好で ある。制服には皺一つなく、コロンのにおいまでさせている。 「ソフィアがどうした。ワシントンのイギリス軍は撃退したんだろう?」 「どうやら二段構えの作戦だったらしい。混乱に乗じてアメリカ軍の一部が反 乱を起こした。さすがジョン・ル・カレの国」 誰だそれは。ジェームズ・ボンドの親戚か。 「馬鹿な事を。手向かいさえしなければ、天界の軍は人間を害したりはしない というのに。どこの連中だ」 「第五艦隊。原子力空母三隻を基幹とする艦隊だ。あの核の恫喝がよくなかっ たな。どうせやられるなら一矢報いてやろうというんだろう」 「まずいぞ。海の上だと回りの被害を気にせずに天界の軍は攻撃できる」 「そいつはどうだろうか」 地図の上、アメリカ合衆国のあるあたりを田所は示した。天使のフィギュア がそこかしこに置かれている。天界の連中だ。 「はっきりいって、天界の統治はうまくいってない」 「そりゃそうだろう」 今の人間は、肉体を持った天使が現れたからといって、素直にはいそうです かと畏れ入るような精神構造は持ち合わせていない。天界の魔法も、指輪物語 とD&Dとハリー・ポッターに馴れた現代人にとっては「そういうものか」で 納得されてしまう。 連中が気づいているかどうか知らないが、アメリカ人の多くがとりあえず抵 抗運動らしい抵抗運動をしていない最大の理由は、天界軍の長がダウンロード したソフィアが、思いっきり美少女なためである。すでに日本ではソフィアを 題材にした成人向け同人誌が大量に作られ、日本のみならず海外にも委託販売 されているほどだ。 「むかしの要領で──ええっと、坂井さん。前の天界と龍族の戦争っていつだ ったっけ」 「紀元前3千年。場所はメソポタミアからインダスにかけての当時の都市文明 地帯です」 丸い大きな眼鏡をかけた中等部の女の子がずりおちかけた眼鏡を支えながら 言った。 「当時の記録については、シュメール人による粘土石版に頼るしかありません が、今回の件でカナダの大学生ジャン・ボルノーが……」 キーボードを猛烈な勢いで操作しながら、とんでもない早口で話す。 「ありがとう、坂井さん。でだ。とにかく要点をまとめると、むかしの中東の ノリでアメリカ人を扱った天使連中は総スカンをくらって、今では核ミサイル 基地などの重要施設の警護に当たっている。もうちょっと柔軟に対応できる連 中は、都市から都市へと飛び回りながら宣撫工作を行っているが、あまりかん ばしくない。だから、天界軍に出来るのは押さえている核ミサイルで空母を吹 き飛ばすぐらいだが……それができりゃあ、三ヶ月もうだうだやってないわな」 「まったくだ」 天界の連中にとって最大の誤算は、彼らが眠っている間に人類が発明した核 兵器のあまりの量と、その使えなさであろう。 天使だろうが龍だろうが、核ミサイルの直撃をくらって無事ではすまない。 いや本体は精神だけなので無事だろうが、肉体の方がもたない。そして一度肉 体を失った者が同じサイクルの中でもう一度別の肉体にダウンロードするのは 協定違反だ。きりがないからであろう。 そこで天界の連中は最初に核兵器を手中に収める事にした。協会の連中はさ ぞびっくりしただろう。今までもしもハルマゲドンが発生したら自分達こそが 天界か龍の尖兵として戦う事になるだろうと恐れもし、また自負もしていたは ずなのだから。ところがどっこい歴史を陰から動かしてきた選民たる高貴な魔 術師は、テキサス生まれであやしげな選挙結果によって大統領になったぼんぼ ん以下だと判明したのだ。 だが天使の魔力が通用したのは電撃的にアメリカを制圧するまでだった。ク ラウゼヴィッツ的に言うのならば攻勢限界点に達したのだ。人間は紀元前3千 年とは比べ物にならないくらいに数が増えており、しかもその情報伝達速度は 地球規模にまで達している。それに対し天使の総数は千人あまりで固定でその 意志決定は旧来のままだ。 「もしも自国の艦隊に核を使われれば、かろうじて内圧ぎりぎりのアメリカ人 が暴動を起こす。ハルマゲドンどころの騒ぎじゃなくなる」 「どだい時代錯誤なんだよ、お前らは」 とん、と俺の胸をこづいて田所が言った。 「感謝してる。お前がいてくれないと俺は何もできなかった」 「よせよ気味が悪い」 磊落に笑う田所だが、三ヶ月前に重傷を負った俺のところにやってきて事情 を聞いた後で顔の形が変わるかと思うほどぼこぼこに俺を殴りつけたのもこい つである。ちなみにそこにいた母さんはにこにこ笑いながら息子が血反吐をは くのを見ていた。今度機会があったら親子の縁を切ってやる。 「龍の守護者とか遺産の継承者とか魔術がどうとか協会がどうのとかはどうで もいい」 田所は俺を思う存分に殴った後で言った。 「お前は、何があろうが紫苑ちゃんとソフィアを守らなきゃならんだろうが」 その通りだ。 「その事で相談がある」 「おう、言え」 「俺はなんとしても紫苑と、そしてソフィアを奪い返す」 「当然だな」 「力を貸してくれ」 「よしよし、殴った甲斐があったな。任せろ」 こうして俺は天界軍と龍族に関する情報収集を田所に任せたのだ。田所は天 梁家が蓄えた金と自らが学園に築いた人脈とを使って、たちまち学園を情報セ ンターにしたてあげた。あきれた事にロシアの偵察衛星の情報まで時間借りで 買い取っている。金さえ入れば見境なしか、プーチン。 「それより龍には会えたのか」 いつも通り白衣を着た涼子がおれ達に近づいてきて言った。 「おかげさまでね」 ひっそりと隠れ棲む龍を見つけだすのに役だったのが涼子のもたらした情報 だった。龍が嗜好する漢方薬の材料を探り出した涼子は、薬剤会社の社長令嬢 の地位を利用してそのルートに網をはった。それに最初に引っ掛かったのが由 比奈ちゃん(の祖父)だった。他の龍はもうちょっと賢く立ち回っているのか この三ヶ月、世界のどこにも現れていない。 「それで情報は?」 おれは肩をすくめた。 「どうも龍たちには厭戦気分が蔓延しているようだ。まあ、天界の軍をしてこ の状況だからな。自滅するのを待っているだけかも知れない」 「そうか」 「しかしまずいぞ」 田所が女の子達が整理した情報に手早く目を通しながら言った。 「今、反乱艦隊に所属するアーレイ・バーグ級の2隻に核搭載トマホークがあ るのを確認した。まさかとは思うがワシントンに撃ち込まれたらソフィアが危 ない」 「そうはならないよ」 品のいい白髪のおばあちゃんがとんとんと杖で床を叩いてから言った。 ぞくり。 そのおばあちゃんを見たおれの背筋の毛が総毛立った。魔術師、それも今ま でおれが戦ってきたのとは格が違う。正真正銘、本物の魔術師だ。 「あ、あんたは誰だ?」 情けない事に声が震えていた。その俺の頭を田所がどつく。 「ご婦人に『あんた』とは何事だこのすっとこどっこい。すいません、おばあ さん。礼儀を知らない男で」 一枚のプリントアウトされたばかりの紙が、田所に渡された。ちらりとそれ に目を向けて田所が頭を下げる。 「リーザ・タリトゥさんですか。私は田所光二といいます」 「『魔女』リーザ?!」 目の前の婆さんは。ごくごく普通の老婦人は。 協会の中でもトップクラスの魔術師だった。二百年もの間協会の権力闘争を 勝ち抜いてきた古狸でもある。すぐさま宝貝を起動させようとするおれの頭を 今度は涼子が殴った。 「重ね重ね申し訳ありません。後でこいつは半殺しにしときますので」 「いやいいよ。先代の天梁に比べて今の当主はかなり格が落ちると聞いていた が、なかなかどうして、友人を見る眼は確かだね。わざわざ出向いた甲斐があ ったよ」 「何のつもりだ……でしょうか」 これ以殴られては傷口が開く。俺はできるだけぶっきらぼうにならないよう に言った。 「天界軍があたしらに共闘を持ちかけてきたのは知っているだろう?」 「はい」 「せっかくだからその誘いにのってやろうかと思ってね」 リーザがにやりと笑った。まさにそれは『魔女』の笑いだった。 おれは── その言葉を聞いて── 指一本、動かさなかった。 リーザが呵々大笑した。 「いやいやどうして。あの若造が生まれたばかりのひよっこに遺産を相続させ ると聞いた時ゃ、あたしはこれで天梁もしまいだと思ったもんだよ」 リーザは手にした杖をひょい、と回転させると俺の鳩尾をどん、と突いた。 俺はぐっ、と呻いて膝をついた。 「子供に拳銃を持たせてどうする。身に過ぎた力は結局そいつを破滅させるだ けだ」 にやにやと笑いながら跪いたおれの顔をのぞきこむ。 「だからあたしは三ヶ月様子を見た。あんたがいつ遺産に手をつけるか。いつ、 人である事をやめるか。ずっと監視していた」 恥ずかしながら。 おれはまったく監視に気がついていなかった。 いや、この婆さんのはったりかも知れないが。 「遺産は──『遺産』だ。おれはあれを遺すために生きてある。使うためじゃ ない」 「やれやれ、いきがって生意気を言いたい盛りなんだろうねぇ」 リーザがおれの額に指を触れた。 「けど合格だよ。あたしが後二百年若かったら、惚れてたかもね」 リーザの指が肌の上に秘文字を書く。 力が──魔力が──おれの体内に潮のように満ちてきた。おれの物ではない 膨大な魔力。 「これは……真名? 誰の?」 「あたしのだよ。これであんたはこの『魔女』リーザさんの魔力の全てを使え るようになったわけだ」 「なぜ? なぜこんな事を?」 魔術師が真名を他の魔術師に渡すという事は、己の生殺与奪をすべて相手に 委ねる事を意味する。ここでおれがリーザの魔力をすべて吸い上げれば、この 婆さんはたちまち灰になって崩れ去るだろう。 「取引のためだよ。これからあんたを餌に天界の奴らを罠にかける。失敗は許 されない。一度っきりのチャンスだ。出し惜しみしてる場合じゃないって事ぐ らいあんたにも分かるだろう?」 「……話を聞かせてくれ」 「よしきた。けどあまり時間もないからね。残りは機内でゆっくりと話をしよ うか」 ばばばばばばばば。 大講堂の窓から、中庭に着陸する大型ヘリコプターの姿が見えた。 「ABCナイトライン、テッド・コッペルです。今夜は天界軍団長ソフィア・ プラグノヴァさんのお招きにあずかり、ここ、ワシントン上空からお送りして おります」 テッドが突然の事態に困惑していたとしても、その穏やかで理知的な表情か らはそれをうかがい知る事はできなかった。 ワシントン『上空』、テッドは確かにそう言った。高度1万フィートである からこれは間違いない。 「さて、プラグノヴァさん。この突然のお招きは、アメリカ第三艦隊の動きに 関連しているものと考えてよろしいのでしょうか」 流暢なロシア語でテッドはソフィアに話しかけた。彼は他にドイツ語とフラ ンス語を話せる。 「ソフィアでよい。それと英語でかまわん」 「どうも」 「むろん、そなたを招待したのはこれから第五艦隊を鎮圧するためである。さ らに、その鎮圧の様子をこうやって中継すれば、あちこちで発生している不穏 な動きを牽制できるだろうという狙いもある」 「率直におうかがいしますが、武力による鎮圧をお考えでしょうか」 「むろん、違う。流血と暴力が下策である事はそなたの方が良く理解している であろう。でなければわざわざ貴重な『──』など持ち出しはせぬ」 それは人ならぬ発音であった。 「失礼、今なんと? この浮かぶ城の名前でしょうか?」 「すまん。ふむ──浮かぶ城、か。よし、これをラピュタと名付けよう」 「ラピュタ? スウィフトの『ガリバー旅行記』ですか」 「いや、宮崎駿だ。形状も似ておるであろう。別に木は生えてないがな」 博識なテッドではあったが、さすがにジャパニメーションにまで造詣は深く なかったので、これは理解できなかった。 「このラピュタですが、これまでどこに保管されていたのでしょう?」 「海の底だ。場所は言えぬ。こうして使うのはおおよそ7000万年ぶりだな」 白亜紀か。まさか恐竜が絶滅したのも彼らのせいではあるまいな、とテッド は薄ら寒い感覚を覚えた。 「天界軍の戦艦のような物と考えればよろしいのでしょうか」 「戦艦でもある。元はさらに大きな戦艦の一部として建造された」 テッドはほう、と感嘆の声をあげた。このおおざっぱに言って黒い半球状の 飛行物体は、おおよそ半マイルの大きさがあった。ワシントン上空に突如出現 した時は町を押しつぶすかのような威圧感に満ちていた。 「これまでこのラピュタを使用されなかった理由は?」 「龍どもだ。これ以上は言えぬ」 またか。いまだ姿を見せぬドラゴン。テッドはこの三ヶ月でかなりドラゴン について詳しくなったが(世界中の人間がそうだろう)実際にそれが存在する のかについては今だ半信半疑であった。 「天界軍は今から三億年前に、天界で乱を起こした龍族の討伐がために地球に 来たという事ですが──なぜ、地球なのです? 三億年前といえば原始的な生 命が海に生きていた……少なくとも我々はそう理解していますが、その地球に いったい何があったというのです?」 「禁忌だ。言えぬ」 「それでは我々としても協力のしようがありませんよ」 「協力など求めてはおらぬ。戦が終わるまでおとなしくしておれというだけだ。 まったく、五千年前のお前達の先祖の方がよほど素直だったぞ。よけいな知恵 ばかりつけおって。魔術など手ほどきするのではなかったわ。怪しげな方向に 進化させおって」 「その魔術を継承している団体ですが、先のイギリス軍の侵攻にも関わってい たという話があります」 「事実だ。おかげで部下が五人も肉体を失ったわ。我も危ないところであった」 基本的に隠し事に向いていない性格なのだろうな。テッドはソフィアをなが めながらそう思った。まあペットの猫の前で話す内容に気をつける飼い主がい ないのと同じ事なのだろうが。 「どれ、艦隊が見えてきたぞ」 会話をしている間、ラピュタは大西洋を高速で飛び続け、第五艦隊へと向か っていた。 第五艦隊もまた、堂々たる布陣でラピュタに向かい、ここ大西洋上で互いに遭 遇したのである。 「空母が一、二の、三隻。全部おるな」 もちろん肉眼ではない。壁に映し出された画像である。魔術か科学か超科学 かは知らないが、とりあえず肉眼で見るのと同じくらいに迫力がある。 「我らを、向こうでも見ているのであろうな?」 「ほぼ間違いなく」 「ではアメリカ第五艦隊の将兵に告げる。そなたらの貧弱な兵器ではこのラピ ュタに傷一つ付ける事はできん。ここには民間人もおるが気にせず攻撃してく るがよい。安全は保証する。核も使ってよいぞ」 アメリカ人の目からしても11才にしては発育のよすぎる胸を突き出すよう にしてソフィアが宣言した。満面に得意そうな笑顔を浮かべている。その精神 を乗っ取っている存在の事を考えにいれたとしても子供らしい稚気というべき であろう。 なんというか、これだからむちゃくちゃ強引に占領されてもアメリカ人は天 使達を憎めないのだ。ソフィアを見ながらテッドは内心で苦笑した。客観的に 見ればどう考えても人質のはずの自分でさえも、何か微笑ましい気分になる。 さて、我らが同胞はこれにどう答えるであろうか。むろん、分かり切ってい るが。 テッドがそう考えた瞬間、空母を取り巻く護衛艦群が閃光と白煙に包まれた。 「爆発したのか?!」 ぎょっとした表情でソフィアが言った。 「すぐに救助を──」 「その必要はありませんよ。あれは搭載している全弾の一斉発射です」 「そうか。いや、海軍のフネというと演習でも実弾を撃ったらえらいことにな ると父から聞かされていたのでな」 「アメリカ海軍をロシア海軍と一緒にしないでいただきましょう。──で、こ のラピュタは大丈夫なのでしょうね?」 「実は核の直撃をくらうとさすがにやばい」 しれっとした表情でソフィアが言った。 おそらく今の発言で仰天したのは私ではなく第五艦隊の将兵だろうな、テッ ドは呆れ顔で考えた。 「が、そうはならんよ。──トールのハンマー、発射せよ!」 ばっ、と右手でポーズを決めてソフィアが言った。そのポーズに意味はおそ らくないだろうと思っているテッドですらほれぼれするほどに格好のよい仕草 であった。 ほぉぉ。旗艦「ジョージ・ワシントン」の統合作戦情報センターの面々が画 面に映ったそのソフィアの晴れ姿をみて感嘆の声をあげた。どうにもこう、戦 争をしているという気分が失せる少女である。 ざりっ。ノイズが入り、その映像が途切れた。 「なんだ? 着弾まではまだ時間があるぞ?」 「いえ、その……なんだこりゃ?」 「どうした? 何があった?」 「ぜ……全ミサイル制御不能!」 「どういうことだ」 「テレメーターによると、強烈な過電流が……」 同時に、CICの明かりが全て消えた。 「一言で言えばEMPだ。人間の文明とやらは電気に頼りすぎだな」 ソフィアは得々として言った。 「強烈な電磁パルスということですか。トール(雷神)のハンマーとはよくも 名付けた物ですな。確かにこれでは誘導兵器はその力を失う。いや、航空機や 艦船ですら──電子チップを搭載している物はすべて制御できなくなる」 「その通りだ。安心しろ。このラピュタの中には影響は及ばぬ。テレビの映像 は衛星を通してちゃんと放映されておる。第五艦隊はもう浮かぶ鉄くずとなっ たろうがな」 「なるほど、自信満々だったわけですね」 「いったであろう。このラピュタは戦艦だと。荷電子ビーム砲は基本武装だ。 今回はそれを拡散して発射した。実際には収束させて相手を焼き払う兵器だ」 「四方八方から攻撃を受けた場合はどうするのです? それも誘導されていな い銃弾を撃たれたら」 壁には、トールのハンマーの効果範囲外を飛んでいた第五艦隊の艦載機がき れいに散開してラピュタを取り囲む様子が写された。 「案ずる事はない。トールのハンマーは防御兵器としても使える。周囲10km 圏内に入った航空機は、ほらあの通りだ」 突っ込んできた3機のF/A−18ホーネットの動きが急におかしくなった。 パイロットは必死に体勢を立て直そうとしているがうまくいかない。 「何をやっている。はやく脱出しろ」 ソフィアが苛々と言った。その声が聞こえたのでもあるまいが、パイロット 達は次々に機を捨てて脱出した。他の機は、なんとか見えない電子の嵐を避け ようとラピュタの周囲を飛び回るだけで、攻撃に移る事ができない。 「こうして考えるとこれをラピュタと命名したのは我ながら良いアイディアで あったな。ラピュタは雲の渦の中心にいるわけだから」 うんうんとソフィアがうなずく。 「さて、デモンストレーションはこんなものでよかろう。これで他の人間も我 ら天界の軍に逆らおうとは考えまい」 それはどうだろうかとテッドは考えつつ、壁面に指を向けた。 「あの機体は? 第五艦隊の物ではないようですが」 大西洋上空を飛ぶその機体は第五艦隊の物ではなかった。それどころかアメ リカ軍の物でもなかった。またしてもと言うべきか、イギリス軍の物だった。 イギリスの航空博物館から引っ張り出してきたアブロ・ランカスター爆撃機。 日本人であるおれにとってはなんという事もない骨董品であるが、一緒に乗り 込んでいたドイツ人の魔術師にとっては何かこう、いろいろと複雑な思いがあ るらしい。イギリス人のパイロットに何やらぶつぶつ文句を言い、パイロット の方もV2号がどうしたとか言い返していた。 「いい、ユーキ? こういうやっつけ仕事はあたしは好きじゃないけど、失敗 してもそれは100%あなたが悪いのであってあたしの技術にミスがあったわ けじゃないのよ」 眼鏡をかけたドイツ人魔術師の少女はおれの鼻面にかみつかんばかりの口調 で言った。 「なんというか心温まる声援ありがとう」 おれは嫌味たっぷりに日本語で言い返した。ふん、と少女が鼻をならす。 「それにしても日本人はどうかしてるわよ。せっかく我が祖国から技術を伝授 してもらいながらこんなろくでもない物を造るなんて。技術者として恥を知る べきよ」 そう言いながらも、やはりこれまたイギリスの航空博物館から引っ張り出し てきた搭載物を愛おしげに撫でる。 「これを造った日本人が何を考えていたかまではおれの知った事じゃないが」 何よ文句ある、という感じで睨んできたドイツ人の少女におれは笑いかける。 「ただ一機。ただの一機でも。こうして人を殺すためではなく、生かすために 空を飛ぶのであれば」 銀色の地金がむきだしになった、現代人の目にはひじょうに小さく見える機 体に描かれた桜の花におれは手を触れた。 「たぶんうれしく思ったんじゃないかな」 ドイツ人の少女はむすっとした顔をした。 「うれしいわけないじゃない。いい、ロケットは空を飛ぶための物じゃないの よ。ロケットはね、月へ行くための物なの」 「覚えておくよ。じゃ」 おれはそう言って、その機体に乗り込んだ。風防を手で閉める。こうした事 まで、この機体はすべて手動で行う。そうだ。すべてが手動であり、それゆえ にこそ、この機体はおんぼろ爆撃機に搭載されてここまで飛んできたのだ。 「やけに古い機体だな。ふむ、ああいう機体ならもしかするとラピュタを取り 巻く電子の嵐の中でも飛べるかも知れん」 「あれはイギリス軍のマークのようですが、攻撃してきますかね」 「分からんが、どうしてもというのであれば撃ち落とさざるをえまい」 ソフィアは苦い顔で言った。ああも都合良く古い機体が飛んでくるというの はどう考えてもおかしい。誰かが裏で糸を引いているのではないか。だとした ら今すぐに撃墜した方が良いのではないか。理性はそう忠告するのだが、不格 好な機体の、風車に突撃をかける老騎士のような印象が、彼女にその決断を先 送りさせていた。 「機体の下の方が開きましたよ」 「ミサイルか? ならば撃ち落とすまでもないな。当たりはせぬ」 「ミサイル……なんですかね? あれは?」 「あれか」 おれは遠くに見える浮かぶ城を見ながら呟いた。 『いい、いくわよ。1(アイン)!』 おれの頭の中で魔術による伝声が響いた。 「2(ツヴァイ)!」 おれが言う。 「3(ドライ)!」『3(ドライ)!』 二人の声が唱和する。そしておれは操縦桿のボタンをぐいっ、と押した。 どんっ! おれの背後で固体燃料ロケットが燃え上がった。物凄い加速に、身体が操縦 席に押しつけられる。びりびりと機体が震える。 『ろくでもない物』とドイツ人の少女はそう言った。 おれもそう思う。これはまっとうな人間の考える物じゃない。 太平洋戦争でこの機体の攻撃を受けたアメリカ人は、この機体に『BAKA− BOMB』と名前を付けた。狂っていると思ったのだろう。 民家の上に焼夷爆弾を降らせ、原爆まで投下した連中に偉そうな事を言われ たくはないが、人の命を部品として組み込む兵器というのはやはりどうかして いる。 ロケット特攻機、桜花。 おれが乗っている機体が、それだ。そしてそれは今まっすぐに、空に浮かぶ 城へと突っ込んでいっている。 「ミサイルではない?」 ソフィアは目を瞠った。誘導されていないロケットか? 違う。外見とは裏 腹に空中を高速で機動しているこのラピュタに、そのロケットはちゃんと追随 していた。 「しかたない! トールのハンマー発射!」 だが、その雷撃が来るのが分かっているかのようにそのロケットは左右に小 刻みに機体を振ってかわした。 「くっ──連続発射!」 数十発の雷光がロケットの進路を取り囲むように発射された。 『回避パターン……だめっ! 脱出してっ、ユーキ!』 頭の中でドイツ人少女の悲鳴が聞こえた。が、脱出したところで雷光に灼か れるだけだ。 「南無三!」 おれは回避せずに一直線に機体を飛ばした。 激しい閃光がおれを…… おれを……避けた? 桜花を守るように長い身体をくねらせて空を並んで飛んでいるのは── あれは── 「雷龍?!」 『唐の国より一千年。代々、天梁の当主を守り続けてきたが、お前ほどに未熟 な当主はいなかった。まったく、自由になった後にまで世話を焼かせる』 宝貝から自由になった雷龍の声がおれの頭の中で響いた。 「ありがとう、感謝する」 『ふん!』 雷龍の思念には、どこか、そうどこか死んだ叔父を思わせるものがあった。 いや、もしかすると累代の天梁家当主の。 浮かぶ城が、その頭頂部が、目前に見えた。 どんっ! 激しい揺れがラピュタの管制室を襲った。テレビクルーがあわてて姿勢を低 くする。 だがソフィアだけは昂然と胸をはっていた。 振動、爆風、煙。 そしてそれらが晴れた時、管制室にはすでに原型をとどめていない桜花の姿 があった。風防は開いている。 ちゃりぃぃぃん。 金属音を響かせて、ソフィアは巨大な鎌を手に握った。薄くたなびく煙をぶ ん、と長い刃ではらう。 「やはりな。雷龍を見た時にお前だと確信したよ」 ソフィアの表情には様々なものが渦巻いていた。強い決意と戦意をこめた瞳 の奥には、しかしどういうわけか隠しきれない生き生きとした躍動感があった。 桜花の傍ら。半ば崩れた壁に足をかけ、風龍の守りの陣を解きながら少年は 三ヶ月ぶりに会う少女を見下ろした。 そして。 「迎えに来たぞ、ソフィア」 天梁有樹は、そう力強く宣言した。 ぶん。 まず、大鎌がおれの髪の毛を数本、切り裂いた。 続いて、 どん! とソニック・ブームがやってくる。風龍が守っていなかったら部屋の反対側 まで吹き飛ばされていただろう。 あ、余波を受けたテレビクルーがころころと転がっていく。転がりながらも カメラのフレームにおれとソフィアを入れているのはあっぱれである。 ソフィアが手にしているのは死に神が持つような巨大な鎌である。RPG的 に言うとデスサイズ。ガンダムでいうとガンダム・デスサイズ。いや、これは まんまか。 (うろたえるでない、あの程度の技など見切ってみせい!) 頭の中でやかましく怒鳴っているのがリヒテンシュタイン。ドイツの協会を 束ねる武闘派男爵である。人間の肉体は音速のレベルでの立ち回りに向いてい ないのではないかと思うのだが。 などと頭の中で反論しているとソフィアはぐるりと鎌を頭上で回転させ、今 度はふりかぶって縦に攻撃してきた。おれは腰をおとして両手を広げた。一円 の構え。 刃が、おれの脳天をまっぷたつに切り裂く直前、おれの手が鎌を──とらえ なかった。太刀筋を見誤ったのではない。避けたのだ。 「磁力か、面白いっ!」 ソフィアが呵々大笑する。これでも頭をひねったのだ。磁力があの刃に通用 するだろうかと。磁性をもたない素材では洒落にならない。だがロシアの協会 のメンバーが教えてくれた。あれはサンクト・ペテルブルグに保管されていた 「断罪」だ。魔術的にはいろいろあるし、由来ときたら一冊の本(しかも人の 革張り)ができそうだし、しかもカーズド・アイテムなのであるがそのえげつ ない強さは本物である。そして、強い磁性もある。 「魔術の戦いはその強弱で決まるのではない。それをどのように利用できるか で決まる。日本人はその点、魔術をツールとして使うのに長けているな」 ああ、人の頭の中でやかましい。黙れインド人。 「ふむ。そうか」 うきうきとした様子で鎌を五回ふるったソフィアがその手を休めて言った。 むろん、その構えに隙などあろうはずもない。 ソフィアの瞳に強い魔力が宿る。 「ユウキだけの力ではないのだな。ひのふのみ……ほう、集めも集めたり、2 3人分か。協会の古狸。古狐、女豹のたぐいが勢揃いではないか」 そうだ。協会の23人の大魔術師。その全員がおれに真名をあかし、その魔 力でおれの頭と肉体は飽和状態である。くしゃみをしたら魔力が吹き出るので はないかというぐらいだ。 「並の魔術師であれば弾け飛ぶところだが。さすがは私と龍皇が共に見込んだ 男だ。頼もしいぞ。ならばこれでどうだ」 ぶ、ぶぶ。 ソフィアの姿が揺れた。 すさまじい斬撃がおれの左脇腹に叩きつけられた。おれのからだが横向きに ぐるりんと回転し、そのまま7mを飛んでテレビクルーが待避していた机があ る隣の壁におもいっきり叩きつけられた。 「か──はぁっ」 ずるずるとかっこわるく床に崩れ落ちるおれをソフィアがラッシュをかけて くるでもなく立ったまま待っている。マイクを持ったテッドが近づいてきた。 「今の攻撃はなんですか? 幻影ですか?」 「そういう小手先の技ならありがたいんだがな。そうじゃない、あれはただ単 純に速く動いて、おれをぶったぎろうとしたんだ。だもので、残像が見えただ けだ」 「いや、カメラにもそのように見えてるんですが」 「ならきっと光速を超えて因果を一巡りしてきやがったんだろうよ。ちちっ」 痛みをこらえて、壁に背中をあずけながら立ち上がる。 「それで生きているあなたも相当だと思いますがね。まさか手加減されている とか?」 「いや、今のはソフィアの渾身の一撃だったろうよ。おれは──おれも、魔術 師だからな」 三ヶ月前のあれは三味線ひいていやがったのか。 いや、おそらく龍皇、天使長、ともにまだ肉体に慣れていなかったのだろう。 ソフィアのポテンシャルが最大限に引き出されるとどういう事になるか。今 の一撃でおれはそれを思い知ったわけだ。いや、正しくはおれに変わってプロ テクトの呪術を使いまくった協会の大魔術師が。 「左の三番目のろっこつにヒビがある。現実に介入するのもこれが限度だ。私 はこれで失礼する」 「弾け飛んだ結界を編み直した。私のミスだった。瞬間的な荷重に耐えられな かった」 「あんたのせいじゃないさ、先生」 「では私もこれで失礼する」 おれの身体から、力を使い果たした協会の魔術師の意識が抜けていく。同時 におれの肌に刻まれた真名が薄れ、消えていく。 「これで21人。しかし優しいことだな。残りカスといえどもわずかばかりの 魔力にはなろうものを」 そうだ。元の案ではおれが戦い、へまをしてダメージを受けると一人、また 一人と魔術を供給している魔術師が消滅する事となっていた。おれはそれはご めんこうむると今の方式に変えて闘っている。闘えば闘うほど強くなるという のはこの手の小説や漫画の典型であるが、最初がパワー・マックスで闘うとだ んだん弱くなっていくというのは意外と斬新かもしれぬ。 「しかしやってくれるな。遺産と第五艦隊を餌にラピュタを釣りだし、私との 一対一での勝負にすべてを賭けるか」 「だからもう迷惑なんだ、お前ら。地球から出て行け。それとなソフィア」 「なんだ?」 「ラピュタってこの空飛ぶ城のことか?」 「うむ」 「やはり滅びの言葉とかあるのか?」 「むろんだ、──」 「あ」の形で口を開いたところでソフィアは、ばっ、と自分の口を塞いだ。 デスサイズの構えが崩れる。 「アラフニの陣!」 一山いくらで協会から持ってきたマジックアイテムの一つを起動する。これ は強力な呪縛の力を、 「だぁぁっ!」 一瞬にして。 顔を真っ赤にしたソフィアによって呪法の糸が断ちきられた。だめだ、魔力 の基本的なキャパシティが違いすぎる。 「諦めるな。諦めた時にこそ本当に敗北が決まる」 いかめしい声がおれを励ました。 「ラガッゾ・デ・ジャポン(日本の坊主)、ここで女の子一人にびびったら色 事師にはなれねぇぞ」 いや、それは別になりたくもないし。 「そこだ!」 ソフィアの刃がおれを脳天からまっぷたつに切り裂く。 ガシャーンッ! おれの鏡像を出していた純粋鏡面(アリス・ミラー)が砕け散った。 「こしゃくな真似をっ!」 名だたるマジックアイテムもソフィアの前では一回こっきりの使い捨てにし かならない。 「何が狙いだユーキ!」 「おれの目的はただ一つだ」 「言うがよい」 「もう言った。お前を返してもらう」 わずかに鎌の動きが鈍った。 「それだけ──」 「この後、紫苑も奪い返さないといけないんだ。これ以上駄々をこねるな」 ぶちり。 ソフィアから何か奇妙な音が聞こえた。 「ばかかおまえはぁぁぁぁぁぁあああ!!!」 頭の中で21人が大合唱する。なんだ、おれがいったい何をした。 「ふざけるなっ!」 ぶおんっ。 鎌が、「断罪」が大きくしなった。おれはテレビクルーの身体を下にかばう ようにとびのいた。 ばきばきばきっ。 無事だった方の壁が音を立てて崩れる。 ぶんっ。ぶんっ。ぶんっ。 そのまま立て続けに「断罪」が床を、壁を、天井を切り裂く。 「なんだってんだくそぅ。だけどこれで──」 力に任せてぶんぶんと振り回す刃にはあきらかに隙がある。紙一重で「断罪」 をかわしながら、にじりよるように少しずつ、少しずつ間合いを詰める。 「よくも乙女の純情を踏みにじってくれたな」 「? 意味がよくわからんぞ、ソフィア」 「うるさいっ! ユウキはいつもそうだっ! 結局シオンを取る! 龍皇を選 ぶ! ワタシではなくっ!」 なんかわからないがソフィアと天使長のシンクロ率300%。 だが、後もう3mで── 「甘いわっ!」 ソフィアが断罪を回転させると、石突きで床を砕いた。 がくん、と。 足場が崩れる。 「これはっ?!」 「三ヶ月前にお前自身がしてみせた戦法だ」 ソフィアの背中に12枚の天使の羽根が広がる。 ばさり、「断罪」を手にしたままソフィアが空中に舞い上がる。 「甘かったな、切り札は最後までとっておくものだっ!」 崩れた床に倒れたおれに向かって急降下しながら、ソフィアが勝ち誇って叫 ぶ。 「同感だ」 おれはそう言うと。ポケットから取り出したリモコンのボタンを押した。 ぽむっ。 軽い音をたてて桜花の弾頭部──先端が割れた。そこからソフトボール・サ イズの球が弾け飛ぶ。 「なにっ? 魔力は感じなかったぞ?」 「そいつは魔術(マジック)じゃない」 おれは言った。 「奇術(トリック)だ」 「しゃらくさいっ!」 ソフトボールの散弾が「断罪」で切り裂かれる。ぱちゅん、ぱちゅん、と球 体ははじけ、そして中から液状の物体がソフィアにふりかかった。 「え?」 空気に触れるなり、液体はたちまち凝固し、粘りけのあるゲル状の物質にな る。 「な、な、な、」 「まあトリモチだ」 「こんな、子供だましっ!」 ソフィアがすぐさまひきはがそうとする。だが、その須臾の間さえあれば。 「羽根は止まったろうがっ!」 ぶおうっ。風龍で加速したおれの身体がソフィアの身体にぶつかる。 「我は契約(バインド)する!」 おれは右手をソフィアの心臓の上に置いて叫んだ。右手の中指にはめられた 指輪に向かって。 「ソロモン王の指輪かっ!」 太古において精霊を呪縛し、使役したソロモン王の指輪が。今、天使長の魂 を吸い取らんとする。 「だが──無駄だっ!」 ソロモン王の指輪の吸引力が大きくなるにつれ、おれの中から魔力がごっそ りと抜けていく。協会の魔術師達の魔力が、どんどん消費され、おれの中から 真名と共に消えてゆく。 1人、2人、3人── 7人、8人、9人── 15人、16人、17人── ソロモン王の指輪は無尽蔵に魔力を吸収していきながら、どんどんとその呪 縛を強めていく。その力はもう、呪的なブラックホールといってもよかった。 だというのに、 「無駄だというのにっ!」 ソフィア=天使長はかけらも揺らいだ様子を見せなかった。 そして、おれの中にいた最後の一人。「魔女」リーザが、 「気張るんだよ、天梁有樹!」 消えた。 残ったのはおれの、23人の大魔術師に比べればちっぽけな魔力だけ。 「そらみろ! もうやめろユウキ! 勝負はついた!」 「まだだ」 べり。 おれの右手の爪がはがれて、ソロモン王の指輪に吸い込まれた。 一枚、また一枚。爪がはがれ、皮膚がはがれ、血管が引きちぎれ指輪へと吸 い込まれていく。 「やめるんだ!」 「甘く見るなよ。天界がなんだ。無限の命がなんだ。きさまらはただの寄生虫 だ」 筋肉繊維がむしりとられ、腱が音をたてて断ち切れた。 「やめろっ!」 「おれを甘くみるなよ。おれ達生きている人間を甘くみるなよ。肉体っていう のはな、塵から生まれて灰に還るだけのただの器じゃないんだっ!」 白い骨が露出する。すぐにそれもひび割れて粉となり、ソロモン王の指輪の 餌となる。 「やめろ! やめろというのにっ! ──お願い、やめて、ユウキッ!」 その時。 圧倒的な天使長の精神力の下であがいていた少女の魂が。 表に、出てきた。 「ソフィアッ!」 「え? あ? 私は──」 「そうだ、思い出せっ! おまえはソフィアだっ! 自分の力で、呪縛をふり ほどけ!」 「わ、私は──ワタシは──」 力の向きが、変わった。ソフィアの中から、何かが、巨大な何かが引きずり だされていく。 「私はソフィア・プラグノヴァだっ! 私の中から出ていくがよいっ!」 悲鳴は。 それのあげた悲鳴は、それの大きさに比べてあまりにも小さく、か細いもの だった。 からん。 ソロモン王の指輪が、床に転がった。 おれが覚えているのは、そこまでだ。 「ユウキ!」 ソフィアは自らの身体にはりついたトリモチを渾身の力で引き剥がした。一 緒に学園の制服も引きちぎれるがかまっていられない。 「ユウキ! ユウキ!」 右腕をごっそりと失い、腕の付け根から鮮血を吹き上げるユウキの身体にむ しゃぶりつく。 「茶番だな。だが、まあ、よくやったと誉めてやろう」 美しい、だがあまりに冷酷な声。そんな声が似合わない少女の唇からはなた れた、吐き捨てるような言葉。 「このフネを引っ張り出し、もろともに破壊するつもりだったのだろうが、そ の前に力尽きてはせっかくの大言壮語も意味がないぞ」 「おまえはっ! そんなところで何をしているのよっ! ユウキがっ! ユウ キが大変だっていうのにっ!」 ユウキの服を引きちぎって右肩を縛って止血しながら、ソフィアが叫んだ。 「答えなさいよっ、シオンッ!」 「うるさいな──」 まるで中国の武則天のような華美で優雅な絹の服を着た紫苑が、冷たい竜眼 をソフィアと有樹に向けた。 「まさかおまえは? くっ、『────』!」 再び人ならぬ言葉がソフィアの唇から発せられた。 「滅びの言葉か。だが無駄だ。このフネの制御はすべて我が手にある」 しゃらん。紫苑が頭にさした櫛の飾りが涼やかな音をたてた。 「ふふふ。ついに、ついに我が手に戻ったか」 「紫苑、おまえまさか?!」 「下郎がっ! 龍皇と呼ぶがよいっ!」 すっ、と紫苑が片手を空に向けた。 天井はとうに戦いの余波で崩れていた。そして紫苑の指の先には、 丸い、月が。 「今こそ! 龍族3億年の悲願は達成されり!」 ヨーロッパで。 アフリカで。 大西洋で。 アメリカで。 空に浮かぶ無常の月が。 煌々と、真昼のごとき輝きをもって闇を照らし出した。夜を駆逐した。 青い、狂気の光が。 ...next the final story『天の光はすべて星』