空は海。海は空。
 上下に広がる薄水色の平原、その中で。
 わたしは、悔しいほどに前後不覚になっていた。

*空と海が縦に回転する。機体はロールしつつ、どんどん高度を下げて海面へと向かう。*

『馬鹿野郎! アップ、アァァァァァァァップ!』
「うひゃあああああああああああああああああ!」
 がむしゃらに海老反ったお腹の下で、白波がモーゼのごとく海を割る。その景色も音の早さで流れ去り、今、わたしは高度六○○○FTの空に立っていた。
 ていうかうおあぶねー、と、失礼、はしたないお言葉を。いくら常夏の晴れ空の下だからといって、フネはフネでも飛行機で潜っちゃ行けないやあ、ははは。

*機体の制御が取り戻され、機首が上がる。ふらつきつつ機体は水平に。*

『このクソガキ、何度自滅すりゃ気が済むんだド阿呆!』
「すいません隊長。つい、うっかり」
『だーくそ、凹むな! 生身の感覚で頭下げるんじゃねえ!」
「ああう、つ、つい」
『首を振るなー! 超音速で一度は致命傷だぞクソガキ!』
「ひ、ひいい」
 こ、怖い。墜落も怖いけど、この隊長のキンキン声は悪魔級だ。こっちは初心者なんですからもうちょっと手心とか、ない? ない、そうですかないですか。

*前方を飛ぶ機体から、通信が入る。男の胴間声が飛び込む。びくびくしながら答える主人公。*

『だーくそ、何でこのベリベリスーパーミラクルエースパイロットたるオレ様が、ガキのお守りなんぞせねばならんのだ。ええい納得いかん、畜生《シット》!』
『サンダー、そこでお終い』
 わお、耳元で囁かれるこのお声は、紛れもない師匠の声。柔らかく、それでいてピンと一本芯の通った、ひとひらの羽根のようなイメージ。ああドキドキ。

*通信に割り込み。女性の声が入る。主人公の顔が明るくなる。もう1機、別の機体が飛んでいる?*

『チック、機体の調子はどう?』
「え、あ、はい! 何とか飛べてます!」
『えらく態度が違ェじゃねえか、おうよ』
 ぐるるる、と、空の猟犬よろしくうなる隊長は放っておいて、思い浮かべるのは師匠の飛び姿。一片の狂いのない旋回、高速での制御、ああ、うらやましひ。
 て、ぎゃああ!

*主人公、くすりと笑う。とたんに衝撃。*

「い、痛あ!」
『目覚ましだ阿呆。ケツじゃなかっただけ感謝しとけ」
 め、目覚ましって、冗談じゃない! ああう、|腕≪ウィング≫がジクジクして、いたあひ。
 それでも、隊長の不機嫌は直らない。鼻息の代わりにノイズ荒く、汚い言葉を連発。

*『隊長』の機体がすぐ隣にあり、翼と翼をぶつけていた。*

『だーくそ、やっぱ納得いかねえ。むざむざ貴重な機体《バディ》減らせるかよ。それとも何か、こいつの機体《バディ》の処分代はてめえが払うのか?』
『最初からそのつもりだけど』
『ほお、て、ハ? おい待て』
『チック、空は気持ちいい?』
 え? 空、空はってうわわ、今は生身じゃないんだから、下向いちゃいけないってば。隊長があっけにとられている間に、どうだろう、空は、空は……。

*あきれたような『隊長』と、軽く受け流す『師匠』。『師匠』の問いに主人公は周囲の空と海をみわたし、にっこりとなる。*

「うん、とても、気持ちいいです。とっても、とても」
『そう、それなら、大丈夫』
 “それなら、大丈夫”。
 ああ、その一言が、どれだけわたしのカラダを軽くしてくれるか。今のわたしならば、きっと、マッハ五だって簡単に出せてしまいそう。ふふふ、しやわせえ。

*にやにやと笑みくずれる主人公。*

『だーくそ、てめえらナニいちゃいちゃしてんだ。ほらチック、てめえさっさと帰れ!』
『サンダー、そろそろ』
『てくそ、ああしゃーねえなオイ。こらチック、絶対にオレ様の後ろ離れんじゃねえぞ!』
「は、はい、ガンバリマス」
『すずめ』
「ひゃ! な、なんですか師匠?」
 ちょ、ちょっともう、師匠ったら、突然本名で呼ぶなんて奇襲攻撃を。何ですか師匠、え、あそこを見ろ。そこに何が……。

*きょとんとなり、それからはっと真剣な表情に転じる主人公。目をこらし、前を見る。はるか向こう。きれいな青空に、ゴマ粒のように黒く、何かが存在する。*

『よく見てなさい。彼らが、あなたの“敵”』
「……はい」
 そっか、そうだ、そうですよね。わたしが|接続≪プラグイン≫しているのは、セスナでも旅客機でもなく、“戦闘機”。
 だから、わたしは、これから“敵”を殺しに行きます。

*コクピットの中の主人公の覚悟を決めた顔を正面から。ぐっとカメラがひいていって、主人公の乗る機体もやはり正面からとらえる。で、主題歌とタイトルはいる。*