タイトル:竜族侵攻(インヴェイション・オブ・ドラゴン)
ジャンル:ファンタジー戦記
あらすじ:

「問題はですね、あなたがロマンチストだって事です。王子」

 マークに対して愛馬(ペガサス)のアンティグは歯に衣着せぬ物言いで主人を批評した。
 第三王子、しかも妾腹のマークはいつものように春風駘蕩とした態度でそれを受け流し、丘の上に寝っ転がって史書を紐解いていた。本の中では、五〇〇年以上前に死亡した歴史家が、さらに一〇〇〇年以上昔に行われた竜族と人間族の大戦争について語っていた。

 大陸西方の雄であるデン帝国の皇帝ガルバス三世には四人の息子と二人の娘がいた。ありがたいことに長男である皇太子の出来はまあまあ及第点というところで、皇位継承に問題はなかった。西方草原地帯の蛮族は暇さえあれば国境を侵してきたが、南方の神聖ドラゴ王国との国境はすでに二〇〇年の長きにわたり安定していた。ドラゴ王国はその名が示すように竜族の国であったが、哲学と思索を重んじる竜族は争いごとにまったく興味がないようだった。デン帝国はその国力を、東方のスフィクス諸侯国との戦争に費やすことができたのである。

「一大事です王子! カナ族がまたぞろ国境を侵してきました!」
「そうか。じゃあ君に任せるよ、クバン。いつものように頼む」

 今から三年前。西方国境の鎮護将軍として赴任してきたマーク王子の配下には、四個歩兵軍団と二個騎兵軍団、そして三個飛馬偵察中隊が『いることになって』いた。だが、東方での度重なる戦役に兵力と財力を消耗していたデン帝国には、その半分の兵力を維持するのがやっとだった。マーク王子がまず最初にやったのが、歩兵軍団を屯田兵とし、正規軍としては事実上解散させることだった。

「半減した兵力で出戦するですと? 正気ですか?」
「おい、クバン。よしなさいって。首が飛んじゃうよ?」
「やかましい! 死ぬのは俺の兵だぞ! 王子だか何だか知らんが黙ってられるか!」

 残った、実質一個騎兵軍団の兵力をさらに二分したマーク王子は、その兵力をもって国境を越え、西方蛮族の領域へと侵攻した。敵も、そして味方すらも想像しなかった無謀な出兵である。
 だが、王子の手元には西方蛮族の部族間抗争の情報が入っていた。それまで主流派だったオルビス族の長老が死に若い息子へと代替わりしたため、カナ族がオルビス族に攻めかかってきたのだ。

「戦うつもりはない? 何の冗談だ、それは」
「簡単に言うと力を貸そうというんだ。僕の帝国騎兵軍団、幾らで買ってくれる?」
「金を寄こせというのか?」
「いや、同盟を結びたい」

 マーク王子の戦略は奇計のように見えて単純な物だった。それは一つの現実認識からきていた。
 『帝国に西方国境を守るだけの戦力はない』
 であれば、蛮族が国境を侵さない、あるいは侵しにくい状況を作り出す他はない。蛮族とて一枚岩ではない。無数の部族の集合体である。その中でも有力な部族と誼みを結んでおけば残りを掣肘する事もできる。
 そのための出兵であり、オルビス族との同盟であった。

「さて、後は戦って勝つだけだ」
「言っておきますが、そいつが一番面倒なんですよ」

 マーク王子は騎兵軍団をカナ族第二の町コルプへ向かわせた。もちろん、騎兵軍団で攻城戦をやらかすつもりはない。単純にカナ族へ決戦を強要させるのが目的だった。

「あっちも騎兵だけか。良かった良かった」
「当たり前です」
「いやー。歩兵と一緒にのんびりこられたら負けていたからなー。よし、全員下馬して陣地を構築」
「は?」
「せっかく湿地帯に挟まれた地域に誘い込んだんだ。騎馬戦をしてどうする」

 翌日の戦いで、カナ族の騎兵部隊は帝国軍が築いた馬防陣と弩によってさんざんにうち負かされた。そして士気喪失して敗走したところを出陣した帝国騎兵に追撃され、壊滅した。帝国軍はそのままコルプを占領し、戦争は終結した。

「うーん、これで良かったのかなー」
「何を言ってるんです王子。おかげでこの三年間、大規模な国境紛争は一度もありません。小競り合いぐらいなら何度かありますがね。王子の軍略のおかげですよ」
「そうかなー。この手法は史書を見たら誰でも思いつくんだよ。それにねー。この手法を使った古代ウス帝国は、結局は蛮族の傭兵部隊に軍事力を依存するようになって滅びているんだ」
「ははぁ。でも、未来のことは未来の王様や将軍様に任せましょうや」
「君は楽観主義者だねー。ディアス軍団長」

(続く)