■RPG今昔物語:キャンペーン用RPG

 今回はキャンペーン用RPGについて語ろう。
 ここであるRPGを題材に出したい。グローバル・スタンダードなD&Dでもな
ければ私が愛してやまないトラベラーでもない。どちらのRPGもしばしばキャン
ペーンで遊ばれるが、ここは一つ国産といってみよう。

 かつてアスキーが出版した箱入りのRPG、ウィザードリィRPGである。

 ご存じの方も多いだろうが、ウィザードリィというのは元々はコンピュータのR
PGである。地下10階のダンジョンがあり、その最下層の一番奥には悪の大魔法
使いワードナーがいる。彼を倒し、その護符(アミュレット)を手にしてダンジョ
ンを出た者は、トレボー王の親衛隊に迎えられるのである。

 実にありきたりなストーリーである。

 プレイ内容も、パターンにはまりきっている。ダンジョンに入り、モンスターと
戦い、宝箱のトラップを外して財宝を手にして、hpや魔法の回数と相談(特に後
者)して適当なところで引き上げて宿屋に泊まり、hpを回復しレベルアップする。
最初のうちは商店で武器や防具を買うが、魔法のアイテムとかはダンジョンの宝箱
からしか入手できないので、中盤以降の目的は主にその宝探しになる。

 これだけで──

 ──これだけだ。

 このシンプルさは、ウィザードリィというゲームが、本来D&Dという汎用的な
RPGから、その精髄とも言うべきダンジョン・アタックの部分のみを抽出して作
られたという経緯と無関係ではあるまい。
 さて、そこからさらに派生したウィザードリィRPGはというと──

 これがもう、まんま元のコンピュータ版と同じなのである。

「それなら、大元のD&Dを遊んだ方がよくはないか?」

 そういう声が聞こえてきそうであるが、あにはからんや、そうではない。
 元のD&DはなんといってもスタンダードRPGである。赤箱だけであればかな
りシンプルであったが、プレイが重ねられるうちにどんどん進化してゆき、それな
りに『重い』システムとなっている。これはプレイするのにそれなりのコツや約束
事を身につける必要があるという事を意味する。

 たとえばドラゴンを前にしたとする。

「ドラゴンだ! 気を付けろ、ブレスがくるぞ!」
「案ずる事はない諸君、相手はレッドドラゴンで、炎のブレスだ。こんな事もあろ
うかと私は火の防護呪文を覚えている」
「おおっ、素晴らしい」
「この呪文には効果範囲がある。みんな、私の回りに集まるのだ」

 これではパーティ全員が消し炭になっても文句は言えない。
 ウィザードリィRPGはこのあたりがかなり抽象化されており、初心者でも安心
してプレイする事ができた。何しろ、ブレスの範囲は「前列・後列/全体」しかな
かったのである。

 そして今回のお題のキャンペーンにたどりつく。

 私は、キャンペーンで遊びやすいRPGには二つの重要な条件があると思ってい
る。

 一つは、成長が楽しい事。
 やはり遊んでいてだんだん自分が強くなっているというのが実感できるシステム
はいい。ひよっこの時にはとてもかなわなかった敵を、一撃で屠れるようになった
時の充実感はまことに甘美である。
 そのためにはレベルアップが容易で成長が早い事が望ましい。ウィザードリィR
PGはこれに相当する。

 余談となるが、クトゥルフの呼び声においても成長は存在する。いや、あの伸び
にくいスキルではなくSAN(正気度)と狂気である。キャンペーンが始まってい
た時はタフでハードボイルドだった探偵が、夜になるとガタガタと震えだしてドラ
ッグをキメないと寝る事もできなくなるのは実に笑える。

 さらに余談となるが、トラベラーにおいても成長は存在する。もちろんこれまた
スキルの話ではなく金である。キャンペーンが始まった時は金がなくて二等寝台で
氷漬けのマグロのごとく運ばれていた流れ者が、特等チケットで悠々と旅をし、ス
チュワードに気取った口調でドライマティーニを注文する事で人生の勝利者の感覚
をたっぷりと味わえる。

 さらにさらに余談となるが、パラノイアにおいても成長は……なに? もう分か
ったからいい? いかんなそういう醒めた考えは。繰り返しギャグはお笑いの基本
だというのに。

 さて、これらを成長と呼ぶ事にためらいがある人間のために言い換えよう。

 変化、だ。

 変化がないキャンペーンはつまらない。いつまでも特定のカップルが平和にいち
ゃいちゃしている恋愛ドラマがつまらないのと同じである。すれ違いや誤解やケン
カや別れや浮気や破綻や恩讐や呪いや殺人や戦争があるから恋愛ドラマは面白いの
だ。

 この変化の重要性が分かっていないゲーマーのなんと多い事か。

 ……何をうなずいている、キミの事だ、キミの。

 だが安心したまえ。
 ウィザードリィRPGは先述したように戦ってさえいればレベルアップしてHP
がぐんぐん増え、攻撃力がみるみる上がる。
 システムが変化を、それも多くのプレイヤーが望む方向へと否が応でも突進させ
てくれる。
 ウィザードリィRPGの後継者であるアドバンンスド・ウィザードリィRPGの
キャンペーンを遊んだ時には、最後のセッションでダメージを計算するのに二桁の
かけ算が必要になり、電卓が必要であったほどである。

 なんだ、やはりD&Dで十分ではないかと思われるかも知れない。ああそうだ。
だが、決定的に違う所がある。
 そこでもう一つの重要な条件にたどりつく。すなわち──

 バカでも理解できるシステムである事。

 キャンペーンに必須な物は、何か考えてみればいい。ルールブック? シナリオ?
 場所? 時間? いやいや、そんな物はなんとかなる。ある一つの条件さえ満た
せば。

 それは、プレイする人間である。

 いっちょキャンペーンでもやってみようかというGMが最低でも1人。
 よっしゃキャンペーンに参加してみようかというプレイヤーがやはり最低でも3
人。
 なおかつ、これらの人間はキャンペーンを遊び続ける気力を維持しなくてはいけ
ない。

 この『気力を維持』という点がもっとも困難であるのは言うまでもない。キャン
ペーンでRPGを遊ぼうと言い出す人間は数多いが、実際に遊び続ける人間はきわ
めて少数である。なぜなら、気力が維持できないから。なんとなーくつまんなくな
って、なんとなーく中断して、なんとなーくそのまま終わってしまうのである。
 これを防ぐ根本的な方法はない。
 できるのは可能性を上げる事だけだ。つまり──

 GMがいなくなった? 誰か代わりをやれ。
 プレイヤーがいなくなった? 誰か補充しろよ。

 この「誰か」が知力体力時の運を備え、眉目秀麗でそつがなく、謙虚でありなが
ら強い意志を持つ、誰からも好かれるひとかどの人物でないといけない、というの
ではこれはもうどうしようもない。そんな人間がRPGをプレイしているはずがな
い。

 そうだ。

 頭が悪く、不健康で、顔もスタイルも哀れを催すほどで、性格はねじ曲がってお
り、趣味はエロ同人誌とエロゲーとエロフィギュアを収集する事で、どこから見て
も人生の敗北者で、それでいながら自尊心ばかり高い、一言で言うなら人間のクズ
でも──そう、そんな奴でも、その「誰か」に選ぶ事ができるのであれば──

 キャンペーンが持続する可能性は大いにあるのである。

 この重要性を理解していないGMは星の数ほどいるし、あろう事かゲームのデザ
イナーですらこの事を理解していないらしい人物は大勢いる。
 彼らは自分を基準に物事を考える。

 やり込めばやり込むほど面白いゲームにしようとか。

 壮大な世界設定と独創性に満ちたゲームにしようとか。

 たくさんの選択肢と無限の可能性に満ちたゲームにしようとか。

 どう考えてもキャンペーンが失敗するようなRPGばかり選択し、作成するので
ある。
 もう一度言おう。そういう選ばれた人間だけしかプレイできないようなRPGは、
そりゃ一回や二回はプレイできるかも知れないが、キャンペーンには決して向かな
い。
 キャンペーンに向くのは、バカでも理解できるシステムを備えたRPGなのだ。
これは別に簡単なRPGならなんでもいいというわけではない。実際には簡単なく
せに文章やレイアウトのせいでむちゃくちゃ理解しにくいRPGというのは存在す
る。そしてまた困った事に、RPGをコレクトする趣味のある人間というのは、そ
ういう理解しにくいゲームほど高尚で価値が高いなどと考える傾向にある。

 で、ウィザードリィRPGであるが、これはもう誤解のしようがないデザインコ
ンセプトといい、抽象化された戦闘ルールといい、日本語さえ読めるのであればま
ず間違いなくどんな人であっても理解する事が可能なシステムを実装している。も
しあなたが理解できなかったというのであれば、すっぱりRPGから足を洗っても
っとまともな趣味にチャレンジする事をお勧めする。

 くどいようであるが最後にもう一度繰り返す。これからキャンペーンを企画しよ
うという人、キャンペーン向きのRPGをデザインしようという人はぜひ覚えてい
て欲しい。

 変化を体験できるシステム。バカでも理解できるシステム。キャンペーンで重要
なのはこの2点だ。そしてウィザードリィRPGはこの二つを共に備えている。実
際にウィザードリィRPGのキャンペーンをプレイした私が言うのだから間違いは
ない。

 夜を徹してプレイし、すでにプレイヤーの半分は眠りこけ、ただ一人元気いっぱ
いなGMが睡魔に身を委ねたプレイヤーをたたき起こし、

「おい、お前の攻撃だ」
「……ん? んあ〜?」
「ほら、サイコロを振れ。振るだけでいいから」
「……あー。わーった」

 ころころ

「ふむ、はずれか。よし寝ていいぞ」
「ぐー」
「よし、次。ほら、起きろ、お前の番だぞ」
「……あー?」

 こんなプレイでも、愉快に、そして延々と遊ぶ事ができたウィザードリィRPG。

 今となっては入手も困難であろうが、日本のRPGの歴史にその名を黄金で刻み
こまれた傑作であるのは間違いない。

 ……間違いないってば。

 今は昔の物語である。

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