■RPG今昔物語:冬の時代

 ある商品が売れなかったり、めぼしい品が出なかったりすると、すぐ『冬の時代』
という言葉が使われる。
 あなたも耳にした事があるだろう。

「パソコンも冬の時代だね」
「京極夏彦も面白くねぇし。新本格も冬の時代かなぁ」

 本当にそうか、というのはこの場合あまり重要ではない。
 おおむね『冬の時代』を口にする輩というのは、愚痴をこぼしたり、過去を懐か
しんだり、誰かをけなしたりするのが目的なので、そのジャンルが実際にどうなの
かはあまり関係ないのである。

 さて、それではRPGの『冬の時代』について語ろうではないか。むろん、この
言葉を使う先人に習って、私も客観的な数字や証拠をあげるつもりは毛頭ない事を
ここにお断りしておく。

 RPGというジャンルにとって、『冬の時代』とはどういう物なのだろうか。

 出版点数が少ない?
 出版部数が少ない?
 類似商品ばかり出ている?
 雑誌などのサポートがない?
 遊戯人口が減少している?

 ノンノンノン。そんなものは他人の都合である。
 いくらRPGが興隆を誇ろうが、『あなた』がRPGを遊べなかったら何の意味
があろうか。
 よって、ここではRPGの『冬の時代』を、

 RPGが遊べない時、RPGで遊びたくない時

 という切り口で捕らえようと思う。
 では『冬の時代』はどういう時に到来するのであろうか。


▼受験  RPGは意外と時間と手間のかかる遊びである。セッションの間だけでなくその 前のルールの読み込みやキャラクターやシナリオの作成などにも時間がかかる。ま してやオリジナルのシステムやワールドを作り始めたらもはや底なしである。  受験は、その時間を奪う。正しくは受験勉強によって、もっと正しくは受験につ いてうだうだと考える事でそれ以外の事をやる気が削がれてしまうのである。  剛の者だと大学受験ぐらいだと「浪人すれば遊ぶ時間が増えるわい」などとうそ ぶく場合があるが、これが高校受験となるとさすがに浪人するわけにもいかず、ま じめに取り組まないといけなくなる。  まさしく冬の時代の到来であろう。  そういや受験そのものも2月とか3月初旬とか、寒い時期にやるよね。  よし、もっと踏み込んで『寒い時代』と名付けようではないか。ルナツーのワッ ケイン司令あたりが言いそうだな。
▼恋愛・結婚  まじめにRPGに取り組んでいれば、そもそも恋愛や結婚に費やす時間などない はずなのであるが、何を間違えたか恋をしたり、あまつさえ結婚をしたりするゲー マーがいる。  恋をすればむろんデートだのなんだのでRPGに費やす時間はなくなってしまう。 むろん、中にはコンベンションでデートをするというゲーマーのカップルなどもい るが、ダンジョンの中で生死の境をさまよっている時に脇でいちゃいちゃされると たいへん迷惑である。というかむかつくのでやめるように。どうしてもやりたかっ たらシャドウランあたりで互いに裏切ったり殺し合ったりするように。  皆も祝福してくれるであろう。  結婚も、家庭に縛られる時間が長くなるという意味でRPGにとっては『冬の時 代』である。子供ができて家族サービスをする必要ができると休日などあってなき がごとしである。ただ、結婚に関しては本人の意向だけで『しません』とは言えな い状況に追い込まれる事もあるだろう。情状酌量の余地があるかも知れない。  たとえば……そうだな、家が古い名家で資産もあれば、その後継者として結婚せ ざるを得ないかも知れない。結婚相手も子供の頃から決められた美人の許嫁がいて、 幼なじみみたいに育って、「おにいちゃん」と懐かれていて、朝になると起こしに きて一緒に学校に行って、お弁当はむろん彼女が朝早く起きて作ってくれていて……  やっぱり情状酌量の余地はないな。死んでしまえ。  結婚は人生の墓場だという名言に従い、この時代を『墓場の時代』と呼ぼう。
▼引っ越し  今でこそインターネットの常時接続が増え、オンラインでのセッションが自由に できるようになったが、そうでない時代には引っ越しによって遊び仲間から引き離 されるというのはかなり致命的な出来事であった。  そもそもRPGというのはコミュニケーションの遊びであるが、あなたの周囲を 見回しても分かるようにどういうわけかRPGを遊びたがる人間というのはコミュ ニケーション不全な人間が多い。  そういう人間は引っ越しどころか、たとえば学校を卒業してしまった、というだ けでもう新しい友達を作る事ができずにRPGをプレイしなくなるのである。  だがこの場合、一番恐ろしいのはコミュニケーション不全が逆の方向に作用して いる人間である。すなわち「みんなから嫌われているのにそんな事おかまいなしに 仲間に割り込んできて遊ぶ」押し出しが強い輩である。こいつにとっては引っ越し で新しい場所に行ってもそこでRPGサークルを見つけてずかずか入って来るので あるが、周囲の人間はそいつのおかげで楽しく遊べなくなり、ついにはRPGを遊 ばなくなってしまうという。  ほら、あなたの周囲にもそういう人間はいるだろう。  ……え? なんで皆してわしを指さすのかな?  コホン。この時代の事を『孤独の時代』と言い換えてもいいだろう。
▼『他』趣味  その昔、D&DやトラベラーなどのRPGが登場した事で、サークルをRPGに 乗っ取られたウォーゲームのサークルが日本各地にあった。  同様に、マジック・ザ・ギャザリングが大流行したために、RPGではなくカー ドゲームのサークルになってしまったという出来事もやはり日本各地であった。  サークル単位とは限らない。  ウルティマ・オンラインにはまってしまってRPGはおろか日常生活すらままな らなくなってしまった人間もいる。  他にも、いろいろなRPGを遊んでいるうちに、ついには遊ぶ事よりも収集する 事が目的になってしまったコレクターとか、ルールをいじったり背景世界を作った りしているうちにそっちの方が楽しくなってしまったデザイナーとか、RPGの 『道』(日本人は何事にも道を究めるという美徳がある。問題はその道が人によっ てまちまちだということだがそれはさておいて)を踏み外してしまった人は多い。  そもそも、RPGは万能で究極で最高の遊びであるからにして、RPGを遊んで いれば他の趣味などにうつつをぬかす余裕などないはずなのだが、人間とは弱い生 き物である。  つい読書とかスポーツとか音楽鑑賞といった道を外れた遊びに手を出してはまっ てしまい、RPGを忘れてしまうのである。なんとも嘆かわしい事である。  道を見失ったということで、この時代を『没義道(もぎどう)の時代』と定義し て、このコラムを終わらせたいと思う。  今は昔の物語である。 【おしまい】

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