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一番最初にエヴァンゲリオンを見たのは、東京出張時のホテルのTVででした。
話は第七話。ジェットアローンの回です。
もちろんそれまでまったく何も見ていなかったわけですから、前後の話など分か
るはずもありません。しかし、どことなく興味を持ったのは事実でした。
「たぶん、こんな世界なんだろう」
そう考えて書いたのが、次の短編です。
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短編小説『既視感』
使徒の巨大な足が頭上に落ちてきた時、私が感じたのは奇妙な既視感だった。
4億年におよぶバージョンアップを繰り返してきたCPUにのみ可能な短い検索時
間の後、その既視感の原因となった映像が脳裏に浮かんだ。
<<< 『かいじゅう』に踏みつぶされる『ぼうえいぐんのせんしゃ』 >>>
「こりゃまた、えらく古い映像を見ているな。なんだい、これは」
右頬に大きな傷をつけたグェン二尉の問いに、チャン一曹が答えた。
「深見三尉が見つけてきたんですよ。半世紀昔の子ども向け娯楽作品だそうです」
「ほぅ。俺は大昔にもあの化け物と戦った連中がいて、その時の記録かと思った」
その場を乾いた笑いが包んだ。グェンに言われるまでもなく、全員がその類似性に
気がついていたからだ。町を無造作に破壊する恐ろしい怪獣。それをくい止めようと
うする防衛軍の戦車や戦闘機の攻撃は、まったくと言っていいほど効果をあげず、あ
っさりと返り討ちにあう。そして、そこに登場する巨大な人型をした『それ』が怪獣
を叩きのめす。いやはや。まったく、見事なくらいにそっくりだ。
なぜ分かるのかって?
その場にいたからだ。我々、国連極東方面軍所属、陸上自衛隊第82機械化連隊は。
もっとも、その場にいた連中の半分はミンチにされてしまい、今では大隊規模の戦力
しか残っていないが。
映像の中で、戦車が怪獣に踏みつぶされた。
「出動? 本気ですか?」
本当は“正気ですか?”と言いたかったのだが、かろうじてこらえて私は通信機に
怒鳴った。
「命令を伝える。君の中隊はクゼミ地区に展開し、『敵』の突破を阻止せよ」
大隊長は私の言葉が聞こえなかったかのように振る舞い、いっそ冷徹といってもい
い厳格な声で命令を繰り返した。
私の理性と生存本能の両方が、この命令を拒否するようわめいた。死神がつきつけ
てきた書類に、何も自分からサインすることはない。そうだろう?
私ははっきりとした声で、断固として大隊長に答えた。
「了解しました」
つまりはそういうことだ。軍人とはそういう存在なのだ。
私が命令を下した時、部下が示した反応も似たようなものだった。恐怖、不審、そ
して諦観。
「やれやれ。貧乏籤をひいちまったか」
グェン二尉が頬の傷を指でなでながらぼやいた。
「隊長。この前の“正義の味方”はどうしました?」
ラヒム三尉が硬い声で質問する。
「ネルフと我々では指揮系統が違うので、詳しいことは分からないが、出動に手間取
っているらしい」
「つまり、真打が登場するまで前座で間をもたせろってわけか。くそったれ! どう
やってあの化け物の足を止めろっていうんだ!」
その時、それまで黙って地図を見ていたホルファン准尉が顔をあげた。
「いや。アレが登場する事を前提とするのであれば、一つ手があります」
怪物──なぜか使徒と呼ぶらしい──の無敵ぶりは相変わらず見事だった。先の戦
いで厚木の部隊が消耗しきったため、松本からわざわざ飛来した空自は使徒が吐き出
す雷球に包まれて潰滅。巡航ミサイルも、重砲も、奴にはかすり傷一つ負わせること
はできなかった。
「ホルファン! まだか!」
既にグェンの戦車小隊は砲火を開いている。市街地での戦いを想定して作られた3
式戦車は、その機動性をフルに発揮して走りまわり、使徒の動きを止めようとしてい
る。それはおおむねうまくいっているように見えたが──
「危ない! グェン! 後退しろ!」
業を煮やした使徒の腕が高層ビルを押し倒した。グェンの戦車が巨大な瓦礫の山の
下に消える。牽制役がいなくなったため、使徒の動きが早くなった。まずい。
私は残った小隊を直接指揮し、今度は自分が囮となった。
高速で走り回り、敵の死角から攻撃をかける。もちろん嫌がらせ以上の効果を与え
るものではないが、時間稼ぎにはなる。
だが、それにも限界がきた。
ビルの影から飛び出した私の乗る装甲車の目の前に、使徒が立っていた。
その足がもちあがり、
私の頭上に振り下ろされた。
衝撃が私を叩いた。
自分が死んでいない事に気がついた私は、間抜けな顔で頭上を見た。
「やれやれ。ようやくのご登場か」
ほっそりとした巨人が、使徒と組み合っていた。
「隊長! 準備できました!」
ホルファンの声が通信機にとびこんできた。間に合った。
私は装甲車についた拡声器のスイッチをいれた。巨人に向けて怒鳴る。
「ネルフの巨人! 聞こえるか! 500m後ろの交差点まで後退しろ!」
巨人は、妙に人間っぽい仕種でうなずいた。使徒の身体を蹴り、後ろへ跳躍する。
させじと前身する使徒。
「今だ!」
使徒の足元で閃光が走った。アスファルトが割れ、使徒の足がが地面に沈む。同時
に両脇のビルが、使徒の身体に崩れ落ちてきた。
もうもうと土煙がわきあがり、使徒の姿を遮った。その煙の中に、ナイフをかまえ
たネルフの巨人が飛び込んでいった。
人に在らざる物の、断末魔の叫びが私の耳に届いた。
この戦いで連隊は完全に戦力を失い、後方で再編成されることになった。次に奴ら
が来たとしても、その矢面にたつのは私たちではないということだ。
幾分かの休暇気分を味わっていた私のところに、一通の辞令がきた。
『ネルフの保安部に転属を命ず』
どうやら、私が出演したこの『番組』は思ったより視聴率が高かったらしい。
踏みつぶされる戦車の映像が、再び脳裏に浮かんだ。
(おわり)
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作成者:銅 大(アカガネ ダイ)
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