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さて、『禁断の愛』シリーズも第3回目になりました。今回はレイちゃんと、
シンジ君です。
それではさっそく……
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短編小説:ぬくもり
「お前の名前は『零』……レイだ」
その日から、少女の名前は『レイ』となった。
「綾波、帰るのかい?」
少年が少女に語りかける。その言葉の中に意味はない。会話を始めるためのプ
ロローグだ。「なら、一緒に……」「最近、零号機の調子はどう?」「綾波って、
好きなマンガあるの?」少年の心の中に、語りたい言葉が重なっていく。
だが、少女にはそれが分からない。言葉を、文字通りに解釈する。
「……ええ」
それで終わり。セションは確立しない。少女は立ち去り、語られない言葉は空
へ消えていく。
「相変わらず素っ気ないのぅ。碇ィ。諦めたほうがええんとちゃうか?」
「そんなんじゃ、ないよ」
少年はムキになって否定する。自分が彼女に向ける思いは、決して友人が茶化
すような不純な物ではない。
ただ、見てみたいのだ。
「だいたい、あいつが笑うたところ、わしゃ、見たことないで」
「ホント、ホント。いつだってムッツリしてるもんな」
彼らは知らない。彼女のあの微笑みを。少年の父親にだけ、時折見せるうれし
そうな表情を。
少年は夢想する。あの仮面の奥に隠された笑顔を見てみたい、と。
それが恋の始まりである事に、少年はまだ気づいていない。
少女は道を歩く。現在地から、目的地へと進むため。華やかなアーケードも、
通りを歩く人の姿も、彼女の意識野には入らない。
仲むつまじげな男女が、彼女の進路を遮った。互いの身体に腕を回し、そぞろ
歩きをしながら楽しそうに会話を交わす。
少女は無表情に進路を曲げ、カップルを迂回する。
しばらく進んだ後で、なぜか少女は立ち止まり、振り返った。
(なぜ、あの二人は一緒にいるのだろう?)
もちろん恋人同士の行動がそういう物である事ぐらい、彼女も知識としては持
っている。だが、その動機が分からない。
外界の刺激に鈍感になっている恋人たちは、少女に気づくことなく通りすぎて
いった。
少女は再び歩き始める。現在地から、目的地へ向かって。
「今日の訓練は、模擬格闘戦です。零号機が使徒の役をシミュレート。初号機が
それを迎撃します。使徒の行動パターンはモデルDからGまでを……」
放課後、そして時には学校を休んで繰り返し、繰り返し行われる訓練。少女は
指示される通りに零号機を操り、少年が動かす初号機に挑みかかる。
その様子をモニターしながら、白衣の女性が呟く。
「さすがね……」
「どっちが?」
「レイよ。あそこまで忠実に動きをトレースできるなんて。シンジ君やアスカじ
ゃ、こうはいかないわ。まるで……」
「プログラムされた機械のように?」
「そうよ。自分の意思を持っていないみたい」
命じられた通りの行動をする。少女にとって、それはきわめて当たり前の行為
だった。ネルフに来るまで、彼女の日常は白い小さな部屋と、繰り返されるテス
ト、そして検査で占められていた。己の心を消し、命じられた通りに動くのは、
少女にとって造作もないことだった。
「パターンF、終了。次、パターンD」
初号機の腕を取り、側面に回りながら軸足を払う──だが、零号機の動きは初
号機の腕を取った段階で止まった。
「とおおおっっ!!」
少年が掛け声をあげる。初号機が身体をひねり、零号機を投げ飛ばす。零号機
は宙を舞い、訓練場の床に叩きつけられた。
「訓練中止! 零号機のパイロットの状態は?」
「軽いショック状態です」
エントリー・プラグの中で、少女は自分がなぜ動きを止めたのか考えていた。
パターンDの指示通り、まず相手の腕を取り──その時、何かを思い出したのだ。
「綾波、大丈夫か?」
外部マイクが少年の声を拾った。初号機が零号機のそばにしゃがみ、倒れたま
まの機体を起こそうとする。
「大丈夫……」
少女は零号機を一人で立ち上がらせようとした。だが、少女の三半器官はまだ
安定を取り戻しておらず、零号機をよろけさせる。
「危ない!」
倒れそうになった零号機の肩を、初号機の腕が抱く。フィードバックした感覚
を自分の肩に感じながら、少女は理解する。
何が自分の動きを途中で止めたのか。
そして、街角で見たカップルがなぜ互いの身体に腕を回していたのかを。
少女は初号機の方を見た。そして、そこにいるはずの少年に向けて、微笑みを
浮かべた。
誰も触れていないはずの肩から、温もりが伝わってくるような気がした。
[[ 完 ]]
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作成者:銅 大(アカガネ ダイ)
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