ミーンミンミン。
 あれから……もうすぐ一年が過ぎようとしていた。
 夏。8月。
 東北の小さな田舎町に、俺は来ていた。
 『民話の故郷』などと大層な名前がついた町に。

「で、どこの別荘だって?」(志貴)
「? ですから遠野の別荘だと」(秋葉)

 明治より続いた、古い契約。

「オクナイ様?」(志貴)
「そう、呼ばれています」(翡翠)

 時が満ち、人が集う。

「俺に何を求める」(志貴)
「求めるのではない。解放してやろうというのだ」(遥佳)

 封じられた、直死の魔眼。

「線が──見えない?」(志貴)

 人を動かすのは恨みか、それとも愛か。

「兄さんを殺すのは、私です」(秋葉反転衝動)
「ならばもう、ためらうまい」(志貴)

 交差する思い。
 錯綜する想い。

「『遠野物語』という本があるのをご存じですか?」(秋葉)

 すべてに決着をつけるため。
 今ひとたび、俺は刃を手にする。

「今宵だけは魔眼の殺人鬼の通り名は返上させてもらう」(志貴)
「ただの遠野志貴ということか。それで勝てるとでも?」(影)
「もちろんですわ」(琥珀)
「当然です」(翡翠)
「ふん。根拠のない自信だな」(影)
「教えてやろう。俺の大事な人が俺を信じてくれている限り──」(志貴)
 SE(ちゃき、と眼鏡をはずす音)
「遠野志貴は、無敵だ」(志貴)


 『月姫』アナザー・ストーリー、『遠野の里』2003年夏、公開。