無敵の敗者:連邦軍電脳作戦2課の挫折


 一年戦争の序盤においてジオンは新兵器モビルスーツやミノフスキー粒子を利用した新戦術を用いて連邦を圧倒した。この事から、当時の地球連邦は新しい技術や戦術に対して保守的であったという考え方が一般的である。

 しかし、地球連邦軍にはジオンをはるかに凌駕する新技術を扱う部門があった。連邦軍電脳情報部である。
 開戦前、地球圏はインターネットをその祖先にもつグローバルネットによって情報が有機的に統合されていた。
 このグローバルネット経由で流れる情報を監視・検索する部隊が電脳情報部である。

 特に作戦2課は、連邦軍の切り札的存在であった。ここには民間からの協力者も含め、多数の異能の持ち主が集められた。
 地球圏のチェス・チャンピオンで、脳内に人為的に作り出した腫瘍をネットダイブ用のサブ・ブレインとして多元思考を行う『指し手』
 盲目だが鋭敏な皮膚感覚をネットダイブに使うことによって周囲の電脳空間に意識を拡大することができる『風使い』
 過去に存在せず、未来にも存在しないセキュリティホールを“今、この時”だけ具象化していかなる電脳防壁をも打ち貫く『パイルバンカー』
 そして、旧世紀生まれの最初期のネットダイバーで、肉体に戻ることもできずにグローバルネットにだけ意識を存在させる『ティンカーベル』
 連邦軍は彼らの力に大いに期待し、場合によっては情報戦のみによってジオン公国を戦わずして屈服させられるものと考えていた。

 が、作戦2課の活動は思いもよらぬ形で頓挫する。
 ジオン公国内における情報インフラが壊滅してしまったのだ。

 U.C.0077年に発生したこの事件は、サイド3全域でグローバルネットに接続されていた情報機器の実に8割が機能を喪失したというものである。原因は今もって不明であるが、ミノフスキー粒子を用いた極秘演習の影響という可能性が高い。
 これにより、ジオン公国の経済は甚大といっていい被害を被る。ギレンが開戦を決意したのは3年以内の公国経済の破綻が確実になったためといううがった見方もあるほどだ。とすると、一年戦争は独立戦争でも予防戦争でもなく、「死なばもろとも」の無理心中戦争であったのかも知れない。

 復旧のためジオン公国は地球圏全域から情報機器をかき集めようとした。
 もちろん経済制裁下にあっては情報機器は輸出制限のトップである。市場に普通に流れている情報機器は密輸でもなければ購入できない。
 そこで、ジオン公国が目をつけたのが宇宙移民時に地球に残され、後はスクラップになるだけの情報機器である。特にU.C.0040年からU.C.0050年の10年間で50億人近い人口が地球から宇宙へ移住した時に地球に残された大量の機材は再利用もできずにそのまま倉庫で眠っている状態であり、しかも30年以上前の骨董品である。とてもではないが現代のビジネスに使えるようなシロモノではない。

 しかし、子供の携帯ゲーム以下のシロモノであっても、今のジオンには必要であった。事務員が紙とペンで会計処理を行い、職人が手で工作機械を動かすという旧世紀な仕事のやりかたをしているのだから!
 それがネットワーク化したところで旧世紀のインターネット以下の能力しか持たず、グローバルネットワークとの相互接続などとても不可能であったとしてもないよりはましなのだ。

 もうおわかりだろう。
 グローバルネットが事実上消失してしまったサイド3を相手に情報戦を仕掛けるには、作戦2課はあまりに進化しすぎていたのだ。彼らの異能は相手がグローバルネットを利用していればこそ意味を持つ。

 電脳情報部作戦2課は無敵の最強部隊であった。
 それゆえに、彼らは戦わずして敗者となったのである。

 だが、彼らの真の苦難は一年戦争がはじまってから訪れることになる。一週間戦争とコロニー落とし、ルウム戦役によって壊滅したグローバルネットの再建がその任務となったからだ。
 彼らがいかにこの困難な戦いを成し遂げたかについては、また語る機会があるだろう。

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