Fate/stay nightで学ぶ世界の戦史
■第四回:長篠合戦
うーん……
どうしたのですか、
あ、このジオラマを見ていたんだけど。セイバーはどう思う?
戦国ジオラマトランク 長篠の戦い(ボーフォード・ジャパン)
これは……合戦の模様を人形で表現したものですか。よくできていますね。日本での戦いのようですが、いつごろのものですか?
長篠合戦だから、戦国時代だ。日本史の教科書にも載っている、有名な戦いだよ。時代は1575年だから、セイバーのいたブリテンから千年後だよ。
戦国の風雲児、織田信長が火縄銃、すなわち鉄砲の集中運用によって、当時戦国最強と呼ばれた武田騎馬軍団を粉砕した戦いだ。鉄砲三千挺や三段撃ちについては異論も多いがな。
これだけ十分な守りを固め、千を超える鉄砲で武装していれば敵が2倍いたところで撃破できたでしょうね。溝を掘り、掘った土を重ねて急造の防壁となし、さらに木の柵をほどこして乗り越えてきた敵を防ぐ。見事な野戦築城です。銃眼を用いているのもすばらしい。これなら敵の鉄砲を防ぎつつ、射撃をすることができます。
あれ? 長篠の戦いって、織田軍の方が数が多くなかった?
ちょっと待ってくれよ……うん。そうだ。織田と徳川の連合軍が3万強で、武田軍が2万弱とある。
それはヘンです、士郎。このジオラマは戦場の一部を再現したものでしょうが、これほどに強固な砦を、敵より少数で攻めるなど、正気の沙汰ではありません。
そもそも、武田“騎馬軍団”とか言われるくらいだから、武田は機動力重視の軍団のはず。堀があって柵もある場所を攻めるのは、騎兵の利点を損なうだけ。
遠坂の言う通りだ。それでも、指揮官の武田勝頼には、数の劣勢も、城攻めの不利も覚悟の上で、織田軍を攻める理由があったんじゃないかと思う。
あら、本によると武田勝頼の呼び名って、信玄の四男だから四郎なのね。
“シロウ”ですか?
へえ、そう言われると何となく親近感があるな。
シロウという名前がつく人間は無茶ばかりするようですね。陣城を少数で攻めるなんて。
ふむ。では、あの戦いで何があったのか。ロールプレイの形で、少し想像してみるか。私が織田信長、凛が徳川家康で連合軍側を担当しよう。
では、士郎がシロウつながりで武田四郎勝頼を。私が武田軍の宿将をやりましょう。
●長篠合戦まで
(武田四郎勝頼役)甲斐の国から興った我が武田による、祖父の代からの信濃計略は順調に進んだ……けど。
(武田家宿将役)おなかが空きました士郎、じゃなくて四郎。ご飯はまだですか。
甲斐も信濃も、鉱山はそこそこあるけど農業生産力が高いわけじゃない。武将(セイバー)を食べさせていくのも一苦労だ。そこで、父さんの代からは今川家の領土であった、駿河と遠江を狙って南下しているんだけど。
(徳川家康役)信玄との約束だと、駿河は武田、遠江は松平(徳川)で半分こするはずだったんだけど、あの信玄坊主、いきなり約束やぶりやがったわね。
(織田信長役)今は戦国時代だし、武田信玄は父の武田信虎をクーデターで追放して権力を握り、同盟国である今川を裏切って攻める際には反対する息子(信義)を粛正したほどの非情の男だ。肉親でも同盟国でもない君を裏切るなど、造作もあるまい。
なんだか、そういうエピソードを聞くと、ますます四郎のお父さんとかぶってきますね。前の聖杯戦争での彼の容赦ない戦いを思い出します。
第三回でも言ってたけど、戦国時代はヤクザの抗争と同じようなものだから。仁義なき戦いが日常だったのかもな。
三河から遠江の徳川勢力範囲って、細長いのよね。山の側は武田の勢力圏が広がっているから、侵攻ルートがいくつもあって、守るのが大変ね。
三河は君の地盤だろうが、遠江は元宗主国の今川領土だからな。そこに根付いた元今川武士団の多くは、徳川家が弱いとみれば武田に寝返るだろう。
だからがんばってるわよ!
ふむ。では聞くが、どういう風に? 信玄亡き後とはいえ、武田と徳川を比べれば武田の方が強い。武田が攻めてきたとしても、正面から戦うことはできないだろう?
殴られたら、殴り返す。城を取られたら、嫌がらせに出撃して田畑や町を荒らしてやるわ。
遠坂らしいな、まったく。
ですが、弱い側が敵に好き放題をさせないよう消耗と緊張を強いるのは、ゲリラの戦いと同様に有効です。凛らしいという点ではまったくの同感ですが。
とはいえ、凛……じゃなくて家康のやり方では、じり貧になっていずれは敗北する。
そう思うなら、助けなさいよ! 高天神城がとうとう陥落したじゃないの! このままだと徳川は遠江を失うことになるし、そうなったら織田との同盟なんか破棄よ!
いや、これでいい。安心したまえ、家康公。次はきちんと後詰め(援軍)を出す……予定だ。
●長篠城攻め
というわけで、今度は長篠城を攻める。
長篠ですか、シロウ? せっかく高天神城を落としたのですから、その北の掛川城も一緒に攻めてしまってはどうでしょう。
それだと時間がかかりすぎるよ。徳川が危なくなったら、同盟国である織田信長が本気でやってくる。そうなれば泥仕合だ。
信長は高天神城を見捨てています。徳川のために、そこまでやるでしょうか?
やるよ。徳川の敗北は、織田家にとって東海方面の戦線崩壊を意味する。アーチャー……じゃなくて信長もそれだけは避けたいはずだ。まして高天神城を見捨てたペナルティを考えれば、政治的にも後詰め(援軍)を出さずにはいられないだろう。
まるで援軍を待ちわびているような言い方ですね。
織田信長の援軍はピンチであると同時に、チャンスなんだ。これを撃破することができれば、織田信長は面目を失い、徳川も織田との同盟を見直さざるを得ない。
武田にとって本当の敵は、徳川ではなくて織田ということですか。
そうだ。織田を弱体化できれば遠江が手に入る。後は三河の徳川を中立化すれば、信濃から美濃への侵攻を本格化できる。
美濃、そして尾張。ねらいは織田にとっての後背地ですね。よくわかりましたが、考えたらおなかが空きましたシロウ。
武田の狙いは、織田(俺)から安全な後背地を奪うことだ。織田の国力は武田に数倍するが、敵もまた多い。後背地がなければ兵力を分散させてすべての国境を守らなければならないからな。
そうして考えると、同盟国である徳川の存在って、織田にはすごくメリットがあるのね。
援軍を撃破することで俺の面子をつぶし、政治的に弱体化させて徳川の離反、最低でも同盟破棄をもくろんでいるはずだ。
織田の援軍が来なければどうするつもりなのかしらね。
高天神城と同じように、陥落させるだけでも面子はつぶれる。だが、このやり方は確実性が薄いからな。
じゃあどうするのよ。
もちろん、武田の戦意の高さを逆手にとって撃滅するさ。
対策はあるの?
まず、援軍の数を増やす。徳川と合わせて三万の兵力を用意する。現在の兵站・指揮能力でいえば一回の会戦で扱えるほぼ最大規模だな。
武田軍も同じくらい数がいたら? 武田信玄の最後の攻勢の時は、そのくらいいたわよ。
上杉を使う。北信濃で国境を接している武田と上杉は仲が悪い。警戒のためだけでも、北信濃には一万ほどの兵力が必要だ。使えるのは二万かそれ以下だろう。
武田のもてる全力を使わせないってことね。なるほど、後背地の大切さがわかった気がするわ。
信長の援軍が来た? よし、いよいよ決戦だ。
(旧暦の)五月はじめに長篠城を包囲して半月あまり。いよいよですね。では、長篠城を落としてから織田徳川連合軍と戦いましょう。《約束された――》
ちょっと待って、セイバー。長篠城を落とすにはタイミングが大事だ。あまり早く陥落してしまうと、織田の援軍が前の時のように帰ってしまって決戦にならない。
ですが、後ろに敵の城を残して戦うのは危険です。
今も周囲に城を付けて包囲しているわけだし、大丈夫だよ。
シロウがそう言うのでしたら……
このあたり……設楽原だったか? ここに陣城を作るぞ。野戦築城と火縄銃の集中運用で武田軍を撃滅する。
やりすぎよ、アーチャー、じゃなくて信長。武田軍がこちらの防備を見たら、いくら戦意が高くても攻めるのを手控えるわ。
ふむ、どうやらキミに考えがあるようだな?
こちらは向こうよりも兵力で勝るのだから、それを活用しない手はないわ。迂回路を通って別働隊を、後方の長篠城に送るのよ。
狙いは、長篠城を囲む武田軍の撃破と後方連絡線の遮断か。
そうなれば、武田軍は、撤退以外の選択肢を失うわ。
逃げる敵を後ろから追撃するのであれば、勝利は確実だな。なるほど、君らしい戦い方だ。絶対に勝てる布陣を作ってから戦う。
そういうことよ。だから、ここまでの野戦築城なんかしなくても――
いや、さらなる築城が必要になるな。徹底的に陣城を作ってこのあたりを要塞化するぞ。
どういうこと?
ここで戦わずに撤退すれば、必ず負ける。ならば、勝ち目がどれだけ低くても、千が一、万が一の確率であっても戦って勝機を見いだす。それが武田四郎勝頼であり、その宿将であるはずだ。違うかね?
――そう。そうね。その通りよ。あのバカなら、絶対にそうする。
●長篠の戦い
……
……
……すまない。
……
まさか、あれほどの野戦築城とは思わなかった。数もどうやら二万をはるかに超えているようだ。
……
セイバーの言うように、長篠城を落としていれば。いや、でなくとも川を渡って前進せずに待ちかまえていれば。
……シロウ。
ん?
堅牢に出来た陣城ですが、あまりに堅牢すぎて柔軟性に欠けるようです。連絡路にまで手が回っていないので、どこかが危機になってもすぐに増援を送ることはできないでしょう。
っ!!
何より火力に頼りすぎです。あれだけあちこち掘りまくって柵で仕切っていては、敵は数の優位を生かせません。
――勝てるか?
こちらに倍する敵に。
千挺を超える圧倒的な火力に。
野戦築城の粋とも言うべき陣城に。
情けないことを言わないでください、シロウ。あなたは私のマスターなのですから。どうぞ、ご命令を。
では、マスターとして命じる――勝て。
ご下命のままに。
●戦いすんで日が暮れて
ま、結局は負けちゃったけどね。それも大敗北。
でも、織田軍も数千の兵を失う激戦だったそうじゃないですか。
そりゃ、武田軍は勝たないとどうせ死ぬし。モラルブレイクして敗走するまでは、必死に攻めて攻めて攻めまくったのよ。
最前線でがんばったせいで、宿将の多くが討ち死にしてますね。その後の敗走でも、先輩……じゃなくて武田勝頼を逃がすために。ところで、何で私たちがまとめ役なんでしょう?
ロールプレイに入れ込みすぎたセイバーとシロウがいい雰囲気出したせいで、凛が怒り狂って大騒ぎなのよ。
ええっ? (ずだだだだだー)ちょっと、先輩。それに、姉さんもセイバーさんも。勝手にそんなことしちゃだめですーっ!
作成者:銅 大(アカガネ ダイ)
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