Fate/stay nightで学ぶ世界の戦史
■第二回:セイバーはブリテンを救えたか
それでは日本の戦国時代について語るとするか。そもそも、戦国時代といっても応仁の乱(1467〜77)が終わってから関ヶ原の合戦(1600)までの間だけでも100年を超えていてな。戦い方も大きく変化してきている。火縄銃の影響はむろん大きいが――
あ、悪いけどそれはまた今度で。PS2版発売だし、やっぱりセイバーでいきましょ。
※元記事を日記に書いたのが2007年4月だったため
ふ。そういうことであれば。いたしかたあるまい。
私、ですか?
ほら、セイバーは前に王の選定をやり直してブリテンにもっとふさわしい王を、と望んでいたじゃないか。
はい。ですが、その望みはもう必要ありません。
セイバー的にはそれで納得なんだろうけど、私のほうがちょっと疑問だったのね。セイバーが最高の王様かどうかは知らないけど、王に選ばれたのがそこの金ぴか(英雄王)やマッチョ(征服王)みたいな王様だったら、ブリテンは滅びなかったかどうか。
そういうわけなんで、もう少し詳しく聞きたいんだ。だいたい、なんでブリテンは戦乱の時代になったりしたんだ?
わかりました。そもそもの発端は、4世紀のおしまい頃になります。
●ブリタニア辺境 ハドリアヌス防壁(383年)
(先祖)ローマ正規軍団兵を全軍まとめてブリタニアの外へと移動させる、ですか?
(ローマ軍団長役)その通りだ。むろんおまえとて例外ではないぞ。ブリテンの血が混じっているとはいえ、ローマ帝国に仕える身であるのだからな。
(先祖)それは承知しております。ですが、いつまででしょう? 防壁の北に住むピクト人も最近はおとなしいですが、防壁を長期にわたって空にしていては危険です。いつ戻るかがわかれば、それまでの防衛計画も立てやすいのですが。
(ローマ軍団長役)戻る? 戻るだと? はっ、何をばかな。もはやローマ軍団がこの地に戻ることなどありはせぬ。
(先祖)な、ローマはブリテンを見捨てるというのですか!
(ローマ軍団長役)その通りだセイバー。我らが戦うべき相手はまずローマ皇帝の座をねらう簒奪の輩で、その次が西からくるゲルマンの奴ばらだ。ピクト人とブリトン人の争いなど捨て置け。
(先祖)ならば、私は行けません。
(ローマ軍団長役)何? セイバー、貴様、何を言っているのかわかっているのか?
(先祖)はい。帝国の開祖カエサルがこの地にやってきて400年あまり。それからずっとブリテンはローマ属領でありました。ブリトン人は都に住むローマ人と同じくらい、立派なローマ市民です。ですから我らにはこの地を守護すべき責任があります。
(ローマ軍団長役)……ふん、いいだろうセイバー。おまえはここに残るがいい。が、兵は残さぬ。命令通り、正規兵はひとり残らず連れていくぞ。その身ひとつでせいぜい守護者としての責任を果たしてみるのだな。
……と、そういう事があったわけです。
なんていうか、さすがセイバーのご先祖様ね。まじめなのはその頃からの血筋かしら。
けど、ひとりの兵士も残さなかったというのはひどいな。そんなのでセイバーの先祖はどうやってブリテンを守ったんだ?
現役の兵士は全員連れていかれましたが、退役した兵士の中にはブリテン島で家族をもち残っていた者が大勢いたのです。また、正規兵の他に町には自警団のような補助軍団兵がいましたからね。それらを統合してなんとか乗り切ったのです。
けど、それまで正規軍団を置いていたということは、その軍事力が必要だったからよね。それがなくなったということは、どう考えても足りないんじゃないの?
はい。我らも可能であれば、ローマ帝国がこの地に戻ることを望んでいました。ですが、最後のローマ正規軍がブリテンを去ってから、数年の後、ローマ皇帝よりこのような手紙が届きました。
なになに……。『ブリテンの諸都市は自らを守るために最善と考えることをなせ。帝国がいかなる形でもそれに介入することはない』
……ちょっと、これってローマはブリテンを捨てたっていう意味じゃないの!
その通りです、凛。さすがにこの手紙はショックでした。ここ100年あまりは内戦続きで何もしてくれない皇帝ばかりでしたが、それでも自分たちは大きなローマ帝国という家族の一員であることに、ブリテン人は誇りを抱いていたのです。
ローマ帝国が大きな家族なら、皇帝は父親ね。父親に捨てられた子供ってわけか……それは悲しいわよね。
みなさん、お茶が入りましたよ。
! わわっ、いたの、桜っ!
はい。どうしたんですか、変な姉さん。
?? ――ともかく、帝国に捨てられた以上、ブリテン人は自分で自分の身を守るしかありませんでした。ですが、ここで誰が、誰を守るのかという問題が出たのです。
皇帝の手紙だと、各都市っていうか、各地方ごとにそれぞれなんとかしろって意味だよな。
はい。ですが当時のブリテン諸都市が持つ生産力や経済力は低いものでした。もともと貧乏だったので帝国からリストラされたわけですし。そこでさらにばらばらになったのでは、自衛するどころではありません。
なら兵士や武器、食料を出し合ってまとめて管理するしかないわね。そのまとまった軍勢は真ん中に置いておいて、敵が防衛ラインを突破したら、急行して撃破する。
リンの言う通りです。私の先祖も、そうやって防衛軍を編成して戦いました。他にもローマの将校が何人か残って将軍=王としての仕事を担ったわけです……どうしました、士郎?
ん、いや。気になることがあってね。それでセイバー、前にセイバーはブリテンが滅びたって言っていたけど、滅びたブリテンはどうなったんだ?
どう、といっても。滅びたとしか言いようがありません。今度こそ各地方はばらばらになり、自分たちだけで生きていくしかなくなりました。
へえ、どこかよその国が征服したわけじゃないんだ。征服王みたいなのが出てきてさ。
いえ、ブリテンを攻めてくる側も部族単位の襲撃者で、そのような統一された国家や指揮官がいたわけではないのです。便宜上はピクト王と名付けられた相手であっても、あくまで戦争の時の指揮官、という程度で。
唯一無二の王がいれば、セイバーが一騎打ちで倒せばそれで終わりだものな。
はい。征服王にとってのペルシアのダリウス帝のような相手が私にはいませんでした。ひとりの王を倒しても新しいひとりの王が、それを倒せばさらにふたりの王が敵となりました。「ここで勝てば平和になる」ような戦いは、私にはなかったのです。
なんだか、アメリカが今やってるテロ戦争みたいね、それって。で、そういう時代が続いた後で、今のイギリスみたいな王国が生まれたのよね。
私の死んだ後のことですから知識でしか知りませんが、ドイツやデンマークから攻め込んできたゲルマン系サクソン人は何度も撃退されたり同盟したりを繰り返して少しずつケルト系ブリトン人と同化して、最後にはひとつのアングロ・サクソン人になりました。私の民はそうして消えていったのです。
横から失礼します。私が読んでいる『ヴィンランド・サガ』という漫画にはローマ由来のアルトリウス=アーサー王を始祖に持つアシュラッドという男が出てきますが、彼らはブリトン人ではないのでしょうか。
ウェールズ人ですね。ケルト系文化のウェールズ人は、確かにブリトン人の直系といっていいでしょう。ただ、どちらかというとローマ以前の古いケルトの文化の方が強いようです。
うーん。いろいろ聞いてみたけど、セイバー以外の王であれば滅びなかったかどうかの手がかりには乏しいわね。
いや、滅びたよ。
あら、えらい自信たっぷりじゃない。
昔から不思議だったんだ。剣によって選ばれたブリテンの王、というものが。なあ遠坂、今が戦国時代だったとして。この冬木の町の領主をアーサー王のような感じで刀を抜いて選んだら、人々はそれを領主として認めるだろうか?
……それは絶対にないわね。そっか、そういうことか。
よくわかりません、どういう意味でしょうか。
いい、セイバー。剣で王を選ぶというのは、魔術的には十分な意味があることだけど、魔術と縁のない人々にとっては単に神意を問うためのおみくじと一緒なのよ。ランダムにくじで選んでいるのと大差ないのよね。
言いたいことはわかります。
でも普通はくじで王を選んだりはしない。それはある意味で「みんなが納得できる王がいない」ってことだから。くじは公平かも知れないけど、納得はできない。
はい。ですから私は誰よりも王らしい王たらんとつとめてきました。血筋でいえば私は父王の子供ですが、それは隠さなければいけない事でしたから。
セイバーの理想はとても立派だし、尊いものだと思う。でも、セイバーが王になる時にそこまで強く決意したのはなぜだろう。最初から王子として育てられ、父の後を継いで王になったのなら、そこまでの決意は必要だったろうか。たとえば、父王の暗殺で後を継いだ征服王は。
いやいや、余は最初から王の息子として育てられたからな。王らしい王になるなどかけらも考えた事はないぞ。余が考えたのは『王の中の王』(ペルシア皇帝)をいかに超えるかという事だけだ。
ブリトン人はローマの支配が長くて、自分たちの中から王を出すことに慣れていなかったのよ。ローマの総督のように、王=支配者は外からやってくるものだった。だから、自分たちの中の誰が王になったとしても、どこか納得できないし、完全にひとつにまとまることもない。
つまり、私以外の誰かが王になっても、その玉座が安定することはなかったのでしょうか?
誰であってもその玉座は安定しない。自分たちで王を選ぶのではなく、剣に王を選ばせた時点で滅びは確定だった。ブリテンの滅びは、剣に選ばれたひとりの王の失敗や限界じゃない。
それは、長い長いローマの平和を享受していた、
ブリテンそのものが持つ、限界であった――
なるほど。そう……だったのかも知れませんね。
ブリトン人がアングロ・サクソン人になってようやくひとつにまとまる王を選べたのも、それまでの苦しみも、自らの限界を打ち破るために必要な苦しみであったのだと俺は思う。
では私はその苦しみが、少しでも軽くなるための手助けができたのでしょうか。
できているさ。高潔な騎士の王、アーサー王の伝説が語り継がれたのはそこに王へのひとつの理想があったからだ。
決してすべての人がその理想に納得したわけでも、そのような王を目指したわけでもないけど。アーサー王の勲しと悲劇、成功と失敗は、王というものがわかっていなかったブリテンの人に、王はどうあるべきかを考えるテキストとなったはずよ。
そうですか……ならば、いいのです。
うむうむ。いい話であった。それで、次はどうする?
なんかすごくやりたそうですね。
私はかまいませんよ。ですが、おなかが空きました。またにしましょう。
第3回 戦国時代のルールブレイカー
作成者:銅 大(アカガネ ダイ)
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