Fate/stay nightで学ぶ世界の戦史
■第一回:征服王はなぜライダーなのか
征服王、なぜあなたはライダーの英霊なのだろう。
いきなりだな、騎士王。余がライダーでは何か不満か。
あなたが名馬ブケファラスを宝具にしていれば納得だったのだが、あれはフェイト/ゼロの2巻で登場したとはいえむしろ英霊扱いだ。
宝具なら『神威の車輪』(ゴルディアス・ホイール)があるじゃないか。
違います、シロウ。あれはむしろ、ライダーのクラスとして召還されたがゆえに、そのような宝具になったというべきでしょう。元々、征服王の軍では戦車を使っていない。
へえ、古代地中海といえば二輪馬車のような戦車だと思っていたけど。映画『ベン・ハー』みたいな感じで。
騎士王の言うように、わしは戦車は使っておらん。使ったのは敵の側だな。だからライダーになったのは余の東征における戦い方がクラス設定に影響しとるかもしれん。
騎馬軍団を指揮してたとか?
は、ナニを馬鹿なことを口走っているのよ士郎。モンゴルじゃあるまいし。だいたい征服王イスカンダルはギリシアの人間で遊牧騎馬の民じゃないわ。
うむ。正しくはギリシアのちょっと北にあるマケドニアだがな。騎馬の民という意味であれば、余が征服したペルシア人のほうが馬にはなれておるよ。
確かに。征服王の御代より三〇〇年の後に地中海帝国となったローマも、最後までペルシア人の騎馬弓兵には苦しめられたものです。
騎馬弓兵というのは、ライダーなのかアーチャーなのか、どっちなんだ?
マルチクラスってやつじゃないかしら。ライダーの機動力で間合いを制した上でアーチャーとして遠隔攻撃するって感じで。うわ、なにげに無敵っぽいわね。
じゃあ、あんたは征服したペルシアの騎馬弓兵を軍に取り入れたからライダーって呼ばれているのか。
そいつは順序が逆だ。確かに余は征服した土地の軍勢を取り込んで進撃を続けたが、その前から騎兵の使い方には慣れておる。ヘタイロイと呼ぶ槍騎兵だ。我が東征軍は歩兵3万2千に、槍騎兵5千でギリシアを発ち、ペルシアへ攻め込んだ。
けっこう馬もいるけど、主力は歩兵っぽいわね。歩兵の武器は何? 剣? 弓?
サリッサと呼ぶ槍だ。こいつは長いぞ。ほれ。
これは……五メートルもあるな。それにすごく重い。片手ではちょっと支えられない。
どうすんのよ、こんな邪魔なもの。間合いに入られたらとても戦えないじゃない。英霊なら片手で振り回して踏み込んできた相手を殴り倒せるでしょうけど、普通の人間には無理だわ。
お、なかなかイカす武器じゃねぇか。やっぱ槍は男の武器だよな。
ああ、ランサー。いいところに来たな。あんたなら、この槍の使い方がわかるだろう?
任せろ。ほらこうやって両手で構えて前に突き出す。
それで?
それだけだ。
ちょっと、真面目に教えなさいよ。こんなの構えてたら敵が勝手につっこんできてくれるとでもいうわけ? ありえないわよ、そんなの。
いやいや、そこの槍兵の言う通りだぞ。これはそうやって構えて敵を防ぐ武器だ。
それはおかしい。こんな槍、懐に入られたら重いし長いしで短剣を持った敵にだってやられてしまう。
ひとりだけならな。こいつはひとりで使うような槍じゃねえよ。大勢で集まって隊列組んで、槍衾を展開するための槍だ。それも横一列じゃなくて縦にも厚みをもたせてな。そうすれば、後ろの列の槍が間合いを踏み込んだ敵をも制圧する。ハリネズミな陣だ。
うむ。これぞ、我が征服における戦列のバックボーン、マケドニア密集方陣(ファランクス)だ。地中海世界最強の防御力を誇る鉄壁の陣だ。
なるほど、これならば確かに守りには強い。それでわかりました征服王。あなたはこれで敵の攻撃を支え、騎兵の突撃で敵を打ち崩したのですね。
然り、然り。歩兵の密集方陣はあくまで守りの要。この時代の戦闘は、一度敵とぶつかった部隊は相手を打ち砕くまで拘束されるからな。動きを止めた相手の背後に回り込んだ騎兵部隊の突撃で敵を打ち砕くのが余の必勝戦法よ。
ふ、必勝とは片腹痛いな蛮族(バルバロイ)。密集方陣のような足の遅い部隊など、敵を拘束するどころか弓矢で一方的に射すくめられて壊滅するのがオチだ。
ほう、ならば貴様の軍で余の軍と戦ってみるか。
ほざくな雑種。軍など必要ない。我ひとりで貴様の率いる万軍をせん滅してみせよう。
待たれよ英雄王。そなたの宝具『王の財宝』(ゲート・オブ・バビロン)は確かに対軍装備として優れているが、英霊の力を使ったのでは正しい比較にならないはず。
ふん、同じことよ。我がペルシア帝国のダリウスであれば、質の悪い歩兵の大軍をファランクスに正面からつっこませるような愚かなまねはせぬ。少数の騎兵集団により散発的に補給線を攻撃しておるわ。
……むう。そいつは確かに困るな。元々、余の軍勢はすごく貧乏なのだ。だらだらと戦いを長引かされては金がなくなってしまう。
な――! あなたはろくに軍資金もないのに他国に攻め込んだのか!
逆だぞ、騎士王。余は軍資金がないから急いで攻め込んだのだ。ペルシアの豊かな富を奪うためにな。
つまりはそういうことだ、セイバー。こやつの弱点は軍事力ではなく貧乏だ。金がなくなれば東征軍など盗賊の集団になりさがる。正面から決戦を挑むのは愚か者のすることだ。
納得できません。が、貧乏こそがつらいのはよくわかります。私がいた頃のブリテンはとても貧乏で、なのに戦乱のさなかにあった。私は民に重税を課してでも、軍を養う必要があった。もし――もしも――
もしも近くに、奪うだけの富を持つ国が他にあったのならば――
自分(騎士王)が、征服王と同じ道を選ばなかったと言えるだろうか――
選ばなかったよ。
シロウ? いや、私はその……
だからセイバーは、ここにいる。
ありがとう、シロウ。そうですね、過去に存在しなかった選択で悩むのは私らしくない。
うわ、もう、何よふたりで勝手に盛り上がって! えーと次っ、次行くわよ! ……といっても純粋に歴史上の人物って意外と少ないわね。
前回の聖杯戦争で登場したジル・ド・レはどうだ? あいつ、あれでも百年戦争のころのフランス元帥だぞ。
……彼だけは勘弁して欲しい。あの男の相手をするのは疲れます。
じゃあそうね。とりあえず次回は――
私の出番かな?
第2回 セイバーはブリテンを救えたか
作成者:銅 大(アカガネ ダイ)
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