[CARRIER STRIKE]ミッドウェイ再び
[CARRIER STRIKEとはどんなゲームか?]
1942年から1944年にかけて、太平洋戦域で発生した日米の空母機動部隊によ
る死闘をシミュレーションするコンピュータ・ゲームです。
プレイヤーは、日本かアメリカのどちらかの空母機動部隊の指揮官となり、
敵の機動部隊の撃滅と、与えられた任務の達成を目指します。
現場指揮官ですので、戦力や任務に選択の余地はありません。軍人としての
名誉と義務に従い、果敢に戦いましょう。
具体的には、空母の索敵機や、基地機の索敵情報を元に敵を探し、攻撃隊を
編成して、敵艦隊に送り込むのが、プレイヤーの作業です。後は、ディスプレ
イを前にして悶々と連絡を待つしかありません。時には攻撃隊が敵を見失って
引き返すこともあります。また、プレイヤーの立場が機動部隊の指揮官である
ため、基地航空隊はコンピュータが勝手に制御します。
「空母指揮官(とその参謀)の立場をシミュレーションする」という点では、
立派なロールプレイング・ゲームということもできるでしょう。
■1942年6月4日
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発:太平洋艦隊司令部
宛:第16任務部隊司令長官
本文:ミッドウェイ近海に敵艦隊が接近中。これを補足、撃滅せよ。
敵は有力な空母機動部隊を含む模様。
追伸:今度はうまくやれ
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「『今度は』だとぉ?! やかましぃわあ!」
提督はそうわめくと、電文を引き千切って地団太を踏んだ。
その光景をできるだけ意識の外に追いやりながら、私はミッドウェイのカタ
リナ飛行艇が届けた情報に目を通した。
「前の珊瑚海の時かて、空母の損害は1対1のイーブンじゃい!」
それは違う。
向こうは軽空母。こちらは正規空母。エセックス級が量産される来年以降な
らともかく、現時点では決してお得な取り引きではない。
「それに、今回はミッドウェイ海戦じゃけえのぉ。こっちのワンサイド・ゲー
ムじゃ」
それも違う。
キャンペーン・ゲームの場合、編成は必ずしも史実と同じとは限らない。前
のミッションの損害などが影響するからだ。そう、現にその影響は現われてき
ている。
「……ところで参謀。ヨークタウンの姿が見えんようだな。どこに行った?」
そりゃそうだ。
「ハワイです」
「なぜだ?」
私は、前回の作戦の損害表を提督の前につきつけた。そこには、『ヨークタ
ウン:2ヶ月お休み』と書いてあった。
「ヨークタウンは損害が大きかったため、修理中です。今回の作戦には参加で
きません。それともう一つ、悪いニュースがあります」
続いて、私は届いたばかりの索敵情報を取り出した。それを読んだ提督の顔
が赤く、そして青くなった。
早朝から、ほぼ全方位に向けて索敵を放ったミッドウェイの基地航空隊は、
すでに日本機動部隊を発見していた。
しかも、2つ。
『ミッドウェイ北西300kmに、正規空母2隻を含む敵艦隊を発見せり』
『ミッドウェイ西北西400kmに、正規空母3隻を含む敵艦隊を発見せり』
日本軍は、史実よりも1隻多い5隻の正規空母をミッドウェイに投入してき
たのだ。太平洋のど真ん中に浮かぶ小島に、ナニ考えて大軍を投入してきたん
だ、ヤマモトの野郎。
「おそらく、空母2隻の方が赤城と加賀。3隻の方が蒼龍、飛龍と瑞鶴でしょ
う。搭載機は400機近いと思われます」
対するこちらはエンタープライズとホーネットの2隻。ミッドウェイ基地航
空隊を含めても270機そこそこ。機体の性能とパイロットの練度については言う
までもない。
負ける。
絶対に負ける。
CICにいる誰もがそう考えていた。だが、提督だけはなぜか自信たっぷり
にこう言った。
「大丈夫だ。わしにいい考えがある」
本当だろうな、おい。
■1942年6月5日
「で、これがその良い手なんですか?」
空を覆う厚い雲の下で、私は提督に聞いた。現在の第16任務部隊の位置はミ
ッドウェイの南々西600km。その上空を50機近いF4Fが飛び回っている。
50機──2隻の空母に搭載した戦闘機のほぼすべてだ。
「さっきから、ミッドウェイ島のシマード大佐がさんざんわめきたててきてま
すよ。昨日から今日にかけて、6回も空襲を受けているそうです」
「空襲で島は沈まん」
私は再び上空を見上げた。
空は、蒼かった。
提督にもう一度確認する。
「本当にいいんですか? ミッドウェイ島に行かなくて」
だが、提督は悪びれる風もなく、答えた。
「何を言う。我々にとって真に大事なのは、ミッドウェイ島ではない。この空
母機動部隊。そして、それを指揮するこのわしじゃ」
ようするに、空母を温存してキャンペーンの次の任務に備えようというのだ。
これのどこが良い作戦なんだか。
「しかし、これだと爆撃機や雷撃機が無駄じゃのぅ。よし、ついでだから日本
軍の輸送船団でも攻撃にいくか」
昨日から今日にかけての索敵で、我々は西方海域をミッドウェイへと向かう
日本軍の輸送船団を発見していた。
「上陸部隊を沈めてしまえば、ミッドウェイ島が陥落することもない。シマー
ズもわしに感謝することじゃろうて」
しないと思うぞ。
「よし、攻撃隊を編成して──なんだ? この警報は?」
「敵機動部隊による空襲です!」
それは実にきわどいタイミングであった。赤城、加賀による二派におよぶ空
襲が終わった時、エンタープライズとホーネットは250kg爆弾をそれぞれ3発
と2発受けて炎上中であった。50機の上空直掩とレーダーがなければ、間違い
なく2隻とも沈んでいたろう。
そして、空襲の直前に発進した我が航空部隊は、燃える母艦を背に赤城と加
賀に向けて突き進んでいった。
「おのれ! わしの大事な空母をよくも! 倍返しにしちゃれ」
「しかし、制空部隊の数が6機では少なすぎます! それに敵機動部隊への距離
も航続距離ぎりぎり……帰ってこれなくなるかも知れません」
「どうせ、空母は燃えとるけぇ、帰ってこれんわい。いっそ心残りがのうて、
ええじゃろうが」
だれだ、こいつを空母部隊の指揮官に任命したのは。
日本軍の空襲はその後も続いた。とはいえ、数を半分に減らしてまでの直掩
機の踏ん張りと、防空巡アトランタの活躍で、致命傷を負うことは避けること
ができた。
「やれやれ、ようやく日没か」
空母部隊を東へと撤退させながら、提督が焼け焦げた甲板上で夕陽をながめ
ていた。幸い、日没直前に両空母の火災は鎮火。上空直掩のF4Fはなんとか
着艦することができていた。
とはいえ──
「被害集計が出ました。エンタープライズとホーネットは中破。航空機の運用
は可能ですが……」
残存機数、F4F戦闘機19、SBD爆撃機12、TBD雷撃機6。2隻の
空母を合わせても、軽空母1隻分の戦力にしかならない。
「しゃあない。撤退だ──ところで、空襲の直前に送った攻撃部隊はどうなっ
た? 空母の1隻でも沈めたか?」
んなはず、あるかい。
「敵空母を見つけましたが、攻撃は失敗しました。その後、ミッドウェイ島に
着陸した模様です」
「ほぅ。ミッドウェイ島はまだ生きとったんかい」
「日本軍は、どうやら先に我々の息の根を止めるつもりのようです。ミッドウ
ェイ島は後回しにされたようですね。明日もやって来ますよ、きっと」
「げげ。しゃあない、タンカー部隊をミッドウェイ島へと突っ込ませろ。もし
かしたら空母と勘違いして、そっちを襲ってくれるかも知れん」
鬼か、あんたは。
■1942年6月6日
夜が明けた。残った19機の直掩機が上空へと舞い上がる。せめて何もしな
いよりはした方がマシだろう。残った航空機はすべて索敵に回した。
我々は、執行を待つ死刑囚のように、静かな気持ちで日本機の到来を待ち続
けた。
だが──
いつまで待っても、日本機はやって来なかった。
「何やってるんでしょうね?」
「さあな」
その謎は、一通の電文によって解かれた。
「エンタープライズ航空隊より入電! 『我れ爆撃に成功! 日本軍の正規空母
2隻が炎上中!』」
私は一瞬、呆気に取られた。エンタープライズ航空隊? たしか、全機爆装
を解いて索敵に使ったはずだが? もう一機も残っていないはずだぞ?
違う。
私はすぐに思い出した。
昨日、空母に帰還できず、ミッドウェイ島に着陸した連中が残っていた。
戦後になって判明したことだが、それは日本軍にとって痛恨のエラーだった。
彼らは自分たちの基地設営隊の能力を元に判断していたため、ブルドーザー
を使った我が軍が一日で基地能力を復元しているとは考えもしなかったのだろ
う。ミッドウェイ島を無視して攻撃隊を編成しているところだった。
しかも天候は曇り。レーダーを持たない日本軍の監視をかいくぐり、エンタ
ープライズ航空隊は敵機動部隊上空へと到達した。
5分後。
2発の500ポンド爆弾が爆装した攻撃隊が並ぶ空母赤城の甲板上で炸裂した。
誘爆に次ぐ誘爆。赤城はたちまち紅蓮の炎に包まれる。
続いて空母加賀の艦上に500ポンド爆弾が叩き込まれる。こちらも天高く黒煙
を吹き上げてのたうつ。
これが我がアメリカ海軍の空母であれば、鎮火できたろう。イギリス海軍の
重装甲空母であれば、そもそもこれほどの惨事にならなかったかも知れない。
だが、日本海軍は違った。国力に乏しく、一回こっきりの艦隊決戦以外の戦
争計画を持たないかの国の海軍は、ダメージ・コントロールという概念につい
てあまりに無神経だった。
「残った日本の空母が撤退していきます」
2隻の空母を失い、士気喪失したのだろうか。ヤマモトは残った艦隊に撤退
の指示を出した。まだ3隻も空母が残っており、航空戦力でも水上戦力でも圧
倒的に優勢なままでの撤退だ。
「勝った……のか?」
私はまだ半信半疑だった。
こちらの被害は空母2隻が中破し、航空戦力のほぼ8割を失った。対して日
本海軍は赤城、加賀を失い、ミッドウェイ攻略も失敗。戦術的に見ても、戦略
的にみても大勝利であることは間違いない。
だが──
「わぁっはっはっはっ! どうじゃ、わしの作戦は。日本海軍め、ざまぁ見さ
らせ」
提督が呵呵大笑しながら葉巻をふかしている。その様子を見ながら、私はし
だいに胸中に不安が膨れ上がるのを感じた。
我々は、勝つべきではない戦いで勝ってしまったのではないだろうか?
日本海軍はまだ蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴の4隻の正規空母を持っている。
おそらく、次の戦いは南太平洋だろう。
エンタープライズとホーネットは使えない。こちらの手持ちはヨークタウン
とワスプだけだ。
そして、この空母を率いる我が機動部隊の指揮官はというと──
「まぁ、わしに任せれば次の作戦も楽勝よぉ!」
やれやれ。
作成者:銅 大(アカガネ ダイ)
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