■本日の読書:『補給戦 何が勝敗を決するのか』マーチン・ファン・クレフェルト
●第五章:自動車時代のヒットラーの失敗
第二次世界大戦のドイツといえば、戦車を中心とした機甲師団のイメージである。
が、実際のところ当時のドイツ自動車産業の能力では、すべての部隊を自動車化することなどとうてい不可能であった。
いくら戦車があっても、その戦車に燃料や砲弾を届ける輸送トラックと、戦車を支援する歩兵部隊を運ぶトラックや装甲車両がなくては戦えない。(もっとも、その戦車すら、開戦時には同時期の日本の九七式と大差ない一号、二号戦車が主力であった)
そこで、ごくごく一部の部隊に集中的に自動車を配備して機械化し、残りのほとんどの歩兵師団はそれまでと同じく馬車で補給を行う仕組みのままドイツの第二次世界大戦ははじまった。
開戦時。最寄りの駅から前線の部隊までの補給に携わる自動車化補給連隊を3つドイツ軍は保有していた。
合計で6600台のトラックを持ち2万トン弱の補給能力がある。
さて、これで十分かどうかというと、必要な補給物資の量はどのくらいのものだろうか。
第二次世界大戦における陸軍1個師団に必要な補給量というと、ざっくりぱっくりで、1日あたり300〜400トンといったところだろうか。これはある程度機械化されてガソリンなんかが必要な場合である。自動車や戦車を持たないようなら、200トンぐらいでオッケー。
2万トンの自動車補給部隊が1日1往復して物資を届けることができる場合、およそ66個の機械化師団が補給可能だ。
だが、もし攻撃が成功して、どんどん前線が遠くになれば。
1日1往復が3日で1往復となり、やがて10日で1往復となれば。
なんと、6個機械化師団に補給することしかできなくなってしまう。
バルバロッサ作戦はまさにこんな感じであったのだ。
独ソ国境での戦いに勝利したドイツ軍は怒濤の勢いでソ連領内に侵攻。マンシュタイン将軍の第56装甲軍団などは5日間でおよそ300キロメートルを前進している。
だが、ロシアの大地は広い。
ドイツ国内の補給拠点からレニングラードまではおよそ800キロメートル。モスクワまでは1000キロメートル。とてもではないが自動車補給部隊だけでは足りないので鉄道を利用したいところなのだが、ソ連の鉄道といえば、広軌だったり枕木が少なかったりいろいろあってこちらも思うようには使えない。
結局、前進すればするほど。
たとえ戦闘で損害を受けなくとも、ドイツ軍はどんどん苦しくなる状況にあったのだ。
■本日の読書:『荒野に獣、慟哭す 5』原作/夢枕獏 漫画/伊藤勢
ついに、丸サングラスでヒゲなあのオヤジが、この漫画にも登場! 前の巻でも登場はしていたが、トレードマークともいうべき丸サングラスをかけたのは今回が初めてである。
他の漫画では宮本武蔵やリザードマン役を演じ、どちらかというと主人公側を導く存在であったが、『荒野に獣、慟哭す』ではなんと(今のところ)敵側の首魁。
登場するや、まず、サイボーグ娘のクビを斬りとばし。
『豹のスピードと、灰色熊の力を持つ』周平を戦闘で軽くあしらい。
精神を乗っ取られて攻撃を仕掛けてきた部下の独覚兵をためらいも見せずに一刀両断にする。
これまでも丸サングラスなおいちゃんは、けっこう好き放題をやっているが、敵に回った分、えらく生き生きとして見えるのは気のせいか。
とにかく反則的なまでに最強キャラなので、以後はおいちゃんの動きが物語の中心となるだろう。
■本日の読書:『銀星みつあみ航海記00 俺らが出帆した動機』鷹見一幸
でたまかにつながるスペースオペラシリーズの2冊目であるが、時系列的にはこちらが先である。
このシリーズの影の主役ともいうべき存在が、輸送船銀星号である。
N級コンテナ貨物船で、記述によると
正面から見ると十文字型をしているブリッジの後方から一本の長いパイプのような船体が伸び、そのパイプからは等間隔にコンテナを係留する細いビームが何本も伸びている。
そしてパイプの一番後方にヒレのような大きなパネルがついたジェネレーターが繋がっている様は、まるで巨大な骨格標本のようなものだ。
『銀星みつあみ航海記00』(p136〜137)
ここまで読んだ私の脳裏に浮かんだのが、あさりよしとおさんのデビュー漫画、『木星ピケットライン』のホネバカリーという宇宙船である。
『2001年宇宙の旅』のディスカバリーと同じ構造を、あそこまで愉快な造形にした漫画に、我が友人は大喜びで雑誌からその話を切り取って友人の誰彼ともなく見せてまわったものである。
閑話休題。
とりあえず、模式的にどんな構造かパワーポイントでちゃちゃっと描いてみよう。

サイズについては現在までの記述では不明な部分が多い。
宇宙船のサイズを表す単位として、私が好むのはやはり質量系だ。キログラムとかトンとかである。なぜ好むかというと、ロケットの推力や推進剤の噴射速度など、宇宙船の航行性能に関する数字との相性が良いらである。計算するのにいちいち単位を変えなくていい。
だから私がデザインした『スターレジェンド』でも宇宙船は質量単位である。
が、宇宙船の“フネ”の部分に着目すると質量トンはあまり一般的ではない。特に商船はそうだ。
海洋の戦艦などで使う単位、“排水”トンは、こちらは重量としてのトンに近い。いわゆるアルキメデスでエウレカな感じ。風呂に戦艦を浮かべ、あふれ出る(排水)水の重量が戦艦の重量となる。
戦艦の重量とはすなわち、その艦の持つ大砲や装甲の重さであり、重いほど強いのだ。だから軍縮条約でも重量がベースになったのである。
しかし、商船での重量は本来あまり機能と関係ない。
商船の機能で重要なのは、どれだけの積み荷を運べるかだ。だから、商船は積み荷を運べる容積を元にトン数を算出する容積トンを使っている。
むかしの日本でも、『千石船』などの呼称は容積トン由来である。『石』とはお米の単位だ。千石船というのはお米を千石=1万斗=100万合=18万リットル運べる船、というわけだ。洋の東西を問わず、船倉の容積が船の大きさの単位となっていたわけである。
この流れを受けて、スペオペRPGの元祖とでもいうべき『トラベラー』ではトン数単位であるが、容積トン、それも“排水素”トンが使われている。なぜこの単位を使うかというと、トラベラー世界では燃料が液体水素だからである。
もちろん“排水素”トンという単位は架空の単位である。
“排水素”トンは、1トン=約13.5立方メートルで計算される。液体水素はえらく比重が軽いのだ。
商船で一般的な総トン数というのが100立方フィートで約2.8立方メートルであるから、5倍近い。
トラベラー世界でハヤト達のようにPCの持ち船になるA型自由貿易船が200排水素トン。小さく思えるが実は1000総トンほどの、そこそこ大きな商船だということがわかる。
ただ、こちらを手に入れるには40年ローンという長期ローンが必要になる。これだけ分割しても宇宙船というのは高いもので、日本円で1000万円をこえる月々の返済がとどこおり、無重力なのにクビを吊ろうという船長兼船主のPCが大勢いたものである。
銀星世界においても、宇宙船の多くは一発現金払いではなくローンでの支払いになるだろう。企業だって、ナニもかも一発決済するわけではない。特に大口の仕事とかになると入金されるのが期末や年度末なので、一括して金を払うにしてもそれまで先送りになるはずだ。
だから実を言うと私は、銀星号を格安で売ったハインツさんは、額面ほどには損をしていないと考えている。分割され、あるいは年度末などの未来に支払われる20億と、すぐさま銀行に入る17億では重みや使いでが違う。きっと月々の資金繰りを担当している経理のヒト(奥さんか?)は大喜びしたのではあるまいか。
さてさて、こうして船出をした銀星号であるが、経済的な側面をみるとけっこう難題が山盛りなのである……(次号の読書日記に続く)
■本日の読書:『仮面のメイドガイ 5』赤衣丸歩郎
5巻の見所はやはり、ご奉仕24の南米アマゾン流域にあるメイド神殿であろう。
アマゾン流域の地下に、紀元前7千年の古代メイド文明があったというたいへん頭の悪いネタである。
メイドガイ専用お仕置きの笛(1巻参照)で忍者メイドに殺されたコガラシが復活して曰く――
「立てばドラキュラ
座れば不死鳥
歩く姿はイモータル
鋼の身体に 不滅の魂を持つ漢
それがこの俺 メイドガイ!!」
ああもう、どっからつっこんでいいのやら。ブラボーだ、コガラシ。
この手の、朗読すると楽しいセリフをもうひとつ。
ご奉仕21、以前になえかが銀行強盗騒動を起こした銀行の窓口のお姉さんがのたもう
「ふふふ 動くとこの最大換金速度3千円/sec 有効射程20mの射出式百円玉両替機
ガトリング100で蜂の巣にするわよ!!
あの日傷つけられた銀行ウーマンとしての私の矜恃
復讐を誓って3ヶ月休まず張り番続けた苦節の日々
今こそ 全てを このニッケル硬貨に込めて――!!」
ドジっ娘メイドのフブキさんも相変わらずであるし、安心して読めるシリーズである。
■本日の読書:『ガンスリンガー・ガール 8』相田裕
ロシア娘のネタ、続く。
2期生の義体が抱く愛も、担当官の過去話も、良い話である。
そろそろ1期生が終わりを迎えそうなので、どうなるのか期待。
■本日の読書:『ゼロの使い魔 9』ヤマグチノボル
いつものようにぐだぐだとお話は続く。
キャラがある場面で決意したり思い切ったかと思うと、次の場面で元に戻ったりするのが何度も繰り返されている。
死んだはずのコルベール先生の復活もしかり。
このへんを脈絡がないと思うか、面白いからありだと思うかで評価は分かれるだろう。
私はあまり飾らない感じのこういう展開が、割合に好きである。
■本日の読書:『朝日百科世界の歴史 ナポレオンと元帥たち、ポーほか』
19世紀における人物その1
ナポレオン帝国で、元帥の位についたのは26人。
元帥という階級は、必ずしも軍隊において必須ではない。日本帝国軍のように建制上は大将までで、元帥は一種の名誉職のような軍隊もあるのだ。
ナポレオン麾下の元帥たちは、いずれも実戦で鍛え上げられたもののふで、キャラの立ったいい男たちである。
さて、19世紀アメリカに登場したエンターテイナー、エドガー・アラン・ポーであるがその一生を見るに、学業もせず遊びほうけたり、仕事しなかったり、けっこうなダメ男である。
ダメ男でありながら、ポーは養母や義母、そして若くして夭折した妻たちからは溺愛され、とことん甘やかされている。母性愛をくすぐるようなタイプのダメ男であったのだろう。
■本日の読書:『ゼロの使い魔 10』ヤマグチノボル
前巻でアンリエッタが、そして10巻ではタバサまでもが主人公の才人争奪戦に参加したもよう。
モテモテハーレム状態であるが、どちらかというとそのせいで才人はボコボコにされる機会が増えているようだ。
エルフも登場し、おしまいに向けての布石が打たれている様子。ただ、護国卿の例もあり、それなりに重要人物と思われていたキャラがへたれたりするので予断は許さない。
■本日のゲーム:『メディーバル2 トータル・ウォー』プレイメモと画像
『メディーバル2:トータル・ウォー』の日本語版が発売になったので、週末からプレイ開始。
日本語版公式ページは こちら
4gamerの紹介ページは こちら
●フランスの国家戦略
目標は領土を広げ、イングランドを滅ぼすこと。
攻めることができる場所はとりあえず攻めてみる。
とりあえずは現在のフランス領土は全部確保する勢いで。
●異端審問
中世を舞台にしているので、ときどき異端者だの魔女だのが出現する。
こいつらを放置すると、領土内の信仰心が下がり、不穏になっていく。
そこで登場するのが聖職者ユニットである。

聖職者は、異端者を火あぶりにする。

●フランスは騎士の国
フランスは騎士の国である。

しかし、騎士による突撃は、相手が槍兵だとたちまち失敗する。
山賊相手に死にかけるし。
とりあえず、前線を作る歩兵部隊の強化が課題か。
●教皇のお願い
ローマ:トータル・ウォーでは元老院があれこれ任務を命令してきたが、本作では貴族やらギルドやら、そして教皇やらが任務をいいつける。
最初はそれでも簡単な任務だ。

やがて、十字軍をやるとか言い出すようになる。

●イングランドが宣戦布告してくる
反乱軍の領土を片づけていると、イングランドが宣戦布告してきた。
濃霧の中の奇襲で、我が将軍が殺される。

イギリスの領土、カン(カーン)を包囲戦で陥落させ、手打ちをする。
●商人の戦い
このゲームでは、貿易品覚悟のために商人同士の戦いも繰り広げられる。


●コンクラーベ
教皇が崩御すると、次の教皇を選ぶコンクラーベ(選挙)がはじまる。
各国は、枢機卿ユニット(聖職者がレベルアップしてなる)の数だけ投票権がある。


●恐怖の異端審問官
とかなんとかしているうちに、異端審問官が我がフランスにやってくる。
こいつらは、手当たりしだいに将軍ユニットやら聖職者ユニットやらを火あぶりにしてまわるのだ。

軍隊では戦えない。
唯一異端審問官をなんとかできる暗殺者も優れた異端審問官相手では成功の確率は5%とかであまりあてにできない。
とりあえず、教皇にお布施を支払って仲良くなっておく。
■本日の読書:『涼宮ハルヒの分裂』谷川流
「宇宙人か未来人、超能力者か異世界人がいたら私のところに来なさい!」
などとハルヒがのたもうて作中で一年が経過した。
宇宙人はいたし、未来人もやってきている。そして超能力者もまあ、限定型であるが存在する。
いない(あるいは作中で確定されていない)のは異世界人だけだ。
さて、ここで質問だ。 異世界人、あるいは異世界ってなんだろう?
漫画やアニメではよく主人公が異世界に転移する。あるいは異世界からヒロインなどが転移してくる。おとついに読んだ『ゼロの使い魔』などもその一例だろう。
こうした作品の異世界は完全に我々の宇宙とは別の存在である。アメリカのRPG『TORG』のごとく、世界法則からして異なる場合も珍しくはない。魔法が使えたりするのはその一例だ。
ハルヒが呼び込む異世界人というのが、そんな異世界である可能性はむろんあった。
が、SFやアニメなどにはそれとは別の形で異世界が存在する例がある。
並行世界――我々の世界とよく似ていながら、どこか微妙にズレている世界がそれだ。
試しにコインを投げてみて欲しい。
コインの表が出たろうか? 裏が出たろうか?
確率はフィフティ、フィフティだ。
『この世界のあなた』のコインで表面が出たならば、『あちらの世界のあなた』のコインは裏面が出ている。
確率的には小さいものの、『飛んできたカラスが空中でくわえて飛び去ってしまった世界のあなた』だって存在しているかも知れない。
並行世界はそうやって誕生する。
あなたは今、コインを投げたことでひとつの世界を創造したのだ。
さて、『涼宮ハルヒの分裂』ではもうひとりの、ありえたかもしれないハルヒが登場する。そちらのハルヒにも、未来人や宇宙人、超能力者がやってきている。
やじろべえの両端にふたりのハルヒ(+未来人、宇宙人、超能力者)。
そしてやじろべえの支点を支える指の役目をしているのが、キョンだ。
ぐらぐらとやじろべえは不安定きわまりない。ハルヒの力は文字通りの意味で世界を揺るがす。ひとつの世界にふたりのハルヒは必要ない。
この世界を揺るがした4年前の情報爆発は、ふたつの並行世界を誕生させたのかもしれない。ハルヒの世界と、もうひとりの世界を。
並行世界にはルールがある。別れた世界は進化の枝分かれよろしく元には戻らないというルールだ。さらに分裂して増えることはあれども、ひとつになることは決してない。
けれど忘れるなかれ。
ルールをねじ曲げることができる人間が、ひとりだけいる。
涼宮ハルヒ、その人だ。
「宇宙人か未来人、超能力者か異世界人がいたら私のところに来なさい!」
それが彼女の望み。彼女は異世界人と出会うことを望んだ。
枝分かれした別の世界と交わることを望んだ。
だからハルヒは出会ったのだ。
もうひとつの世界に存在する、もうひとりの自分と。
■本日のゲーム:『メディーバル2 トータル・ウォー』プレイメモと画像その2
●十字軍に参加してみる
異端審問官の恐怖はしばらく荒れ狂った。
聖職者ユニット(こちらは金で買える)を囮として異端審問官のそばに移動させてみたりもしたが、逆に経験を積んでレベルアップした異端審問官が手の付けられない強さになってしまう。
4人の将軍が火あぶりにされ、さらに多数の聖職者ユニットが異端として処刑された。そして歴史の闇に消える話であるが、30人近い暗殺者が異端審問官によって返り討ちにあっている。
北部フランスを人肉の焼ける匂いで充満させた異端審問官は天寿をまっとうし、満足して神の御許へと旅だっていった。もう帰ってくるな。
そうこうしているうちに、エルサレムをねらった第二次十字軍が発起される。
アンティオキアを攻めた第一次十字軍には、イギリスとの戦争が忙しくて参加しなかったのだが、第二次十字軍には参加を決意する。
もちろん、理由は宗教的情熱ではなく、カソリックへのおべっかである。ローマ教皇と異端審問官の恐怖を骨の髄まで味わった私は、ローマ教皇には逆らわないことを決意したのだ。
南仏の港湾都市マルセイユから出発した我が十字軍遠征部隊は、地中海を一路東へ東へと向かい、エルサレムに上陸。
なんとエルサレムには2部隊しかいない。楽勝である。
あっというまに聖都は陥落したのだが……

エルサレムを略奪すると、当時のフランスの一年分の国家予算を上回る金が手に入ったのである。
このボーナスは、遠征にかかる経費を取り戻してあまりある。しかも、遠征を指揮した我らが王子は、信仰心などのボーナスや各騎士団の従者などがくっついて、さらなるパワーアップまでしている。特に異端審問において生死を分ける信仰心ボーナスがもらえることは心強い。
行き帰りに5年やそれ以上の時間がかかったとしても、これだけ利益が出るなら十字軍というのは実に儲かるビジネスだということになる。
●放漫財政のツケと軍縮
好事魔多し。
エルサレムに住むイスラム教徒とキリスト教徒を両方まとめて略奪して大金を得た私は、うはうはと軍拡に取りかかった。
フランス王は今や、エルサレムの守護者である。西ヨーロッパにおいてこれほど高い権威を持つ国はない。
だが、あまりにエラそうにしまくったせいで、隣接する国家が入れ替わり立ち替わり宣戦布告してくるようになった。
北にイングランドとスコットランド(アントワープを占領している)、東に神聖ローマ帝国、東南にミラノ公国、西南にスペインとポルトガル。
これら六カ国のうち、常時三カ国と戦争をしているような感じで、我が軍は東奔西走させられた。しかも、そこそこ勝利が見えてくるようになるとローマ教皇から停戦命令が出される。逆らったら破門である。
このゲームでの破門の効果がどれだけ大きいかはまだわからないが、異端審問官だけであれほどツラかったのだ。とてもではないが試してみようという気にはならない。
停戦して戦力を回復した敵は、再び戦争を挑んでくるのだが、放置するしかない。
そんなつらい戦いが10年も20年も続いた。
エルサレム略奪で手にした財宝もとっくに底を尽いた。
維持するにも遠方すぎるエルサレムは、しょうがないのでローマ教皇にプレゼントすることになった。
このままではいかん。私はそう決意した。
ローマ:トータル・ウォーの時代から、千数百年が経過しているが戦争に必要なものの基本は今も昔も変わらない。
金だ。とにかく金さえあれば、なんとかなるのだ。
さっそく私は現状確認のための財政概要画面を開いてみた。

収入27000フロリンのうち、なんと22000が軍の維持費に使われていた。国家財政の実に80%がふくれあがった軍隊を養うためだけに消えていたのである。
財政が苦しいのも当たり前である。東西南北どこからも攻められるせいで、すべてのエリアに大軍を置いていたのだが、それが国力を圧迫していたのだ。
原因がわかれば、対策はある。
まず都市における治安維持は、ギルドなどの自治組織から編成される民兵に一任した。これらは3〜4ユニットほどなら維持費が0になる。戦力としてはまるで期待できないが、治安維持専門なのでそこはかまわない。
その代わり、安くて弱いユニットは全部リストラである。
ゲーム初期では、民兵に毛が生えたぐらいのユニットでも主力として野戦に投入していたが、ゲーム開始から100ターン近くが経過した今となってはもはや弱すぎて使えない。
それらは治安維持に使っていたのだが、そちらは民兵に任せることになったので、どんどん解散することにする。
こうして、5ターン後。

フランスの国家財政は見違えるほどに健全になっていた。維持費は4000フロリンも安くなり、さらに周辺国に外交官を派遣して通商条約を結びまくったおかげで、貿易収支が4000フロリンも上昇した。
合計8000フロリンのプラスによって、我がフランスは積極的な行動に移る能力を確保したのである。
■本日の読書:『沈黙のフライバイ』野尻抱介
SFマガジンに掲載された短編をまとめたもの。
収録されているのは5編
『沈黙のフライバイ』
野田篤司さん(サイトは こちら)が考えたIPSネタを元にした、低コスト型恒星間探査に関する短編。
派手な盛り上がりには欠けるが、サーモンエッグ計画など読みどころ多し。
『轍の先にあるもの』
小惑星探査にからめたネタ。元は小惑星エロスの地表を映し出した写真を元にネット上であれこれと考察を重ねたものから。
小惑星探査といえば、2006年のイトカワへのアプローチは見物であった。
これを読んでいて常に脳裏にあったのは、去年の11月に開催されたIF-CON6のイベント『本物に聞け! 惑星学者に聞け!』での平田成さんによるイトカワ探査のプレゼンテーションだった。
イトカワの映像を元にあれこれと小惑星の微小な重力が生み出す地形について熱く語る平田さんの話を聞きながら、私は「なんてうれしそうに語るのだろう」とこちらまでうれしくなったのを覚えている。
JAXAがそうであるし、おそらくはNASAやJPLでもそうなのだろう。世間的にはモノグルイな人々はどこか感染性のある熱気を持っている。良いか悪いか、とか、益か無益か、とかではない。
未知の世界へ行くのは楽しい。
新しいことを知るのはうれしい。
そうやって知った先には、さらに疑問や謎がある。
果てはなく、終わりもない。だから科学は面白いのである。
『片道切符』
有人火星探査ネタその1。
どことなく『赤い惑星への航海』(テリー・ビッスン)を思わせるところあり。
『ゆりかごから墓場まで』
進化の果てにある宇宙服といえば、『カエアンの聖衣』(バリトン・J・ベイリー)におけるロシア人(宇宙船と一体化)や『へびつかい座ホットライン』(ジョン・ヴァーリイ)の共生体などがある。
が、C2Gスーツを着用した火星植民者には、むしろ『マン・プラス』(フレデリック・ポール)に登場したサイボーグを思わせるところがあった。なんとなく、火星で世代を重ねる先にはC2Gスーツを着るのではなく内蔵するようになるのではないだろうか。
『大風呂敷と蜘蛛の糸』
傑作。
中間層を探査する大風呂敷という巨大な凧の概念もさることながら、『轍の先にあるもの』と同じくモノグルイですごく楽しそうな大学の連中のはしゃぎっぷりも読んでいてすごく楽しい。
SF作品や娯楽作品ではしばしば「人間が書けていない」という批判が寄せられることがあるし、それはおおむね事実なのだが、この作品に限ってそれはない。なぜならば、この作品に登場する人々は実在する。数はそう多くはないが、間違いなく存在するのだ。
空気がほとんどない中間層まで舞い上がり、さらにそこで電気力によって外宇宙へと旅立つ蜘蛛の糸という概念に、何かを突き破るかのような爽快感を感じとれるようであれば、あなたもそれらの人々の仲間入りである。
ようこそ、しっちゃかめっちゃかにおもしろき世界へ。
■本日のゲーム:『メディーバル2 トータル・ウォー』プレイメモと画像その3
●イングランド上陸
フランスの、ショートキャンペーン勝利条件はふたつ。
20の領土を確保し、イングランドより長生きすることである。イングランドは北にスコットランドがあるだけの良い位置を占めているから勝手に滅ぶ可能性は低い。
ようは攻め込んで滅ぼせという神の思し召しであろう。
そういうわけなので、イングランドの艦隊が海賊行為(こちらの港を封鎖した)したのをきっかけに、これ幸いとロンドンを攻め滅ぼす。

ロンドンの北に3人の赤い男がいるが(フランスの旗にひとり隠れている)この3人はイングランドの暗殺者である。
こいつらには何年も反政府活動を指揮され、ロンドンの治安はたいへん悪くなった。
●ローマ十字軍
十字軍といえば中東の聖地を目指すものばかりではない、史実においても東欧などの「カソリックの敵」に十字軍の宣言がなされて攻め込んだこともある。
まあ、今でいえば国連安全保障理事会のお墨付きでイラクやアフガニスタンに攻めこむのとあまり変わりはない。
とはいえ、十字軍お誘いの回覧板に、目標:ローマとあった時にはさすがに目を疑った。
地図を確認してみると……あ、シチリア王国に占領されてる。

ナポリやシチリアなどの南伊を支配するシチリア王国はつい最近破門されたのであるが、その仕返しにローマを実力で占領してしまったのだ。
すでに我がフランスの領土はジェノヴァ(ミラノから奪った)まで広がっているので、十字軍といっても指呼の先である。
さっそく軍を編成して送り込む。すでに西暦は1300年代。巨大投石機トレブシェットもあれば、初期型の大砲もある。

こうなれば、高いだけで薄い城壁など障害にもならぬ。城壁に穴をあけて歩兵の大軍をつっこませればそれで簡単にローマは占領できた。
ローマは大都市であり、交易の拠点としても優れている。領土としての旨みは大きいのでこのまま確保しようと思ったらすぐに教皇から返せと言われた。

……しゃあない、返すか。
●第一次対仏大同盟
ローマ十字軍の成功や、その後のローマ返還などで教皇のフランスへの覚えはたいへんよくなった。
財政も大幅な黒字で、再び軍拡――ユニットの数ではなく質を向上させた――を進めても十分に余裕があった。
はるか東ではモンゴルが大暴れしているようだが、西ヨーロッパにまで災禍は及んでいない。
このまま国力を充実させていってもいいなぁ、などと思っていたのだが、さすがに周辺諸国がこれを嫌った。スペイン王国、神聖ローマ帝国、ミラノ公国、ポルトガル王国、イングランド王国の五カ国が相次いでフランスに宣戦布告する。
守るだけであれば問題ないが、この機会にイングランドを攻め滅ぼそうと思っていたらモンゴルよりもまだヤバイものが迫ってきていた。
黒死病――ペストである。
●黒死病
そういや、中世のヨーロッパといえば黒死病だよなあ、などと今更思い出してももう遅い。我がフランスの領土はことごとくペストの大流行に見舞われた。街道を整備し、交易を奨励したせいもあり、この大流行を防ぐ手だてなどあろうはずもなかった。

黒死病が具体的にどのような影響をゲームに与えるかというと、もちろん、将軍ユニットがばんばん死ぬ。

が、そんなものはまだ取り返しがつく。
取り返しがつかないのは財政赤字である。

税収も貿易も、ごっそり減少。あろうことか貿易は0にまで下がってる。まあ、ペストで汚染された船舶の入港なんかどこも許可せんよなあ。
一方の軍隊の維持費はすごい数字になっている。かつての軍縮前のふくれあがっていた頃のさらに倍だ。これは大砲などのハイテク武器をそろえたせいである。
●乾坤一擲のアシカ作戦
私が最初に考えたのは、当たり前だが再びの軍縮だった。
軍隊もその半数がペストにやられている以上、このまま維持していても戦争などできやしない。それなら、ごっそり解散してしまって、今の財政でも維持できるレベル、民兵主体にしてしまった方がいい。
が、そこではたと気がついた。
本当に、戦えないだろうか?
ペストの大流行で苦しんでいるのは我々だけではない。スペイン軍は元気いっぱいでトレドを奪還されてしまったが、神聖ローマ帝国は急遽和平の申し入れをしてきたし、ミラノ公国も動きが停止している。イングランドも和平の打診をしてきたほどだ。
そう、どうせ解散させるペストに汚染された軍隊なら、いっそダメもとでイングランドに攻め込ませてみたらどうだろうか。
戦闘せずとも移動するだけで街道に大量の死体が転がっていくような軍隊であるが、ひょっとしたらペストで全滅する前にイングランドを占領できるかもしれない。
現在のイングランド領土は、ノッティンガム、カーナボン(ウェールズ)、ヨークの3エリアでしかない。
我が栄光のフランス騎士団はぼろぼろにやせ細りながらも、ロンドン経由でイングランドの3エリアを同時に攻撃した。
結果――イングランドは滅亡した。
我がフランス軍が戦いに勝利したのかどうかはわからない。
すべてが終わった後で斥候を送り込んだところ、ノッティンガムもカーナボンもヨークも、そこに生きる者の姿はなかったからである。
ペストに汚染され、もはや死を待つしかない男達が、イングランドを道連れに最後の栄光を飾った後、病魔によって全滅したのか。
あるいはイングランドが勝利をおさめた後に、病魔によって全滅したのか。
どちらにせよ、最後は死神がすべてをさらっていったのだ。
イングランドはこの後、何世紀にもわたって荒れ果てた不毛の地となるのである。
……ともあれ。
我がフランスの大勝利であるっ!!
■本日の読書:『一年戦争全史 下』
歴史群像でおなじみのライターさんたちがガンダムの一年戦争を戦略や戦術面で熱く語った良書。
下巻は主に戦争の終盤、テレビシリーズとほぼ同期する感じである。
上下巻通して、オフィシャルな設定にかなり配慮しているように見受けられる。たとえば地球連邦政府については『ムーンクライシス』(松浦まさふみ)っぽいオレ展開/オレ設定が出るのではないかとも思っていたのだが、そういうのはまったくなしである。
さすがに、サイバーコミック時代のようなわけにはいかんようだ。『実録ぢおん体育大学』(安永航一郎)とか大好きだったんだがなぁ……
それでも政略・戦略面はともかく、戦術面ではまだ比較的自由に設定が許されるようで、本書でも特に林穣治さんによる
考察6【物理と戦術】宇宙における戦闘
Column.宇宙要塞の意義
このふたつはしっくりと納得しやすく、また読み応えもあった。むろん、あくまでガンダム世界をそれっぽく描写しているわけで、実際に数字を出してしまえば破綻してしまうのだろうが、そこはそれ、こういうのはうまくごまかすのも大事である。
また、ニュータイプ理論についてはやはり林穣治さんの
Column.ニュータイプとフラナガン機関
において、ニュータイプ理論について社会的ダーヴィニズムとばっさり切って捨てているところが面白い。いや、まじめに考察すればどこもおかしな事は書いていないのだが、他の政略戦略面がアニメ設定に配慮している分だけ痛快な感じである。
それにしても本書であらためて地球連邦と連邦軍というものの関係の曖昧さ、不可思議さがはっきりしてきている。
たとえば、アメリカやロシア、中国などが国軍を“地球連邦”なる組織に移譲するまでの過程にどのような政治的なドラマが繰り広げられるか考えてみるだけでも面白い。
本書を読んでみて、私は“地球連邦”なる組織は実は各国の軍隊内部にいた秘密結社によるクーデターで誕生したのではないかと考えている。世界各国の政府は、その秘密結社によって動いた自国の軍隊によって制圧され、否応なく主権を返上させられたのではないかと。
だから本来、“地球連邦”とは“地球連邦軍”による軍部独裁政治で、その圧倒的な武力によって人類は強制的に宇宙へと移民させられたのではなかろうか。
本当はさらに、クーデター発生直前、人類は地球環境の汚染などによって、9割の人間が遺伝情報を破壊されて破滅寸前に追い込まれたとか、宇宙移民=スペースノイドというのは実は人類復活のため遺伝情報から合成されたアンドロイドのような存在であるとか、いろいろSF的設定を考えてみると面白そうなのであるが、ここまでいくともうガンダムでもなんでもないのでやめておこう。
■本日の読書:『朝日百科世界の歴史 リンカン、バクーニン、洪秀全ほか』
19世紀世界における人物その2。
このシリーズでは、年表のところに毎回コラムがあるのだが、この号ではドナルド・キーンによる『ヨーロッパ文化の絶頂期』の冒頭で
20世紀の終焉が近づくに従って、19世紀はますます西洋文化の最高峰に見えてきた。もう少し厳密に言えば、1815年のワーテルローの会戦から1914年の第一次世界大戦の勃発までの100年間にあらゆる芸術などが頂点に達し、それ以後、優れた作品が時々発表されても、全体として西洋文化は下り坂になっているという印象が強い。
と堂々と書かれていたのには、思わずうなってしまった。
これが正しい、正しくないではなく。やはり人間、こうした意見を大まじめに言う人も必要だよなぁ、などと感じてしまったしだいである。ボケがいなければツッコミはできないではないか。スキがないのも善し悪しである。
中国の偉人をはかるひとつの目安としてひらがなで入力して一発変換可能かどうかというのがあるが、「こうしゅうぜん」の「洪秀全」は一発であった。ATOKえらいぞ。
ただ、これが正しい読みかというとまるで違い、英語なんかのHang Xiu・quanが近いだろう。会話では伝わらず、文字では伝わる。日本と中国というものの文明のひとつの側面のような気がする。
この巻での一番の有名人といえばリンカンであろう。表記がリンカーンではなくリンカンなのは長音をはずしがちな近頃の流れか。むかしはコンピュータもコンピューターというのが多かったなぁ。横山光輝さんの漫画なんかで、長い穿孔テープがでろでろ出て、読むやつである。どうでも良いことであるが、私にとって今でも『コンピューター』といえば『バビル2世』のバベルの塔の『コンピューター』である。
以上、つれづれなるままに。
Fate/stay nightで学ぶ世界の戦史(仮題)
■第一回:征服王はなぜライダーなのか
征服王、なぜあなたはライダーの英霊なのだろう。
いきなりだな、騎士王。余がライダーでは何か不満か。
あなたが名馬ブケファラスを宝具にしていれば納得だったのだが、あれはフェイト/ゼロの2巻で登場したとはいえむしろ英霊扱いだ。
宝具なら『神威の車輪』(ゴルディアス・ホイール)があるじゃないか。
違います、シロウ。あれはむしろ、ライダーのクラスとして召還されたがゆえに、そのような宝具になったというべきでしょう。元々、征服王の軍では戦車を使っていない。
へえ、古代地中海といえば二輪馬車のような戦車だと思っていたけど。映画『ベン・ハー』みたいな感じで。
騎士王の言うように、わしは戦車は使っておらん。使ったのは敵の側だな。だからライダーになったのは余の東征における戦い方がクラス設定に影響しとるかもしれん。
騎馬軍団を指揮してたとか?
は、ナニを馬鹿なことを口走っているのよ士郎。モンゴルじゃあるまいし。だいたい征服王イスカンダルはギリシアの人間で遊牧騎馬の民じゃないわ。
うむ。正しくはギリシアのちょっと北にあるマケドニアだがな。騎馬の民という意味であれば、余が征服したペルシア人のほうが馬にはなれておるよ。
確かに。征服王の御代より三〇〇年の後に地中海帝国となったローマも、最後までペルシア人の騎馬弓兵には苦しめられたものです。
騎馬弓兵というのは、ライダーなのかアーチャーなのか、どっちなんだ?
マルチクラスってやつじゃないかしら。ライダーの機動力で間合いを制した上でアーチャーとして遠隔攻撃するって感じで。うわ、なにげに無敵っぽいわね。
じゃあ、あんたは征服したペルシアの騎馬弓兵を軍に取り入れたからライダーって呼ばれているのか。
そいつは順序が逆だ。確かに余は征服した土地の軍勢を取り込んで進撃を続けたが、その前から騎兵の使い方には慣れておる。ヘタイロイと呼ぶ槍騎兵だ。我が東征軍は歩兵3万2千に、槍騎兵5千でギリシアを発ち、ペルシアへ攻め込んだ。
けっこう馬もいるけど、主力は歩兵っぽいわね。歩兵の武器は何? 剣? 弓?
サリッサと呼ぶ槍だ。こいつは長いぞ。ほれ。
これは……五メートルもあるな。それにすごく重い。片手ではちょっと支えられない。
どうすんのよ、こんな邪魔なもの。間合いに入られたらとても戦えないじゃない。英霊なら片手で振り回して踏み込んできた相手を殴り倒せるでしょうけど、普通の人間には無理だわ。
お、なかなかイカす武器じゃねぇか。やっぱ槍は男の武器だよな。
ああ、ランサー。いいところに来たな。あんたなら、この槍の使い方がわかるだろう?
任せろ。ほらこうやって両手で構えて前に突き出す。
それで?
それだけだ。
ちょっと、真面目に教えなさいよ。こんなの構えてたら敵が勝手につっこんできてくれるとでもいうわけ? ありえないわよ、そんなの。
いやいや、そこの槍兵の言う通りだぞ。これはそうやって構えて敵を防ぐ武器だ。
それはおかしい。こんな槍、懐に入られたら重いし長いしで短剣を持った敵にだってやられてしまう。
ひとりだけならな。こいつはひとりで使うような槍じゃねえよ。大勢で集まって隊列組んで、槍衾を展開するための槍だ。それも横一列じゃなくて縦にも厚みをもたせてな。そうすれば、後ろの列の槍が間合いを踏み込んだ敵をも制圧する。ハリネズミな陣だ。
うむ。これぞ、我が征服における戦列のバックボーン、マケドニア密集方陣(ファランクス)だ。地中海世界最強の防御力を誇る鉄壁の陣だ。
なるほど、これならば確かに守りには強い。それでわかりました征服王。あなたはこれで敵の攻撃を支え、騎兵の突撃で敵を打ち崩したのですね。
然り、然り。歩兵の密集方陣はあくまで守りの要。この時代の戦闘は、一度敵とぶつかった部隊は相手を打ち砕くまで拘束されるからな。動きを止めた相手の背後に回り込んだ騎兵部隊の突撃で敵を打ち砕くのが余の必勝戦法よ。
ふ、必勝とは片腹痛いな蛮族(バルバロイ)。密集方陣のような足の遅い部隊など、敵を拘束するどころか弓矢で一方的に射すくめられて壊滅するのがオチだ。
ほう、ならば貴様の軍で余の軍と戦ってみるか。
ほざくな雑種。軍など必要ない。我ひとりで貴様の率いる万軍をせん滅してみせよう。
待たれよ英雄王。そなたの宝具『王の財宝』(ゲート・オブ・バビロン)は確かに対軍装備として優れているが、英霊の力を使ったのでは正しい比較にならないはず。
ふん、同じことよ。我がペルシア帝国のダリウスであれば、質の悪い歩兵の大軍をファランクスに正面からつっこませるような愚かなまねはせぬ。少数の騎兵集団により散発的に補給線を攻撃しておるわ。
……むう。そいつは確かに困るな。元々、余の軍勢はすごく貧乏なのだ。だらだらと戦いを長引かされては金がなくなってしまう。
な――! あなたはろくに軍資金もないのに他国に攻め込んだのか!
逆だぞ、騎士王。余は軍資金がないから急いで攻め込んだのだ。ペルシアの豊かな富を奪うためにな。
つまりはそういうことだ、セイバー。こやつの弱点は軍事力ではなく貧乏だ。金がなくなれば東征軍など盗賊の集団になりさがる。正面から決戦を挑むのは愚か者のすることだ。
納得できません。が、貧乏こそがつらいのはよくわかります。私がいた頃のブリテンはとても貧乏で、なのに戦乱のさなかにあった。私は民に重税を課してでも、軍を養う必要があった。もし――もしも――
もしも近くに、奪うだけの富を持つ国が他にあったのならば――
自分(騎士王)が、征服王と同じ道を選ばなかったと言えるだろうか――
選ばなかったよ。
シロウ? いや、私はその……
だからセイバーは、ここにいる。
ありがとう、シロウ。そうですね、過去に存在しなかった選択で悩むのは私らしくない。
うわ、もう、何よふたりで勝手に盛り上がって! えーと次っ、次行くわよ! ……といっても純粋に歴史上の人物って意外と少ないわね。
前回の聖杯戦争で登場したジル・ド・レはどうだ? あいつ、あれでも百年戦争のころのフランス元帥だぞ。
……彼だけは勘弁して欲しい。あの男の相手をするのは疲れます。
じゃあそうね。とりあえず次回は――
私の出番かな?
(つづく……?)
Fate/stay nightで学ぶ世界の戦史(仮題)
■第二回:セイバーはブリテンを救えたか
それでは日本の戦国時代について語るとするか。そもそも、戦国時代といっても応仁の乱(1467〜77)が終わってから関ヶ原の合戦(1600)までの間だけでも100年を超えていてな。戦い方も大きく変化してきている。火縄銃の影響はむろん大きいが――
あ、悪いけどそれはまた今度で。PS2版発売だし、やっぱりセイバーでいきましょ。
ふ。そういうことであれば。いたしかたあるまい。
私、ですか?
ほら、セイバーは前に王の選定をやり直してブリテンにもっとふさわしい王を、と望んでいたじゃないか。
はい。ですが、その望みはもう必要ありません。
セイバー的にはそれで納得なんだろうけど、私のほうがちょっと疑問だったのね。セイバーが最高の王様かどうかは知らないけど、王に選ばれたのがそこの金ぴか(英雄王)やマッチョ(征服王)みたいな王様だったら、ブリテンは滅びなかったかどうか。
そういうわけなんで、もう少し詳しく聞きたいんだ。だいたい、なんでブリテンは戦乱の時代になったりしたんだ?
わかりました。そもそもの発端は、4世紀のおしまい頃になります。
●ブリタニア辺境 ハドリアヌス防壁(383年)
(先祖)ローマ正規軍団兵を全軍まとめてブリタニアの外へと移動させる、ですか?
(ローマ軍団長役)その通りだ。むろんおまえとて例外ではないぞ。ブリテンの血が混じっているとはいえ、ローマ帝国に仕える身であるのだからな。
(先祖)それは承知しております。ですが、いつまででしょう? 防壁の北に住むピクト人も最近はおとなしいですが、防壁を長期にわたって空にしていては危険です。いつ戻るかがわかれば、それまでの防衛計画も立てやすいのですが。
(ローマ軍団長役)戻る? 戻るだと? はっ、何をばかな。もはやローマ軍団がこの地に戻ることなどありはせぬ。
(先祖)な、ローマはブリテンを見捨てるというのですか!
(ローマ軍団長役)その通りだセイバー。我らが戦うべき相手はまずローマ皇帝の座をねらう簒奪の輩で、その次が西からくるゲルマンの奴ばらだ。ピクト人とブリトン人の争いなど捨て置け。
(先祖)ならば、私は行けません。
(ローマ軍団長役)何? セイバー、貴様、何を言っているのかわかっているのか?
(先祖)はい。帝国の開祖カエサルがこの地にやってきて400年あまり。それからずっとブリテンはローマ属領でありました。ブリトン人は都に住むローマ人と同じくらい、立派なローマ市民です。ですから我らにはこの地を守護すべき責任があります。
(ローマ軍団長役)……ふん、いいだろうセイバー。おまえはここに残るがいい。が、兵は残さぬ。命令通り、正規兵はひとり残らず連れていくぞ。その身ひとつでせいぜい守護者としての責任を果たしてみるのだな。
……と、そういう事があったわけです。
なんていうか、さすがセイバーのご先祖様ね。まじめなのはその頃からの血筋かしら。
けど、ひとりの兵士も残さなかったというのはひどいな。そんなのでセイバーの先祖はどうやってブリテンを守ったんだ?
現役の兵士は全員連れていかれましたが、退役した兵士の中にはブリテン島で家族をもち残っていた者が大勢いたのです。また、正規兵の他に町には自警団のような補助軍団兵がいましたからね。それらを統合してなんとか乗り切ったのです。
けど、それまで正規軍団を置いていたということは、その軍事力が必要だったからよね。それがなくなったということは、どう考えても足りないんじゃないの?
はい。我らも可能であれば、ローマ帝国がこの地に戻ることを望んでいました。ですが、最後のローマ正規軍がブリテンを去ってから、数年の後、ローマ皇帝よりこのような手紙が届きました。
なになに……。『ブリテンの諸都市は自らを守るために最善と考えることをなせ。帝国がいかなる形でもそれに介入することはない』
……ちょっと、これってローマはブリテンを捨てたっていう意味じゃないの!
その通りです、凛。さすがにこの手紙はショックでした。ここ100年あまりは内戦続きで何もしてくれない皇帝ばかりでしたが、それでも自分たちは大きなローマ帝国という家族の一員であることに、ブリテン人は誇りを抱いていたのです。
ローマ帝国が大きな家族なら、皇帝は父親ね。父親に捨てられた子供ってわけか……それは悲しいわよね。
みなさん、お茶が入りましたよ。
! わわっ、いたの、桜っ!
はい。どうしたんですか、変な姉さん。
?? ――ともかく、帝国に捨てられた以上、ブリテン人は自分で自分の身を守るしかありませんでした。ですが、ここで誰が、誰を守るのかという問題が出たのです。
皇帝の手紙だと、各都市っていうか、各地方ごとにそれぞれなんとかしろって意味だよな。
はい。ですが当時のブリテン諸都市が持つ生産力や経済力は低いものでした。もともと貧乏だったので帝国からリストラされたわけですし。そこでさらにばらばらになったのでは、自衛するどころではありません。
なら兵士や武器、食料を出し合ってまとめて管理するしかないわね。そのまとまった軍勢は真ん中に置いておいて、敵が防衛ラインを突破したら、急行して撃破する。
リンの言う通りです。私の先祖も、そうやって防衛軍を編成して戦いました。他にもローマの将校が何人か残って将軍=王としての仕事を担ったわけです……どうしました、士郎?
ん、いや。気になることがあってね。それでセイバー、前にセイバーはブリテンが滅びたって言っていたけど、滅びたブリテンはどうなったんだ?
どう、といっても。滅びたとしか言いようがありません。今度こそ各地方はばらばらになり、自分たちだけで生きていくしかなくなりました。
へえ、どこかよその国が征服したわけじゃないんだ。征服王みたいなのが出てきてさ。
いえ、ブリテンを攻めてくる側も部族単位の襲撃者で、そのような統一された国家や指揮官がいたわけではないのです。便宜上はピクト王と名付けられた相手であっても、あくまで戦争の時の指揮官、という程度で。
唯一無二の王がいれば、セイバーが一騎打ちで倒せばそれで終わりだものな。
はい。征服王にとってのペルシアのダリウス帝のような相手が私にはいませんでした。ひとりの王を倒しても新しいひとりの王が、それを倒せばさらにふたりの王が敵となりました。「ここで勝てば平和になる」ような戦いは、私にはなかったのです。
なんだか、アメリカが今やってるテロ戦争みたいね、それって。で、そういう時代が続いた後で、今のイギリスみたいな王国が生まれたのよね。
私の死んだ後のことですから知識でしか知りませんが、ドイツやデンマークから攻め込んできたゲルマン系サクソン人は何度も撃退されたり同盟したりを繰り返して少しずつケルト系ブリトン人と同化して、最後にはひとつのアングロ・サクソン人になりました。私の民はそうして消えていったのです。
横から失礼します。私が読んでいる『ヴィンランド・サガ』という漫画にはローマ由来のアルトリウス=アーサー王を始祖に持つアシュラッドという男が出てきますが、彼らはブリトン人ではないのでしょうか。
ウェールズ人ですね。ケルト系文化のウェールズ人は、確かにブリトン人の直系といっていいでしょう。ただ、どちらかというとローマ以前の古いケルトの文化の方が強いようです。
うーん。いろいろ聞いてみたけど、セイバー以外の王であれば滅びなかったかどうかの手がかりには乏しいわね。
いや、滅びたよ。
あら、えらい自信たっぷりじゃない。
昔から不思議だったんだ。剣によって選ばれたブリテンの王、というものが。なあ遠坂、今が戦国時代だったとして。この冬木の町の領主をアーサー王のような感じで刀を抜いて選んだら、人々はそれを領主として認めるだろうか?
……それは絶対にないわね。そっか、そういうことか。
よくわかりません、どういう意味でしょうか。
いい、セイバー。剣で王を選ぶというのは、魔術的には十分な意味があることだけど、魔術と縁のない人々にとっては単に神意を問うためのおみくじと一緒なのよ。ランダムにくじで選んでいるのと大差ないのよね。
言いたいことはわかります。
でも普通はくじで王を選んだりはしない。それはある意味で「みんなが納得できる王がいない」ってことだから。くじは公平かも知れないけど、納得はできない。
はい。ですから私は誰よりも王らしい王たらんとつとめてきました。血筋でいえば私は父王の子供ですが、それは隠さなければいけない事でしたから。
セイバーの理想はとても立派だし、尊いものだと思う。でも、セイバーが王になる時にそこまで強く決意したのはなぜだろう。最初から王子として育てられ、父の後を継いで王になったのなら、そこまでの決意は必要だったろうか。たとえば、父王の暗殺で後を継いだ征服王は。
いやいや、余は最初から王の息子として育てられたからな。王らしい王になるなどかけらも考えた事はないぞ。余が考えたのは『王の中の王』(ペルシア皇帝)をいかに超えるかという事だけだ。
ブリトン人はローマの支配が長くて、自分たちの中から王を出すことに慣れていなかったのよ。ローマの総督のように、王=支配者は外からやってくるものだった。だから、自分たちの中の誰が王になったとしても、どこか納得できないし、完全にひとつにまとまることもない。
つまり、私以外の誰かが王になっても、その玉座が安定することはなかったのでしょうか?
誰であってもその玉座は安定しない。自分たちで王を選ぶのではなく、剣に王を選ばせた時点で滅びは確定だった。ブリテンの滅びは、剣に選ばれたひとりの王の失敗や限界じゃない。
それは、長い長いローマの平和を享受していた、
ブリテンそのものが持つ、限界であった――
なるほど。そう……だったのかも知れませんね。
ブリトン人がアングロ・サクソン人になってようやくひとつにまとまる王を選べたのも、それまでの苦しみも、自らの限界を打ち破るために必要な苦しみであったのだと俺は思う。
では私はその苦しみが、少しでも軽くなるための手助けができたのでしょうか。
できているさ。高潔な騎士の王、アーサー王の伝説が語り継がれたのはそこに王へのひとつの理想があったからだ。
決してすべての人がその理想に納得したわけでも、そのような王を目指したわけでもないけど。アーサー王の勲しと悲劇、成功と失敗は、王というものがわかっていなかったブリテンの人に、王はどうあるべきかを考えるテキストとなったはずよ。
そうですか……ならば、いいのです。
うむうむ。いい話であった。それで、次はどうする?
なんかすごくやりたそうですね。
私はかまいませんよ。ですが、おなかが空きました。またにしましょう。
(つづく……?)
■本日の読書:『かみちゅ! 1』漫画/鳴子ハナハル 原作/ベサメムーチョ
神様で中学生なので、かみちゅ。
アニメも実に良い出来だったが、八島様や二宮健児クンなどの男性陣がどこかぼんやりとしたとっぽい顔であった。
これが鳴子ハナハルさんの絵だと美形になっており、なかなかにうれしい。
オリジナルエピソードの中では第八話「ひとりでいられない」がしんみりとお気に入り。
アメリカンクラッカー(私が小学生の頃に流行った)のつくも神が、自分たちは人に忘れられると消えてしまうと語り
「でもコレ 八百ヨロズの神のサダメ
ショギョームジョーのヒビキありデス
新たにデビューする神サマもいれバ
ミーのように引退スル神サマもいて――」
そこに描かれているのは、“新たにデビュー”した、ファミコンやルービックキューブ(私が中学生の頃)の神サマ。
「まあ要スルニ……
ユー達の「思い」ナシには
ミー達はここでは神サマでいられないのデス」
ちなみにこれをRPG的なルールにすると、信仰している人間の信仰心(捧げるPOWなど)の蓄積が神様のランク付けや使える神性魔法の強さになるわけだが……なんかイロイロなものが台無しになる感じだなっ!
■本日の読書:『かみちゅ! 2』漫画/鳴子ハナハル 原作/ベサメムーチョ
第九〜十話の「神様ヘルプ!」は、アニメ版では『君に決定』に相当するお話で、ゆりえは生徒会長ではなく一日市長になって市民の願いをかなえようとして失敗する。
観光客誘致に神様で中学生のゆりえを利用しようとする市長さんだが、ゆりえが失敗して町が大騒ぎになった時に、ゆりえの責任にしようとしないあたりが、実に良い。
「やはり神様を宣伝に利用しようとしたから
バチが当たったんでしょうなぁ……」
「……でも! ゆりえちゃんは本当に町を良くしようと……」
「わかっていますよ。
町をよくしたいのは私も同じです」
作業のためのスコップを手にして市長さんは町を見て言う。
「今こそ。
自分達の手で作っていくべきではないでしょうか
自分達の町を」
こうした優しい視点が良い漫画である。
Fate/stay nightで学ぶ世界の戦史(仮題)
■第三回:戦国時代のルールブレイカー
フェイトの世界戦史シリーズ、ラストは戦国時代よ。
まてキャスター、なぜ古代地中海出身、しかも根っこは神代にあるおぬしが仕切るのだ。戦国時代なら拙者の方が適任だろう。
ふ、そんなコト? 今の私は宗一郎様の妻よ。夫のサポートをするのは妻のつとめ。教師の妻が教え子を導くのも当然というものよ。
すまんな、アサシン。ここはアレの良いようにさせてくれ。
ふむ、おぬしがそう言うのであれば是非もあるまい。裏方に徹するとしよう。
良い心がけねアサシン。さて、とっかかりに何か質問は?
あ、はい。あの、歴史の授業で戦国時代が戦乱の時代だったのは知っています。でも、根本的な疑問があって――当時の人々はなんで戦ったのでしょう?
いい質問ね。確かにそれは当時を理解する上での基本だわ。では、根本の部分から見ていくわね。
●戦国時代の冬木
(坊主)何だコレは? うち(寺領)への田んぼへの用水路が壊されてるじゃないか!
(武家A)あらどうしたの、不景気な顔して。
(坊主)でたな諸悪の根源。この狼藉をはたらいたのは遠坂、お前だな! この水不足の時期に用水路を破壊するとは見下げ果てたやつ!
(武家A)言いがかりはよしてちょうだい。聞くとたくさん恨みを買ってるそうじゃない。だいたいあなたのところ、段別銭(税金)が高すぎるのよ。
(坊主)ええい、うるさい。しらばっくれるのならば今度こそ考えがあるぞ。力に訴えてでも仏罰を与えてくれるからそう思え。
(武家A)へえ、面白いじゃない。弓矢の沙汰ならこちらは本業よ。やりたいっていうなら、相手になってあげても――
(武家B)そこまでです、姉さん。
(武家A)桜? ちょっと、なんであなたが。間桐の家とはずっと手を組んできたはずじゃない。
(武家B)少しやりすぎましたね、姉さん。家柄でいえば、間桐の宗家は鎌倉時代にさかのぼる冬木の領主。新興の遠坂がのびすぎることに不満を抱く人は、意外と多いんですよ?
(武家A)……ふん、傾きかけた間桐の家が、水運や塩田でも利益を出している遠坂と戦うつもり?
(武家B)姉さんらしいですわ。その傲慢な一人勝ちが恨みを買っていることに気づけないなんて。すでにこちらは、守護代様の書き付けもいただいていますのに。
(守護代)凛はちょっと生意気だからこのへんで少し痛い目を見るといいのよ。
(武家A)うわ、こらちょっとイリヤ! 何偉そうな顔してんのよ!
(武家B)どうします、姉さん。守護代様の書き付けがあれば、このあたりの土豪はこぞってこちらにつきますわよ。
(武家A)く……わかったわよ。どこの利権が欲しいわけ?
(武家B)そうですね。まずは、柳洞寺から奪った田んぼを返してあげてください。それと津領(港湾使用料)については、守護代様のものですからそちらに納めるのがスジというものでしょう。
(武家A)ぐぐぐぐ……。仕方がないわね。くー、覚えてらっしゃい。
(武家B)それと先輩の……いえ、衛宮の刀鍛治については、格式からいっても間桐の預かりになるところです。刀の奉納その他は、これよりこちらで管理いたします。
(武家A)それが狙いかーっ! ちょっと桜、いくらなんでもあざとすぎるわよ。わかったわ。そこまで言うなら弓矢で来なさい。こっちも馳走してあげるから。
(武家B)……可哀想な姉さん。どうやら痛い目を見ないとわからないんですね。
まあ、こんな感じね。小さいところでは集落レベルから、大きいところでは国レベルで。互いの利益(シノギ)を調整する方法として戦いが選ばれたのが戦国時代なのよ。
話し合いの次が戦闘か。いくらなんでも極端すぎるな。まるでヤクザの縄張り争いじゃないか。
その通りよ、衛宮士郎。警察力と裁判制度を兼ねるのは幕府と朝廷の仕事だけど、応仁の乱でその両方が衰退した結果、権威は残っても強制力はほとんどなくなったわ。
ヤクザの大親分=幕府がお家騒動で力を失ったせいで、日本中で仁義なき戦いがスタートしたというわけか。
各地方の管理者は、守護と呼ばれる武士が担当していたのですよね? さっきイリヤさんが演じられていた守護代とはなんですか?
イリヤ:守護の代理よ。守護は京都で国家運営の仕事があるから、実際に領地の管理をするのは守護代ってわけ。
守護の力が衰えていくにつれ、実務を担当して直接利益(アガリ)を得ている守護代がしだいに強くなったのよ。まあ、その守護代も実務を分担して代官にやらせているうちに貴族化して実権を失ったりもするわけだけど。
その逆転が下克上ということか。ま、足下すくおうってヤツはどこにでもいるわけだし。隙を見せる方が悪いわね。
とっても姉さんらしい意見ですね。……だから寝首をかかれるわけですけど。
けど、そんな無法が通るようでは安心して暮らせないだろ。
そうね。応仁の乱という『破戒すべき全ての符』(ルールブレイカー)によって幕を開けた戦国時代は、地方単位でルールが再編されていくわ。武力と司法を兼ね備えた存在――戦国大名によって。
そして、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康が最後にヤクザの大親分になって戦国時代(仁義なき戦い)を終わらせたわけか。
そうね。でもそのためにそれまで権威の象徴であった室町幕府を打倒し、平安時代から続いた荘園制度を消滅させる、最大のルール破壊が必要であったのはなんとも皮肉なことだわ。
■本日の読書:『プライド 1〜3』一条ゆかり
一条ゆかりさんの漫画というと、『砂の城』みたく女の情念うずまくシロモノが多い。まあ、『有閑倶楽部』のようなものもあるっちゃーあるのだが、やはりこちらでも時折キャラが鬼気迫る表情をするのを見て、ニヤリとしてしまうことがある。
この作品では、史緒と萌というふたりのヒロインが出てくるが、何もわざわざここまで激突せんでもと思うくらい互いにぶつかりあう。
どちらも才気あふれる美女ふたりの間に黒い瘴気がわきあがり、眼に狂気の色が浮かぶわけで、ファンとしては怖気をふるいつつも読む手を止められないというものだ。
ところが、その不倶戴天な激突が3巻でお互いを補いあい高めあう展開へとつながる。
これはなかなか予想外の展開で、面白い。
ただ、そこで「コレで激突は終わりか」などと考えては一条ゆかりさんを見誤ることになる――と、私は現時点で予想している。
本筋はあくまで女の情念うずまく底なし沼のごときぐだぐだであり、こんな、才能が結びつくぐらいで決着がつくようなそんな物わかりの良いキャラなど出るはずもないのだ。
物わかりはあくまで悪く。
死ぬまであきらめずにあがき続ける。
それどころか、死んだ後もトラウマを残して呪いをかける。
これが一条ゆかりさんの描く女というものであり、私には理解も共感もできないのだが、それゆえに私は一条ゆかりさんの漫画を好ましく思うのだ。
■本日の読書:『朝日百科世界の歴史 ビスマルク、西太后ほか』
19世紀における人物像、その3。
小説において、「外に敵を作って国民を団結させる」政治家というとたいてい悪役で、しかも失敗したり打倒されたりするわけであるが、実際にそれをやって大成功したのがビスマルクである。
ほとんど詐欺に等しい情報操作であるエムス電報事件で一気にプロイセンとフランスの世論を沸騰させ、フランスを戦争に追い込んでから撃破してドイツ統一を成し遂げたあたり、僥倖を呼び込む強運と、それを逃さず利用する機転の持ち主である。
ハワイの王様の名前リストがのっていた。
カメハメハ1世
カメハメハ2世
カメハメハ3世
カメハメハ4世
カメハメハ5世
……うわ、覚えやすいっ!
ちなみに、さすがにこれでは王様の側も嫌な感じだったのか、ちゃんと別名がある。
カメハメハ2世=リホリホ
カメハメハ3世=カウイケアオウリ
カメハメハ4世=アレキサンダー・リホリホ
カメハメハ5世=ロット・カメハメハ
まあ、この後は「おい、そこのナンバー6」「俺を番号で呼ぶな!」というわけではあるまいが、
ウィリアム・ルナリロ
デイヴィッド・カラカウア
と続く。
だんだん、西洋的というかアメリカ的名前も入ってくるあたりに、ハワイへの影響力を見ることもできるだろう。
そして、ハワイ最後の女王であるリリウオカラニへとつながる。
あの『アロハ・オエ』の作者である。
西太后の記事がけっこう長い。
長いが、今ひとつ。セシル・ローズの記事もそうだが、どうも19世紀ぐらいになると人物の評価に現代的善悪が色濃く出るようになってくるので、私のように娯楽として歴史を楽しみたいむきにはどうも鼻持ちならない。
むしろ愉快だったのは、西太后がらみで紹介されている義和団の乱。
紹介されている現代中国の美術である義和団の絵がこう、共産主義的な感じでよろしい。
カッコいい義和団の青年たち(女性兵士含む)が突き進み、情けない悪役面の西欧列強(日本軍含む)がそれを受けるという構図はわかりやすくていい。
他にも義和団では「扶清滅洋」(清国を助けて西洋を滅ぼす)と「降神付体」というスローガンがある。
後者は、武術を究めれば、「降神=神や精霊を召還」して「付体=その身に宿す」ことによって西洋列強の使う銃弾や砲弾では傷がつかなくなるというものである。
どこのRPGか漫画かと思うような設定であるが、私が感心するのは実際に西洋列強の火器に対して義和団の青年たちが勇猛果敢に戦いを挑んだという記録がある点だ。つまり、全員とは言わないが信じた青年もけっこう多かったんだろうなぁ。
「降神付体」によって三国志とか水滸伝なんかの英霊をエンチャントした青年たちがどのような活躍をしたかは知らないが、なんとなくこれを読んで思いだすのが『クロちゃんのRPG千夜一夜』(黒田幸弘)の中西豪さんのイラスト漫画である。
「親方、この魔法の鎧、段ボールで作ったニセモノでしょ? いいんですか?」
「ニセモノだとわかった時にはすでに死んでおる」
合掌。
■本日の読書:『イエスタデイをうたって 5』冬目景
一条ゆかりさんの描く女性が、とことん粘着質で、あきらめが悪いとすると。
冬目景さんの描く女性は、粘着質ではあるかもしれないが、あきらめはよろしい。
それどころか、達観しているっぽい感じだ。
『イエスタデイをうたって』のヒロインふたり、しな(木品)子とハル。
どちらも求めている物に対して距離を置き、遠慮しながら生きている。
『プライド』の史緒と萌が近くにいれば世の男ドモの多くは逃げ出したくなる(私なら脱兎のごとくだ)だろう。
これが『イエスタデイをうたって』のしな子とハルなら、リクオよろしく一緒に堕落しそうである。
どちらが悪質かというと、なんとなく後者の方が悪質な感じがしないでもないのは気のせいか。
さて、物語はいよいよ魔性のダメ女ぶりを発揮しはじめたしな子に対し、リクオが踏ん張れるかそれとも幼なじみに丸投げして逃げ出すかの瀬戸際である。
ここで決着がつくか、あるいはさらにぐだぐだと現状維持を続けるか。
このまま終わらない終わり方もありかと思っていた『イエスタデイをうたって』。
ひょっとして終わるのかと思わせつつ、6巻は……来年?
■本日の読書:『大江戸 泉光院旅日記』石川英輔
19世紀のはじめの1812年(ナポレオンがロシアに攻め込んだ年)から1818年(すでにナポレオンはセント・ヘレナに流刑されてる)までの6年間、日本全国をてこてこ歩き回ったおじいちゃんがいた。
九州の武士で、老山伏の泉光院じいちゃんである。
『泉光院旅日記』はその泉光院じいちゃんが日々アップしていた日記(今で言えばブログか)をまとめて紹介したものだ。
昔の人にとって日記とか手紙とかは自分ひとりのものではない。個人に頼らない文字媒体の情報はなんであれ貴重な時代である。見聞した情報だけでなく、さまざまなノウハウや技術を伝えるためにも必要不可欠であったのだ。
もちろんそれはそれとして、現代に生きる我々にとっては、200年前の泉光院じいちゃんの肉声から江戸時代というものについて知ることができる、実に得難いデータベースでもあるのだ。
江戸時代というと最近はさすがに『カムイ伝』(白土三平)のように農民は虐げられ、生きるために一揆を起こしては武士に弾圧され、虐殺されていたという観点はさすがに少なくなっている。
もちろん、生産力も科学技術も今とは比べものにならないほどに貧弱な時代であるから、その生活は決して楽でなかったろう。だが、こうして『泉光院旅日記』から読み取れる人々の暮らしぶりには、そうした悲惨さよりもむしろ、今も残る田舎の生活に似た、のんびりと暖かいものを感じとることができる。
これは、日記を書いた泉光院じいちゃんの人徳ゆえでもあるだろう。
たとえば、世話になっている人の弟の家で、料理棚が倒れて水瓶から水がこぼれたり鍋がひっくり返ったので縁起直しを頼まれた時、泉光院じいちゃんはここでは祈祷をしていない。
代わりに狂歌をつくっている。
「鍋のつる 水かめまでも踊り出て こけつ転びつ笑いこぼるる」(p172)
これで縁起をなおしたというのだ。
一休さんのトンチのようなものだが、ここから泉光院じいちゃんの、「わし、なかなかクールじゃろ?」といわんばかりの得意そうな表情が文面から浮かび出てきて、私はすごくじいちゃんが好きになった。
泉光院じいちゃんと出会う200年前の日本に住む人々も、へたくそな俳句をひねってみたり、旅の話を聞くために集まったばあちゃん達がおしゃべりに興じに興じて朝まで泉光院じいちゃんを寝かせなかったりと、決して楽ではない人生であっても、ヒネくれたり誰かを恨んだりはしていない。堂々と、自分の人生を生きている。
今だって、昔だって、成功した人生などそうありはしない。
なら、成功しない人生はダメなのか?
勝利できなかったら、その人生は無意味なのか?
たぶん、違う。それは、違う。
どれだけちっぽけなものであっても、その業績が歴史に残らなくとも、自分の人生をまっとうしたという事は、誰であれ誇っていいと思う。
泉光院じいちゃんの日記を通して描かれた200年前の日本にいた我らがじいちゃんばあちゃん達の姿を見て、私はそういう風に思うのである。
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