■本日の読書:『SF英雄群像 スペース・オペラへの招待』野田昌弘
野田《宇宙軍大元帥》昌弘氏の名著。
資料として読もうとして本棚を探したがなく、しょうがないのでAmazonで購入しようとした寸前に発見される。やあ良かった。
調べものは、『《鷹》のカース』シリーズについてだったのだがそれはさておき。
本書は昭和38年から40年(1963〜65年)にかけてSFマガジンに連載された記事をもとに、昭和44年(1969年)に単行本、10年後の昭和54年(1979年)に文庫化されたものである。私が入手したのはこの文庫化された時で、それからももう、27年の歳月が経過している事になる。
そういやその頃だったか、キャプテン・フューチャーがNHKでテレビアニメになっていたのは。その後もレンズマンのアニメ映画(さらにTVアニメ)などがあった。
さすがに本書に出ているそれ以外の作品はアニメ化されていない。
個人的にはジェイムスン教授こと21MM−392のアニメあたりは今でもイケるのではないかと思っている。
こう、『ダーククリスタル』みたいに、人形使って。かちゃこん、かちゃこんと。
ああ、誰か作ってくれないかしらんっ!
■本日の読書:『密偵ファルコ−9 水路の連続殺人』リンゼイ・デイヴィス
さて、この巻からファルコのパートナー探し三部作である。
最初のパートナーは親友であるペトロ(ペトロニウス・ロングス)。軍団兵としてブリタニアに派遣されていた頃からの付き合いがあり、シリーズ1作目から頼りになる男として登場する。
ところが、このふたりは仕事上の相棒としてはうまくいかない。
やはり、心安すぎるのだろう。どうしても遠慮がなく、ぶつかりあう事が多い。今までのようにファルコが密偵、ペトロが警備隊長という組み合わせであればうまく機能するのだが、同じ立場にあるとしっくりこないのだ。
むろん、下っ端軍団兵の時には同じ立場であるが、ここでは命令が第一でやるべき事は決まっていたわけだ。つまり、上官の間抜けぶりとメシのまずさとブリタニアの気候の不順についてぶつぶつ文句を言う事だが。
それにしても、ファルコはイイ男である。
私はこれまでハードボイルド小説の主人公を何人も読んできたが、その中でもファルコはとびっきり人好きのする男だ。他の男達は尊敬すべき相手であるが、友人としては少々おっかない。
だが、2000年前のローマに住むファルコとは良い友人になれそうである。
それはファルコの中にある確固たる良識――常識が信頼できるからだ。
本書P288で、ファルコは殺人事件の捜査にくたびれはてて夜中に家に帰る。
生まれて3ヶ月になる娘がいつものよーに夜泣きをしている。
ここで「たまには泣き疲れて眠るまでほうっておこう」という不本意な取り決めをファルコが守れるわけがない。胸を引き裂かれそうな娘の泣き声に、ファルコは居ても立ってもおられずにあやして寝かしつけるのである。
そして、P398。捜査も大詰めで、ファルコの疲労もピークに達したところで、ファルコは我が家で娘を抱く。
赤ん坊はぱっちり目をあけて、機嫌よく足をぱたぱたさせている。よだれも垂らしていない。おれは娘を抱き上げて、目と目を合わせた。ヘレナによく似た目をしている。多くの幼児が命を落とす危険な時期を無事に生き延びることができたら、いつかはこの子はヘレナのような女性になるにちがいない。ローマの自由市民として生まれた彼女は、勝手にどんどん好きなところに出かけていくだろう。そのうち半分はおれに行き先も教えずに。
女性は安全に注意しなければならない。分別ある彼女たちはそれをよく知っている。しかし、ローマの街は、女性たちにたまにはそれを忘れさせてやってもいい。自由に暮らすということは、いつ我が身に危険が及ぶかびくびくせずに生活を楽しめるということだ。
おれは自分の仕事がいやになるときもある。だが、今日はそうではなかった。
『水路の連続殺人』P398〜399
ここを読んだ時に私ははた、と気がついた。
ファルコがもつ精神の健全さが、全盛期を迎えたローマ社会に対する信頼をバックボーンにしている事を。
ファルコは共和主義者で、皇帝や政府などに対しては辛辣な言葉をぶつける。しかしファルコはたとえどんな思想信条があったとしても、今の(紀元1世紀の)ローマ帝国を心の底では深く信頼している。
それが、社会のために行動する事への揺るぎない確信になっているのだ。
シリーズのあちこちで出ているが、ファルコはけっこう長生きして五賢帝の時代に死ぬ。たぶんそれなりに出世してやがては元老院議員のひとりになるかも知れない。少なくとも子孫がそうなるのはたぶん間違いない。
しかし、その子孫は。3世紀に生まれるディディウス家の青年。同じファルコという名前を持つ初代によく似た顔立ちの青年の内面は。
1世紀のファルコと比べるとよほどにシニカルで、乾いたものではなかろうかと思うのである。
■『Hearts of iron2:ゲームの中の第二次世界大戦 ふたたび!』 ドイツ編その5
●1944〜5年:ツンドラを踏み越えて
ソ連軍に、もはや昔日の勢いはなかった。
ドイツ軍の敵は、茫漠とした広大な大地そのものである。
総統:新しい装甲軍団が編成されたぞ。移動を開始……うわ、到着まで半年かかる。
エヴァ:戦略移動を使ったら?
総統:それでも2ヶ月はかかるしな。なんといっても、輸送コストがもう真っ赤だ。
エヴァ:なら今さら気にしてもしようがないじゃない。
総統:そうなんだがね……けど人的資源も乏しくなってきたし、そろそろ新規部隊の編成は止めるか。
エヴァ:大丈夫なの?
総統:大丈夫だって。戦力にこれだけ差がつけば、我が軍がソ連軍に負けることはありえないよ。
ゲーリング:総統〜っ!
総統:おう、どうした空軍元帥。
ゲーリング:我が空軍12飛行隊が壊滅しましたーっ!
総統:なんだとぉっ?!
エヴァ:あちゃー。

総統:ううん、大損害だ……アラド234の1個飛行隊はパンサー戦車1個師団に相当するのに。
エヴァ:つまり戦車12個師団壊滅?
総統:しょんぼり。
エヴァ:いいじゃない。シベリアの奥地では飛行場もあまりないし、使い勝手はそんなにはよくない……アラド234?
総統:どうかしたかね?
エヴァ:いえ、ちょっと気になったんだけど。我が機械帝国って、装備はきちんと更新してるのよね?
総統:うん。何しろ史実では戦争末期だからね。装備はすごいぞ。パンサー戦車に、ジェット戦闘機だ!
エヴァ:最近やけに石油の消費量が増えていると思ったら原因はそれか。
総統:どうかしたかね、エヴァ?
エヴァ:ねえアドルフ……このままだと私達、負けるわよ?
●1945年:仕切り直し
総統:やれやれ。
エヴァ:どう? スターリンは言うことを聞きそう?
総統:苦労したがね。とりあえず名前を変えて幾ばくかの金を渡してこっそり中立国――デンマークに送り込むことで同意させた。
エヴァ:長かったわねー。これでソ連も終わりか。

総統:ところでエヴァ、今日は、その……
エヴァ:どうしたの?
総統:ほら、戦争は終わってないけど……ソ連を併合したらいわばまぁ、一区切りついたと言えるわけで。
エヴァ:石油をなんとかしないと後2年で戦車も飛行機も動かなくなっちゃうけどね。
総統:いやそれはそうなんだが、なんと言おうか……
エヴァ:イギリスもアメリカも戦争やめる気ないんでしょ? アメリカ大統領は……チャールズ・マクナリー? 誰よこれ。
総統:ええっと、ほら、前の選挙でルーズベルトが負けたから……。ああいや、そうじゃなくて、これからの事なんだが。
エヴァ:そうね。これからどうするの? 旧ソ連領からだとアフガニスタンあたりに宣戦布告すればインドに行けるわよ?
総統:う……
エヴァ:ごめん。ちょっと意地悪だったかな?
総統:いや。確かに史実の私達のようにもう未来がないわけじゃないしな。焦ることはないか。
エヴァ:ふふ。愛してるわ、アドルフ。
総統:私もだよ。
1945年4月30日。
ソビエト連邦は無条件降伏し、その領土はドイツと日本によって併合された。
しかしイギリスとアメリカは健在で、戦争をやめる気はさらさらない。
その上、今や資源大国となったドイツ唯一のアキレス腱――石油の問題が残っていた。
はたして総統はこの混沌とした第二次世界大戦に終止符を打てるのか?!
(続く)
■『Hearts of iron2:ゲームの中の第二次世界大戦 ふたたび!』 ドイツ編その6
●1945〜6年:バミューダ・トライアングル
ソ連に勝利したドイツ軍は、海軍戦力を増強しはじめた。
といっても、戦艦や空母を建造したわけではない。ヨーロッパからアジアにまたがる広大な帝国を築き上げたドイツにとっても、戦艦や空母の建造は荷が重すぎる。
総統:ビスマルクもティルピッツもグラーフ・ツェッペリンもなにひとつ作らなかったからなぁ。
エヴァ:作ったのはUボートだけだものね。
総統:それにぶっちゃけると、戦艦や空母の建造は時間がかかりすぎる。
ドイツが量産を開始したのはニュルンベルク級軽巡洋艦である。これなら5ヶ月で完成するし、同時に6隻を並行して建造できる。
総統:イギリスにもアメリカにも、戦艦や空母は数えるほどしか残っていない。巡洋艦が護衛ならば駆逐艦にも潜水艦にも対応できるしな。
エヴァ:で、どこへ行くのよ? やっぱりイギリス本土上陸?
総統:石油が足りない。大事に節約してもどんどん減る。まして海軍と空軍を動かせば消費量はうなぎのぼりだ。
エヴァ:じゃあ、アラビア?
総統:4このゲームの時代だと、アラブの石油採掘は軌道に乗っていない。ないよりはマシだが、我がドイツはバクー油田を手にしていてすら、油が足りないからなぁ。
エヴァ:じゃあ……ここ?
総統:そこ。
ヨーロッパどころかユーラシアの覇者となったドイツがポルトガルと同盟を結んだという知らせは特に驚くほどのことではなかった。隣のスペインが1940年にフランスの背後をぶっすり刺した時から数えてもすでに5年の歳月が流れている。
大西洋に浮かぶポルトガル領であるアゾレス諸島に再建なったドイツ艦隊が集結したのはその直後であった。
ここで補給を整えたドイツ艦隊はさらに西へと向かい――

イギリス領バミューダ島を制圧したのである。
バミューダ島にはすぐさま戦闘機航空隊と海軍航空隊が派遣されて空の守りを固めた。Uボートもここを拠点にアメリカ東海岸を荒らしまくる。
すでにアメリカからの物資なくしては国が立ちゆかなくなっていたイギリス本土にとっては致命的な打撃だった。
バミューダ島を中心とするエリアはドイツ海軍航空隊、Uボート、そして通商破壊に投入された巡洋艦の三者による魔の海域となり、連合軍の艦艇はことごとく沈められたのである。
●1946年:油田を制する者
ドイツによる大西洋通商破壊作戦。
だが、これは作戦の第一段階に過ぎなかった。
バミューダ島を足がかりに、ドイツ軍はついに新大陸へと足を伸ばした。
しかしそれは、大方の予想のようにアメリカ合衆国本土への攻撃ではなく――

総統:やれやれ。
エヴァ:お疲れ様、アドルフ。
総統:なんとか石油の自給自足はできそうだよ。いや、大西洋を越えて運ばなくちゃならないから大変ではあるけどね。
エヴァ:ついでにパナマ運河も押さえたし、これで太平洋側にも乗り込めるわね。
総統:いずれにせよ、これで負けはなくなったよ。旧ソ連のバクー油田とベネズエラ油田をドイツが、東南アジアの油田地帯は同盟国の日本が押さえた。
エヴァ:この時代の世界でいえば、残る大規模油田はテキサスの油田地帯だけね。
総統:ま、そこまで攻める必要はないだろうよ。もはや大西洋はドイツ、太平洋は日本が支配している。イギリスとアメリカも今度こそ和を請うはずだ。ようやく平和到来というわけさ。
エヴァ:……アドルフ。
総統:なんだい?
エヴァ:……なんでもないわ。
黙りこくるエヴァと、それを不思議そうにながめるヒトラー。
ベルリンに鳴り響く除夜の鐘。(がら〜んごろ〜ん)
こうして、ドイツは最後の1年を。
1947年を迎えたのである。
(続く!)
■本日の読書:『フィットネス』
寒空の中、フィットネスプラザへ行く。
日曜の朝だというのに広島県立総合体育館には大勢の人が集まっている。
袴をはいて、弓を手にしている男の子や女の子が弓道場に。
弓道大会があるらしい。
参考書を片手にむつかしい顔をしている男の子達は武道場へ。
関西学院大学の入試だそうな。
老夫婦や若い男女などが連れだってぞろぞろ向かうのは大アリーナ。
吉本興業のおわらいエキスポだとか。
入試が武道場で行われるというのも愉快であるが
アリーナ(闘技場)でお笑いが興行されるのも考えてみれば興味深い。
もし、芸人がつまんねーギャグを飛ばして満座がシーンとなったら――
可愛らしい小柄なおばあちゃんが立ち上がり、親指を下にして叫ぶ。
「殺せ!」
そして、周囲の観客が次々とそれに和する。
「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」
足を踏みならす観客。顔面蒼白でがくがく震える芸人。
と、貴賓席に座る“お笑い皇帝”が手をかかげる。(身長5mぐらい。顔は影になって見えない)
静まりかえるアリーナ。
“お笑い皇帝”が巨大な拳を握り、親指を――下へ。
わっ、と観客がどよめき。ライオンが出てきて芸人を喰い殺す。
……オレも見に行こうかしらん。チケットまだあるかな。
さて、そんなことを考えながらウェイトトレーニング。終わった後は68kg台で(むろん水分がぬけたせいである)喜びながら帰ったのであるが。
フィットネスプラザにはトレーニングの合間に読む雑誌が置いてあるのだが
『フィットネス』『ボディビルディング』『ランナーズ』など、実にそれもんなラインナップ。ふだんは読むようなものではないのでこういうのも楽しい。
で今日ぺらりとめくった『フィットネス』にインストラクターの女性の記事があった。
インストラクターさんの認定試験があって、これを受けた筆者は「不合格」。
理由のひとつが「しゃべりすぎ」。
旦那さんなんかも「一度にたくさんあれこれ言われてもわからないだろ?」「一度に指導するのはひとつだけ。水泳の泳法指導なんかは全部そうだよ」などとアドバイス。
実際に自分のレッスンでも試してみたが、しゃべる事に全力を傾注していた時と比べて生徒さんの動きや表情をより細かく見ることができると、本人にとっても新しい発見になっていたりとか。
いやいや、私もSE教育などを担当したインストラクターだったので分かるが、こういう仕事って、どこの世界でも一緒なのだなぁ、と感心することしきり。
RPGなんかもそうである。ゲームマスターとしてもプレイヤーとしても、私はけっこうしゃべくり系なのだが、確かにそれで失敗することもあるよなぁ、と。
あまり自分に関係ないと思っていた分野の人の経験から学ぶことがあって、なかなかうれしい。
■本日の読書:『鉄獅子の咆哮 満州1945』内田弘樹
オブイェークト!(挨拶)
本書は架空戦記の基本に乗っ取ったフォーマットで書かれている。
●最初にいきなりバトル。
↓
●過去に戻って、なぜこんな改変歴史になったのか解説。
↓
●初陣バトル(過去)
↓
●現在に戻って状況説明
↓
●決戦バトル
↓
●エンディング
様式美である。
この本の日本は第二次世界大戦に参加していない。
欧州を主戦場とする第二次世界大戦はふつーに戦われ、ふつーにドイツの敗北で終わっている。物語はその後からはじまる。
Hearts of iron2での1936年からの日本プレイもしばしば似たようなことになる。
なにせ一番楽なのが「ひたすら英米と仲良くしてどことも戦争せずに国力と技術力を上げる」プレイなのだ。
当時の日本にとってアメリカからの石油は生命線である。満州国なんかなくても死にはしないが、アメリカから石油が入らないとたちまち国が傾く。(満州油田は存在しない)
ついでに連合国入りしておけば、英米の後ろ盾があるのでソ連から手を出される心配もない――のだが、本書のプレイヤー(作者)はそこまではやらなかったらしい。
せっかくなのでそこまでやっておけば、戦闘が1回もない架空戦記という、衝撃の作品ができあがっていた可能性もあるのだが……
とまれ、第二次世界大戦後の満州で日本軍とソ連軍が戦うという展開はオーソドックスで楽しい。
主役の戦車がドイツのパンター戦車に日本の長10サンチ高角砲を搭載したパンター2というのも手堅くてグッド。
あえて注文をつけるのならば、ドラマ部分にもう少し欲しかった。
たとえば、祖国を失った傭兵としての悲哀。戦場に行くまでに、記者とか民間人、参謀本部あたりの“分かってない”ヤツに、軽蔑されたり、罵られたり。
そして、戦場においても、どことなくよそよそしい友軍である日本軍将兵の態度。
それが、実際の戦場での活躍によって少しずつ変わっていく。
本書でも、そういう風な“説明”はト書きである。
だが、会話を使って「目の前で」そうしたドラマが演じられることがほとんどない。
あえて言うのならばp243〜244の羊羹もらう部分だけだ。ああいう場面がもっとあればなお良かったと思う。
なぜそんな注文をつけるかというと理由がある。
架空戦記は「史実ではなかったもうひとつの戦場」を描くためのものだと私は思う。
たいていの場合、それは戦略や戦術、兵器について描かれる。
史実では選ばなかった戦略。
史実では使わなかった戦術。
史実では登場しなかった兵器。
ところが戦略も戦術も兵器も、無限にあるように見えて実はあまり幅がない。
なぜなら、「何が有効で、何が無効か」は現代の我々から過去を見れば一目瞭然だからだ。
有効なものだけを選んで組み合わせていくのだから、選択肢は実は少ない。
戦略や戦術や兵器だけを問いつめていくのは、架空戦記としてはツライと思う。
その点で、私は本書の最大のポイントは『祖国を失った元武装SSの兵士が傭兵として満州で戦う』という史実では存在しなかったドラマ部分にあると思う。
だからこそ、そこを情感たっぷりに描くとより面白くなったのではないかと考えるのだ。
■本日の読書:『タイム・パトロール』ポール・アンダースン
えらく久しぶりに読み直す。
初出が1955〜60年と、すでに半世紀前の作品。
タイム・パトロール物の嚆矢にあたる作品で、本書に登場する無任所パトロール員のマンス・エヴァラードは他の作家によるタイム・パトロールでもしばしば登場するほど。
連作短編4つで、それぞれの歴史改編ポイントは
「タイム・パトロール」
19世紀末のイギリスで遺跡の中から発見された、『放射性物質』の謎からスタート。
いきなり、シャーロック・ホームズ氏が(名前はでてこないが)顔を出すのはポール・アンダースンならでは(彼はシャーロキアンである)。
この放射性物質を持っていた5世紀の「魔術師」が時間犯罪者である。彼は『闇よ落ちるなかれ』とやろうとしたわけだ。
「王者たるの勇気」
紀元前6世紀のペルシア。
行方不明になったパトロールの歴史調査員を探ると、彼はなんとアケメネス朝ペルシアの創始者キュロス大王の役を演じさせられていた!
時間旅行者が歴史上の人物とすりかわってしまうというのは歴史SFの基本である。
「俺は織田信長だったのかーっ!」とかそういうやつ。
「邪悪なゲーム」
13世紀のアメリカ。
ユーラシアを席巻したモンゴル帝国が、アリューシャン経由でアメリカ大陸へと進出しているのでこれを阻止するというもの。
今回は歴史改変をした犯罪者はいない。
歴史改変をするのは、タイムパトロールそのものである。自分達が存在する歴史を生み出すがために。
これもまた、タイムパトロール物では現在に至るまで広く使われているネタ。
かなりブラックで虚無的。
「滅ぼさるべきもの」
紀元前3世紀のイタリア。
スキピオ親子がハンニバルとの戦いでともに戦死。
ローマが滅び、ローマ帝国も、キリスト教も存在しない歴史が「確定」してしまう。
2万年前のヨーロッパで狩りを楽しんでいたエヴァラードは20世紀のアメリカに戻ってきて、すでに改変された歴史の中に自分がいることを知る。
この世界では、すでにタイムパトロールも消えてしまっている。
はたしてエヴァラードは歴史を元に戻すことができるか?
読み直して思ったのが、最近読んだ(といっても翻訳が出たのが1995年だから10年前だ)『時間線の迷路』とのトーンの違いである。
こちらでは、エヴァラードはそれなりに落ち着いた、円満で老練なパトロールマンである。
はるかなる未来に存在し、タイムパトロールを使って人類の歴史を監督しているデイネリア人も本書であるような非人間的に冷たい存在ではない。
このあたりにポール・アンダースンの作風の変化も感じられて面白い。
■本日の読書:『密偵ファルコ10 獅子の目覚め』リンゼイ・デイヴィス
ファルコのパートナー探しその2。
今回のパートナーは、密偵頭のアナクリテスである。
ファルコは、6巻の『砂漠の守護神』でこのアナクリテスの陰謀であやうく死にかけた事もある。常々「天敵」と呼び、登場人物紹介でもそのように書かれていた。
8巻で頭をかち割られたところをファルコに助けられ(正しくはファルコの母親の看病によって一命をとりとめ)その関係は少しばかり改善してはいるものの、ファルコとしてはやはり隔意が残っている。
昔から仲が良いペトロとは仕事上のパートナーにはなれなかったファルコが、天敵たるアナクリテスとはどうかというと、これが意外とうまくいく。
もちろん、仕事の内容が良かったというのもある。ふたりは会見監査役として闘技場での興行主の懐を探ってまわり、隠した資産を見つけ出すという仕事をしたのである。こういう仕事なら、密偵頭のアナクリテスは大の得意だ。
しかしその一方で、怪しげな事件がふたりの前で起こる。ライオンが殺され、それへの関与を疑われた人気絶頂の剣闘士が殺されたのだ。
事件そのものについては本書を読んでいただくとして、本書のポイントはここでアナクリテスの取った行動である。
仕事が一段落し、ファルコがまあいろいろあって北アフリカに旅行している間にアナクリテスは事件に関係する人間から接触を受ける。
事件を解決するためにかなりムチャをしたアナクリテスに、なぜここまでクビを突っ込んだのだとファルコは問う。
「(ネタバレのため名前は伏せる)を殺すつもりだと思った。わたしもここに来れば、なんとか防げるんじゃないかと――ファルコ」と、アナクリテスは哀れな声を出した。「あんただったらそうするだろうと思ったんだ」
なんてことだ。この無鉄砲男はおれになりたいんだ。
『獅子の目覚め』p475
アナクリテスは宮廷の解放奴隷だ。密偵頭で、小金を貯め込み、姑息な男でもある。けれど彼はその自分に満足しているわけでは決してなかったのだ。
権力におもねず、他人のために怒り、堂々と胸をはって生きているファルコをまぶしく思い、自分もまたかくありたいと思ったわけで――このあたりの感化力も、ファルコならではだろう。
さて次巻はパートナー探しその3である。今度は誰かというと、これまた意外な人物だったりする。
■本日の読書:『荒野に獣慟哭す 3』原作 夢枕獏/漫画 伊藤勢
原作のラインを沿っておりながら、相変わらずの伊藤ワールド。素晴らしい。
後はこれで戦国忍者物が中断されなければこの漫画家さんはパーフェクトなのだがっ!
とにかく、場面ひとつひとつの気合いの入り具合が違う。構図といいネームといい、文句のつけようがない。
合間合間に入るギャグもいい感じにすっとぼけているし。
何といっても今回気に入ったのは、ゾンビストの面々である。
ゾンビストの主軸は独覚兵とそれを率いる薬師丸法山だが、2巻から登場してチョイ役にも見える普通に生身な元自衛官のキャラにもちゃんとそれなりに「キャラ立ち」がある。
本書では悪役側ではあるし、たぶん必要ならいくらでも殺しまくる(そして殺されまくる)だろうが、きちんと自分の生き方に筋道を立てている描写がイイ。
この調子でぜひぜひ完結までがんばっていただきたい。
……中断はなしだよっ?!
■本日の読書:『テクニカラー・タイムマシン』ハリイ・ハリスン
最近、タイムマシンつながりが多いな。
SFの醍醐味だと私が思っているひとつが、素晴らしい新発明をくだらない理由で使うという点にある。
我が愛する『マッカンドルー航宙記』の相殺航法もそれであるが、本書はもうちょっと卑俗である。
タイトルを読めばそれが分かる。
後の方のタイムマシンは、言うまでもない。
先の方のテクニカラーというのは、総天然色(テクニカラー)だ。つまり映画である。
倒産寸前の映画会社がマッドな教授のタイムマシン(プレアトロン)の研究にこっそり投資して完成させ、これで映画を撮ろうというのだ。
それも、とびっきりリアルな映画を!
このへんのすっとぼけたおおらかさというのがハリイ・ハリスンは実にうまい。なにせステンレス・スチール・ラットな人だ。
銀行の会計監査が入るまで、タイムリミットは1週間。
1週間で、映画をひとつでっちあげないといけない!
かくして、タイムマシンを縦横無尽にムチャクチャに破天荒に使いまくって映画撮影がはじまる。
映画の内容はヴァイキングによるアメリカ到達。そう、あの『ヴィンランド・サガ』な時代である。11世紀へとタイムマシンで向かった一行はまず適当なヴァイキングを酒(ジャック・ダニエルズ)で買収して現地スタッフとする。
脚本家は古生代のカンブリア紀にカンヅメにしてシナリオを書かせる。遊ぶところはおろか、地上にはまだ生命もいない。三葉虫がうろうろしている時代だ。
ヴァイキングの襲撃――実際の戦闘! ――があって主演男優がケガをして役を降りる。そこで、通訳がわりにした本物のヴァイキングを主役にする。
あれこれ苦労してヴァイキング達をアメリカ(ヴィンランド)へと送り込む。
史実でも、ヴァイキングはグリーンランド経由でアメリカに到達しているのだ。ところが不思議なことに、彼らの居留地の跡があるはずの現地には、なぜか誰もいない。
このへんからなんとなくオチが見えてくるのだが、まあそれはいいだろう。
最後はアレやコレや、未来(過去)の自分と会って閉じた時間の輪を作ってみたりとか、タイムマシン物の王道をやって、そして見事なまでのハッピーエンドで終わる。
映画が大ヒットしてほくほく顔の社長が、主人公(プロデューサー兼、監督)を呼んで次回作のネタについてこう言うのだ。
「……宗教映画の人気がふたたび上昇しつつあることを指摘したんだよ」
「なるほど、なるほど」そこまでいってから、バーニイはぎくりとすわり直した。「L.M、まさか……」
だが得意満面のL.Mは、かれの言葉などに耳をかしてはいなかった。
「そこで、わしは史上最大の宗教映画のアイデアを思いついたんだ。どう転んでもヒットうたがいなしというやつをな!」
『テクニカラー・タイムマシン』p295
私はこのラストを読むたびに、その場面が脳裏に浮かぶ。社長の顔や口調が、主人公の驚きや動きが、そして、社長の最後のセリフの後の、主人公の顔のアップが――そして、エンド・クレジットが流れていく様子が。
実に映画的で、まごうことなき傑作である。
■本日の読書:『-不安検出書 (B式)』ジョン・T・スラデック
1月25日の日記で、「アンケートだけのSF短編」のタイトルと作者が思い出せないと書いていたところ、NALさんという方からメールがあって教えてもらった。
この場でもあらためてNALさんにお礼を申し上げたい。
ステラさんが「J.G.バラード」の名前をあげておられたが、実はかなり良い線である。ニューウェーブ運動まっさかりの1961年のイギリスが初出だそうな。
で、これが掲載されたのが1982年のSFマガジン5月号。意外なことにまだ手元にあったりする。いや懐かしい。
短編であるが、記入欄があったりして、書式がまんまアンケートになっているのですでにこれを小説と呼んでいいのかという気にもなる。
最初の質問は名前を聞いたりと普通っぽくはじまるが、
3 通称、略称、異名、あだななど、これまであなたを指すものとして通用した呼び名や表記法を漏れなく挙げてください。
あたりから、じんわりとイヤな気分にさせられていく。
そして後半になると
62 あなたはこの書類に記入するよう求められたと、なぜ信じているのですか?
63 あなたがただこの書類を読んでいるだけだとすれば、なぜ、記入するよう求められなかったと信じているのですか?
などと、畳みかけるようにえげつない質問が入っていく。
いい具合に心の襞をくすぐってくれる作品だ。
■『Hearts of iron2:ゲームの中の第二次世界大戦 ふたたび!』 ドイツ編その7
●1947年:平和への努力
ソ連を降し、はるか大西洋をこえてベネズエラの石油も手に入れたドイツ。
この時代はまだ本格的に採掘されていないアラブの油田も、必要であれば力ずくで奪うことができる。
エネルギーを制するものが、世界を制する。
この時点でドイツの敗北はもはやありえなかった。
総統:それでは講和を試みるよ。
エヴァ:……
だが、連合国はただの1国もドイツとの講和を認めようとはしなかった。
それどころか、ドイツが南米に上陸した事で危機感を抱いたブラジルが、ドイツに宣戦布告する。
アマゾンの大ジャングルを南下し、アンデス山脈を乗り越えるドイツ装甲師団。
なかなかにシュールな光景である。
総統:シュールなのはいいが、これはいったいどういう事だ?
エヴァ:ねえアドルフ、気づいてないの?
総統:何をだね?
エヴァ:好戦性のパラメタよ。

総統:好戦性が300?! しかもこれは私のせいなのか?
エヴァ:ゲーム上の設定よ。このゲームは、ドイツが戦争をはじめないと成り立たない。ドイツが侵略してはじめて、第二次世界大戦というゲームが動き出す。
総統:なんてこった……。これでは戦争を終わらせる事はできない。
エヴァ:別にいいじゃないアドルフ。ドイツは、あなたは事実上、この戦争に勝利したのだし。
総統:だが、私は戦争のために戦争を欲したつもりはないよ。この世界を覆った戦争すべてが私が原因というのならば、いいだろう。私が決着をつければすむ事なのだな。
エヴァ:まさかあなた……
総統:私が政権を手放せばいい。世界中で戦争犯罪人として追われる身だからどこかに隠れる必要はあるが。なに、北欧かどこかの一軒家でひがな一日絵を描くのもいいだろう。
エヴァ:馬鹿な事を言わないでアドルフ!
総統:しかし他に方法がないんだ!
エヴァ:アドルフ。
総統:戦争を終わらせるには、これしかない。平和を取り戻すためであれば、いたしかたない。
●1947年〜∞:鉄の夢、あるいは鉤十字の帝王
エヴァ:……終わらせなくても、いいわ。
総統:え?
エヴァ:終わらせる必要なんかないわ。世界のすべてがあなたを敵だと言っても、私はあなたの味方よ。あなたがいれば戦争が終わらないというのなら、それを私が認めてあげる。その世界を含めて、あなたを愛してあげる。
総統:……それで、いいのだろうか? このような地獄のような世界で、いいのだろうか?
エヴァ:北欧神話のヴァルハラだって、同じよ。死んだ英雄達はヴァルハラにおいて永遠の戦いを続ける。神々の黄昏が来るその日まで。ヴァルハラが天国だというのならば、ここが、この世界こそが、天国に一番近いのよ。
総統:そして君は英雄をヴァルハラへ連れて行く戦乙女(ヴァルキューレ)か?
エヴァ:ええ。ヴァルハラへようこそ、アドルフ。
総統:やれやれ。となると、まずは――世界のすべてを、ヴァルハラに招待しないとな。

その日、北欧で、南米で、中東で。
いっこうに終わらぬ戦争にまだ中立を保っていたすべての国へ。
ドイツと枢軸国からの宣戦布告がなされた。
すべての人間が、地球上のすべてが、世界大戦に突入したのである。

総統:それでははじめようか。狂気に満ちた世界の中でもとびっきりの狂気を。
エヴァ:永遠の戦いと、永遠の宴を。
ヒトラーが発射ボタンを押す。
数千の戦略ロケットが閃光と轟音をあげてはるか天空へと駆け上がっていく。
【完】
■本日の読書:『銀の三角』萩尾望都
昨日の件でえらく古いSFマガジンを引っ張り出したら連載漫画が『銀の三角』でちょうど最終回一歩手前だったもんで本棚から引っ張り出す。
萩尾さんの描く宇宙は、光瀬さんの宇宙史にもつながる、どことなく寂しく、栄華の中にあってもどこか滅びた文明の歴史を読んでいるような、そんな感じがつきまとう。
この作品の実質的主人公であるマーリーが登場する第二話の冒頭のコマを紹介するとこうだ。
中央都市系(セントラル)に属さない
短命種のいる星系へ行くことにしたのは
歌を聞いたからだった
『銀の三角』p26
高度な中央都市(セントラル)の文明では、人々は不老と再生による長命を誇っている。
だが、その繁栄の影で富にも権力にも興味がない中央の人々は、同時に生き物としての強さも失っている。ただひたすら安定を望む社会にあって、マーリーは安定指数セクションに所属する超能力者だ。
社会を不安定にする要素を超能力で探り出し、そしてそれを事前につみ取る。必要であれば人殺しも許可されている。
マーリーがきわめて変動指数の高い歌手エロキュスを見つけ、彼女を殺した事から物語は動き出す。
エロキュスが出会ったというラグトーリンとは何者か。
死んだマーリー(以後、マーリー=1)を再生させたマーリー=2にエロキュスの記憶が紛れ込んだ理由は。
そしてもう一度再生なったマーリー=3が追う事件の真相は。
すべての絡み合った物語が時空を越え、滅びた『銀の三角』に収束する。
本作で私が気に入っているのが3万年前の時空に飛ばされたマーリー=3が謎を解いていく過程である。
「マーリー!
あんたは一度エロキュスを殺した!
今度は自分自身を殺すようなもんだぞ!」
「そうだ。同じ顔のクローン!
まったく、どちらかがよぶんなのだ。
3つのポイントに4人の人間。この不安定さ――」
そして古代の浜辺には誰もいない……
『銀の三角』p257
物語はマーリー=3もまた、ラグトーリンと同じ夢狩りのさだめを匂わせつつ終わる。
しみじみと読める本だ。
■本日の読書:『とりなおし(リテイク)』小松左京
『華やかな兵器』収録の短編。
『テクニカラー・タイムマシン』がタイムマシンを使って映画を撮るというお話であったが、こちらはテレビ屋がタイムマシンを使って歴史絵巻をオンエアするというもの。
前に『日本沈没』の読書日記でも書いたが、小松左京さんは引っ張る演出がうまい。
本書でも最初の10ページほど延々とテレビスタッフの本番前の大騒ぎ(カメラの位置がどうの、ゲストがまだ到着しないの)を描き、もちろんその端々にそれとなく匂わせておいて――
一呼吸おいて、現場1カメのキューが出た。――「歴史もの」をやらせたら天下一品、という呼び声の高い白川アナの、ひびきのいい、いぶし銀のようなバリトンが、おちついた調子で、副調整室にひびきわたった。
「お待たせいたしました。――こちらは西暦1600年、慶長5年9月15日の美濃の国不和の郡関ヶ原です。間もなくここで、徳川家康ひきいる東軍と、石田三成のひきいる西軍の間に、天下分け目の合戦がおこなわれようとしております。CBCおなじみの歴史現場中継、本日は、この関ヶ原を中心とする各地点にタイム・カメラをおき、史上もっとも有名な関ヶ原の合戦の生中継を、6時間にわたる超ワイド立体構成でおとどけします。――時間は間もなく当時代時間で、午前7時30分になります。あと30分ほどで、東西両軍の合戦の火ぶたがきられようとしております……」
『リテイク』(『華やかな兵器』収録)p16〜17
このあたりの盛り上げ方はさすがである。
読むと、ぱーっと頭の中でめまいにも似た高揚感――センス・オブ・ワンダー――が広がる。
大人気と高視聴率を博した関ヶ原中継の後番では、当時の人間と接触してもタイムパラドックスは起こらないらしいという規制緩和が行われる。しかし、取材と収録を続けていくうちに、しだいに奇妙な現象が――
本作品は小粒なりといえども小松左京さん自身にとってもなかなか手応えのある作品であったらしく、続編も書かれている。
ただまあ、そちらは今ひとつではあるのだが。
■本日の読書:『ガジェット・ポップ』川崎康宏
これは面白いのじゃー。
みんな買うのじゃー。
( ̄(エ) ̄) くまたんの応援
とりあえず宣伝しておこう。
いやだって、誉めておかないときっと『ALICE』とか『銃と魔法』とかのように、いつの間にか消えてしまうからな。
決して傑作ではないし、万人にもお勧めはしないが、これは消えるには惜しい作品なのだ。『大久保町』シリーズみたいなもんである。
なお、本書に萌え要素はあまりない。皆無だと思ってもよろしい。
そのかわり本書にはスラップスティックな笑いが満載されている。
『1942』とか『モンティパイソン』とか、そういう脱力系の笑いである。
とにかく登場人物がやることなすこと、全部がダメな方向に転がっていく。
たとえば姫様が装甲列車でさらわれた後の展開はこうだ。
近衛騎士団(装甲列車を奪われた)の隊長が、トロッコできこきこ追いかける。
主人公である田舎の騎士団長が川を樽でくだって追いつくアイデアを思いつく。
近衛騎士団の残りも同じく樽で川下りを試みる。
騎士団長、いきなり岩にぶちあたって取り残される。
樽はそのまま流されて両者の距離はあっという間にひらいた。
「たすけてくれぇーっ?!」
その声もすぐに遠いものになる。この流れの中を助けに戻るのは無理だ。
さよなら団長!
「中に入れっ!」
カイルはジャネに言った。
ふたりで息を合わせて樽の中に飛び込む。激しくゆれる樽の底で、ふたりはひっくり返っていた。
「団長を助けにいくっす!」
「無理だ。あきらめろ!」
すくなくともカイルはあきらめていた。
『ガジェット・ポップ』p120
団長、後から来た近衛騎士団の樽にムリヤリもぐりこむ。
鉄橋にたどりつくが、残念! 鉄橋の上を装甲列車が通り過ぎる。
間に合わなかったのだが、カイル君呆然といわく「間に合ったとして、団長はどうするつもりだったんだ?」……まったくだ。
近衛騎士団の樽に入っていた団長もそれを見て、どうせだから鉄橋をよじ登って近くの町に出ようと言い出す。
四人はばしゃばしゃと水をかいた。樽はくるくると回りながら流れの真ん中の方へより、鉄橋の橋脚が真正面から近づいてきた。
すると部下の一人が気づいた。
「ちょっと流れが速すぎやしませんか?」
『ガジェット・ポップ』p124
カイル君、後ろの樽が橋脚の土台にぶつかって砕けるのをぼんやりとながめつつ、なんかこの方法は間違ってたんじゃないかと思う。
しかも目の前で川がとぎれているぞ!
確かに流れの先が見えなくなっていた。両岸の岸もちょうどそこで消えていて、なんだかごうごうと大きな音が近づいてくる。
「……滝?」
『ガジェット・ポップ』p125
一事が万事、こんな感じである。
どうかしているというか、それはダメだろうというか、そういう描写が1ページに1箇所ぐらいの割合で続いていく。
面白い人には面白く。そして合わない人にはまるで理解の外にある本書。
もしもなんか心の琴線に触れるようなら、ぜひぜひあなたも読んでみていただきたい。
■本日の読書:『欧州動乱1947 帝国の粛清』陰山琢磨
『旭日の鉄騎兵』シリーズの陰山さんによる新しいシリーズ。
実は新シリーズではなく読み切りだと思っていたので、中盤以後、えらく混乱した。
本作での主役は言うまでもなく、戦車というか、駆逐戦闘重機械マンムートである。
『旭日の鉄騎兵』シリーズと比べてもそのすっとび具合は常軌を逸している。
『旭日の鉄騎兵 満蒙に吼ゆ!』の戦車と諸元を比較しよう。
T−51=10式戦車(陰山ver)
全備重量:56t
最大装甲:260ミリ
戦車砲:70口径105ミリ
エレファント(陰山ver)
全備重量:95t
最大装甲:300ミリ
戦車砲:72口径128ミリ
このエレファントがバケモノであるとしたら、今回のマンムートはさらなるゲテモノである。
マンムート(陰山ver)
全備重量:90t以上
最大装甲:150ミリ
戦車砲:60口径128ミリ砲2門
なに?
エレファントや10式戦車の方が強そうだと?
それはまぁ、しょうがない。エレファントとマンムートでは世代が違う。
表紙を見ても連装砲以外、マンムートはゲテモノぽく見えない。ガンダムの61式戦車を見慣れた目には連装砲だっておかしくは見えないだろう。
模式図的に描いてみよう。

本書には陰山さん自身の手になる素晴らしいマンムートのイラストもあるのだが、それが掲載されているのがエピローグの後のp212〜213なのはやはりちと残念というか、これは口絵にしてもいいんじゃなかろうかと思われる。
物語や人間の方の登場人物についてはいつもの陰山さんで、悪くはないがあまり誉めるほどでもない。改変世界については『旭日の鉄騎兵』ワールドと重なりすぎる部分があるのが残念といえば残念。
それでも戦車などのメカ、そしてそれらの技術的背景の組み立て具合は素晴らしい。
続きが気になる作品だ。
■本日の読書:『朝日百科世界の歴史 ガスと電気』
●『近代技術と万国博』
19世紀半ばの1851年、イギリスはロンドンにて、世界最初の万国博覧会が開催される。
鉄骨とガラスで作られたメイン会場「水晶宮(クリスタル・パレス)」に使用した鉄材4500トン、ガラス板30万枚にもなる。
水晶宮に用いられた技術は世界の最先端技術というわけではない。技術的には、清国の庭園の方が優れているかも知れぬ。そこにあるのは、むしろ大量生産と消費という資本経済と、それを支える規格や物流などの工学的思想である。
水晶宮に展示された物品は1万3937。
それを見に集まった観客は述べ600万人。その多くは名も無き庶民だ。
大衆をして新時代の主役としたのが、人類の倫理的な向上ではなく、技術と、富であることの証左であろう。
●『ガスの時代へ』
17世紀ベルギーの化学者ファン・ヘルモントは、混沌(Chaos)を語源としてガス(Gas)という技術用語を作った。
その後、石炭などを乾留して発生する可燃ガスが良く燃えることが発見された。時あたかも燃料として石炭が使用されるようになり、コークスを生産する際に大量に発生する可燃ガスをなんかに使おうという発想はさほど突飛なものではない。
19世紀のガス事業はガス灯という照明用が主体であったが、これは20世紀になり電気というライバルに駆逐されることになる。その一方、暖房や調理に使われるようになるのは20世紀からである。これは当時のガスがとても臭かったことと無関係ではない。
なお、この記事には明治10年代の銀座でガス灯を使った商店の夜の絵が載っている。 これがまた、周囲がくらーい中、店の中だけがぼうっ、と明るく浮かんでいてそのコントラストもさることながら、看板に明かりを当てようなどとはかけらも考えてない(ほとんど読めない)という当時としてはまあ、今の視点とはまるで違う点がなかなかに面白い。
■本日の読書:『朝日百科世界の歴史 単位・部品・機械』
●『ミシンの発明』
昭和ではどの家庭にも一台はあったミシンであるが、平成の御代ともなるとない家庭も多いのではなかろうか。
そのミシンの代名詞とも言うべき「シンガー」は19世紀のドイツ系アメリカ人である。彼はミシンの特許をとり、自社で開発するだけではなく月賦販売、下取り制度、直販網などに力を入れて一般家庭への普及を目指した。
●『自動車への夢』
自動車第1号は18世紀フランスのキュニョー(≠巨乳)の大砲運搬車となっているが、当時の実物とかいうシロモノの部品精度は明らかにもっと後の時代のものでびみょーに怪しいらしい。
19世紀の自動車は蒸気自動車として登場した。
ところがイギリスでは馬車組合の反発などで「車の前に赤い旗を持った人が歩いて自動車はその後ろをついていけ」という愉快な赤旗法が1861年に制定されたりなんかして普及が足踏みしてしまう。
蒸気自動車の次に脚光を浴びたのは電気自動車である。操作が簡単で音も静かだからだ。20世紀初頭の段階ではガソリン自動車よりも電気自動車の方が多かったとか。
しかしまぁ、なんといっても電気はバッテリーの問題がある。21世紀になってこの問題はようやくクリアされつつあるほどだからしかたがないが。
ガソリン自動車第一号は、ドイツのベンツだ。1885年に完成した三輪車は、1気筒785ccの4サイクルエンジンで、最高速度は時速15キロ。自転車ほどか。
その後ドイツでは、ダイムラーが鋼の車輪を持つ車を作っている。
一方のフランスでは、パナール、プジョー、ルノーらが登場して車にチャレンジだ。
アメリカでは20世紀になるやリーランドがキャディラック車を、そしてフォードがフォード・モーターを設立し、ビュイックも自動車会社を設立している。
イギリスは先の赤旗法が1896年についに解禁となり、ロイス(電気技師)とロールス(自動車マニア)のふたりが金持ち用のロールスロイスを、小型軽量の大衆車はローバーが製造している。
1894年にフランスで新聞社主催の自動車レースが大成功。各自動車会社はせっせと高性能車の開発にしのぎをけずり、これが技術の進歩につながった。
自動車の工場での量産には標準化や互換性がきわめて重要である。
しかし、そうした技術もいきなり登場したわけではない。タイプライターやミシンの製造で使われていたコンベヤーライン方式が、グラインダーなどの工作機械の普及が、その背景にはある。
大量生産された自動車の代名詞がフォードT型である。1909年から販売開始になったこの車は、当初は950ドルであるが量産効果でどんどん安くなり、1925年には290ドルまで値下がりしている。(ついでにローンも組めるようになった)
おかげで、1925年全米373万5000台の自動車のうち149万5000台、実に40%を占めるまでになる。ちなみに日本は道路事情があまりよろしくないので戦前の自動車の普及は遅れ、自動車保有台数は最大でも30万台強でしかない。後の自動車王国とはえらい違いである。
●機械と農耕
機械化農業は、人手が少なく農地の広いアメリカにおいてまず普及した。(1830年代〜)
刈り取りや脱穀に、蓄力機、つまり馬を回転ベルトで歩かせて回転運動を得て、これで人力の30倍の効率で作業するようになったわけである。
その後、19世紀になると蒸気エンジンをなんか使えないかとゆーことで、まずは脱穀などに使ってみることになる。だが、この蒸気式脱穀機械の蒸気エンジンはあくまで脱穀だけで、運搬はやはり馬の仕事であった。
馬ががらごろと丸い蒸気エンジンを引っ張り、その後ろに連結して、薪と水を搭載した荷車が続くわけだ。なかなかに宮崎アニメっぽくてよろしい。
19世紀もおしまいになってくると、エンジンを自走にも使おうということになる。今日のトラクターはこの自走型の子孫である。
20世紀になり、ガソリンエンジンの普及とともに、一気にトラクターの時代がやってくる。
1910年。アメリカの農業全体では2800万馬力が使われていたが、このうち3/4は蓄力である。そして残りは1/4のほぼすべてが前述した馬で牽く蒸気エンジンである。トラクターは4000台でしかない。
それが10年後にはアメリカ全土でトラクターは20万台になる。
トラクター1台あたりの馬力は当時のネブラスカ試験場で69台を検査した結果、11馬力〜75馬力で平均28馬力。(1台だけ2.4馬力の小型)そっから類推して560万馬力。
アメリカにおける馬の総数は2610万頭=2610万馬力であるから、農業の17%がトラクター動力でまかなわれたことになる。
やがて1930年代になり、ディーゼル・エンジンと空気タイヤの時代がやってくると蓄力とトラクターの比率は一気に逆転するのだ。
■本日の読書:『魔法少女リリカルなのは』都築真紀
本書はTVアニメ『魔法少女リリカルなのは』のアナザー・ストーリーである。
元のアニメでは、11話『思い出は時の彼方なの』で、なのはとフェイトがガチンコバトルをする。最初のシリーズ13話中で屈指の戦闘場面である。
この小説ではそのバトルが邪魔されたため、事件が終わった後(時系列的にはアニメ13話)に、もう一回、そのガチンコバトルをやるという展開にして、その部分を1本の小説にしてある。
そういうわけなので、バトルの内容は、おおむねアニメ11話に準ずる展開になっている。
小説ではアニメを見た時に不明であった幾つかの謎が明らかになっており、たいへんありがたい。
謎その1)魔法戦闘に危険はないの?
魔法少女のバトルといっても、なのはやフェイトが使うのは戦闘魔法である。特になのはのディバインシューターは『砲撃魔法』だ。
これを「全力全開、手加減なし」(リリカルな魔法少女のセリフ)でぶちこんで、本当に大丈夫なのかというのは、アニメを見ていても思った事である。
これについては以下の回答が出た。
なのはは平時から、自己の攻撃をほぼすべて純粋魔力攻撃…つまり物理破壊を伴わない、非殺傷性の攻撃に設定している。物理ダメージ型に変更するのは、無機物や壁を破壊する必要があるときのみである。
『魔法少女リリカルなのは』p171〜172
むろん、当たれば痛い。ゲームならばヒットポイントダメージではなく、メンタルポイントダメージと考えればよかろう。(『スターレジェンド』ではPCにとってたいへんイヤな攻撃だなぁ)
謎その2)バインドされたなのははなぜ助かったの?
アニメ11話において、バインド(拘束)魔法ではりつけ状態になったなのはは、フェイトの一撃必倒『フォトンランサー・ファランクスシフト』をモロにくらっている。
この後、なのはは最後の反撃に出るのだが、なぜあの攻撃を耐えきれたのかアニメでは今ひとつ不明瞭であった。
この謎は次のように解かれている。
「最初に発動したのは…防御の魔法?」
見合いからのチャージ開始でなのはがセットした魔法を、エイミィは分析する。
「広域防御の遅延発生だな」
発動準備を終えた魔法を、トリガーのみ残して発動を遅らせるのは戦闘魔導師の基本技術のひとつである。
「いつでも発動できるように待ってたんだ。なのはははじめから、フェイトの攻撃を受けきるつもりだった。その隙にバインドのチャージをしてたんだろうな」
『魔法少女リリカルなのは』p175〜176
つまり、バインドをくらった時点で、なのははすでに次に来るだろうフェイトの攻撃の備えをすませていたということになる。
ただし、この世界では防御魔法は魔力(MP)的に決して安くない。魔力で作った壁のようなもので、魔力による攻撃を受けると削れる=魔力を失うのである。攻撃が強ければ強いほどに魔力も失う。
謎その3)スターライトブレイカーの魔力はどこから来るの?
なのはの最強魔法スターライト・ブレイカー。
アニメ11話では、けっこう大出力のディバインバスター(魔法砲撃)の直後に、あまりタメなしでぶちこんでいる。
なのはの魔力には底がないのかと思えるほどの連続攻撃であったが、果たしてこれはアリなのか?
答えから言うと、アニメの方はちょっと演出優先であった。
@なのはのディバインバスター・フルバースト→
A直撃を耐えきるフェイト
B次は自分の番だと思ったら、いきなりバインド
Cスターライト・ブレイカー!!
これが小説では、次のようになっている。
@バインド
Aスターライト・ブレイカー
また、スターライト・ブレイカーの特性として周囲の空間に放出された魔力の残滓を集めて砲撃エネルギーにしているという点が明らかにされている。この魔力吸収は、アニメでも周囲から流れ星が集まるような演出でなされている。
この特性のため、スターライト・ブレイカーは「激しい戦闘が行われれて大魔法が使われるほどに、威力が増す」というインチキ……じゃない、まことに必殺技にふさわしい魔法となっている。
他にも色々と小ネタがあるので、アニメを楽しんだ後で読むと面白い作りになっている。
■本日の読書:『灼眼のシャナ XII(12)』高橋弥七郎
いよいよ、オオトリをつとめる2人のうちの1人、“彩飄”フィレスの登場である。
もう1人は“銀”つうか、『仮面舞踏会』が求めているっぽいなんか。
このフィレスについての最大の危惧はキャラを表現しきる難しさ、である。
たとえば、X(10)巻でいきなり登場した数多くの徒やフレイムヘイズ達は、おのおのに割かれていた短いページ数と比較すると、驚くほどにキャラが立っている。
ただ前線に立って戦っていただけの“巌凱”ウルリクミや、泣き言ばかり言う思慮深い“大擁炉”モレクなど、泣かせるいいキャラも多い。
これは、キャラが物語に対して持つ機能がシンプルで表現しやすく、また理解しやすいからである。よって、そこに書かれていないエピソードまでも読者の脳内に浮かぶ。書かれなかった部分を読者なりに補填できるというのは、キャラ立ちには重要な要素だ。
一方で、フィレスは難しい。物語に対して持つ機能が複雑なので単に描写量を増やしただけではキャラが立たないのだ。前のXI(11)巻から過去エピソードを交えることでなんとか描ききろうとしているが、今のところ成功しているとは言い難い。
フィレスが物語を終幕へと導くキャラのひとりであるが故であろうが、私としては欲張りすぎた感じがしないでもない。フィレスは主人公サイドのキャラではないので、たくさんの小さなエピソードを積み重ねてさまざまな側面からキャラを表現できないからだ。
ところで、この巻ではまったくの無能であった主人公の悠二であるが彼というキャラをして有能にしている部分の特殊性からすると、これもまた致し方ない。
悠二は、これまで軍師としての有能さを発揮してきた。
軍師として有能なキャラを描くにはふたつの方法がある。
ひとつは「敵の手を読む」。
もうひとつが「敵を計略に引き込む」。
先に後者について言うと、これは味方側が優勢な場合には意味がない。普通に戦って勝てる場合は計略を仕掛ける必要性がないのだ。この巻ではおおむねフレイムヘイズ側有利で進行したため、悠二が役に立たないのも無理はない。
前者は、『灼眼のシャナ』というシリーズの成功にもつながった重要なポイントである。
一般小説では、作者と読者との間に知識の断絶がない。『密偵ファルコ』は1世紀のローマ帝国を舞台とした物語であるが、当時の古代社会についての情報は作者にも読者にも公平にオープンされている。むろん知識の量には差があるが、知ることは誰にでもできるのだ。
対して『灼眼のシャナ』における紅世関係のあれやこれやというのは作者の脳内にしか存在しない知識である。魔法や超能力が密室殺人のトリックに使えるようなもので、「これはこういう設定なのだ」とか言われてしまうと反論できない。
そこで、魔法や超能力を使った良質のミステリがそうであるように、作者としてはすべての手札をオープンにした上で謎解きに入る必要がある。『灼眼のシャナ』はミステリではないが、説明が先に必要になるのは同じである。
ここで背景知識については読者と同じ一般人代表の悠二が役に立つ。つまり、悠二の目から納得がいくように情報を出していけば、読者も納得できるというわけだ。
そうやって情報を出してゆき、最後まで残った謎の部分、すなわち敵の仕掛けた計略を悠二自身が明らかにすれば、他のキャラへの悠二の株も上がるし、読者も「なるほどここが肝の部分か」と分かる。
そして何より、作者が楽だ。
対比例として『ゆらゆらと揺れる海の彼方』(近藤信義)を挙げよう。この作品では戦場ごとに仕掛ける計略に作者がたいへん苦労している。そして、苦労したあげく出てくる計略というのが「それまで明らかにされなかった海獣の特殊能力に頼ったもの」だったりする。
こんな苦労が発生するのは、作者しかもたない設定などの特殊知識が、「その世界のキャラにとっては普通のこと」であるからだ。その世界のキャラが瞠目するような計略を、作者は知識に頼らずに考える必要が出てくる。
『灼眼のシャナ』では、紅世などの特殊知識は普遍ではない。紅世の徒やフレイムヘイズにとっても「これが普通」という情報はきわめて限られる。だから、作者しかもたない知識がそのまま、物語の仕掛けに使える。
作者の知能や知恵は有限のリソースである。一方で作者のみの知識(特殊設定など)は無限、というか必要に応じてでっち上げることができる。有限な知能や知恵というリソースは、物語を面白くしたりキャラを立てたりするのに使うべきで、さほど重要でもない「読者を驚嘆させる」ところで使う必要はない。ましてや読者すらあまり関係ない「作品内のキャラを驚嘆させる」必要はさらさらない。
作者だけが持つ知識というアドバンテージをうまく使いこなし、己の負担を軽減して余力をキャラや物語の演出にそそいでいる点で、『灼眼のシャナ』の成功は半ば約束されたようなものだと言えるのだ。
■本日の読書:『魔法少女リリカルなのはA's』原作/都築真紀 作画/長谷川光司
短編漫画8本構成で、時系列的には無印シリーズの直後からA'sの『闇の書』事件終了後半年まで。
どの漫画もほのぼのと楽しいが、お気に入り次のふたつ。
『ReportIV アルサ・バニングスのスクールデイズ』
「でも大丈夫。午後の体育のドッジボールでは、わたしがきっとなのはを守るから」
「うん……ありがとフェイトちゃん」
『魔法少女リリカルなのはA's』p79
などと可愛らしい少女達のゆりゆりなやりとりが楽しめる。
ちなみにドッジボールで最強だったのは、おっとり系のすずかちゃん。
……そういや、この家系は魔の者だったか。
『Epilogue Of ACES』
末尾の漫画。A'Sの『闇の書』から半年後。時空管理局になのは達が勤務するようになった時のお話。
どのキャラものびのびと幸せそうなので、すごくいい感じである。特に最後のはやて達ベルカ騎士対なのは達ミッドチルダ式魔導師の5対5の集団バトルはなのは漫画のしめくくりに相応しい。
はやてチーム作戦タイム
「ヴィータとザフィーラが前衛。シグナムは遊撃
シャマルはわたしの後ろや
マッチアップは入れ替え早め!
主砲2人の大きいのとクロノくんのバインドのチャージタイムを取らせたらあかんで!」
クロノチーム作戦タイム
「クロスレンジは引きつける程度であまり付き合うな
フォワード組ははやてとシャマルの捕獲か撃墜を最優先
なのははユーノをうまく壁にして火砲支援を頼む」
クロノ
「管理局指揮官3名と、その使い魔2名! <なにげに失礼
高度な連携戦を教えに行くぞ!」 <闘志みなぎってる
フェイト
「おーっ!」 <すっげーやる気満々
なのは
「……」 <あー、しょうがないなぁ、って顔
ユーノ
「クロノ! ちょ……! また……!!」 <怒ってる
『魔法少女リリカルなのはA's』p138
最初はチームバトルにあまり乗り気ではなかったなのはだが、そこはそれ、やるとなると手加減無用な少女。
「フィールド形成! 発動準備完了!
お待たせしました、おっきいのいきますっ!」
『魔法少女リリカルなのはA's』p141
このコマの実にうれしそうな顔といったらない。
他にも、バトルでのフェイトのすっげーやる気満々な明るい様子とかが良い。なんせ「おーっ!」とか言ってる。
無印シリーズでは無口・無表情・無愛想だったフェイトが普通の女の子になっていくのは救われる気分である。
後、この漫画はオフィシャル設定という重要なポイントがある。誰の何にとって重要かというと、ファンにとって二次創作するのに重要。
というわけでメモしておこう。
●なのはの魔法
▼ディバインシューター
射撃魔法 誘導操作弾
射程A 攻撃力B 操作性能S
▼ディバインバスター
直射砲撃魔法
射程A+ 攻撃力A 発射速度C
▼スターライトブレイカー(無印)
集束型砲撃魔法
威力AAA 射程C 発動速度E
▼スターライトブレイカー+(A's)
集束型砲撃魔法
威力S 射程B 発動速度F
追加効果:結界破壊
●フェイトの魔法
▼フォトンランサー
射撃魔法 高速直射弾
威力B 射程B 弾速A+
▼サンダースマッシャー
直射型砲撃魔法
威力A 射程A 発射速度B
●クロノの魔法
▼スティンガースナイプ
射撃魔法 誘導操作弾
威力B+ 射程A 操作性能S
▼ブレイズキャノン
直射型砲撃魔法
威力A 射程B 発射速度A
▼ディレイドバインド
拘束魔法
特定空間に進入した対照を捕縛
●その他
▼赤竜召喚
召喚魔法
威力AA 操作性能E
■本日の読書:『ゼロの使い魔7 銀の降臨祭』ヤマグチノボル
……えー、一応は戦争終結?
イロイロなものが唐突に展開したり、突然に終わったり。
相変わらずシリアスな戦争とおバカなラブコメのごった煮っつうかヤミナベ風味で、梅干しとウナギを一緒に食っているような感じである。
この巻でもっとも驚愕したのは、ここまでラスボスっぽい演技をしていたクロムウェル(護国卿)が、突然ただの三下に成り下がった事だろうか。
恋愛模様も、キャラクターがどいつもこいつも思いっきり衝動的なもんで、シーンごとにブツ切り感覚強し。
とはいえ、このへんの糸が切れた凧のようなノリも持ち味のひとつと言えなくもないこともないかもしれないとも思えることもあるかもしれないので、まだもう少しは付き合ってみよう。
■本日の読書:『朝日百科世界の歴史 ワクチンと発酵』
●異物をはじく生体――免疫の不思議
このへんになってくると、マクロファージとかヘルパーT細胞、B細胞、ガンマ・グロブリンだのだの、ニュートン読んでるんだか歴史の本を読んでるのかわかんねー絵や写真が載る。
日本の北里柴三郎がドイツに留学してコッホに師事していたとか、「おお? なんか世界史と日本史がつながってきたよ」ってエピソードも多い。
もちろん、日本の歴史は世界の歴史と常につながっているのだが、ヒューマンファクターレベルで、「あっちの歴史上の人物とこっちの歴史上の人物が出会ったり会話していたり」という事が増えてくるのである。
本誌には、やはり日本人留学生を教えたウィルヒョウ(細胞病理学の創始者)の研究室の写真があるのだが、穏やかな顔のウィルヒョウの傍らに骨格標本やら頭蓋骨やらがゴロゴロして足の踏み場もないとゆー、どこのお化け屋敷でしょうかという感じ。
ただ、写真の構図を見るかぎり、これは「わざとガイコツが目立つように並べた様子」が見受けられる。そうして見ると、このウィルヒョウのどことなく「うれしげ」な顔からも爺さんの茶目っ気がうかがえて、なかなかに面白い。
●酵母・酵素の利用
ドイツには今も残る「ビール純粋令」というのがある。
これは、1516年にバイエルン候ヴィルヘルム四世が出した布告である。ビールは大麦、ホップ、および水だけで作るべしというものだ。
酒税なんかの問題で代用ビール全盛の現代日本にヴィルヘルム四世が来たら愕然とするに違いないと私は常々思っているのだが。
●腐敗への挑戦
我が日本は高温多湿であるがゆえに、食い物の腐敗とは縁が深い。よって、腐敗をうまくコントロールした発酵食品の種類も多ければ歴史も古い。
19世紀のヨーロッパではナポレオンが軍隊の糧食用に保存食のアイディアを募り、瓶詰め、缶詰が登場することになる。
アイディア先行でナポレオン戦争では広く使われることはなかったが、これがアメリカの南北戦争になると、軍隊の糧食として大量に缶詰が消費されることになる。
この記事には19世紀の北極探検に使われた缶詰の写真がある。当時の缶詰は錫の層が厚くてがっちりはんだで溶接してある。丈夫で保存性は高いのだが、缶切りはまだない。
で、どーするかというと缶詰のラベルには「斧とハンマーで開けてください」と書いてあるそうな。
●大阪砲兵工廠
おしまいにある技術史小辞典に、この工廠についての項目がある。
明治維新後の1870年に兵部省造兵司が作られたのがはじまりである。当初は職工も機械もなかった。そこで長崎製鉄所(後の三菱長崎造船所)から職人と機械が、東京の関口製造所からも機械が運びこまれた。
太平洋戦争のおしまいもおしまい、1945年の8月14日にB-29の空襲を受けてぶっ壊されたのであるが、この工廠出身者から戦後の機械や金属加工業の技術者や指導者が何人っも出ている。特にアルミ加工では、民需がほとんどなかったこともあり、ここが先駆となったそうだ。
江戸時代の商工業の発達が明治維新後の急速な産業革命を後押ししたように。
兵器などの軍需産業で培った経験や技術者が戦後の日本の経済発展をリードしたわけである。
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