02月01日

■本日の短編:『くまたんのお仕事』
 くまたんシリーズの第5話である。
 それなりにキャラもそろったので、そろそろ話を動かしてみよう。
 これまでのまったり非日常どたばた系から少し色合いを変えてみた。
 伏線は、あって損をするものではないのだ。

■本日の読書:『フューチャー・イズ・ワイルド 完全図解』クレアー・バイ
 あの名著『フューチャー・イズ・ワイルド』の、図解版。
 といっても、アレに何か追加の生物やら設定やらができたわけではなく、絵が大きくなって、ちょっとしたオマケ話があるだけである。
 『フューチャー・イズ・ワイルド』を持っているのなら特に買う必要はない。
 だが、SFマニアの設定マニアとしてはこの本にある不思議生物の作り方はたいへん参考になる。いや、参考になるといっても目新しい事が書いてあるわけではなく、ようするに自分が常日頃考えていることをきちんとまとめてあるのでたいへん心強いのである。

 たとえば、生物はニッチを埋める生き物である事を、現代におけるニュージーランドのキーウィを例にあげて説明してある。キーウィの先祖は空を飛んでいたが、ニュージーランドでは本来ならハリネズミなどが埋めるべき、地面をちょこまか歩いて昆虫を食べるニッチが空いていた。だからキーウィはそのニッチを埋めるために空を飛ばない方向に進化したのである。

 本は違うが『アフター・マン』でも、「アリはどこにでもいる。だからアリを食って生きるというニッチは世界中に存在する。アリを食べる生物の種類は違えども、彼らは同じニッチに適応しているのだ」みたいなセリフがあったのを思い出したものだ。

 大事に取っておくというほどではないので、そのうち甥にでもプレゼントしてやろう。

02月02日

■ローマ:トータル・ウォー ファラオ編その2)神は死んだ!
 軍神メリュレ死亡の知らせは、整備された街道を使ってたちまち首都メンフィスへと伝わった。

「なんと! ファラオが戦死なされたと?!」

 伯父にあたる宰相ラムファトスは、思わず蛇の杖を取り落とした。
 すでに50代半ばのラムファトスは内政手腕こそ優れていたが、一軍を指揮する能力などかけらもない。しかし、メリュレが常に最前線で後顧のうれいなく指揮できたのは、年長の彼が後見人として控えていたからであった。
 そして今や、4ヵ国を敵に回した(北アフリカ方面から、ヌミディアまでもが宣戦布告してきたのである)エジプトの命運がこの一見ぱっとしない壮年の男の肩にかかっていた。

「宰相、いやファラオ・ラムファトス様。我らはいかがすればよろしいのでしょうか?」
「むぅ……まずは……ヌミディアに使者を送れ」

 領土が接しているポントスとギリシアとは和平の可能性は低い。だが、ヌミディアは間に広大な砂漠があるのでまだ利害の調整がつきやすいだろう。
 エジプトの外交官は船でヌミディアに向かった。

「何をするにしても……しばらくは辛いな」

 メリュレが戦死し、最精鋭の軍が失われたことによってエジプトの国家戦略は事実上破綻していた。といっても、それまでの国家戦略というのがそもそもかなりムチャクチャなものであった。

 メリュレは予算のほとんどを軍事費に回していた。社会インフラはまったくといっていいほど整備されておらず、例外は軍が使用する道路だけである。
 これでは金が足りない。そこでメリュレはシリアの都市を奪い、根こそぎ掠奪することによって金を集め、それで軍隊を養っていたのである。
 1500年後の30年戦争時代におけるドイツの傭兵隊長ワレンシュタインのようなものだ。しかも、消耗した兵はコスト高の傭兵で補っていたため、戦って勝てば勝つほどに国家財政は苦しくなっていったのである。

「誰にも言えぬがメリュレが戦死せずとも、早晩このやり方は破綻していただろうな」

 ラムファトスは嘆息した。
 いずれにしても、ラムファトスにはこの劣勢を挽回して勝利する能力はない。だが、手がないわけではない。まずは時間を稼ぐことだ。
 北方戦線では、タルススとアンティオキアのふたつの都市がポントスとギリシア連合によって攻囲されている。いずれもセレウコス朝シリアからメリュレが奪った領地で、ありがたいことに防備は固い。

「最悪、このふたつの町は奪われてもかまわん。どうせ掠奪した後で人も金もろくに残ってはおらんのだからな」

 しかし、防衛している軍には死守命令を出す。もしも敵が強襲してきたら、最後の一兵になるまで戦えというのだ。その戦いでひとりでも多く敵を道連れにして敵の兵力を減らせば、さらなる敵の攻勢を遅らせることができる。
 そうやって時間を稼ぎ、その間に社会資本の整備を行い、金を集める。
 軍事力の増強などその後でいい。身の丈に合わない軍事力を持ったところで維持できなくなるのは、メリュレの最後がよく表している。

 ラムファトスのこうした方針は、メリュレ麾下の部将達からは不評であった。彼らは何を置いても失われた軍事力を補充し、逆襲に転じるようにラムファトスへ願い出た。
 ラムファトスは、しばらく考えた後で、各都市に残された守備隊を再編成して臨時の軍を作り、部将と共に前線へと送り込んだ。

「よろしいのですか?」
「援軍が来たとなると、包囲されている都市の士気も上がるだろう。それに、よしんば負けたとしても――奴らはしょせん前のファラオの部下だ。主と共に冥界に行くのも忠義のひとつであろうよ」
「……は」

 ラムファトスの冷酷な思いを知るよしもないエジプト軍は、アンティオキアを攻めるギリシア軍と戦った。
 結果は辛勝。エジプト軍は大損害を受けながらもギリシア軍を撤退に追い込んだのである。しかし、タルススはポントスに奪われた。
 四面楚歌の状態ではあったが、元々あまり戦争に乗り気でなかったヌミディア王国との停戦に成功したラムファトスは、ひたすら守りの姿勢を固め、財政の立て直しを急いだ。
 メリュレの元で活躍した傭兵部隊は最前線に送り込んで消耗させ、解散に追い込んだ。これは敵に損害を与える役にも立った。軍事費を削減して浮いた金はすべてインフラ整備に費やした。元々、ナイル流域は古代地中海において並ぶ物がない穀倉地帯である。放漫さえ慎めば金はほっといても貯まった。
 約10年=20ターンにわたり、エジプトは外征をせず内政に専念した。軍隊の増強もほとんど行われなかった。例外は通商保護のための海軍の整備で、三段櫂船による軍船が東地中海の重要な交易拠点であるキプロス島(エジプト領)からギリシア海軍を追い散らした。

 20年近いラムファトスの治世の後に残されたのは金銀財宝でいっぱいの国庫だった。

02月03日

■本日の読書:『密偵ファルコ 錆色の女神』リンゼイ・デイヴィス
 シリーズ3作目。
 1作目が皇帝の地位を巡る陰謀。
 2作目がその後始末。
 さて3作目はというと、一転してファルコは帝国の暗部ではなく市井の事件と関わり合いになる。
 なぜかというと、皇帝陛下は払いが吝いから。なんとなく納得できる話である。何しろ皇帝はウェスパシアヌスなのだから。

 さて、事件というのは。
 過去に3度結婚し、3度とも夫が不審な死を遂げている赤毛の美女が4度めの結婚を考えており、その結婚相手の家族がその美女を探れというのである。

 女の過去を探ったり。
 依頼人の内実を調べたり。

 やー、ファルコったら、なんかこう、普通に私立探偵みたいなまねをしてますよ?
 むろん、恋人である元老院議員の娘(バツイチ)、ヘレナとのラブラブもある。
 さらには豪勢なヒラメ料理もついてくる。

 これは冗談ではなく。
 皇宮からヒラメが家に届けられるくだりから、料理に四苦八苦して、宴会が終わるまでに41章〜45章の5章が割いてあるのだ。
 ちなみにすっげー笑ったのが、でかいヒラメを料理するために適当な鍋はないかというので、ファルコは兄の遺品である東方製の巨大な楕円の盾を使う事を考える。

 小一時間かけて盾を磨き、水くみ場に持っていって洗ってから、家に持ち帰った。思ったとおり、ターボット(ヒラメ)をいれるだけの大きさはあったが、いかんせん、浅すぎた。魚をのせて水を入れると、ヒラメが漬かりきらないうちに縁まで水がきた。熱い煮汁なんか入れたら、はね返って火傷しそうだ。それに、途中で裏返すのもおおごとだ。
 例によって、おふくろは何も言わなかったから、おれは座り込んで、このすばらしい計画のどこがいけなかったのか考えた。盾の中で半ば水につかった魚をにらんでいるところへ、おふくろががらがら音をたてながら入ってきた。

 まあそういうわけで、おふくろさんが借りてきたたらいを使って料理するのであるが、なんというか、この何をするにも人間が手足を使ってやる(何しろ古代ローマだ)感覚が、愉快でよろしい。

02月04日

■本日の読書:『東方露西亜帝国秘史 双頭鷲の紋章volume1』高貫布士
 高貫さんの作品というと『大日本帝国欧州電撃戦』以来のような記憶が。
 ……どういう作品だったっかさっぱり覚えていないのだが。思い出そうにもすでに蔵書にはないし。

 ああいや、『図解・ドイツ装甲師団』は資料として保管しておりますですよ。アレはいい本です。今でも自動車化製パン中隊の能力とかを調べたくなったらほいほいと引っ張り出しておりますよ。えーと、1斤750gの切り口灰色の日持ちがするライ麦パンで、1日に1万2千斤を焼き上げるのですな。なお、小麦を現地調達した場合には中隊が保有する電動製粉機で自家製粉も行なう、と。

 さて、本書は架空戦記であるが、ポイントは2点である。

1:ロシアがアラスカを売却していない
 ここで「もったいないから」などと適当を書かないのが高貫さんらしい。
 クリミア戦争で負けて出た損失を補填するのにアラスカを売ろうと交渉していると、スイスの銀行家達が英国政府の仲立ちで新規の融資を申し出るのである。
 先のクリミア戦争では敵味方になったとはいえ、寝技は英国政府の得意とするところ。それに英国領カナダと隣接するアラスカをアメリカが買い取るのもカナダの安全保障上よろしくない、という判断である。

2:ロシア革命時に、アナスタシア皇女が国外への脱出に成功した
 当たり前だがアラスカを保有していても、ロシア革命は防げない。
 だが、そこでロシア皇室が全滅しては物語が始まらないので、当時17才の皇女様が脱出に成功するのだ。
 そして、アラスカの地に首都(ノヴァ・サンクトペテルブルク=アンカレッジ)を移し、イギリス、日本、ハワイ王国と四ヵ国連合を結んでソビエト政府に対抗するのである。

 そして1933年。
 プジョンヌイ率いるソ連軍が冬のベーリング海峡を渡ってアラスカに侵攻をくわだてて……という感じの物語となっている。
 クライマックスでは、氷上をぞろぞろ進軍するソ連軍のところに、氷を砕いて砕氷戦艦ピョートル1世号(女帝アナスタシアが座乗)がやってきてばかすか大砲を撃ちまくる。
 砕氷戦艦そのものは他の架空戦記でもあったが、砲撃する相手が戦艦ではなく氷上を進む歩兵というのはたいへん珍しいのではなかろうか。

02月05日

 フィットネスプラザで体重と体脂肪を測定。

  前回(1/10)    今回(2/5)
 ・身長166cm     ・166cm
 ・体重70.3kg    ・69.6kg
 ・脂肪率23.8%    ・23.3%
 ・脂肪量16.7kg   ・16.2kg
 ・標準体重60.6kg  ・60.6kg
 ・肥満度16.0%    ・14.8%

 グラフも修正しよう。おお、再び70kgの大台を割り込んだぞ。
 12月から週2回トレーニングにしたのが効果を上げているのではないかとちょっと期待したり。

 ついでに病院での血液検査の結果も。

 GOT:43→42(基準10〜40)
 GPT:69→56(基準5〜45)
 γGTP:110→140(基準16〜73)
 中性脂肪:134→101(基準50〜149)
 尿酸:6.3→7.4(基準7.0以下)

 γGTPと尿酸がちとよろしくないな。
 うーん、お酒は飲まないから、やはり少し栄養過多かな?
 でも運動するとお腹空くんだよな。

■本日の読書:『朝日百科世界の歴史 石と土の奇跡』
 『生活』編、『焦点』編、『展望』編と読み進み、全130冊の3/5を読破したのであるが、いよいよ残るは『技術』編と『人物』編である。
 やはりなんだかんだいって私はSFの人だし、サイエンスはワンダホーな人なので歴史の中でも技術史は特に好きである。だから最後のオオトリにしておこうかとも思ったのだが、『展望』編が現代史でいきなりこけまくったので口直しにさあいってみようかーっ。

●巨石建築とその技術
 写真だけでも、ストーンヘンジあり、ドルメンあり、メンヒルあり、モアイあり、オルメカ番長あり、そしてむろん地図付き絵画付き、内部図解付きでピラミッドである。素晴らしい。
 ピラミッドの建設についてはまだ不明な点もあるが、かのヘロドトスのじいさまは、『建造に10万人が年3ヶ月ずつ働いて、20年を要した』と記してあるそうな。愉快なほら吹きじいさまの言葉は常に割り引いて考えるべきなのだが、イギリスの考古学者はそれなりに合理的だと計算している。
 我が国の土建屋である大林組が昭和53年(1978年)に算出した現代の機械や工法を使ってのピラミッド建築に1250億円が見積もられている。(記事には書いてないがおそらくクフ王のピラミッドであろう)
 しかし、エジプト人はこれをあらかた人力と手計算でやったのであるからやはりすごいことなのだ。

●住まいの素材、煉瓦考
 天日干しした粘土で建築を行なうというのは古代文明最先端の西アジアでは紀元4千年迄にはすでに実用されていた。だが、そこに新しい『規格化』の概念が導入される。
 つまり、木の枠で直方体を作っておき、それで型取りをして同じ大きさ、同じ形の煉瓦を量産するという考えである。
 この技術は今なお、西アジアやアフリカで一般家屋の建築に用いられている。

 さらに、当時の先端技術である土器の製造方法から、煉瓦を日干しではなく野焼きで焼成煉瓦にするという手法が導入される。アケメネス朝ペルシアでは、首都スーサの王宮や城門をこうした焼成煉瓦で建築している。(紀元前6世紀)
 くわえて、これまた土器の製造技術からの流用で、色釉(いろゆう)を使った彩色も行われてきた。バビロンでは城壁は黄色、門は青、王宮は赤、神殿は白とし、さらには神獣などを描いて呪術的な守りも万全(むろん、古代人的な感覚で)であったのだ。

 日干し煉瓦は現代にまで用いられるほどに手軽で良質の建築素材であったが、やはり品質管理というのはそれなりに重要であった。ローマ時代の工学者ウィトルウィウス(1世紀頃の人)の著書『建築書』では、日干し煉瓦が内部まで完全に乾くには2年が必要で、ある都市では監督官が煉瓦を管理していて5年が経過したものだけを出荷させていたそうな。
 なんかこう、ローマ帝国で汚職官吏による生乾きの煉瓦の使用とかそれによる崩落事故とか、そういうのがあったのではないかと想像できて楽しい。

●土器・陶器からモダンセラミックスへ
 さて煉瓦と前後したが、古くより人々は粘土を使って器物を作ってきた。
 粘土そのものはそれこそ世界中どこでもまず手に入るが、粘土を焼成するには、粘土の重量の10倍の燃料=薪が必要であったとされている。だから、わざわざ粘土を運ぶくらいなら燃料のある土地へ移動した方がよろしい。
 そういうわけで、高度な都市文明を築いた西アジア一帯は、今でこそ乾燥しているが当時は緑豊かな土地であったのだ。
 しかし、粘土はただ漫然と焼けばいいというものではない。野焼きでの最高温度は約750〜800度なのだが、これでは水も漏らない硬い容器はできない。そこで、熱をできるだけ逃がさないように窯というものが発明されたのである。おおむね1世紀頃には現代のものに近い形状になったようだ。
 さらに、細かい素地の孔をつぶすのに使われたのが、釉薬である。だが初期のガラス質の釉薬は粘土素地とは具合がよくなかった。紀元前1700年頃、メソポタミアでは粘土質素地に合った鉛化合物を組み合わせた鉛釉が作られ、これはローマ時代からさらにはつい最近まで地中海などでほとんど同じ物が使用されていたという。

●陶工たちの職業病
 紀元前4世紀だか5世紀だかのヒッポクラテスの記録にはすでに陶器工場で働く者に粉塵障害が発生するとある。
 このように粉塵が健康には良くないとは分かっていても、原因をきちんと分析できるようになったのは最近の事である。
 陶器産業の先進国であったフランスで、19世紀、陶工の呼吸器系疾患が調べられ、陶土の粉塵吸入が原因であると結論づけられた。
 ドイツでも、1919年に陶土でも特に石英と長石が健康によくないという研究結果が報告されている。
 工業先進国イギリスでは、1720年に燧石(フリント)を素地にくわえて陶器を白くする技法が主流になった。しかし燧石は石英粒の隠微晶質(微細な結晶が内部に隠れている)で、硬いわ粉砕するのは手間だわそれを乾いたところでやるから粉塵は飛びまくるわで、作業員は2年でたちまち健康を害してしまったという。とりあえず、燧石を1000度で焼いて水を落としながらロールミルで粉砕する方法が1726年に発明されたので、ようやく作業の危険度は下がったのであった。
 なお、鉛釉はそれ自体は別に良いのだが、これを低温で焼き付ける方式が使われたことで、食器として使っていると鉛が溶け出すという危険があった。

02月06日

■本日の読書:『東方露西亜帝国秘史 双頭鷲の紋章volume2』高貫布士
 1巻は、アラスカにロマノフ王朝が逃れるまでと、ベーリング海峡をこえて氷の上をてくてく寒い思いをしながら歩いてきたソ連の歩兵達を砕氷戦艦が情け容赦なく叩きのめすお話だった。
 つまり、海軍のお話。
 2巻は、空軍のお話である。
 アラスカに建国された東方露西亜帝国は、人口わずか100万人。かつてロシアの国民から搾り取ったロマノフ王朝の財宝をスイスの銀行など海外で資産として運用しているから裕福ではあるが、それだけでは人口1億をゆうにこえるソ連と対抗できない。
 そのため、東方露西亜帝国は軍隊を海外からの傭兵でまかなっている。海軍は軍縮で削減することになったイギリスや日本の艦艇を乗員ごと買い取り、砕氷戦艦のような新型艦も乗員はイギリスや日本の予備役海軍軍人である。
 これは空軍でも同じことで、東方露西亜帝国の空軍は主に海外からの輸入機体で編成されている。
 そして東方露西亜帝国にベーリング海峡越えで攻めるには海も陸もダメだからというのでソ連は空軍を動員して空爆を開始した。しかも、ウラジオストックを根拠地とし、出撃の時だけ前線の飛行場へ移動、終わったらまたはるばるウラジオストックへ戻るというやり方をしてである。
 これでは、いくら迎撃する東方露西亜帝国ががんばっても、ソ連が止める気にならない限り、空爆は続くことになる。

 この消耗戦をなんとかするためにとられた秘策が、東方露西亜帝国最新鋭の六発巨大爆撃機(つまり6つ発動機=エンジンがついている)Si8イリヤ・ムウロメッツによるウラジオストック強襲であった。

 イリヤ・ムウロメッツという爆撃機は、現実に存在する。
 これである。
 第一次世界大戦でシコルスキーが設計した四発の重爆撃機だ。
 シコルスキーは後にアメリカにわたってやはり飛行機を作る。現在はヘリコプターのメーカーとして有名である。

 この作品世界ではロマノフ王朝がまだ存在するので、シコルスキーは東方露西亜帝国のためにこの六発爆撃機を開発したのだ。
 しかし、いかにSi8が巨大とはいえアラスカからウラジオストックへ爆撃できるほどには航続距離が長くない。(当たり前だが、ソ連軍だって爆撃される危険があるならウラジオストックに拠点は置かない)
 そこで、取った方法が建国したばかりの日本の傀儡国家満州国で行われる軍事演習に参加し、帰りにちょっとウラジオストックに立ち寄り(コンパスが故障したのである)、機体を軽くするために積み荷を捨てて(中には爆弾がぎっしり)いこうというわけだ。
 むろん国際法上は中立の日本から爆撃するのは違法であるが、そんなもん勝てばいいのである。強いものが正義、弱いのはすなわちそれだけで悪い事だという時代である。

 というわけで、ウラジオストックのソ連空軍をさんざっぱら焼き尽くして凱歌をあげた巨大爆撃機のクルーに、女王陛下みずからが勲章を授与して万々歳、ということで2巻は終わる。

 さて、3巻はというと海、空ときたのでむろん陸である。
 場所は――ノモンハンだ。

02月07日

■くまたんメモ:くまたんのねぐら
 くまたんシリーズであるが、何しろ構想1分で書いているのでいろいろと未整理の部分が多い。
 そういうわけで、少しずつ整理をしていこう。
 まずはくまたんと祐介が住むアパートからである。
美酔庵
 「美酔庵」は築20年、木造2階建てのアパートである。
 アパートは各階4部屋ずつ、つごう8部屋ある。
 アパートの中は6畳間+押し入れ+流し+ユニットバス&トイレという構成。
 祐介とくまたんの住む7号室の隣の8号室は空き部屋。
 アパートでの生活が一番長いのは、3号室の小藪さんである。何しろ、アパートが建ってからずっと20年間住み続けている。だが、そのほとんどの時間を部屋で眠って過ごしており、姿を見かけることはまずない。
 次に長いのが、実は10年間住んでいる祐介である。
 未成年の祐介がなぜひとりでこのアパートに住んでいるかについてはそのうち語られる予定である。

 アパートの隣は家主である紫藤家となっている。紫藤家はこのあたりの地主の家である。
 紫藤家三姉妹(おっとり長女、なまいき次女=香澄、狡猾三女)は、しばしばアパートに住む幼馴染みの祐介のところへやってくる。

02月08日

■本日の読書:『東方露西亜帝国秘史 双頭鷲の紋章volume3』高貫布士
 海の1巻。
 空の2巻。
 そして3巻目は陸。ノモンハン事件である。
 東方露西亜帝国にとって、ソ連は敵。敵の敵は味方ということで、日本や満州国は同盟国である。特に満州国はソ連と長大な国境を接しているし、いざ戦争になったら参加させてもらって、ウラジオストックあたりを奪取しよう。
 こう考えるのも不思議ではない。
 そういうわけで、東方露西亜帝国は満州に、教育・訓練用という名目でけっこう大きな部隊を派遣していたのである。
 うん、これは改変された歴史的にみても筋が通っている。
 その訓練部隊の名誉連隊長が、若干16才の皇女アレクサンドラというのは、必然性はないが、物語的には正しい。

 ……にもかかわらずだ。

 たとえば、本書において、日本や東方露西亜各国の戦車開発には大量のページが割かれている。なぜ東方露西亜帝国で多砲塔戦車を導入したのかとか、それをどう使うかとか。
 で、ノモンハン事件についても、それが発生してから日ソ両軍の動きがやはり丁寧に描かれている。まあ、歴史の通りっちゃ通りなのだが。

 ところが、そういう描写が延々と続いているおかげで、オープニング〜序盤での顔見せ部分をのぞくと、東方露西亜帝国の実験戦車隊が戦場に到着するのはなんと228頁(262頁中)からなのである。

 東方露西亜帝国の実験戦車隊にアレクサンドラ皇女が同行して戦場に出ているというのはソ連側にも伝わっていて、スターリンの厳命でなんとしても捕まえろということになる。よって、実験戦車隊は集中的に狙われる。
 これは道理であるし、また、物語としてもたいへんに正しい。

 さて、それではその顛末やいかにっ――

 ソ連の無線を傍受した連隊副長(実際の指揮官)は、自分たちが狙われていると知る。
 しかし、皇女は逃げるのを断り、殿(しんがり)の多砲塔戦車に残って戦うと決意。
 襲いかかるソ連軍。少々の損害を受けてもひるむことはない。
 ついに残弾が尽きる。もはやこれまでか。
 そこへ皇女を救うために東方露西亜帝国のやはり教導爆撃機隊がやってきてソ連軍を撃破。助かったのだ。

 これが全部で2ページ。
 高貫さん、これはなんぼなんでもっ。
 少ないっすよ。

 なぜこうなるのだろうか。
 おそらくは、先ほども触れた『戦車の開発運用のあれこれ』にページを割きすぎたのだろう。だが、それ以上になんというか、ドラマ部分を盛り上げようという意識が感じられないのはどうしたことか。

 いや、分かっている。
 私だってたくさんの架空戦記を読んできた。
 そして、最近のすごく知識のある比較的若手(30〜40代)の人の作品の多くに見られるひとつの傾向にも気が付いている。
 知識の誇示がやたら目に付くのである。

 特に、史実と違う部分は典型的で、

「実は〜なのだが」
「どうしてそうなのかというと〜」

 などと、せずともいい言い訳が多い。

 それは知識を伝えようというのではなく。
 『(歴史・軍事の蘊蓄を)知らないと読者に思われるのが我慢できない』せいなのではないか。
 何か、必要以上の描写を読むたびに、そういう必死な様子がうかがえて、なんか痛々しくも思うのだ。

02月09日

■本日の読書:『ホーンテッド!』平坂読
 読み終わった後。
 僕は、この本を読んだ少なくとも100人の人間がやったであろう事をした。
 作者名を読み直したのである。

「西尾維新……じゃないか」

 というわけで、一部でカルトな人気のある『ホーンテッド!』である。薦めてくれたのは“いつも感謝の言葉を忘れずに。ただし感情はこめない”の彬兄殿だ。
 ありがとう(棒読み)

 内容はごくごく普通のセカイ系。戯言遣いならぬ嘘言使いの“僕”とその周囲の赤い人な無敵ババア(対決させたらさぞ面白かろう)や、《霊感有りただしこっくりさん限定》みたいなっ!リストカット少女(こちらは対決させるとさぞ後味が悪かろう)などの迷惑な人々が織り成すどろどろの青春群像絵巻(一部誇張あり)である。
 幽霊になった幼馴染みも出てくるが、幽霊がメインキャラの中で一番まともなのはいったいぜんたいどうしたコトか

 本書についての感想をひとことで言うと、《切れ味抜群! ただしペーパーナイフ》みたいなっ!わけで、比べるなら西尾維新や秋山瑞人ほど突き抜けてはいない。そのあたり隔靴掻痒なのだが、その中途半端な具合もまた良し。
 僕が感心したのは、主人公が終盤にやってのけるはったりの部分である。僕は常々一人称というのは騙る語り方(笑え)だと主張してやまないが、それはあくまで語り手が読者を意図的にだますためのものとしての話だ。
 ところが本書の場合、さらに一歩踏み込んで、語り手が自分自身もだましていたと公言してはばからないのだ。
 ううむ。
 これは新しいんじゃなかろうか。というか、さすがにここまでは僕もやった事はない。

 そんなこんなで、それなりに刺激的でそれなりに楽しい時間を過ごせた。ドクロちゃんのように徹底的にバカを演じて(しかしその裏ですごく計算高い目を光らせて)いる作品もいいが、こういう姑息で油断のならない(しかしその裏ですごく開けっぴろげな)作品も嫌いではない。
 さて、bk1で2巻を頼もうかね。そういや、電撃の新刊が出ていたんだった。一緒に……なに? ネコソギ? ああ、あれはほれ。全部出るまで待ってから。

02月10日

■ローマ:トータル・ウォー ファラオ編その3)神の試練
 財政再建に成功したエジプトは、新たなファラオの元で御前戦略会議を開いた。
 地中海の覇者となるべき道を探るためである。
エジプトと周辺諸国
「参謀本部としては、二正面作戦は避けるべきであると考えます」

 皆がうなずく。
 巨大な軍隊をリストラすることでエジプトは財政の健全化に成功した。
 つまり軍隊の規模もそれなりに小さくなっているという事である。
 特に、先々代(メリュレ)時代の傭兵部隊は象1部隊(儀礼用)をのぞいてすべて前線で使いつぶされている。
 そのおかげで正規軍はさほどの被害を被ってはいないが――幾つもの国を同時に相手する戦力はない。

「将軍はどこと戦うのが良いと思われるか?」
「セレウコス朝シリアです。歴史的な敵国でもありますし、何よりすでに彼の国の領土は2つを数えるのみ。さほどの苦労をせず滅ぼすことができるでしょう」
「だがその結果、戦線が拡大する。私はアルメニアを攻めるべきだと思う」
「アルメニアは強兵の国だ。ここはポントスあたりで……」
「滅ぼさずとも属国(保護国)にすれば良いではないか」
「そのような手ぬるいことでは100年たっても我が国はナイル川に縛られたままですぞ」

 百家争鳴。
 話がまとまらないまま感情のボルテージだけが上がっていく。
 やがて、それまで黙っていたファラオが口を開いた。

「我が国が最終的に目指すものは何か」
「それは地中海世界の覇者でございます」

 臣下がいっせいに答えた。

「そのために必要なものは何か」
「強大無比な軍」
「軍を養うものは何か」
「民と金」
「民と金を得るには何が必要か」
「それは……」

 現在エジプトの富は、列国に並ぶものがない。
 しかしそれは、エジプトが今のままの領土を維持する場合のみ。軍隊を増強し、侵略を始めれば富はたちまち失われるだろう。
 それは単純に領土を増やした程度では補いがつかない。
 否、領土を増やして発生する損失の方が大きいとさえ言える。
 軍の編成にかかる費用。
 軍を維持するのにかかる費用。
 それらは決して減ることはない。
 領土を増やしても、そこを守る、あるいは造反させないために一定数の軍を駐屯させる必要があるからだ。

「領土を増やしても金は増えぬ。だが、領土を増やすことによって、金を得るチャンスを上げる手だてはあろう」
「ファラオがおっしゃるのは、貿易にございますか」
「そうだ」

 ローマ:トータル・ウォーにおいて、もっとも利潤をあげるのは民に課す税金ではない。
 町と町との間で行われる交易に課す関税などの間接税である。

「もっとも貿易のうまみが大きいのは――」
「東地中海だ」
「陸上よりも海洋貿易だな」
都市の収益
「となると……」

「そうだ。我がエジプトが倒すべき敵は、ギリシアだ」

 こうして戦略目標は決定された。
 だがエジプトが富国に精を出している間、当然ながらギリシアもまた国威を伸張させていた。さらに西にローマという覇権国家があるため、ギリシアにとって東方のアジア沿岸地域は生命線とも言うべき後背地であった。
 東地中海の二大強国の激突は、長く、熾烈なものとなった。

02月11日

■本日の読書:『灼眼のシャナIX』高橋弥七郎
 前のVIIIの感想(去年の11/24)で

 そもそも、この作品のよってたつところは、非日常に対する日常の勝利――紅世の連中がいかに強かろうがなんだろうが、結局、現実で健気に生きる人間の方が強いのだと、そういう話なわけであるし。

 というような事を書いたが、では、その日常最強のキャラは誰かと言われたらそれはもう、文句なしに主人公のお母さん、千草さんであることは間違いなかろう。
 この巻においても、その最強ぶりはいかんなく発揮される。
 以前、私が書いたとあるオカルト話(いや正直に言おう、中断している月姫ノベルゲームだ)で登場人物のひとりがこうのたもうている。

「最近の患者の一番の暇つぶしが何か知っているかね? ゲームだ。おかげでゲームボーイとかそういうものに、わしら医者もずいぶん詳しくなったよ。近頃のゲームは驚くほどに多彩な神や魔物が登場する。そしてそれら神をゲームの中では事もなく倒していく」
「ゲームと現実は違う」
「そうだ。だが、今や神でさえ数値化されたパラメータの中に存在すると言いたかっただけだ。攻撃力はいくら、防御力はいくら、魔法は何を使う、特殊能力は──すべてが明らかだ。そうであるのならば、何を畏れる事があろうか」
「何が言いたい」
「明治の御代では、あれは畏れられていたのだ。畏れ、恐れて──だが、同時に誇りにも思っていたのだ。強き、暗き神を祭る事に、隠れ切支丹のような背徳の悦びを覚えてもいたのだ」
「人を贄にしてもか」
「人を贄にするからこそ、だ。ローマに滅ぼされたカルタゴでは、有事の際には主神バアルに赤子を捧げていたという。それも、高貴な血筋の中から選ばれた赤子をだ。犠牲が大きいほどに、神の力はいやます。そう信じられていたのだ」
「愚かな」
「人は愚かだとも。長年医者をやってきて、何百人と死を看取ってきて分かった事はそれだけだよ。それだけだ」

 しょせん戦闘力が高いとか低いとかいうのは、その程度のことなのである。物語が要求するドラマは常にその上に位置する。
 そしてそのドラマの中においては、戦闘力皆無の千草さんは無類の強さを発揮する。戦技無双のメイドさん程度では、打ち勝つことができないのも道理であろう。
 しかも今回はこれまで背景情報としてしか登場しなかった海外赴任中の主人公のオヤジ殿が登場するのだが――なんつうか、あれだ。
 本当におまえは常の人なのかと。『GS美神』の横島忠夫のオヤジかと思いましたね。あっちはギャグ漫画だったのでそれなりにはっちゃけていたのだが、こちらはお笑い要員ではなくまっとうなのでよけいにいかがわしさが倍増というか。そもそもおまえの仕事はなんだ。
 そういうわけで、無敵夫婦が相手では本巻における勝負は見えたようなもんである。
 まあ、あまりにこの夫婦がそろうと話がやばいのでオヤジ殿はこの巻の終わりでさっさと退場している。いずれクライマックス直前で、息子の尻を蹴飛ばすために再登場するであろう。

02月12日

■本日の読書:『武装錬金 6』和月伸宏
 腕がもげようが瞬時に再生する“ヴィクター化”したカズキ。
 そのカズキに錬金の戦士を束ねる戦団は再殺命令を出す。
 つうわけで、今回の戦いのキモはブラボー対カズキの師弟対決。お約束といえばお約束だよな。むろん、カズキ完敗。当たり前だ。
 カズキを打ち負かした時のブラボーの、弾けたシルバースキンで目元を隠したままのセリフ

「さよならは言ったはずだ 別れたはずだ」

 は、この巻でもイチオシの良いコマである。
 むろん、このセリフの元ネタは作者も後書きで言っているようにボトムズの主題歌なのだがっ。あれはしぶかったなぁ。
 ボトムズはセリフもしぶいが、何より好きだったのは、次回予告である。
 ここのサイトに全部まとまっている。ああ、今読み直しても心が震えるっ。

 それはまあさておき、3個ある賢者の石による黒い核鉄のうちふたつがヴィクターとカズキの身体に埋め込まれたので、最後のひとつはパピヨンで確定だろう。しかし、意外と憎めないんだよなぁ、こいつ。殺すしかないんだろうが。

 次巻以降で気の毒なのは、なんといってもカズキとヴィクターに対抗するために送り込まれた“えりすぐりの「再殺部隊」”であろう。なんでこんなやられるのが明らかな部隊に配属されなきゃならんのか。それにきっと、人格も歪められるんだぞ。カズキ達が戦いやすいように。

02月13日

■本日の読書:『空ノ鐘の響く惑星で 6』渡瀬草一郎
 この巻で、なんかいろいろなものの辻褄があってきた。
 いいのか? こんなにきれいにまとまって?
 いや、最近のライトノベル系の物語作法というのは「どうとでも取れる描写に、処理されない伏線に、まとまらない展開」と相場が決まっていると思っていたのだが。
 なぜなら、それこそが先を読まれないようにするのに最適の方法だからである。
 しかしそうではない正攻法でくるというのなら、これは私としては望外の喜びというべきで。渡瀬さんには是非ともがんばっていただきたい。

 さて、前の巻までひょっとしたらボスキャラかと思われていたカシナートであるが、性格は確かに悪いが、ちゃんと利害得失の計算ができ、必要なら譲歩もできる部分をこの巻においても見せ、問答無用でブチ殺すボスキャラにしてはいかにもインパクトが不足してきた。
 その一方でこれまではあくまで背景情報でしかなかった西の大国ラトロアの国家元首が最後に登場するのだが、これがもう、いかにもな邪悪系キャラ。おお、これならボスキャラとして不足はない。このラトロアが本当の雇い主である“汚れ役一手に引き受け”のシズヤも一緒に地獄へ落ちるのにふさわしいキャラである。

 対するに、ヒロインのひとりリセリナを追って未来の地球(たぶん)からやってきた来訪者の面々は、どうにもこうにも裏も表もまっすぐであるようで。この先に戦うことがあったとしても(何しろもうひとりのヒロイン、ウルクの記憶を奪うなどひどいことをしている)なんか適当なところで和解が成立しそうな雰囲気ではある。むろん、その和解が死の間際という可能性も高いが。

02月14日

■ローマ:トータル・ウォー ファラオ編その4)機械神(デウス・エクス・マキナ)
 先に述べたように、ギリシア戦役は東地中海の海上交易路を奪取するためのものであった。
 地中海世界随一の海軍力と経済力を背景にしたギリシア軍には、エジプト軍はこれまでも幾度となく痛い目にあってきた。そのギリシアと戦うからには幾つかの準備が必要であった。
 まず後背のパルティア王国を撃破し、はるかカスピ海にまで追放する。
 続いてポントスと一戦してこれを打ち破り、保護国(属国)にする。
 このようにして後顧の憂いをたって後に、ようやくエジプトはギリシアに正面から挑むことができたのである。
ギリシア包囲網
 むろん、ギリシアの持つ交易路を狙っているのはエジプトだけではなかった。興隆著しい共和国ローマも、アドリア海を南下するようにしてギリシア諸都市を攻め落としていた。
 すでにマリウスの軍制改革を迎えたローマは、その強大な軍事力をいかんなく発揮してギリシア軍を撃破していく。
 一方のエジプト軍であるが、こちらは一進一退を繰り返していた。
 この時期のエジプト軍の主力はナイル槍兵と大弓兵である。
ナイル槍兵
 ナイル槍兵は見ての通り、長い槍を構えたファランクス隊形が可能な兵である。そして、ギリシア軍の主力もまた、ファランクスが可能なホプリタイであった。
 守りの堅さでは定評あるファランクス同士の衝突はしばしば持久戦となり、勝敗を決するのはそれを支援する部隊と指揮官の力量の差となった。

 まず支援部隊であるが、エジプト軍の大弓兵は射程が長く、何より大量に前線に投入が可能だった。対するギリシア軍は実にギリシア人らしいことに、弓ではなくスコルピオン(弩)やオナガー(投石器)といったメカニカルな火力を多用した。両軍共にこの面ではほぼ互角と言っていいだろう。

 対して指揮官の能力ではエジプトに分があった。エジプト軍の将帥は伝統的に最前線で戦うことを良しとした。エジプトの将軍は伝統的に戦車に乗っていたが、戦車は攻撃にきわめて脆く、これが(あの軍神メリュレをはじめとする)エジプト軍の将軍の死亡率の高さとなって現れていた。
 だが、最前線で激戦を繰り返していくうちにエジプト軍も世代交代が進む。いつしか若い将軍の間では戦車ではなく、直接騎乗して戦う者が増えてきた。
 前線で戦うことによって戦傷を負う将軍は後を絶たなかったが、死亡する割合は確実に減ってきていた。
 ローマとエジプトの二大国から同時に攻められては、いかなギリシアといえども劣勢を覆すことはできなかった。やがて、小アジアからギリシア軍は駆逐され、さらにロードス島、クレタ島という東地中海の要石も海軍に支援されたエジプト軍によって占領された。
 ギリシアに残されたのはペロポネソス半島だけとなったのである。

 ローマ軍がコリントスを陥落させるのとほぼ同時に、クレタ経由で上陸したエジプト軍が最後に残された首都スパルタを攻略する。

 だが、ギリシアの敗北は平和の到来ではなく、新たな戦いの始まりでしかなかったのだ。

02月15日

 むう、頭が痛いぞ。

02月16日

■本日の読書:『トンデモ怪書録』唐沢俊一/唐沢なをき
 ちょっとネタだしに引っ張り出してつい読みふけるというのはよくあることだ。
 ところで、私はつねづね周囲にこう言っている。

「読みたいよーに読むがよい
 書きたいよーに書くがよい」

 唐沢俊一さんがその具体的な例を『前書きに代えて』で紹介している。引用してみよう。

 知り合いで、中学生のとき、ストウ夫人の名作『アンクル・トムの小屋』を読み、みだらな興奮を得た、という男がいる。そこに描かれた、悲惨な黒人奴隷たちへの拷問が、彼に初めての性的興奮を喚起させたという。それ以来、彼はことあるごとに『アンクル・トムの小屋』を“ある目的”に使用していたという。ストウ夫人が聞いたらヒステリーを起こすかも知れないが、中学生の彼にとって、『アンクル・トムの小屋』が有益な書物であったことは疑いもない。これこそが役に立つ読書、というものだ(笑)。

 まさにまさに。
 ちなみにこういう拷問シーンで性的に目覚めるというのは格別に珍しいことではないらしい。
 漫画家の中田雅喜さんはやはり小学生のころに『伊賀の影丸』で、少年忍者の影丸が敵に捕まって拷問される場面で興奮し、自分もやってみようと紐を取りだして天井の梁に通し、自分の足に片方をむすびもう片方を手で引っ張って『つるし上げ』っぽいのをやってみたそうな。
 水玉螢之丞さんも、SFマガジンだったかで『鉄腕アトム』のアトムが故障したり壊れるシーンが実に色っぽいなどと書いていた記憶がある。

 私の知り合いでは小学生のころにウルトラマン(それとも仮面ライダーだったろうか)が怪獣にやられる場面にひどく興奮したという例がある。
 ひょっとしたら、今テレビでやっている平成ウルトラマンを見ている全国のちびっこ達の中にも、戦闘場面で性の芽生えを感じている子がいるかも知れない。

 けしからんとか、そういうのではなく。
 人間というのはもとよりそういうものなのだと思う。

02月17日

■本日の読書:『馬車の文化史』本城靖久
 たとえば塩野七生さんの『ローマ人の物語』は公平中立をうたってはいない。
 あれはいろいろな意味でローマ人に(特にカエサルなどに)肩入れをして書かれた本だ。だからこそ面白いのである。
 何やら醒めたような、物の分かったような、大所高所から見下すかのような。
 私はそんな本はまっぴらごめんである。

 そういう視点からすると、この本もなかなかに楽しい。
 たとえば、18世紀イギリスにおけるとある宿屋『赤獅子亭』が、フランス貴族に対し、むちゃくちゃ宿代を高くふっかけて顰蹙をかった事件について書いてある部分など。
 その事件が流布したせいで客足が遠のいて、宿屋は廃業となったとあり。最後に

『まことにいい気味である』

 とある。

 私はこういう描写を読むと思わず笑みがこぼれる。18世紀の宿屋のオヤジがあこぎだろうがなんだろうが、本城先生に何か害をおよぼしたわけでもあるまい。だが、宿のオヤジの悪行に「腹を立て」そして自業自得の結果になったことに「溜飲が下がる」思いをいだくというのは、これらを自分と同じ人間の所業だと思えばこそであろう。
 他にも、カサノヴァ、モーツァルト、マーク・トウェーンなどの旅についても書かれており、随所で彼らが記した言葉が引用されていて面白い。

02月18日

■本日の読書:『ロン先生の虫眼鏡』光瀬龍
 私が敬愛するSF作家は数多いが、分けても光瀬龍さんは、その中でも特別な位置にいる。

 『東キャナル市』

 この単語ひとつで、私の心は、茫漠たる赤い惑星へと飛翔する。
 たとえば英米のSFにも長い時の果ての無常を書いた作品は数多い。だが、そこにはどこか乾いた、人間を突き放すかのような冷徹さがある。
 しかし、光瀬龍さんの未来史にある、なんともいいようのない寂寥の感、長い道のりを歩き歩いて、疲れきって、それでも一歩を踏み出していくような――そういう、我が事であるかのような滅びの感覚は、やはり独特のものなのである。

 で、本書であるがSFではない。ロン先生こと光瀬龍さんが観察した、さまざまな生き物たちについてのエッセイである。

 なぜにこの本を本棚から引っ張り出したかというと、金魚についての話を読み直すためである。
 というのも、『悪魔のハンマー』というニーヴン&パーネルの傑作SFがあるのだが、これには家で飼っている金魚が天災(彗星の激突)によって引き起こされた洪水によって水槽から自由の身になるや、巨大化してゆうゆうと野生を満喫している、という描写があるのだ。
 それでは実際に金魚を自然の沼に放してみるとどうなるだろうか?

 光瀬龍さんは準備を整え、新宿発松本行きのアルプス2号に乗ると、韮崎から鳳凰三山をのぞむ低い山襞にある地元の人が明神池という小さな池に行き、大きなリュウキンを放してやり、その後を追う。

 水深三十センチほどのイのおいしげった浅瀬をようやく抜け出してようやく深い方へ向かおうとしたかの女の五十センチほど前方のイの枯株に一匹のタガメがひそんでいたのだ。(中略)この凶漢タガメの兄貴がお姫さまのゆくてに身をひそめていた!
 それとは知らぬかの女はひらひら、ひらひらまことに優雅なものだ。タガメがわずかに動いた。そろそろと体の位置を変える。(中略)そのとき、とつぜんタガメが動いた。不器用にイの古株をつかんでいた肢が見ちがえるように素早く水をかいた。扁平な体が潜航艇のようにまっしぐらに水中をすべると背後からリュウキンの上にのしかかっていった。ぱっとどろがわき上がり、長い尾がひるがえったときにはタガメはふたつのかまと四本の肢でしっかりとかの女をとらえていた。

 というわけで、あっけなくタガメの兄貴の毒牙にリュウキンのお姫様はかかってしまう。
 後になってやった実験でも水鳥にあっさりと餌食になる。

 このリュウキンと、ニーヴン&パーネルの描写したところの金魚とが違う物なのか。それとも日本のタガメに比べてアメリカのgiant water bugはおとなしいのか。
 真実は不明であるが、こういうのは無理に正解を求める必要はないのである。

02月19日

■ローマ:トータル・ウォー ファラオ編その5)神の道化芝居
 ギリシア滅亡!
 朗報はエジプト全土に広がった。
 全土といってもかなり広い。今やプトレマイオス朝エジプトはナイルデルタだけでなくシリア、アラビア、ペルシア、小アジアまでを版図におさめる一大帝国に成長していたのである。これはアレクサンドロス大王に征服されるまでのペルシア帝国に匹敵する。

「やれやれだな」

 ファラオ、アレクサンドロス――かつての大王と同じ名前――は捷報を小アジアのイオニアで聞いた。これでエジプトの敵国はカスピ海の北、中央アジアに陣取るパルティア王国だけとなった。こちらから戦争をふっかけない限り、当面は平和が訪れる。

「キプロス、ロードス、クレタの三島を我が国が押さえた今、海上の交易だけで巨万の富が手に入るようになった。ゆるりと国力を高めていけばおのずと地中海世界の覇権は我がエジプトの物となるだろう」

 しかし、その考えが甘いことをエジプトはすぐに思い知らされることになる。

「なにっ?! ローマ軍がっ?!」

 ギリシア滅亡から一年もたたないうちに、ローマ共和国はそれまで結んでいた友好条約のすべてを一方的に破棄し、エジプトに宣戦布告してきたのだ。
 ギリシアにあるエジプト領スパルタを、十重二十重にローマのブルトゥス一門が囲む。
ローマ軍の裏切り
「おのれ恥知らずのローマ人め。すぐにギリシア遠征軍のラモセ将軍に命じてスパルタの守りを固めよ!」
「ラモセ将軍は亡くなりました」
「なにっ?!」
「暗殺です」
「くっ、ならば副将のディオニソス将軍に――」
「ディオニソス将軍も、死亡されました。やはり暗殺者の手にかかり……」
「?!」

 今度こそファラオは絶句した。

 詳細が知らされたのは次の使者からであった。
 スパルタ陥落の後、ローマ軍がスパルタの城門までやってきた。名目はギリシア滅亡の祝いであったが、ローマ軍は臨戦態勢でいかにも物々しい。
 むろん、エジプト軍のラモセも歴戦の宿将である。スパルタ陥落後すぐに戦闘でいたんだ城壁の修理を行っており、隙は見せない。
 すると、ローマ軍は大きな木馬を引き出してきた。

「木馬だと?」
「は、おそらくはトロイの故事を真似たものではないかと」
「ふむ」

 ラモセは木馬を城内に入れた。そして、兵で囲んだ上で内部をあらためた。

「やや、これは」

 木馬の中には人がいた。だが、トロイの木馬のように武装したギリシア兵がいたわけではない。中にはギリシアの美女が入っていたのである。そしてワインの樽も。

「ほう、これはこれは」
「ローマにも諧謔を心得た者がおるようですな」
「なかなか気に入ったぞ」

 その夜、ラモセは木馬に入っていたギリシア美女と同衾し――翌朝、死体となって発見された。
 副将のディオニソス将軍も、戦闘指揮所内で殺されていた。
 そしてギリシア美女と、その召使い――実はその召使いこそが暗殺者であったのだが――はまんまと混乱に乗じて姿をくらましていた。

「してやられたかっ」

 ギリシアを滅ぼし、ローマと国境を接すると戦争になるやも知れぬ。そこまでは想定されていた。だからこそ、エジプトはすでにろくな兵力もないスパルタを攻めるためだけにふたりの有能な将軍を送り込んでいたのだ。
 こちらが隙を見せねば、ローマとて無理はすまい。
 そういう想定であったのだ。
 ファラオはそれが糖蜜のごとく甘い考えであったと思い知らされ、歯がみした。

「残された兵ではスパルタ防衛はままなりませぬ。すぐさま小アジアから援軍を送りましょう」
「うむ――いや、待て。待て」

 すでにエジプトはローマの術中にはまっている。
 この状況で小アジアに置いた手持ちの兵力を投入した場合、エジプトは行動の自由を完全に失う。スパルタを守りきるか、あるいは失うかするまで、ひたすらギリシアに援軍を送り続けるしかなくなるのだ。
 制海権も定かでない状況で、それはまずい。

「まず沿岸地域の防備を固めよ。そして予備部隊をアンティオキアに送れ――装備を更新するのだ」
「それでは間に合いませぬ! ここは一刻も早い救援を送るべきです」
「どちらにせよ、もはや間に合いはせぬ」
「しかし――」
「間に合うようならそれは罠だ。こちらを泥沼の消耗戦に引きずり込むためのな」

 アレクサンドロスは苦渋の決断をくだした。
 えりすぐりのギリシア遠征軍を見捨てるという決断を。

「ローマと戦うのであれば、正面から戦って勝てるだけの条件を整えてからだ。アンティオキアの兵器工廠で装備をそろえ、海軍を増強して東地中海の制海権を掌握し、それからだ。それから」

 これより2年後、アレクサンドロスは小アジアで死亡する。まだ50代の若さであったため、すわこれも暗殺者のしわざかと思われたが、過労により体をこわしたためであると分かった。

 そしてその1年後。
ギリシア遠征軍壊滅
 ローマの重囲を3年にわたって防ぎ続けたエジプトのギリシア遠征軍がついに壊滅。
 エジプトはギリシアにおける橋頭堡を失った。

02月20日

 『馬車の文化史』がらみであるが、馬車を最終的に駆逐したのは鉄道と自動車であった。
 そのあたりを『くまたん』番外編でまとめてみよう。

「そういえば、祐介って車とかに興味ないの?」
「ん〜、タケコプターなら興味があるが、車じゃあなぁ」
「ものぐさー」
「本当のものぐさならどこでもドアしか使わないって」
「くまたんは?」
「猫バスなら乗ったことがあるのじゃ」
「猫バス? えーと、もののけ姫だっけ?」
「ちょっと違うのじゃ」
「今は自動車が社会的なステータスのひとつだけど、昔は馬車がそうだったようだな。スポーティーな二輪で軽いのとか、頑丈で豪華な四輪で六頭立てとか」
「社会的なすていたすなら人力車がいいのじゃ。ムチをふるうのじゃ」
「混ざってる混ざってる」
「最初の自動車は……お、けっこう古いな。1769年、18世紀だ」
「え? そんなに古いの?」
「うん。フランス人のニコラス・ジョセフ・キュニョーという人が発明したらしい」
「巨乳?」
「おっぱいは大きい方がいいのじゃ」
「名前の通り、なんでも先祖代々、巨乳好きの家系だったらしい。で、ある時付き合っていた娘さんが成長期だったんだろう、サイズが小さい服に胸を押し込めていたのがついに……」
「ついに?」
「ついに、内圧に抗しきれなくなって弾けた。その一部始終を見ていたキュニョーは『これだっ』と思って高圧のボイラーによる蒸気機関を車の動力に利用することを考えついた」
「芸は身をたすくなのじゃー」
「好きこそものの上手なれ、じゃないかしら?」
「どっちも違う。で、作ったのが史上最初の三輪蒸気自動車。時速3.5km……えらく遅いな」
「歩くより遅いわよ」
「えーとなになに、唯一の欠点は、15分ごとにボイラーに水をくんでやらないといけなかった……とあるな」
「唯一の?」
「欠点だらけなのじゃー」
「いずれにしても自動車が馬車を駆逐するのは20世紀に入ってからだ。それこそヘンリー・フォードが安くて誰でも乗れる自家用車を量産してから。それができたのはガソリンエンジンあればこそだ。石炭が主な燃料だった時代の主力はやはり機関車だろう」
「車には興味ないのに、機関車には興味あるのね」
「男の子にとって、機関車は恐竜とならんで図鑑の人気の上位だからな」
「なら恐竜と機関車を一緒にすると人気爆発なのじゃ」
「一緒にって……恐竜戦車?」

 恐竜戦車(Dino-tank):
 身長60m。体重7万t。
 ウルトラセブン第28話「700キロを突っ走れ!」に登場。
 キル星人が作った怪獣兵器。恐竜(怪獣)がでかい戦車にちょこんと乗っかっている。

「それはどうだろうか」
「でも機関車が出来ても馬車はなくならなかったのよね」
「なくなった馬車もある。長距離を走る駅馬車のようなのは鉄道が敷設されると速度でも運賃でも太刀打ちできなくなった。でも、馬車では高くて使えなかった人々が、機関車でなら旅ができるようになったので、旅行者はむしろ圧倒的に増えたんだ」
「それと馬車が何か関係あるの?」
「駅まで、あるいは駅から移動する方法が必要だろ」
「あ、そっか」
「そういうわけで、短距離を移動するための馬車はむしろ増えたんだ」
「そういえばシャーロック・ホームズもしょっちゅう馬車を利用してるわね」
「ホームズは自動車なのじゃー」
「いや、それは宮崎駿さんの趣味。実際には使ってない」
「架空の人に実際も何もない気もするけど」
「そんなことをいうと、シャーロキアンという人たちが悲しむからやめろ」
「でも馬車も一度乗ってみたいわよね」
「乗り物にのるのはわくわくするのじゃ」
「じゃあ、せっかくだし、遊園地に行って何か乗り物にのろうよ」
「それはいい考えなのじゃー」
「なぜ『じゃあ』でなぜ『せっかく』なんだ?」
「そういう細かいことは気にしない」
「うむ、どっしり構えるのじゃ」
「いや、そういう問題ではないと思うんだが」
「祐介も好きな列車に乗るのじゃー」
「お猿の列車か?」
「ジェットコースター」
「いやそれ全然列車じゃないし。俺はああいう騒がしいのは、おい、こら、引っ張るなってば」

 続きは本編で……?

02月21日

■ローマ:トータル・ウォー ファラオ編その6)神の都の物語
 アンティオキア。
 かつてセレウコス朝シリアの首都であったこの町は、今やエジプトの兵器工廠となっていた。
 各地で編成されたエジプト軍は、このアンティオキアにおいて装備を調え、前線である小アジア、そしてギリシア方面へと出撃していったのだ。
 アンティオキアがそのような役割を担ったのはこの地に鍛冶の神、ヘパイストスに捧げられた大神殿があったためである。

 少し話はずれるが、この時期のプトレマイオス朝エジプトにおける守護神はオシリスでもアヌビスでも、ましてやバステトでもなく、インホテップであった。

 インホテップ――

 なんとなく、SANの下がりそうな名前であるが、這い寄る混沌の黒いヒトとはまったく関係がない。医学と健康の神で、これを祭ると健康にプラスのボーナスがつく。
 なぜこんなマイナーな神(エジプトの神話に詳しくなければこの神の名前を知っている人は少ないだろう。それこそ、日本では黒いヒトの方が知名度は高いのではないか)を祭っているかというと、ぶっちゃけこの健康ボーナスゆえである。

 ローマは都市の規模にあわせて衛生施設が四段階にレベルアップする。

 [下水道]→[公衆浴場]→[水道橋]→[都市の水道管]

 だが、エジプトが建造できるのは[公衆浴場]まで。すなわち2段階である。都市の衛生面ではローマに大きく劣る。衛生施設をあなどってはいけない。ローマ:トータル・ウォーでは人口がふくれあがった都市はすべからくこの衛生面での不満を住民がいだくようになるのである。
 だから、エジプトではマイナーだろうが、邪神と名前が似ていようが、インホテップ神を守護神として各都市では祭っていたのである。
 他の国の領土を征服したときも、東方やギリシアの神が祭ってある地元の神殿はたちまちたたき壊されるか郊外へ移転してインホテップの神殿が建立された。

 だが、アンティオキアが占領された時、ヘパイストスの神殿はそのままに残された。これは占領した時のファラオが軍神メリュレであった事と関係が深い。メリュレにとっては都市の住民が健康で満足しているかどうかよりも(むろん彼は兵士の健康には十分に気をつかっていたが)戦争にどのくらい役に立つかが重要であったからである。
 そして鍛冶の神ヘパイストスの大神殿による武器防具のボーナスはメリュレを大いに満足させた。アンティオキアで作られる武具はエジプトのどの都市で作られるものよりも優れていたからである。

 また地の利もよかった。アンティオキアはシリアの首都であった事が示すように戦略上の要地にあり、エジプトがどちらへ侵攻するにしても中継拠点とするのにふさわしい町であった。
 だから、各地で集められた兵士はこのアンティオキアで武具を整え、最前線に送られたのである。

 ローマとの全面戦争に突入したエジプトにとって、高品質の武具は何よりも重要であった。戦術における洗練度でアレクサンドロスの衣鉢を継ぐヘレニズム諸国はローマを上回っていたが、この時期のローマ軍が持つ軍事システムのバランスはそれを凌駕していた。
 それは二正面作戦という不利があったとはいえ、ギリシアがローマに本土を蹂躙された事からも明らかである。
 これと対決するエジプト軍にはより強力な部隊(ユニット)を編成するという選択肢もあったのだが――それは行われなかった。
 エジプトは、ひたすらこれまで通りナイル槍兵と大弓兵による歩兵主力の軍を訓練し続けたのである。これはすべての軍を均質化しようというエジプトの戦略方針に基づいている。

 戦いに負けるにはふたつの理由がある。
 ひとつは、敵が想定していたよりも強かった。これはどんな場合でも起こりえる。完全に防ぐことはできない。
 もうひとつは、味方が思っていたよりも弱かった、あるいは思うように動かなかったためである。こちらは防ぐことが可能だ。自軍の戦力を指揮官が読み違えないようにすればいいのである。
 部隊が均質化していれば、それが可能なのだ。

 そういうわけで、対ローマにおける緒戦の大敗北の後も、エジプト軍は頑固に自軍の編成を変えようとはしなかった。ただ、兵士の装備を良くする努力だけは怠らないようにしたのである。

 だが、軍を再編成するだけではローマに勝つことはできない。
 ローマに勝利するにはどうしてもやらねばならない事があった。
 かつてギリシア遠征軍が敗北した最大の原因――暗殺者を取り除くという難事が。

02月22日

■短編小説:『鉄の時代』
 昨夜、チャットで次の新商品を提案した。

アカガネ・ティー
 紅茶に砂糖の代わりにマヨネーズをたっぷり入れたもの


 そして誰か実際にこの紅茶(?)を飲んでみるように薦めたのだ。
 しかしまさか、本当に飲む人間が現れるとは思わなかったわい。
 その勇敢な青年の名前は不観樹君である。
 彼の心意気に報いるため、私は構想3分執筆1時間で何か書いてやろうと持ちかけた。
 彼のリクエストは――

[fukaTypeU] では、金属とセラミックのやおい物をひとつお願いします>銅さん

 よろしい。受けて立とうではないか。
 というわけで書いたのがローマ:トータル・ウォー外伝『鉄の時代』である。
 現在のファラオプレイの一場面と思っていただきたい。

■本日の読書:『血闘絶対国防圏 反撃の巻』吉田親司
 巫女メイド架空戦記完結編。
 昨年の11月26日の日記に上巻の読了報告がある。

 サイパンの戦いだけでは戦争は終わらなかった。
 さらなる戦いの場を台湾に移動し、戦争はさらにヒートアップする。
 あちこちのお遊びが楽しい物語である。
 シャーロック・ホームズと同じ薬物を愛好するようになったハルゼー提督など、最後の方ではほとんどバイオハザードに出てくるボスキャラに近い。尻に巫女さんが投擲した鉾先舞鈴をぶっすりと刺したまま、猿のごとく壁をよじのぼっていく光景はほとんどホラー映画である。
 他にも本書では、これまで架空戦記ではあまりお目にかかれなかったたいへんレア度の高い戦闘場面がてんこもりである。
 幾つか例をあげよう。

・日本刀でスプールアンス提督の首をはねとばす南雲提督
・メイド第82軍団(レギオン)による、騎兵に対するパイクを使ったファランクス(槍衾)攻撃
・大型巡洋艦〈アラスカ〉と撃ちあう、自走砲〈エレファント〉
・反射望遠鏡の鏡筒を伝ってしゃかしゃかと蜘蛛のごとく迫り来るハルゼー提督を、破魔弓で射抜く巫女さん(「ビューティーセレインアロー、マジカルシュートッ!」)

 さて、上巻の日記で予測した内容であるが、当たりはずれは以下の通り。

・木星の太陽化はマイクロブラックホールによる→×
・木星は重力崩壊により大爆発を起こし、太陽系全域にガス星雲が広がる→×
・戦争はそのガス星雲による電波障害により終結する→×

 なんと、全部大はずれである。
 ではどうなったのかというと……それは読んでのお楽しみとしよう。
 私にはたいへん面白かった事だけは保証する。

02月23日

■本日の読書:『朝日百科世界の歴史 金属との出会い』
 アバロンヒルの『文明の曙』というゲームでは、それぞれのプレイヤーが石器時代から青銅器時代をへて鉄器時代へと受け持ちの文明を進化させていき、最初にゴールしたものが勝ちである。
 そういうわけなので、ゲーマーの脳裏には文明というものは石→青銅→鉄→ガンダリウム合金という進化の流れが刻み込まれている。
 だが実際にはこの流れが固定というわけではないというのが現在の歴史における考え方のようだ。特にエジプト以外のアフリカでは中東から技術が伝播したのか、石器の次にいきなり完成された鉄器の文明へと進化している。

 これもゲームの話であるがダマスカス鋼(ウーツ鋼)の剣というのは武器の数を多くする必要に迫られているコンピュータのRPGでしばしば良質の武器として登場する。何しろ、コンピュータRPGは『文明の曙』的に「どうのつるぎ」あたりから始まって「てつのつるぎ」「はがねのつるぎ」という具合に、素材によって強さが何段階も細かく分かれている。ここでオリジナル設定な素材をたくさん出してもそりゃかまわないが、できれば現実にあるものの方がそれっぽくていいというのは設定屋なら誰もが考えることであろう。
 そのダマスカス鋼(ウーツ鋼)は、十字軍遠征でヨーロッパの騎士達の知るところになり、その強靱さは「無数の曲がりくねった線の模様」(『タリスマン』)、すなわち波紋の模様と共にあこがれとなったのである。

 さて、金属の使い方というと貨幣というものもある。
 紀元前3000年頃のメソポタミアでは支払いに銀を用いたという記録が残されており、これが今のところほぼ最古の金属による支払いの証拠である。だが、この場合の銀はあくまで金属資源としての物々交換で貨幣というわけではない。
 鋳造貨幣は紀元前700年頃に小アジアで造幣されたらしく、アッシリア帝国の王の碑文に、青銅貨幣の鋳造の話がある。
 それとこれは野七生さんの『ローマ人の物語』などでも紹介されていて広く知られているが、サラリーマンの「サラリー」という言葉の語源は、ローマ兵が給与としてサラリウムというの配給を受けたというのが元となっている。

 『知の教団』というとなんか、ルーンクェストか何かそういうRPGっぽいのであるが、現実にそういうのを作ったのがピュタゴラス(ピタゴラス)である。
 「ピュタゴラスの定理:直角三角形の斜辺を一辺とする正方形の面積は,他の二辺を一辺とする正方形の面積の和に等しい」は、現代でも義務教育で教える定理のひとつである。
 言葉で書くとなんかわかりにくいな。図にしよう。
ピタゴラスの定理
 ピュタゴラス教団は論理を極めれば魂が解脱するという教えで、まあ、平たくいうと「調和が取れるとすっきりとして美しくて幸せ」なわけである。現代でも数学好きの人は、なぜ数学が好きかというとこの調和の美しさに魅せられることが多く、なるほど人間というのは基本的には何も変わってはおらんなぁと思うしだいである。

 1500度。
 純鉄の融点が1535度であるから、この1500度という高温を出せるかどうかが、鉄の利用におけるひとつの基準となっている。なお銅は1084度で比べるとだいぶ低い。
 何しろ、量そのもで言うのならば、鉄は金属資源の中ではかなり多く存在する。地殻の中にもっとも多く存在するのは酸素(重量比で49.5%)で、珪素(25.8%)が次ぐが、鉄だって4.7%もあるのだ。
 だが、高温をもって処理しないと鉄は錬鉄(鍛鉄)という半溶融状態で使用するしかない。
 むろん抜け道はあって、鋳物を作るその名も鋳鉄では炭素などの不純物が多い(2%〜)ので凝固点降下を起こしていて融点が低く扱いやすい。
 しかしやはり、鋼(こう)こそが鉄の中の鉄である。この鋼をいかに作るかで、人々はさまざまな工夫をこらしてきたのだ。

02月24日

■本日の読書:『未来世界から来た男』ブレドリック・ブラウン
 本書は、翻訳された初版の発行が私の生まれる前の年度の1963年(昭和38年)の短編集で、私の手元にあるのは1976年発行の第40版である。
 このことからも、フレドリック・ブラウンが日本のSFファンにたいそう人気が高い作家であることはおわかりいただけるかと思う。
 人気の秘密はなんだろうか?
 短編なので、分析も簡単である。連作ショートショートを引っ張り出してみよう。「〜の悪夢」である。
 それぞれ文庫本でわずか2頁だ。

「灰色の悪夢」
 ちょっと居眠りをした男は、さわやかな気分で目覚める。
 これから恋人に結婚を申し込むのだ! 意気揚々と彼女の家にいくと、彼女そっくりの女性が、すごくとまどったかのように対応する。
 実は――あれから50年が経過していたのだ。

「緑色の悪夢」
 男は、断固たる決意で目覚める。
 これから妻に離婚を申し込むのだ! 肉体的にも知的にも、そして仕事の面などのあらゆる面で彼よりはるかに優れた妻と一緒にいては自分はダメになってしまう。昨夜、この家に泊まりにきた妻の友人で可憐で控えめな娘の存在が、男にそれを決意させた。そうだ、自分にはああいう娘こそがふさわしい。あらゆる面で妻には敗北しつづけたが、今度こそ勝利せねば――
 意気込む男に、妻が言う。
「わかれましょうあなた。実は私と彼女(可憐で控えめな娘)は愛し合っているのよ」

「白色の悪夢」
 深夜、暗闇の中で男は半分寝ぼけたまま目覚める。
 ハネムーンの最終日。男はひとりでソファの上で寝ていた。彼をかわいがってくれていたひとり暮らしの姉が、どうしても自分のところで一泊しろというのだ。よって、妻と姉がベッドを使い、男はソファで寝ることになった。
 だが、深夜になり女性がソファに寝る男のところへ忍んできたのだ。
 言葉はいらない。新婚なのだから。
 そしてコトが終わった後、とつぜん部屋に灯りがつく。
 ドアの入り口には恐怖に立ちつくす妻の姿が――

「青色の悪夢」
 山荘での朝、男は幼い息子に起こされて目覚める。
 息子は朝の探検で、近くの湖に行こうという。男は泳げないが息子は泳ぎを覚えたばかりで元気いっぱいだ。妻は泳ぎが得意だがまだ寝ている。
 湖で、男がちょっと目を離したすきに岸からかなり離れた場所まで泳いでいった息子がおぼれはじめる。すぐに助けに――いや、泳げない自分では息子を助けられない。
 男は、飛び込みたくなるのをぐっとこらえて山荘に眠る妻のところへ駆ける。
 飛び起きた妻が泉に飛び込んで息子のところへ泳ぐが、すでに息子は死んでいた。
 妻が息子の身体をかかえて岸へ戻ろうとした時に、恐怖が男と妻を襲う。
 湖は遠浅で、息子がおぼれた場所は水深が1mもなかったのだ。

「黄色の悪夢」
 時計のベルで男は目覚める。
 時間きっかりである。ちょうど40年前のこの日の8時46分に男は生まれた。そして、今日の8時46分に再び生まれ変わる。妻を殺し、二度目の人生に出発するのだ。
 計画は一分の隙もなく作られた。8時46分ちょうどになれば――
 だが、誕生日を祝うために妻と外出した男は、妻が玄関の前で時計を気にしながら微妙にもたつくので焦る。とにかく、1分も遅らせたくない。ちょうど誕生日の誕生時刻にこそ、妻を殺すつもりだったからだ。しかたがないので玄関の外で男は妻を殺し、時間ちょうどに妻の死体を抱いて家に入る。
 クラッカーが鳴らされた。友人達一同が、時間ちょうどに彼の誕生日を祝うために家の中に隠れていたのだ。

 もうおわかりかと思うが、ネタそのものが格別に優れているわけではない。
 どちらかというと、こういう話を好む人間であれば途中で展開が読める、その程度である。だがそれでかまわないのだ。何せ2ページである。
 ポイントはやはり、リズムと語り口調にあるのだ。それこそが、ショートショートを生かすための技法なのである。

 いやそれにしても面白い。
 面白いのではあるが。
 こういうのを捨てずに残すから、私の本棚は毎月のように資源ゴミに大量に送り込んでも常にあっぷあっぷなのである。

02月25日

■ローマ:トータル・ウォー ファラオ編その7)神の目の小さな塵
 アテネの町は、陰気に静まりかえっていた。
 この古き都がペルシア戦争における勝利の後、デロス同盟の盟主としてギリシアに君臨したのはもう3世紀も前の話だ。
 その後マケドニアの覇権の後、今度はローマがギリシアの上に君臨するようになった。
 それで終わるのであれば、ギリシア人としては覇権国家としての義務をローマ人に任せて、その下で文化と経済の充実に目を向けられたのであるが。
 どうやらそのローマの覇権も怪しくなってきたようである。

 長城でつながった港に目を向けると、そこには何隻もの船が帆を畳みオールを上げた状態で停泊している。
 それが積み込むべきワインをはじめとした荷物は倉庫でむなしく日々を過ごしている。
 海の男たちは諦めの混じった顔で、美しいエーゲ海を見る。
 嵐ではない。
 風待ちでもない。
 船が出港できないのは、彼らの視線の先に遊弋している艦隊のせいだった。
 ひるがえる旗はファラオの紋所だ。
 ギリシア諸都市は、東地中海最大の海軍国となったエジプトによる海上封鎖を受けていたのである。

「これは予想外でゴザるな」
 犬耳の娘は出港できずに昼間から船乗りがたむろしている酒場からでてきて言った。短いスカートにくりぬかれた穴から伸びているしっぽをぱたぱたと振る。
「小アジアに渡れないと依頼された仕事ができないでゴザるよ」
 この犬娘は暗殺者であった。
 ローマ:トータル・ウォーでは暗殺者の仕事はふたとおり存在する。
 殺すか、壊すか。
 彼女が請け負っていたのは殺しであった。依頼人はローマ最大の権門、ブルトゥス家である。ターゲットは小アジアの都市にいるエジプトの将軍である。
 彼女だけではない。現在、多くの暗殺者がローマに雇われてエジプトの将軍を狙っていた。
 しかし、いかに凄腕の暗殺者でも、相手が海の向こうではさすがに仕事ができない。
「黒海をぐるりと回れば歩いてエジプト領へ入ることはできるのでゴザるが……何年かかるかわかったものではないでゴザるよ」
 これがシーン制のRPGなら[登場判定]に成功すればどんなに離れていても瞬時にその場に登場でき、さらに過去にさかのぼって「なぜそこにいるのか」の整合性を取ることができるのに……
「毛唐の作るゲームはそのへんが面倒くさいのでゴザるよ」
 毛唐どころか、この世界の住人でもないくせに犬娘はえらそうに批評した。
「しかし自爆はできないが、暗殺者というのは良い職業でゴザる」
 ローマ:トータル・ウォーにおいて暗殺の効果は絶大である。
 絶大なのだが――これに対処する方法はきわめて限られているのだ。

 強大な軍事力も、暗殺者には無力だ。暗殺者を軍ユニットで討伐することはできない。ターゲットとして暗殺者を選ぶことができないのだ。

 莫大な財宝も、雄弁な言葉も、暗殺者を止めることはできない。金と言葉で戦わずして軍隊を解散させ、都市を寝返らせることができる外交官も、ターゲットとして暗殺者を選ぶことができないのだ。

 暗殺のターゲットとなるであろう将軍達にできるのは、あくまで受動的な対応だけである。将軍が持つ[特徴]や[従者]によって、あるいは指揮下にあるユニットの数によって、暗殺される確率を下げることはできる。だがそれは暗殺されそうになった時に防ぐ可能性を上げるだけで、サイコロを振るのはあくまで暗殺者の側なのである。

 プレイヤーにできる暗殺の危険をゼロにする唯一の方法は、暗殺者の移動可能エリアに将軍を置かない、これだけである。
 間に海があり、港湾をエジプト海軍が封鎖している現在の状態は、だから安全という意味ではたいへん安全なのである。
 とはいえ、そのままというわけにはいかない。
「小アジアでは大勢のエジプト軍が出撃準備を整えているという噂を聞きつけたでゴザる。もうすぐ仕事にとりかかれるでゴザる」
 犬娘はほくそえんで海上に浮かぶエジプトの軍艦を見た。
 そこにちかり、と白い光が見えた。

 ぼっ。

 笑顔の真ん中に、丸い穴があいた。続いて、後頭部が破裂し、白いのやら赤いのやらが吹き出す。
「お?」
 笑顔のまま、犬娘はばったりと倒れた。
 たーん、たーん、たーん、たーん……
 しばらくして追いついてきた音が周囲に木霊した。

「やったっ! 命中した!」
 軍艦の上で、頭に見事なアホ毛をつけた少女が手にしたライフル銃を持って大喜びしていた。
「いや、この場合ライフルって……ありなのか? 今はまだ紀元前2世紀なんだけど」
 幼馴染みの少年が、心配そうに言う。
「そうねー。リプレイ2巻まで使っていたマスケット銃の方がよかったかしら」
「この場合、マスケット銃も同じだと思う……やはり僕がやった方が世界観の整合性はとれたんじゃないかなぁ」
 手にした愛用のカタナ、菊一文字を手にして少年が過ぎたことをぐだぐだと言う。

 どっちもどっちである。

「細かいことを気にしないの。さ、次の暗殺のターゲットの暗殺者は誰?」

 そうなのである。
 ローマ:トータル・ウォーでは歴戦の将軍も練達の外交官も腕利きのスパイも暗殺者をどうこうすることはできないのだが――

 暗殺者だけは、暗殺者をターゲットに暗殺というアクションが可能なのだ。

 かくして――
 エジプトはファラオ暗殺兵団を編成。彼らはエジプト軍が上陸する前に密かにギリシアの地へ上陸するや、次々とローマ側の暗殺者に攻撃を開始したのである。
 歴史に語られぬ、闇の者と闇の者の戦いが、ギリシアを舞台に繰り広げられたのだ。

02月26日

■本日の読書:『アリアンロッド・リプレイ3 金色の鍵の英雄』菊池たけし/F.E.A.R.
 昨日のローマ:トータル・ウォーのプレイレポートを読んで不思議に思われた方も多いと思う。ローマ:トータル・ウォーをプレイする人とはだいぶ違うところからネタを引っ張ってきたので。
 それがこの『アリアンロッド・リプレイ』である。犬娘はこのリプレイに登場するベネット、ライフルを使ってベネットを狙撃したのはアムである。その幼馴染みで菊一文字を持っていたのはエイジだ。

 さて、このリプレイでは5人編成のパーティーとなっているが、大きく分けると次のようになる。

前衛:エイジ:白兵攻撃
前衛:シグ:防御と回復
後衛:アム:射撃攻撃と回復
後衛:フェルシア:魔法攻撃
後衛:ベネット:射撃攻撃

 前衛2人、後衛3人であるが、レベルアップが進むにつれてそれぞれは高度に専門化されている。フェルシアがいみじくも言うように

フェルシア:誰かひとりでも倒れたら、戦闘力はがた落ち。いろいろ機能しなくなる(笑)。

 のである。
 思えば――
 日本でRPGがプレイされるようになった20年ほど前は、こういうパーティー編成は一般的でなかったように思う。
 たとえばトラベラーでは……ああいや、トラベラーは置いておこうか

 ともかく、戦闘における機能分担はあまり進んでいなかった。少なくともどのキャラクターも可能であれば防御できるように重点を置いていた。全員がそろって戦闘できるとは限らないし(しばしば分断されて別々の場所で戦闘させられたりしたし、登場できずに漫画を読んでいることも多かった)ゲームマスターも、こういう編成を嫌っていた。ルールがプレイヤーが提案する戦術に対応しきれない事が多かったからである。

 個人単位でもそれなりに戦闘ないし状況に対応できるよう――そういう風にキャラクターは成長させていたのだ。

 しかし、時代は変化している。このアリアンロッド・リプレイのように役割を分担した上でそれがうまく機能するよう、戦闘システムが最初から構築されているゲームも増えてきた。

 これはたとえて言うのならば、むかしの戦争において平押しでとにかく兵士をぶつけあっていたのが、諸兵科連合(コンバインド・アームズ)というそれぞれの機能を持つ兵科をうまく利用するように戦術が進化したようなものである。

 たとえば、アレクサンドロス大王は、ファランクス隊形の歩兵、飛び道具の散兵、槍を持つ騎兵を組み合わせる戦術を駆使して数に勝るペルシア軍を圧倒した。彼の、ファランクス歩兵が戦列を支え、その背後や横合いから騎兵が突撃して殲滅するという方式は『金床と槌』として現代にまで残る戦術の基礎となっている。

 そういう意味では、RPGの戦闘システムもまた、連携が可能なように進化し続けているのであろう。

 ナニ? 究極の連携型戦闘システムであるT&Tはどうなのかだと?

 ……さらばだっ!(脱兎)

02月27日

■本日の読書:『朝日百科世界の歴史 かんがいと土木』
 家を建てる。
 堤防を築く。
 道路を敷設する。
 スペースコロニーを建造する。
 これらすべてに計算と測量が必要である。
 中国では紀元前5世紀に記された『書経』禹貢(うこう)編に伝説の王“禹”が水を治めたとある。この王は水の流れに逆らうように堤防を高く築いた父王の失敗を受け、水の流れに沿うかたちで運河を掘り、川の底を深くした。
 これらの土木作業には当然、測量と計算が用いられていたはずである。
 そして漢代〜唐代には『算経十書』という算数の本が出されている。これらの先進技術は仏教伝来と前後して日本にもわたってきた。
 江戸時代になり、17〜18世紀ころになると、ヨーロッパの天文学や三角法も伝来して日本では和算家が輩出し、測量術も長足の進歩をとげた。
 幕末の1852年(ペリー来航の前年)に出た『量地図説』(甲斐広永)の序論があるのだがこれが実に熱い。

 そもそも地方測量の術は、平地の遠近広狭を測る事はいうまでもなく、山岳の高低より渓谷の浅深まで、この数理に洩るるはあらず。
 或いは巨川を隔てし嶺上の樹頭、或は大海に浮かべる舟船の帆柱、足跡の至り難き所といえども、眼光の及ぶ限り、量り知らざるは無し。

 どうです。

 眼光の及ぶ限り――
 量り知らざるは無し――

 ですぜ? こう、文字の間から強烈な自負心が吹き出してくるかのようじゃあ、ありませんか。
 これこそが学問をする上において一番必要なんじゃないかと私は思う。特に教える側に。

「どうだ、こんな事が分かるんだぞ! すごいだろう!!」

 それが本当に万人にとってすごいというわけではないのは当然である。測量術とその元となる数学など、興味がない人だって大勢いるだろうし、そりゃそれでかまわない。だが何かを教え導くのであれば、その分野の学問がいかに面白いか、いかに役に立つか、いかにすごいものであるか。これをことあるごとにやはり、生徒にアピールせにゃならんのではないかと思う。
 「試験に出るから覚えておけ」では、はなから試験など捨ててかかっている人間には意味がない。私が高校時代にも、授業はへたくそでろくなもんじゃなかったが、その学問が大好きなのは間違いなく伝わってくる先生というのが何人かいて、私はそういう先生は今でも尊敬している。

 勉強は楽しい。何かを知るのはうれしい。
 学問の内容の妥当性についてうんぬんするよりもまずは、そのポイントを押さえておくべきであろうと思うのだ。

02月28日

■ローマ:トータル・ウォー ファラオ編その8)神の雷作戦
 闇の戦いが始まって数年。
 ギリシア本土からローマの暗殺集団は駆逐され、ファラオ暗殺兵団が闇の社会を支配した。
 装備の改編とアルメニア討伐も順調に行われ、いよいよ二度目のギリシア上陸作戦が行われることになる。

 主力は4個軍。
 各軍の編成は――

 ・槍歩兵×8
 ・弓兵×8
 ・軽騎兵×3
 ・将軍近衛騎兵×1

 当初は投石機(オナガー)を編成に入れてはどうかという意見も出たのだが、後方から重量のある投石機を運ぶ手間を考えて見送られた。ちなみに、史実においてはこういう攻城兵器はわざわざ遠方から運ぶのではなく、金属部品のみ運び、ほとんどを占める木材などのパーツは現地調達で、現場で組み立てていたものと考えられている。
 そらそうだわな。攻城兵器といっても、大砲じゃないんだから。

 ローマ軍を相手にした場合、機動力では圧倒的に劣るもののファランクス隊形が可能な槍歩兵の戦列はきわめて守りに強い。装備を更新した事と合わせると腹背に回り込まれない限りはかなりの戦果が期待できた。

 ファラオ神軍参謀本部では、上陸する4個軍をふたつに分け、A軍集団をアテネ近郊に上陸させ、B軍集団をその北側にある港町(現在のラミア)に上陸させてここにローマ軍を迎え撃つという『神の雷』作戦を立案した。
「神の雷」作戦
 この作戦の肝となるのは派手な攻城戦ではなくB軍集団による野戦築城にあった。柵を作り、壕をめぐらし、ローマ軍の機動力を削いで狭い戦闘正面における戦闘を強要するのだ。
 いかに戦力の増強をはかったとはいえ、ローマ軍と比較してエジプト軍は1/3以下の劣勢であり、これが海をこえての遠征となるとその差はさらに広がる。できるだけ少ない損害でローマ軍に回復不能な損害を与えるためには、地の理を生かす事がどうしても必要だった。

 外交――謀略の面でもできるだけの手だてが取られた。まだ暗殺者の排除を行っている時期からローマと敵対しているトラキアとブリタニアに外交官を派遣。両国に合計して3万デナリウスの軍資金が渡された。これは2個軍(40ユニット)を編成することが可能な大金である。
 こうした大金をぽん、と出せるようになったのも、うまみの大きい東地中海貿易をエジプト商船団が牛耳っているためである。
 それまでは防戦一方であった両国だが、この大金によって軍備の増強に成功。いきなり手強くなった両国に対処するためローマ軍の主力が北上し、ギリシア方面が手薄になった。

 そしてさらに、内政面でもここで大きな決断がくだされる。
 遷都である。
 これまでも歴代のファラオは長らく小アジアで転戦を続けていたりしたのだが、それでもそこは仮の玉座であり、王城は常に古き都、メンフィスであった。
 しかしついに東地中海の要衝ロードス島にファラオが都を移すことを発表。以後ますますプトレマイオス朝は海上貿易帝国にシフトするのである。

 こうして戦略面で打つべき手をすべて打ったエジプト軍は満を持して「神の雷」作戦を発動したのである。

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