■銅大の読書万歳(57)
作品名:邪馬台国はどこですか?
作者:鯨統一朗
出版:創元推理文庫
ISBN:4-488-42201-2

 邪馬台国はどこにあったか?
 大上段に構えると、喧嘩腰にならざるをえないこの話題。あれやこれやと史書や
ら古墳やら遺跡やらを引っ張り出してああだこうだとがなりあう羽目になる。

 それを酒場の馬鹿話にしてしまったところに、この作品の勝因がある。

 登場人物は四人。
 酒場のバーテンダーで、歴史には素人。読者視点をつとめてくれる松永。
 探偵役で、ひょうひょうとしたそぶりながら、切れ者の宮田六郎。
 その宮田と丁々発止の掛け合いをしながら物語を進行させる早乙女静香。
 宮田と静香の間に立ち、中立な立場で歴史の蘊蓄を補完する三谷教授。

 物語はこの四人が酒を飲み肴をつまんで(松永は出す立場であるが)歴史バトル
を繰り広げる形式をとっている。

 あれですな。ミステリとしては読書万歳弟18回で紹介した『黒後家蜘蛛の会』
にたいへん近い。ユーモア系で短編であるところも一緒だ。どうにも私はこういう
のに弱いらしい。

 扱われる歴史の題材がまたふるっている。一本ずつ紹介していこう。

■「悟りを開いたのはいつですか?」
 アジア圏を中心に広く信仰されている宗教、仏教。
 その仏教の開祖である仏陀はいつ悟りを開いたのか。
 宮田六郎は一刀両断に切って捨てる。
「仏陀は悟りを開いてなんかいないよ」
 おいおい、そりゃあちょっと待ってくれ。「仏」陀が悟りを開いたから「仏」教
なんじゃないのか?
 歴史バトル、開幕、開幕。

■「邪馬台国はどこですか?」
 三世紀に日本を代表する国家であったはずの邪馬台国。これがどこにあったのか
は、実はまだ分かっていない。
 まぁ大きく分けて九州説と機内説に分類され、今でもいろいろと本や学説が発表
されていたりなんかする。
 そこで宮田六郎が一言。
「邪馬台国は東北にあった」
 などとぬかすものだから、喧喧諤諤のおおさわぎ。

■「聖徳太子はだれですか?」
 かつて日本のお札にも印刷されていたほどの日本史上の代表人物、聖徳太子。
 小学生でも知っているこの人物に対しても宮田六郎は容赦がない。
「聖徳太子は架空の人物だった」
 はい? じゃあ法隆寺を建てたのはいったい誰なんだ?
 日本最古の史書の一つ、日本書紀に隠された真実に対し、宮田六郎が迫る。

■「謀反の動機はなんですか?」
 明智光秀の本能寺の変によって、織田信長は日本統一の寸前にその一生を終えた。
 突然とも言える、光秀謀反の理由は何か。
 その背後で、誰か別の人物がうごめいていたのではないか。
 しばしば取りざたされる陰謀説を歯牙にもかけずに宮田六郎。
「信長の死は自殺だった」
 そりゃなんぼなんでも突拍子すぎやしませんかー?!

■「維新が起きたのはなぜですか?」
 明治維新。
 Googleでこの単語で検索するといきなり56800件もヒットする近代日本の大
革命。
 坂本龍馬、西郷隆盛、高杉晋作などなど実に魅力的なキャラクターも勢揃いのこ
の明治維新。
 ちなみに私は大村益次郎が好きなんだけどね。「いやー今日は暑いですねー」と
挨拶されて「夏は暑いのが当たり前です」などと大まじめに答える天才軍略家なん
だけど。
 これら絢爛豪華な維新の元勲たちをさしおいて。宮田六郎が大まじめに、
「明治維新はたった一人の人物によって成し遂げられた」
 なんて言っちゃうもんだからまたまた話は盛り上がってくる。

■「奇跡はどのようになされたのですか?」
 えーと。
 さすがにこれはやばいんじゃないだろーか。
 なんといってもお題が十字軍やら宗教裁判やらで悪名高い(おい)キリスト教で
ある。
 しかも、その要とも言うべきイエスの復活である。
 たとえ信じてなくても黙っていればいいものを、宮田六郎は堂々と持論を展開す
る。
「イエスの復活は真実だった」
 だから黒い物も白と……は? 真実ですと?

 このように。
 いずれもひねりのきいた逸品ぞろい。あなたも登場人物たちと一緒に酒を飲みな
がら、歴史に思いをはせてみてはどうだろうか。


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