■銅大の読書万歳(54) 作品名:オスプレイ・メンアットアームズ・シリーズ 作者:たくさん/彩色画:たくさん 出版:新紀元社 もしもあなたが小説を書いていたとして、異国情緒ある舞台としてインド風 の国家を出したいと考えたとする。 図書館にでも行って歴史書を紐解けば、インドにおける諸国家の興亡の歴史 や文化の興隆、著名人や遺跡については知る事が出来るであろう。 だが、ここが重要なのだがそこで暮らす「人」について知るのはたいへん困 難である。庶民が朝何時頃に起きて、朝食はどうしたのか、沐浴とかはしたの か、どんな服を着て外に出かけていったのか、町の様子はどうだったのか、市 場には何が並んでいたのか、そこを歩くと呼び込みはどんな言葉をかけて話し かけてきたのか、職場ではどんな仕事をしたのか…… そういう、物語を書くにあたってもっとも重要な情報は、なかなか手に入り にくい。 良い資料としては、当時の人々の旅行記なり日記なり手紙なりがあるが、こ れまたまったくもって専門書の山の中に埋もれており、素人が発掘するのは非 常に困難である。 そして物書きにとって一番貴重な物、当時の人のビジュアルはその中で最も 見つけだすのが難しい物の一つである。どういうわけか歴史研究者の多くは当 時の絵や壁画さえあれば十分と考える傾向にあるようで、現代のイラストレー タが資料を元に復元した人物像を添えるという事をしない。 百聞は一見に如かず。 絵さえあれば、そこから我々はいろいろな情報を読みとる事ができる。さま ざまな想像を働かせる事ができる。絵はきわめて重要なのである。特にカラー のものは。 そこで登場するのが、今回紹介するオスプレイ・メンアットアームズ・シリ ーズ(OSPREY MEN-AT-ARMS)である。 これは世界のいろいろな時代、いろいろな地域における軍兵の姿をカラーイ ラストと読み物でもって紹介した物である。たとえばインド風、というのであ れば「インドのムガル帝国軍 1504−1761 火器と戦象の王朝史」と いうのが私の手元にある。 これには8ページのカラーイラストにムガル帝国時代のインドや周辺国の歩 兵、騎兵、民兵、砲兵、戦象、王侯貴族が1ページに3人、合計23人+象1 頭が描かれており、本の末尾にはその解説まで書かれている。中にはどういう わけかキリスト教の宣教師まで描かれている。 このカラーイラストを見るだけでも、見る者に様々な想像を抱かせる。戦象 に乗った黒人のマスケット銃兵など、見るだけでうっとりである。 そしてそれだけではない。ムガル帝国の歴史から軍の編成、装備にいたるま での詳細なテキストがイラスト以外のページにびっちりと書かれている。ペー ジ数でいえば51ページの薄い冊子なのだが、文字はみっちり詰まっており、 内容もかなり専門的で読ませる内容になっている。これもまた、読む物に色々 な想像を抱かせる。 インドといえば戦象であろうが、ここには「象1頭でラクダ15頭分の餌を 食う」と書かれていて、なるほど糧秣の準備は大変そうだな、と想像させる。 同時にラクダが荷役獣として例に使われるほど普及していたことも分かる。 また、「ウルドゥ・ベキ、後宮を守る武装した女性の部隊」とあれば、実戦 での強さはともかく、カラーイラストにあるようにさぞかし華美な装束であっ たろうと思わせる。 騎兵の紹介にある「部隊の質を点検するため、ダグとして知られる「馬に焼 き印を捺す制度」があった。……これは兵が馬を売って歩兵としてはたらいた り、できるだけ安い馬を買ったりすることを防ぐためのものだった」からは、 自分の書く小説の主人公が馬商人からダグ付きの馬をそれと知らずに買ってト ラブルに巻き込まれる、という展開も想像できる。 見て良し、読んで良し。 資料としての価値も高いし、何よりいろいろな事を読む人間に想像させるシ リーズである。
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