■銅大の読書万歳(53) 作品名:真拳勝負 作者:松谷雅志 出版:ソノラマ文庫 ISBN4-257-76954-8 私は明るいホラ話というのが好きである。 なぜ好きか自分に問いつめてみたりすると、実のところ私の性根がブラック ホールよりもまだ暗いからではないかと疑っている。疑っているだけで証拠は ない。裁判では無罪になる可能性も捨てきれない。 ちなみに質量が小さいブラックホールは暗くなく、明るかったりするらしい のであるが、これは本編とはなんの関係もない。 とにかく性根のねじ曲がった――何しろブラックホールの周りは時空も歪む。 いや、これも本編とはなんの関係もないのであるが――私としては、時々自分 を泥沼から浮上させるためにも明るいホラ話を求めざるをえないのである。 「明るい」はともかくなぜ「ホラ話」なのか疑問の向きもあるだろう。 こちらは簡単である。 真面目な話が相手ではいくら明るかろうとも私自身も真面目に現実と向き合 わねばならないではないか。私の現実ときたら、日に少なくとも三度は過去の 精神的外傷に煩悶して畳をかきむしり壁に頭を打ち付け白い服を着た屈強な男 たちの手で拘束衣を着せられるまで暴れまくるというものである。ウソではな い。今も小学生の時にトイレに間に合わずウンコをもらした時の記憶がフラッ シュバックしてキーボードを殴りつけてお気に入りのFILCOのメカニカル キーボードをたたき壊し、さらには窓をあけて狼の如き遠吠えを繰り返して1 10番通報されたばかりである。じゃあ今はどうやって入力をしているんだと 私を問いつめる底意地の悪い人がいるかもしれないが、そういう時のためにノ ートパソコンがサブマシンとして存在するのである。どうだまいったか。 ともあれ根性が腸捻転を起こしてクラインの壺となった――もし本当に腸捻 転でそんな事になるといくら排泄しようとしても排泄できない無限の便秘に陥 るという世にも恐ろしい現象となるのであるが――私としては、たまに現実逃 避するためにも明るいホラ話がないと生きていけないのである。 そんな私にとって『真拳勝負』は猫にまたたび、らくだのももひき、三度の おやつは文明堂というわけで、実にありがたい本なのである。 ……今思ったのだが、なんで最近太ったのか分かったような気がする。 とにかくテンポが良い。話の展開に関しては後半にライバルがあーなってか らそーなるまでちょっとばかしはしょりすぎではないかと気になる部分もなき にしもあらずであるが、話の根幹をなす『バベル語』といい、話を転がしてく れるハイエナと姫島のキャラクターといい、実に明るくそして楽しいホラ話で ある。 それにしても、荒削りな新人作家の作品がなんでこんなに面白いのかと、我 ながら不思議なのであるが。 おそらく―― ホラ話というのは照れたりしてはイカンのである。 それこそもう、真顔で相手の目を正面から見据え、腹の底から声を出して話 すべきなのだ。 真摯に。真剣に。 千と一夜の物語をつむぐシェーラザードのごとき心構えで。 『真拳勝負』とは、そういう本なのだ。 だからこそ、面白いのである。
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