■銅大の読書万歳(51) 作品名:月姫 作者:奈須きのこ&武内崇 製作:TYPE−MOON 媒体:CD−ROM 動作環境:Windows95/98、Windows2000 まず最初にお断りしておくのが筋というものだろう。 今回紹介するのは本ではない。 しかも同人活動で出されたものである。 加えて言うなら18禁(性的描写を含む)作品である。 よろしいか? 上記3点のいずれかに不愉快な思いをされるのであればこの先は 読まないでおかれるのがよかろう。 ……忠告はしたよ? よろしい、では続けようか。 しかし、ここまでのハンデがあってもなお、私としてはこの作品を紹介したいの だ。その理由(わけ)は簡単である。 面白いからだ。 とはいえ、逆説的ではあるがもしもこれが本の体裁を取った作品であれば、おそ らく私はわざわざ手間をかけて紹介しようとはしなかっただろう。 ビジュアルノベル。 今回紹介する『月姫』のような作品はそう呼ばれている。 昔風の表現をすると「アドベンチャー・ゲーム」というコンピュータ・ゲームだ。 しかも18禁。――いや、それは良しとしといて。 そして、本が本なりの、映画が映画なりの、物語の楽しみ方を提供してくれるよ うに、このビジュアルノベルという型式も、独特の楽しみ方を読者に提示する。 それが“選択肢”である。 たとえばビジュアルノベルではこんな具合に描写がされる。 『俺は屋敷に踏み込んだ。そこはホール状の空間だった。左右を見回す。両側に扉 がある。正面には階段。右の扉の向こう側から、何かが走り去る足音が聞こえた』 そして問う。 『・右の扉へゆく ・左の扉へゆく ・正面の階段を上る』 あなたはその中のどれかを選ばなくてはいけない。なぜならあなたは『俺』だか ら。物語の主人公であるから。 そしてあなたが選択をすることによって物語は先へと進行する。 『そこには――』 この効果は大きい。特に感情移入という点において。本も、映画も、この点では ビジュアルノベルに遠く及ばない。なぜならこの二つはどちらも一方通行で、読者・ 視聴者の意思はまったく反映されない。だがビジュアルノベルでは“選択肢”とい う範囲内とはいえ、プレイヤーの意思が物語の方向性を決める。 もちろん、全てのビジュアルノベルがこの効果を生かしているとはいえない。 だが、『月姫』はその点で良く出来ている部類に入ると言える。無意味な選択は 少なく、かといって常に生きるか死ぬかの選択を強いられるわけでもない。 もちろん“ビジュアル”ノベルというからには小説の挿し絵に相当するビジュア ルも入っている。これは完全に好みの問題となるが『月姫』のイラストは良くでき ている……と、私は思う。何より良いのは『立ちグラフィックス』と呼ばれる、場 面場面での登場人物のイラストが実に多彩である事だ。 “ノベル”でありながら、読むペース、つまり間の取り方を作者がある程度意図 して仕掛けられる点も、内容がオカルトである『月姫』においては緊迫感を演出で きて効果的である。 さて、内容に踏み込むとしよう……今回は未見の方にはぜひともプレイしてもら いたいので、あまりネタがばれる方向に話がもってけないのでそのあたりはご勘弁 を。 物語の主人公は遠野志貴、高校2年生。 ごく普通の高校生……ではない。彼は子供の頃のある事件がきっかけで『物の壊 れやすい線』が見えてしまうようになる。その線を切ることで、あらゆるものの存 在を即座に殺す事ができる能力と同時に。 ――それを、『直死の魔眼』と呼ぶ。 神さえも殺せる力と引き替えに、志貴はしばしば貧血を起こしたり動けなくなっ たりとままならない身体を抱えている。そしてまた、日常生活においてはその能力 を封印する眼鏡をかけている。 志貴が、子供時分の事件以来、勘当同然に追い出された我が家に8年ぶりに戻る のと時を同じくして―― 彼の住む町で奇怪な猟奇殺人が発生していた。 被害者はすべて身体中の血液を抜き取られており、『まるで吸血鬼の犯行のよう』 と噂されるその事件。 だが、それは志貴にとり他人事ではなかった。 その犯人こそ―― 深夜の街。 手にはナイフ。 空には月。 封印した魔眼を使うべく眼鏡をはずし、志貴は己が運命と対峙する。 いやもう、理屈がどうこうではなく、カッコいいのである。そして、そここそが 大事なのだ。 どんな感動的な物語だって(たとえば『ゲド戦記』だって)あらすじや、ネタを ばらしてしまえば、「なんだそんなもんかい」である。ようはいかに物語の中に読 者をひきずりこむか。その世界に没入させるか、である。繰り返すがビジュアルノ ベルの強みは畢竟そこにあると言える。ちと造語や当て字が多いのは減点材料であ るが。 さて、あなた=志貴はどんな『運命』と対峙するのだろうか。
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