■銅大の読書万歳(5)
作品名:『終りなき戦い』
著者名:ジョー・ホールドマン
出版社:ハヤカワ文庫SF/株式会社早川書房
ISBN:4−15−010634−7

 自身ヴェトナム戦争に従軍した事があるジョー・ホールドマンによる、異星
人との泥沼の戦争を描いたSF小説が、この『終りなき戦い』である。
 アメリカSF界でヒューゴー、ネビュラの両賞を取った事からも分かるよう
に、この作品の(SF界における)評価はきわめて高い。

 SFというのは『法螺を吹く』物語であるが、この作品では大きな二つの法
螺を効果的に利用している。

 一つは、超光速航法の“コラプサー・ジャンプ”である。

 間違ってはいけないのは、超光速航法そのものは別になんだっていいことだ。
 ワープだろうが亜空間ジャンプだろうがフォールド航法だろうが、好きな奴
を使えばいい。
 ポイントはそれを使う事による制約と、制約が物語に与える影響にある。
 コラプサー・ジャンプの最大のポイントは、星から星へ飛ぶ時にむやみやた
らと客観時間を消費することだ。いわゆるウラシマ効果である。ちなみに主観
時間はゼロに近いので、登場人物は星から星へと移動する度に未来へと旅立つ
ことになる。
 それを如実に表しているのが章構成である。

 第一章:マンデラ二等兵(明記していないが1997年スタート)
 第二章:マンデラ軍曹(西暦2007年〜2024年)
 第三章:マンデラ少尉(西暦2024年〜2389年)
 第四章:マンデラ少佐(西暦2458年〜3143年)

 このように、章を追うごとに時代は大きく変化し、世界は主人公たちの知っ
ていたものからかけ離れていく。
 特に、第二章後半で20年以上が経過した地球に戻ってきたくだりは秀逸で
ある。その社会は犯罪や貧困のなくなった幸福な社会のように見えて、実は効
率を最優先した地獄のような社会だったのだ。

 そしてウラシマ効果はラブロマンスにも影響する。主人公と恋人は、戦争の
最初期から従軍させられ、共に行動するのだが第三章で別々の任務を与えられ
る。それは、二人が空間だけではなく時間で引き離されることを意味する。
 この別離のシーンは切ない。

 もう一つの法螺は、戦争の相手である異星人“トーラン”である。

 日本は戦争を放棄した事になっているので(ちなみに戦争が日本を放棄して
くれるかどうかは定かでない)忘れている人も多いが、戦争というのは外交交
渉の一種である。
 つまり、自分の言う事を相手が聞いてくれない時に使う手段の一つである。
 勝てば相手に自分の意見を押し通せるし、負ければ逆になる。そして勝ち負
けが定かでない場合は適当な所で手打ちとなる。何の事はない。ヤクザの抗争
が国同士のレベルにまで拡大しただけの事だ。
 ところが、トーランとの戦争はちょっと毛色が違う。
 とにかく、この異星人とは意思の疎通が取れないのである。これでは外交交
渉も何もない。相手を殲滅させるか。こちらが絶滅するか。止める手だてもな
く、ひたすら延々と戦い続けることになる。
 だが、戦場における兵士の意識というのは元々そういう物なのかも知れない。
 『戦争は外交の一手段』などというのは国家の上層部の物だ。その駒である
兵士にとっての戦争とは、『目の前の敵を殺し、自分が生き延びる』という物
なのだろう。全編を通して淡々と繰り返される無意味な訓練や任務に、ベトナ
ム戦争という“正義なき戦い”にかり出されて負傷退役した作者の醒めた視線
が感じられる。

 だが、この虚しい戦いにも終わりはくる。
 どんな終わりが主人公を待っているのか。
 それは、ぜひ(まだ未読ならば)自分で読んで確認して欲しい。

銅大(あかがね だい):週末ライター


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