■銅大の読書万歳(43)
作品名:『進化の使者』上・下
著者名:ウォルター・ジョン・ウィリアムズ
出版社:ハヤカワ文庫SF
ISBN:4-15-010837-4 4-15-010838-2

 さて、いよいよイロモノ系ガンダムその3の『馬鹿がゾックでやってくる』
……ではなくて。

 今回紹介するのは、エンターテイナーとして定評のあるウォルター・ジョン・
ウィリアムズの『進化の使者』である。同じ作者の作品としては『ハードワイ
ヤード』があり、どちらかというとファンもこちらの方が多いのではないかと
思う。何しろアクション・シーン満載のハリウッド映画風作品だし。

 実際、ウィリアムズの作品はサービス精神旺盛である。文学としての典雅さ
はないが、どの作品も文句なしに面白い。ロマンスもサスペンスもアクション
も揃っている。加えて低俗に流れることもないから読者が“醒める”こともな
い。ツボを心得ているのだ。

 本作品にもその力量はいかんなく発揮されている。
 舞台はヨーロッパでいうと中世から近世に足を踏み入れた“惑星”。
 そう、世界ではなく“惑星”なのだ。
 はるかなる未来。
 人類の文明はその頂点から一気に奈落の底へと転落した。超光速航法による
時空の歪みのツケが一気に噴出したのだ。
 それでもかろうじて助かった辺境の惑星で文明は再建を始めた。そして、再
び星の世界へと旅立った。同じ同胞の住む惑星へと向けて。
 そんな中の一つ、エキドナ。それがその“惑星”である。

 主人公の一人、フィオナはコールドスリープを使った恒星間宇宙船でエキド
ナにたどり着き、他の大勢の仲間たちと一緒に身分を隠して惑星に降り立つ。
そして奇術師としてとある都市国家連合の権力者の宴会に潜り込み、そこで初
めて自分の正体を明かす。この惑星の文明では作れない立体投影機を使って。

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 映像が薄れ、真っ白な霧がとつぜんただのもやに変わり、大広間の上部に開
いた排気口から、ゆっくりと消散していった。そして突然、鮮やかな深紅の舞
台衣装に身を包み、片手を喉にあてて立つフィオナだけが残った。彼女は片手
をあげていった。
「わたしたちの世界からあなた方の世界へ、ご挨拶を贈ります」
 そして世界が変わった。
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 『そして世界が変わった』ですぞ。世界。
 私がSFファンやってて良かったと思うのはこういう大見得を楽しむことが
できるからに尽きる。ついでに言うとここが序盤の山場である。

 しかしながら、ここから先、淡々と高度文明社会と中世社会のコンタクトを
描き続けるウォルター・ジョン・ウィリアムズではない。

 本作品における残り二人の主人公、フィオナが接触を持った都市国家連合の
権力者ネシアスと、彼に一族ごと雇われている傭兵部族の長テゲスツが活躍す
る、都市国家内における大規模な戦乱が発生するのである。
 テゲスツの戦闘部族そのものはドルセイ・シリーズなどでSFファンにとっ
てはそれほど目新しい概念ではない。だが、テゲスツの故郷を追われ流浪の身
となった一族を率いる苦悩は物語に良いスパイスをきかせている。
 また、凡百の作品であればステロタイプな悪役か馬鹿に描かれるであろう権
力者ネシアスも、一代で成り上がった海千山千のなかなか複雑な面を持つ男で、
読者の共感を呼ぶ。

 もちろん、ロマンスもある。フィオナはネシアスの書記で詩人のキャンパス
との間に心の交流を深めてゆく。

 そして物語りは、戦乱の展開とロマンスが互いに補完しあいながら、やがて
一つの、驚くべき結末へと収斂してゆく。

 そう。この物語すべての背景にある真実へと。

 ここで後味の悪い作品にすることも可能なのだが、サービス精神では人後に
落ちないウィリアムズはやはりすっきりとしたエンディングへと読者を案内し
てくれる。

 何度読んでもエンターテイナーかくあるべしと思わせる作品である。


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