■銅大の読書万歳(38) 作品名:『海軍将校リチャード・デランシー物語り』 1.罠にかけろ 2.海から来たスパイ 3.火の船 4.地中海の黒い雲 5.南海の秘密基地 6.インド洋の落日 著者名:C・N・パーキンソン 出版社:至誠堂 航空冒険小説の次は海洋冒険小説のご紹介である。 海洋冒険小説、わけてもナポレオン戦争時代のイギリス海軍を扱った作品は 数多く、傑作もそれに比例して多い。あまりにも有名なセシル・スコット・フ ォレスターの『海の男/ホーンブロワー』シリーズはその代表格であろう。 で、わざわざホーンブロワーではなくどちらかというとマイナーなデランシ ーを紹介するのには訳がある。ホーンブロワーやボライソーという有名作品の 海軍将校は時の経過と共にどんどん偉くなり、イギリス海軍の中でも重きを置 かれるようになるのだが、私個人としては金がなかったり無茶な命令を与えら れて四苦八苦しているキャラクターの方が好みなのである。ホーンブロワーで いうと、やはり『燃える戦列艦』あたりまでであろうか。 その点、デランシーは出世街道からは遠く隔たったところを歩く一匹狼で、 私の好みにぴったりなのである。何しろ最初の2巻までは海軍将校ですらなか ったりする。港湾の管理官として密輸船の取り締まりを行ったり、私掠船(敵 国の船を攻撃して捕獲する権利を認められた民間船。国のお墨付きの海賊とい ったところか)の船長として金を稼いだりするのだ。ついでに私掠船が沈めら れて敵であるフランスの領内を突破して脱出したりと、海でよりも陸での活躍 の方が多い。おかげで当時の人の生活などもうかがえてなかなか読んでいて楽 しい。 また、これはホーンブロワーと近しいのであるが、決して無茶な蛮勇を奮っ たりしない点も好感が持てる。できるだけ知恵を働かせ、戦いになる前に有利 になるように有利になるようにと骨を折るのである。 だが、同じ知恵と労力を費やすにしても、王道を進むホーンブロワーがどち らかといえば求道者的な哲人風であったのに対し、出世など望むべくもないデ ランシーはもっと即物的で自分の欲望に正直である。5巻、6巻で自分がナイ ト爵をもらうためにあれやこれやと策を巡らせる所など、実に人間くさくて微 笑ましい。 また、デランシーの乗船する船が全編を通して小さく、最大でもフリゲート 艦であるのも良い感じである。当時の海戦における主力は戦列艦という大型の 艦であるが、これだとやはり冒険のスケールも大きく、一歩間違えると駄法螺 になってしまう。その点、船団護衛にも航路哨戒にもそして海戦にも使え八面 六臂の活躍をしたフリゲート艦であれば様々なタイプの冒険に使うことができ る。ま、その分、全体的に話が地味になるのは否めないが。 決してヒーローではない、等身大の海軍将校。 それがリチャード・デランシーという男の魅力なのだ。
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