■銅大の読書万歳(37)
作品名:『本番台本』
著者名:ギャビン・ライアル
出版社:ハヤカワ・ミステリ文庫

 ギャビン・ライアルの冒険小説というと『深夜プラス1』が有名だが、私は
初めての人には今回紹介する『本番台本』をお勧めする。
 その違いはやはり主人公にある。『深夜プラス1』のルイス・ケインもいい
男だが、どことなく虚無感と哀愁が漂っている。一方『本番台本』のキース・
カーは不撓不屈、とことん前向きな点に好感が持てるのだ。
 ただ、『深夜プラス1』で主人公が扱うのが車(シトロエンDS)であるの
に対し『本番台本』は飛行機(ダヴとミッチェル)であるため、ちょっとイメ
ージがわきにくい向きがあるかも知れない。本書に登場する主な機体の写真が
掲載されているページをご紹介しておこう。
 http://members.tripod.com/~eijiy/mono-aer.htm である。

 この物語は典型的な「主人公が陰謀に巻き込まれる」タイプである。
 かつてはRAF(ロイヤル・エア・フォース=イギリス空軍)パイロットと
して朝鮮戦争にも参加したことのあるキースだが、今はカリブ海、西インド諸
島で中古のダヴ輸送機を操縦して生活していた。
 ところがある日、キースは、いきなりヴァンパイア戦闘機(上述のWWWサ
イトを参照。たいへんユニークなデザインである)に威嚇される。そして『休
暇中』のFBI捜査官にも探りをいれられる。どうやらキースはとある小国の
内戦に関わっていると思われているらしいのだ。もちろん、キースは身に覚え
などない。
 そしてキースの思惑や立場がどうであれ、ダヴにはローンがあるし仕事はし
ないといけない。このあたりの、飛行機を持つパイロットの生活臭さも本書の
魅力の一つである。

 やがて、主人公は映画のロケ隊と契約を交わし、その仕事を始めるようにな
る。だが、陰謀の輪はぎりぎりと主人公を締め上げてゆく。愛機は取り上げら
れ、身近な所で殺人事件が発生する。
 何かが、そして誰かがキースを嵌めようとしているのだ。
 しかし、キースは決していいように操られる人形などではない。陰謀を推理
し、事件の背後にあるものを見つけだしていく。
 その上で、キースは自分の意志で決断を下す。それは金のためでも自分の名
誉のためでもない。
 やらねばならぬ事を、やるのだ。
 このあたりのキースの決断と、そしてそのために飛ばすおんぼろB−25ミ
ッチェル爆撃機の描写は、本作品の白眉である。何しろ作者自身も元RAFパ
イロットである。飛行機の描写は素晴らしい。

 その一つとして、おんぼろミッチェルがさんざん苦労したあげくにようやく
飛び上がったくだりを紹介して、おしまいにしよう。

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 機を水平にもどすとスロットルをひいて、こと新しく室内を見回した。相変
わらず、古道具屋のウィンドーのようだった。よせ集めの計器類、汗で銹びた
上に黒いテープが巻いてあるレバー、制限速度三百四十九マイルと書いてある
のを、線をひいて二百七十五マイルと訂正してある張り紙。彼女はたしかに厚
化粧の老嬢だ、しかし、かつては若く力強かったこともある、花やかなりし頃
のことを忘れ去っているのではないのだ。
 私自身が飛んでいる期間よりも長い二十年という年月にたえてきたのには、
それ相当の理由があるのだろう。
 やはり、金だけで割り切れない何かがあるのだ。「すまなかったな」私は静
かにいった。「お前をすべたなどと言って」
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