■銅大の読書万歳(35) 作品名:『夏への扉』 著者名:ロバート・A・ハインライン 出版社:ハヤカワ文庫SF ISBN:4-15-010345-3 日本に棲息するSFファンに、古今東西、ありとあらゆるSFの中から 「あんた、どれが好きや? 正直にゆーてみ」 と質問をしてくると、まー、回答は千差万別あれやらこれやら、中には「指 輪物語」、ちゅーて、あんたそれはSFちゃうやろゆーのまで返ってくる。 まー、エルリック(※)がSFなわけだし、いいか。 そして、このSFオールタイムベストでやたらひんぱんに登場してくるのが、 今回紹介する『夏への扉』である。 どんな作品かというと、きわめてシンプルな作品である。 友人と恋人に裏切られてすべてを失った男が、奮起して立ち上がり成功をつ かみ取るという物語である。 なんというか、小説や脚本のお手本のパターンにしていいんじゃないかとい うくらい単純明快で、かつ面白い。 しかし、それだけではSFファンの心をつかみとることはできないだろう。 まずこの作品においては、重要なSF的なギミックが3つ使われている。 1つは冷凍睡眠装置。 2つめはタイムマシン。 3つめは文化女中器を始めとするロボット。 特にこの3番目、今風(?)の言葉に言い直すとメイドロボットである。 ホンダやソニーが人型ロボットをわざわざ開発するように、我々日本人は、 おそらく世界でみても有数のロボット好きな国民である。もっとも、原作が掲 載されたファンタジー誌にそえられたイラストは、実になんとゆーかユーモラ スで、はたしてこれが日本にそのまま輸入されたらSFオールタイムベストの 常連となれたかどうかはきわめて怪しい。 次に重要なのが『進歩した未来社会』である。 そこは決してユートピアでもなんでもないが、ハインラインの描写するその 世界は、おおむね前向きで、かなり自由な世界となっている。 そして、その世界の年代は――西暦2000年。 つまり、我々にとっての現代なのである。作品が書かれた1957年におい てははるかな未来であった西暦2000年であるが、現代の我々にとっては、 どことなく古めかしく、郷愁を誘う。 実際のところ、未来予測という意味では、かなりとんちんかんな所が多々見 受けられる。だが、徹底して明日はもっといい世界になるという未来への視点 が、いくらひねくれているように見えても根っこのところで楽観主義者である SFファンの心の琴線をかき鳴らすのだろう。 そして最後に。 天下御免のハッピーエンド。 やはり、これにつきるのではないかと。 ※:マイクル・ムアコック著作のダークなファンタジー小説。エルリック・シ リーズはどういうわけかハヤカワ文庫FT(ファンタジー)ではなく、ハヤカ ワ文庫SFに分類されている。
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