■銅大の読書万歳(34) 作品名:『簒奪者』 著者名:岩井三四二 出版社:歴史群像新書 ISBN:4−05−401070−9 戦国武将の一人、斎藤道三。 いわゆる「蝮」の道三で、戦国の下克上を代表する大名の一人として知られ ている。己が才覚で美濃一国を切り取り、織田信長の舅となり、最後は息子と 大喧嘩をやらかしてくたばるなど、なかなかに波乱に富んだ人生を送っている。 で、この人物が若い頃は油売りをやっていたか……というと、どうやらそう ではないらしい。 じゃあ何をしていたか、というのをネタに書かれたのが今回紹介する『簒奪 者』である。主人公は長井新九郎規秀。若き日の斎藤道三その人である。 ここで簡単に美濃の国の歴史を振り返る。 そもそも、美濃の国を守護として治めていたのは土岐氏であった。美濃源氏 の流れを汲み、鎌倉時代に力をつけ、南北朝の動乱では足利方について守護と なったのである。絹や紙などの特産品もあり、日本のほぼ中央に位置していて 京の都にも近い。 これが逆に災いしたとも言える。国内は多数の荘園があり、様々な勢力が入 り乱れる結果となった。その中で土岐氏は貴族化し、守護代の斉藤家が実権を 握るようになった。 さらにその斉藤家の家臣に小守護代の長井家があり、そこへ家臣として仕え るようになったのが、新九郎の父親の左右衛門尉である。 ようするに、土岐氏の家臣の斉藤氏の家臣の長井氏の家臣という立場から、 親子二代にわたる国盗りが始まったわけである。えらくまた遠い道のりである。 よって、本書で描かれる若き日の新九郎の物語も、まずは村一つを手に入れ るという、これもまた小さい所から始まる。が、たかが村一つとはいえ、そこ には様々な利権もからむ。村の住人だって乱世の住人だ。大人百姓ともなれば 武具だって揃えている。農民から武器を取り上げる時代はまだもうちょい先だ。 村同士の争いだってある。 そのややこしい中を新九郎が鮮やかな手際で村を自分の物にする……わけで はない。とにかく泥臭く、おどしたりすかしたり、搦め手を使ってみたりと、 そんな風に物語は進行する。世の中、自分だけに脳味噌がついているわけでは ない。そうそう思い通りに行くと考える方が間違っている。 そして物語の背後では、新九郎の父親である左右衛門尉が主導となって動く 斉藤家の権力争いが進行する。それはついに守護の土岐氏を巻き込んでのクー デターにまで発展する。美濃一国を揺るがす争乱の中で新九郎はようように自 分の所領を得る。が、同時に大切な物を失う事にもなる。 こうした事々を、作者の岩井さんは丁寧に、その場、その時代に生きる人の 視点で描く。神の視点、歴史家の視点ではなく。だからこそ、読者は新九郎の 悩みを共感を持って読むことができる。当時の武士が能を見て何を感じるかを 疑似体験することができる。戦の難儀さや恐怖を感じ取ることができる。 残念なことに、本書はいよいよ新たな局面に――という所で終わっている。 あとがきに著者が書いているが、本書の続きが出るかどうかは売れ行きしだ いということだそうである。 だから、この作品のファンである私としてはこうして援護射撃をさせていた だくわけである。 書店から姿を消す前に、ぜひご一読を。 歴史に興味があれば、買って損はない作品である。
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