■銅大の読書万歳(30) 作品名:『ハイペリオン』 著者名:ダン・シモンズ 出版社:ハヤカワ文庫SF/早川書房 ISBN:4−15−01333−5 :4−15−01334−3 実にスケールの大きな本である。 それに合わせて本の分厚さも、また並ではない。ハードカバー2段組みで、 524ページである。(なお、ISBNは文庫のやつである)以前、寝ている と地震で本が崩れてきて『ローマ人の物語IX』が顔面を直撃する騒ぎがあっ たが、この本も凶器としては十分すぎるくらいのスケールである。 これだけ長いと、読者が途中でだれてリタイアする危険がありそうなものだ が、そのあたりもしっかり考えてある。 本作品はの舞台は、銀河宇宙に人類が進出している遙かなる未来。そして7 人の男女が、それぞれ目的を持って惑星ハイペリオンという場所へ巡礼の旅に 出るという導入を取っている。惑星ハイペリオンには、時空間と関連した謎の 遺跡〈時間の墓標〉があり、その周囲では無敵の殺人鬼、シュライクが暴れ回 っている。この2つだけでもやっかいなのに、〈時間の墓標〉に動きがあり、 それに合わせて宇宙の蛮族アウスターが大規模な侵攻をかけてきている。 加えて、7人の巡礼の1人は、アウスターのスパイだというのだ とまあ、こんなやっかいなシチュエーションで読者の気を引くまでが導入の 30ページまで。これぐらいならよほど飽きっぽい読者でないかぎり話に引き 込まれてくれるだろう。 そして、そこからが本作品の真骨頂である。 7人の巡礼者の一人一人に、なぜこの巡礼の旅に出たのかという物語を語ら せるのである。いわば、1つの作品の中に7つの短い作品を入れ子にしている わけだ。 ・司祭の物語:神の名を叫んだ男 ・兵士の物語:戦場の恋人 ・詩人の物語:『ハイペリオンの歌』 ・学者の物語:忘却の川の水は苦く ・探偵の物語:ロング・グッパイ ・領事の物語:思い出のシリ そして、これらそれぞれの物語は“まったく”毛色の違う物語となっている。 このあたりも、読者を飽きさせないテクニックであろう。 ・司祭の物語:神の名を叫んだ男 この物語は、日記を読み解く型式の、典型的なホラー・タッチになっている。 ここで登場する謎の十字架は、本作品の完結編である『ハイペリオンの没落』で も重要なキー・アイテムである。 ・兵士の物語:戦場の恋人 謎めいたラブロマンスを絡めたミリタリー・アクション物である。 巡礼たちの中でただ一人、完全武装のカッサード大佐の物語だが、巡礼者とし てはかなりまともな部類。 ・詩人の物語:『ハイペリオンの歌』 この物語は、失われた地球生まれの老詩人の奇妙奇天烈な人生から、世界の巨 大さとシュライクの不条理さを描いている。ちなみに私が一番好きなのが、この 口が悪くどこか憎めない老詩人のマーティン・サイリーナスである。 ・学者の物語:忘却の川の水は苦く ある日突然、時が逆さまに流れ始め、1日ごとに若返り、そして記憶も失って いくという呪いにも似た現象に巻き込まれた少女と、その父親の物語。泣かせの 演出入りまくりである。 ・探偵の物語:ロング・グッパイ ハードボイルド風の物語。本作品のバックボーンとも言うべきAI同士の抗争 が描かれていて、一風変わった物語になっている。ちゃんとラブロマンスも入っ ていて、これが後々、きわめて重要な役割を果たす。 ・領事の物語:思い出のシリ 空間と時間を超えて旅する宇宙船乗りと、その宇宙船乗りが恋した少女の物語。 出会う度に少女は成長し、やがて年老いていく。このあたりの演出は他のSF でもよく見られるが、情感を盛り上げてうまい。 全員の物語が語られ、巡礼たちの旅も終わりへと近づく。 そして、彼らは古い古い歌――あなたもおそらく知っている歌だ――を歌いな がら谷底へ、〈時間の墓標〉へと向かうのである。 それから先の物語、『ハイペリオンの没落』については、またこの読書万歳で 書く機会があるだろう。
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