■銅大の読書万歳(29)
作品名:『M.G.H. 楽園の鏡像』
著者名:三雲岳斗
出版社:徳間書店
ISBN:4−19−861194−7

 本作品は、第一回日本SF新人賞受賞作である。
 といっても、作者は無名の新人というわけではなく、電撃文庫などでも本を
出している有力若手作家の一人である。つまり、ちゃんとご飯を食べている作
家さんなのだ。

 で、内容であるが本格SFミステリーと折り返しにあるように、推理小説で
もある。
 推理小説であるからには人が死ぬ事件が起こる。
 どうも墜落死みたい。
 ……これだけではどこがSFかということになるのだが、あわててはいけな
い。舞台設定が素晴らしい。なんといっても、場所は宇宙ステーション。
 そこの無重力区画での“墜落死”である!
 いったいどうやるんだこのやろう、てなもんである。

 三雲さんは他にも『海底密室』とかの推理小説(こちらは深海の実験施設で
人が死ぬ)を書かれている。SFとミステリ、というかSFの周辺でうろうろ
している読者さんをSFの道に引きずり込む作品を書かれている。まるでブラ
ックホールのような作家さんだ。

 が、しかし。

 推理小説として見た場合、私の好み(『黒後家蜘蛛の会』でお話したとおり)
からは大きくはずれるので、私としては本書をSFとして、冒頭の墜落死事件
のトリックを読み解く作品としてのみ評価させていただく。

 というか。

 『新本格』と名付けられた推理小説系では軒並み言えることかもしれないが、
犯人の動機とか行動の合理性についてうんぬんしだすと、どうにも「それはな
いだろ」としか言いようがなくなってしまうので。

 では「SFには興味ないもーん」という人には全然、この本を読む動機がな
いかというと、そんなことはない。
 探偵役である主人公の従妹が、ワトソン役として、あるいは押し掛け女房役
として、話を動かすエンジンとなり清涼剤となっている。
 SFとか推理小説とかで客を引きずりこめなくとも、ラブラブな部分で読ま
せる。いや、さすが職人芸。

 賞をもらうだけでなく、ご飯を食べる作家というのはひと味違うものなのだ。

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