■銅大の読書万歳(26)
作品名:『闇狩り師』
著者名:夢枕獏
出版社:徳間デュアル文庫/徳間書店
ISBN:4−19−905006−X

 やはり、質量である。

 のっけから何事かとお思いだろうが、この宇宙で最も普遍的に何かを比較す
る基準として使うのであれば、やはり質量しかない。

 そして、質量は強さである。

 いくらフェニックスホークが中量級の傑作高機動メックだからといって、重
量級のバトルマスターを相手にして勝てるわけはない。

※フェニックスホークとバトルマスターはいずれも『バトルテック』というロ
ボット同士の戦闘を楽しむゲーム。ちなみに質量差は約2倍ある。

 銀河系の中心に位置するといわれるブラックホールにいたっては、太陽の1
00万倍の質量である。ここまででかいと、裸の特異点だって近くでおがめて
寿命も100万倍延びるってぇもんだ。

 というわけで、今回ご紹介する『闇狩り師』の主人公である九十九乱蔵もま
た、数ある小説の中ではとびきりの質量の持ち主である。当然、強い。
 お疑いの向きもあるだろうから、彼の登場する場面を引用してみよう。

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 それは、まるで、巨岩であった。
 身長は掛け値なしに二メートルありそうだった。胸の厚さは、その肩幅とほ
ぼ同じである。
 大男にありがちな肥満型でもないし、痩せ形でもない。バランスのとれた身
体であった。身体の線を造っているのは、全て、シェイプアップされた筋肉で
ある。上腕の一番太い部分は、小柄な女のウェストくらいはあった。
 シャツを下から盛り上げている肩の筋肉が、耳のすぐ後までとどいていた。
頭よりは首の方が太い。
 その首の上に、岩のような顔があった。
 その面には、何の表情も現れていなかった。一見眠そうな皺が、目の端にわ
ずかに刻まれているだけである。
 無造作に両足を開き、そこに立っているだけだったが、それだけで迫力があ
った。熱気を帯びた、肉の風圧のようなものが、むうっと漂ってくる。
 立ち上がった灰色熊に匹敵する迫力だ。

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 いかがだろうか? なんかこの描写だけで主人公が人間としてどうだとか、
仕事は何をしていて手取りがいくらぐらいだとか、妻子があるのかとか、どう
でも良くなってくるぐらいの描写である。何しろ『肉の風圧』ですぜ! 『肉
の風圧』!

 この『闇狩り師』という作品はオカルト風味の伝奇アクション作品という事
になっているらしいが、この九十九乱蔵というキャラクターが登場するだけで
ジャンルなど無関係に価値があるといえよう。この蛮人コナンに匹敵しそうな
大男が大暴れするだけで、読者としては十二分に元が取れるというものである。
 逆に言うと作者としてみればこういうキャラクターを造形しただけで勝った
も同然というわけで。

 やはり、質量は偉大なのである。

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