■銅大の読書万歳(26) 作品名:『闇狩り師』 著者名:夢枕獏 出版社:徳間デュアル文庫/徳間書店 ISBN:4−19−905006−X やはり、質量である。 のっけから何事かとお思いだろうが、この宇宙で最も普遍的に何かを比較す る基準として使うのであれば、やはり質量しかない。 そして、質量は強さである。 いくらフェニックスホークが中量級の傑作高機動メックだからといって、重 量級のバトルマスターを相手にして勝てるわけはない。 ※フェニックスホークとバトルマスターはいずれも『バトルテック』というロ ボット同士の戦闘を楽しむゲーム。ちなみに質量差は約2倍ある。 銀河系の中心に位置するといわれるブラックホールにいたっては、太陽の1 00万倍の質量である。ここまででかいと、裸の特異点だって近くでおがめて 寿命も100万倍延びるってぇもんだ。 というわけで、今回ご紹介する『闇狩り師』の主人公である九十九乱蔵もま た、数ある小説の中ではとびきりの質量の持ち主である。当然、強い。 お疑いの向きもあるだろうから、彼の登場する場面を引用してみよう。 *********************************** それは、まるで、巨岩であった。 身長は掛け値なしに二メートルありそうだった。胸の厚さは、その肩幅とほ ぼ同じである。 大男にありがちな肥満型でもないし、痩せ形でもない。バランスのとれた身 体であった。身体の線を造っているのは、全て、シェイプアップされた筋肉で ある。上腕の一番太い部分は、小柄な女のウェストくらいはあった。 シャツを下から盛り上げている肩の筋肉が、耳のすぐ後までとどいていた。 頭よりは首の方が太い。 その首の上に、岩のような顔があった。 その面には、何の表情も現れていなかった。一見眠そうな皺が、目の端にわ ずかに刻まれているだけである。 無造作に両足を開き、そこに立っているだけだったが、それだけで迫力があ った。熱気を帯びた、肉の風圧のようなものが、むうっと漂ってくる。 立ち上がった灰色熊に匹敵する迫力だ。 *********************************** いかがだろうか? なんかこの描写だけで主人公が人間としてどうだとか、 仕事は何をしていて手取りがいくらぐらいだとか、妻子があるのかとか、どう でも良くなってくるぐらいの描写である。何しろ『肉の風圧』ですぜ! 『肉 の風圧』! この『闇狩り師』という作品はオカルト風味の伝奇アクション作品という事 になっているらしいが、この九十九乱蔵というキャラクターが登場するだけで ジャンルなど無関係に価値があるといえよう。この蛮人コナンに匹敵しそうな 大男が大暴れするだけで、読者としては十二分に元が取れるというものである。 逆に言うと作者としてみればこういうキャラクターを造形しただけで勝った も同然というわけで。 やはり、質量は偉大なのである。
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