■銅大の読書万歳(25)
作品名:『大魔王作戦』
著者名:ポール・アンダースン
出版社:はやかわ文庫SF/早川書房
ISBN:(筆者の初版にはなし)

 現代社会を舞台にした、魔法が存在する世界――
 娯楽作品ではよくある設定である。
 ちょっと変わった世界にしてみたいとか、主人公や敵に特殊な能力を持たせたい
とか、そういう理由で比較的に安易に使われていることが多い。

 そして、それら諸作品の元祖とも言うべき存在が、『大魔王作戦』である。
 ※出版が1971年だから、そう言っても間違いではあるまい

 それだけでも紹介する価値があるが、この作品の特徴は、科学と魔法の世界を徹
底してリアルに融合している点である。
 あっち世界においてもニュートンやアインシュタインはおり、物理法則や化学法
則はきちんと働くのである。魔法の力があるという一点をのぞいて。

 こいつを逆しまにした作品もある。『ハロルド・シェイ』(著者:ディ・キャン
プ&プラット/ハヤカワ文庫FT)シリーズでは、魔法の存在する世界ではマッチ
一つ使い物にならない。こちらもとても面白いのでお勧めである。

 それはさておき、魔術や魔法使いが存在するからといって、人間や人間のやるこ
とに変化があるわけではない。この作品の冒頭では世界大戦が行われている。
 主人公は狼男で、相棒は魔女。この二人でもってソロモンの封印を破った禁断の
魔法兵器アフリーマンを倒す特殊任務に出るところから物語りは始まる。
 のっけからえらいホットスタートであるが、あちこちに登場する魔法世界ならで
はの光景が読者を楽しませてくれる。

 塹壕を掘るゾンビー部隊。
 機甲部隊は(みなさんもご想像の通り)ドラゴンたちだ。
 ちなみに海軍はクラーケンを養殖しているらしい。日本海軍ならさしずめ海坊主
か?
 笑えるのが石化戦部隊で、魔物のバシリスクを使って相手を石にするのだが、自
分たちが逆に石にされてしまわないようにアルミホイルを貼った防護服とヘルメッ
トで身を守っている。加えて、人間を石にするということは炭素を珪素に分子変換
するということで、放射性同位元素がばんばん出て被爆する危険すらあるのだ。
 ……私ならただの歩兵の方がよっぽどマシだ。

 狼憑きや熊憑きなんかがいる世界で、こいつらは銀の弾丸でないと倒せないから、
兵士に支給されている弾丸の10発中1発は銀の弾丸ときている。
 しかも、質量保存の法則はここでも生かされるから大柄な狼憑きや熊憑きはそれ
だけで脅威として描かれている。

 このように。
 この作品の価値は堂々と、大まじめに人間が魔法と向き合っているところにある。
 魔法の炎が頻繁にどかーんとか、神の奇跡がひんぱんに舞い降りたりする世界の
くせに、社会がそうした事に対応していない世界ではない。

 あるエピソードでは、主人公は巨大化して大暴れしたサラマンダーを何とかして
とっつかまえなくてはいけなくなる。
 しかし、何しろ相手は神出鬼没の精霊で傲慢不遜。打つ手打つ手がロクなことに
ならない。
 だが、主人公はここで力ではなく機転を使う。

「われわれのしもべはおまえよりもっと強い。かれはおまえを天地の涯まで追いつ
めるだろう」

 そして、彼が取り出したのは“水の中でも燃える炎”なのである。
 そう。
 マグネシウムである!(Mg+H2O→MgO+H2)

 驚きうろたえるサラマンダー。その隙に、このやっかいな魔物は取り押さえられ
るのである。

 自分の作品世界に何か新しい要素を入れてみるのは、いろいろな作家が試みてい
る。
 だが、ここでちょっと考えて欲しい。
 その要素が触媒となって、どのような変化を作品世界にもたらすかを。
 そして、それを登場人物たちがうまく使いこなせないものだろうかと。

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