■銅大の読書万歳(24)
作品名:『ライトジーンの遺産 上・下』
著者名:神林長平
出版社:ソノラマ文庫NEXT/朝日ソノラマ
ISBN:4−257−17335−1
     4−257−17336−X

 このところ、めっきり寒くなってきた。(これを書いているのは2000年
11月22日の夜である)
 こういう寒い晩には、下戸の私でも体がかーっと熱くなる酒がちょっとばか
り欲しい気分になる。

 だからというわけでもないが、今回紹介する作品はやたらと良く酒を飲むシ
ーンが登場する。作品の冒頭からして、仕事中の主人公は生の酒をかっくらっ
て相棒に文句をつけられるぐらいだ。

 主人公の名前はコウ。菊月虹。またの名をセプテンバー・コウ。
 あまりに強大になりすぎ、それがゆえに解体されたライトジーン社の遺産と
もいうべき人造人間であり、世界最強のサイファ(超能力者)としての能力を
持つ。

 なんか、いかにも冒険活劇のヒーローのようであるが、コウはそんな物に興
味を示さない。外見は中年の男性で、しかもしょっちゅう酒を飲んでいる。
 彼は自分を『自由人』と誇りを持って呼ぶ。

 この作品を読んで感じるのが、彼の自由への強い欲求である。

 人造人間という、まさに“誰かの思惑”でこの世に誕生し、自らが望んだの
でもない超能力を有するがゆえに、彼はそこに価値を見いだせない。

 だから彼は酒を飲み、その日ぐらしの自由きままな生き方を続ける。
 とはいえ、彼の過去とサイファとしての能力は、彼を次から次へと事件へと
巻き込んでいく。

 そして、ついには彼と双子の兄(今はサイファの能力を使って若い女の肉体
になっている)はライトジーン社の負の遺産と対面することになる。そして、
サイファとしての能力も失う。

 この部分が本作品の真骨頂である。

 主人公がクライマックスで何らかの“力”を得る作品は数あれど、クライマ
ックスでそれまで持っていた“力”を失い、そしてそこから大逆転をかけてく
る作品というのはそうはない。

 ごくごく普通の、中年にさしかかった酒好きの男が示す心意気と機転を、こ
の晩秋の夜長にじっくりと堪能してみるのもいい。

 良い酒を飲んだ時と同じような、熱い物が心の中に灯されることだろう。


  HomePageに戻る