■銅大の読書万歳(20)
作品名:『東京に暮らす 1928〜1936』
著者名:キャサリン・サンソム
出版社:岩波文庫
ISBN:4−00−334661−0

 あなたが大人だとして。
 あなたが子供の頃、あなたの周りの世界はどうだったろう?
 あなたの一日はどうだったろう?

 20世紀はまれにみる変化の時代である。
 飛行機が空を飛び、月へロケットが飛んだ。
 二度の世界大戦が起こり、毒ガスや原子爆弾が使われた。
 列強の植民地が次々に(形の上では)独立し、多数の国家が誕生した。
 コンピュータが生まれ、インターネットが世界を覆った。
 そして今、我々は“ここ”にいる。

 が、それゆえに。

 我々はつい100年も前の生活について想像することもできなくなっ
ている。
 我々の祖父や祖母が、子供の頃にどんな生活をしていたのか。
 この国に住む人たちがどんな生き方をしていたのか。

 本書は、そういう事柄についてイギリスの外交官の妻である筆者が記
述した本である。
 筆者は、日本人ではない。
 ありがたいことに、この時代について語りたがる人の多くが持ってい
る政治的な意図もお説教もなーんにもない。
 ただ、自分(イギリス人)の目から見た日本人の暮らしぶりを、さら
りとした筆致で書いているだけである。
 それも日常の生活の中で。
 だから私たちは、自分たちの祖父や祖母のごく普通の姿を、本書の中
に見ることができる。
 その中の描写には、ふんふんとうなずける物もあるし、外国人にあり
がちな誤解ではないだろうかと思える物もある。

 本書に描かれる日本人の暮らしぶりも今とは大きく違う。
 我々は、それほど礼儀正しくは生活しなくなったし、『家』や風習を
第一に考えることもなくなった。商人は商売についてだいぶせちがらく
なった。(もっとも、当時だって十二分にせちがらかったはずだと私は
思うのだが)

 しかしそれでも。
 本書に描かれている日本人は、やはり我々と同じ民族なのだと思わせ
る描写が数多く見られる。
 そして、それを素直に喜べるような記述も。

 久しぶりに田舎の祖父母に電話でもしておしゃべりをしてみたい。

 そんな気分にさせる本である。


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