■銅大の読書万歳(2) 作品名:『よろずや平四郎活人剣 上・下』 著者名:藤沢周平 出版社:文春文庫/株式会社文芸春秋 ISBN:4−16−719213−6(上巻) 4−16−719214−4(下巻) 『よろずや平四郎活人剣』(藤沢周平) 1998〜9年にNHK総合で放映された「新・腕におぼえあり」の原作。 単純に時代劇として読んでも面白いのだが、RPGのキャンペーンの演出や 自分で小説を書くときののためのお手本としてもなかなか。 殺伐とした話はほとんどないので、ダーク系の時代劇はダメという方にもお 勧め。 ちなみに時代は天保の改革の頃。遠山の金さんと同時代で、作品世界から2 5年後には江戸時代は終焉を迎える。維新に活躍する連中はまだ子供だった。 基本構成は短編の連作で全24話である。 主人公は目付の弟で浪人者である。 主人公は日銭を稼ぐために『よろず揉め事の仲裁』を看板に出し、江戸に住 む人々のトラブル・シューターとして活躍する。基本的に1話に1件の揉め事 処理が話の中軸となる。 主人公にはかつて婚約した娘がおり、その消息がしだいに明らかになる。と 同時に、恋心も再燃する。 江戸市井の人々相手の仕事とは別に、主人公は兄(目付)の手伝いをする事 もある。兄は天保の改革を進める老中水野忠邦とは別の派閥に属しており、同 じく目付の鳥居耀蔵(後の江戸町奉行)と対立している。 [登場人物] 主人公:神名平四郎(かんな−へいしろう)/24才 腕も立つが弁も立つ浪人者。知行千石のそれなりの格式がある旗本の子弟で あるが、妾腹の末弟ということもあって家から出た。 家や兄への反発から、身分にはこだわることのない鷹揚な人間となっている。 長屋暮らしもまったく苦にせず、暇な時は寝転がって鼻毛を抜いて過ごす。 平四郎の兄:神名堅物(けんもつ)/40代半ば 堀田老中の派閥に属する目付(旗本サムライの監察役)の一人。真面目な人 間で、弟に度々苦言を呈する。自分の仕事をムリヤリ手伝わせたりもする。 平四郎の兄嫁:里尾/40代 神名家の中で数少ない平四郎の理解者。優しく明るい女性で、平四郎にとっ ては母親代わりでもある。 友人/真面目:北見十蔵/30才 寺小屋の先生をしている浪人者。剣の腕は立つ。寡黙で真面目な人格者。 友情にも厚く、得難い人物。 友人/調子者:明石半太夫/40才ぐらい 恰幅も良く見てくれは堂々たる人物だが、けっこうな食わせ者。特に金には 汚く、友人だろうが平気で騙してしかも平然としている。 敵/強請屋:桝六/じじい 平四郎と同じく揉め事を飯の種にしているが、こちらは脅しの請負人である。 平四郎が金にならない仕事ばかりしているせいで2回しか登場しないが、 実にタフで印象的な老人である。 敵/剣豪:奥田伝之丞/主人公と同年代? 鳥居耀蔵配下の剣豪で、平四郎と並ぶご剣の腕の持ち主。障害になると思え ば平然と人を斬って捨てることができる非情な男。黒鋤(現代で言うところの 戦闘工兵か?)あがり。 かつての婚約者:早苗/20才 5年前に、平四郎の婚約者であった女性。大人しいが芯の強いタイプで、平 四郎にとっては初恋の人。家がお取り潰しにあって婚約話は流れてしまった。 キャラの立ち具合も配置もなかなかよろしい。 序盤の幾つかの話を紹介してみよう。 ◆辻斬り 冒頭いきなり、友人の明石が預かった金を持ったまま夜逃げしてしまい、彼 と一緒に道場を開くつもりであった平四郎と北見が困惑するところから始まる。 その後、平四郎の境遇についての解説があり、道場を開くつもりで家を出た 平四郎はとりあえず日銭を稼ぐために『喧嘩五十文口論二十文、とりもどし物 百文、よろずもめごと仲裁つかまつり候』という看板をあげるが、当たり前の ように客が来ない。 困っているところへ、兄の堅物がやってくる。辻斬りをしている旗本がいる のだが、表沙汰にできない。お前が代わりに懲らしめて辻斬りをやめさせろと 命令する。ついでに金2両を渡されたので、平四郎気はすすまないながらも、 辻斬りを峰打ちして刀を取り上げる。 ◆浮気妻 夜逃げした明石を見つけるが、金は戻ってこない。代わりに、明石に仕事を 斡旋してもらう。ある人妻が、若い男と浮気をしてしまうのだが、その相手が ヤクザ者で金そせびられて困っているというものである。 平四郎は手切れ金の5両をもって浮気相手の男のところに話をつけにいくが、 ケンカになる。あっさりと男をのしてしまい、 「これで話はついた。な、野暮は言わんことだ」 とかいってちゃんと5両渡してやるところがカッコいい。 仕事の後、兄に呼ばれて堀田老中に会い、何やら幕府内部の権力抗争の一端 が垣間見られる。その帰り道に、鳥居配下の剣豪(奥田)と出会い、刃を交わ す。 ◆盗む子供 兄嫁からかつての婚約者である早苗を町で見掛けたと聞き、平四郎は心を騒 がせる。 その後相変わらず仕事はないが、北見の知り合いから、子供を欲しがってい る孤独な老人を紹介される。平四郎は、町で見掛けた手癖の悪い餓鬼を老人に 押し付けて手間賃をもらう。その後、老人は子供の手癖の悪さに手を焼くが、 逆に「この子を躾るのはオレの仕事だ」と思っちゃって張り合いが出てくるよ うになる。その様子を平四郎がこっそりうかがって(やはり良心が咎めたのだ) 安堵する場面がある。 兄の仕事を手伝っている際に、鳥居配下の剣豪と二度目の接触あり。 とまぁ、こんな感じで話はすすむ。必ずしも切った張ったの立ち回りばかり ではない。酔っぱらったオヤジが酔っぱらったままどっか行っちゃったので、 とっつかまえに行く話なんかもある。 この作品のポイントは、そういう庶民の生活臭にある。どんな脇役だろうが 生活があり、それなりの人生があるのである。 そういうのをきちんと書くかどうかが作品世界のリアリティにつながってく ると思うのだが、書きすぎれば今度は散漫になってしまう。 やはり案配が難しい。こういったベテランの作品は、その点で参考になる。
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