■銅大の読書万歳(18)
作品名:『黒後家蜘蛛の会 1』(5巻まである)
著者名:アイザック・アシモフ
出版社:創元推理文庫/東京創元社

 推理小説と一言でいっても種類はいろいろある。
 そして、推理小説ファンによってどのタイプの推理小説が好きかは大きく異なる。

 ちなみに私は青い鳥文庫の『夢水清志郎事件ノート』シリーズなどで活躍されて
いる、はやみねかおるさんのファンであるが、私の友人に同じはやみねかおるさん
の『少年名探偵 虹北恭助の冒険』(講談社ノベルス)を読ませたところ怒髪天を
つく勢いでかみついてきた。

「こんな物は推理小説じゃない。百歩譲っても青い鳥文庫で出すべきで講談社から
出すべきではない」

 人間、好きだからこそこだわりがあるものなのだ。

 話はずれるが、SF的なギミックを使った小説や漫画を書いている人で「私の作
品をSFと呼ぶんじゃない。私はSF(ファン)が大嫌いだ」と公言してはばから
ない人もいるそうだが、これもまた分からなくもない。特に先鋭的なSFファンと
いうのは過去のSFで登場したアイディアやギミックを使った作品に容赦がない。
他にどんなに優れた部分があっても、「SFとしてはダメだね」とか「ま、あれは
SFじゃないから」の一言ですませてしまう。単に味付けとしてアイディアやギミ
ックを出した作家にしてみればたまったものではないだろう。

 かく言う私だって推理小説へのこだわりは人並みにある。
 そして、私の好みでは蘊蓄で水増しされた作品はどうも感心しないのである。
 推理小説っていうのは、やっぱり提示された“謎”の周りをぐるぐる螺旋状に回
って、最後の回答にたどり着くのが良い。さらに言えば、むやみに残忍であるより
は、ちょっと頓知のきいたお話の方が読んでいて気持ちがいい。

 もしもあなたが私と同じ好みの持ち主であれば、『黒後家蜘蛛の会』はお薦めで
ある。この作品はタイトルでもある『黒後家蜘蛛の会』というクラブの会員が、毎
月一回開く晩餐会で話すミステリ談義を集めた短編集である。会員は化学者、数学
者、弁護士、画家、作家、暗号専門家の6人でそれなりの知性と教養の持ち主であ
る。彼らは晩餐会にゲストを呼ぶのだが、そのゲストがちょっとした謎を提示する
とたちまち素人探偵となり、あれこれと謎を解明しようとするのである。
 だが、結局最後に謎を解くのは給仕であるヘンリーというのがなかなか愉快で良
い。
 提示される謎も、ひねりが効いている。

「会心の笑い」
 ある男が自分を騙した男から何かを盗んだ。だが何を盗んだかが分からない。い
ったい何が盗まれたのか?

「偽物(Phony)のPh」
 ある男が大学の試験で信じられない成績をおさめた。カンニングをしたのではな
いかと周囲は疑った。だが、どうやって?

「実を言えば」
 会社の金庫から現金と証券がなくなった。ゲストの男に嫌疑がかけられているが、
男はそれを否定している。いったい誰が犯人だ?

 この調子で、1巻だけで12編の短編が収められている。正直なところ、中には
これはどうかという謎もあるが、この作品のツボは、素人探偵たちがあれこれひね
繰り出す、機知に富んだ推理にある。もちろん、どの推理も最後には外れて給仕の
ヘンリーの出番となるのだが、そこに至るまでの謎解きへの収斂のさせ方は、さす
がアシモフ先生である。

 しかも、この作品は最初エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジンに掲載され
ていたのだが、一冊にまとめるにあたって、読者からいろいろと謎解きの不備への
指摘があれば、それについて修正がかけてある。何故分かるかと言うと、各短編の
終わりにそれをアシモフらしい文体で述べているからである。

 読者に対して“公正”であること。

 これぞ、まさにミステリにおいて最も大事な条件の一つであると私は思う。


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