■銅大の読書万歳(16)
作品名:『マッカンドルー航宙記』
著者名:チャールズ・シェフィールド
出版社:創元推理文庫/東京創元社
ISBN:4−488−69303−2

 マイ・ベストというのがある。
 もし私がSFでマイ・ベストを選ぶとしたら、間違いなくTOP10の中に入る
のが、今回紹介する『マッカンドルー航宙記』である。

 これは、太陽系随一の天才科学者のマッカンドルーが、相棒の宇宙船船長ジーニ
ーと一緒に、太陽系狭し(本当に狭いので時々、飛び出す)に大冒険を繰り広げる
というオムニバス小説である。
 この作品の肝となるのは、何よりマッカンドルー博士の天才としての性格と才能
のぶっ飛び具合であるが、その代表ともなるのが表紙絵にもある宇宙船だ。

 この宇宙船、相殺航法という方法で50Gだの100Gだのの高加速でも中の人
間がペチャンコにならないようになっているのだが、その原理というのがものすご
い。
 まず宇宙船に高密度の圧縮プレートを取り付ける。そうするとニュートンの林檎
でおなじみの『万有引力の法則』によって宇宙船の乗員はプレートに引っ張られる。
その引力を使って宇宙船の加速を相殺(バランス)しようというのだ。加速を落と
す時には、船室をプレートから離せばいい。
 なんて単純明快! 重力やら慣性やらを制御する超テクノロジーなんかなくても
簡単に高加速宇宙船を作れるではないか!

 ……ん?

 ここで何か騙されているよーな気がするあなたは正しい。
 どう考えてもこの相殺航法の根幹をなす高密度の圧縮プレートはべらぼーな重さ
になる。そんな重い物を抱えた宇宙船がどうやってそんな大加速を維持できるのだ
ろう? 我々が知る限りもっともエネルギー変換効率が良い反物質燃料ですら、そ
んな真似はできない。

 ではどうするか?

 なんと、我らがマッカンドルー博士はこの宇宙船のために真空からエネルギーを
引き出すシステムを開発してしまったのである!

 私はこの部分を読んだ時、しばらく開いた口が閉じなかった。力技にもほどがあ
るというものである。はっきり言って、本末がかなり転倒している。
 そして一事が万事、本書の中の事件や発見・発明はこの手のどっきりびっくりで
満ちている。

 このどっきりびっくりする感じ。
 きちんと階段を下りるのではなく、えいや、と高所から飛び降りる時の目眩にも
似た感覚。

 私は、これこそがSFをSFたらしめている──

             “センス・オブ・ワンダー”

──なんじゃないかと思っている。

 なお、本書の巻末には付録として『どこまでホントでどこからホラか』をきちん
と説明してくれている。この手のハードなSFが苦手な人でも安心して読める点も
評価して良いと思う。

  HomePageに戻る