■銅大の読書万歳(12)
作品名:『燃えよ剣』
著者名:司馬遼太郎
出版社:文藝春秋/株式会社文藝春秋

 局中法度書というものがある。

 一、士道に背くまじきこと。
 一、局を脱することを許さず。
       :

 この調子で五箇条が作られ、いずれも破った場合は切腹。
 苛烈というか何というか。少なくとも徳川三〇〇年の泰平の世の中の武士から生
まれてくる発想ではない。
 だが、この鉄の規律に従って幕末の京の町を駆け抜けた男たちが確かにいたのだ。

 新撰組。

 この物語はその新撰組の副長、土方歳三を主人公としている。
 土方の生まれは武士ではない。多摩の農民で田舎剣士だ。それが相棒の近藤勇と
共に京の都に出て、政情不安定な中で治安活動を行う。
 裏切り、裏切られ、さらに維新志士たちとの命のやりとりの中で、新撰組の組織
は峻厳な物にならざるを得なかったのだろう。

 だが、そこには土方の夢が託されていたのも事実だ。
 武士よりも、武士らしく。最後の最後まで戦い続ける武士(もののふ)として在
りたいという。

 土方の願い通り、新撰組は戦って戦って、戦い抜いた。
 そして、負けた。

 負けたことに土方は悔いを抱いていない。生きていればやり返す機会もある。
 まさに敢闘精神の塊のような男である。
 だが、相棒の近藤勇はそうではなかった。子供の頃から一緒であった彼らは敗走
の中で別れる。近藤は死が待っていると分かっていても、賊軍にはなれなかった。
 ここは私が一番好きな場面である。

「だから歳」
 近藤はいった。
「おめえは、おめえの道をゆけ。おれはおれの道をゆく。ここで別れよう」
「別れねえ。連れてゆく」
 歳三は近藤の利き腕をつかんだ。松の下枝のようにたくましかった。
 ふってもぎはなつかと思ったが近藤は意外にも歳三のその手を撫でた。
「世話になった」
「おいっ」
「歳、自由にさせてくれ。お前は新撰組を作った。その組織の長であるおれをも作
った。京にいた近藤勇は、いま思えばあれはおれじゃなさそうな気がする。もう解
きはなって、自由にさせてくれ」

 親友と別れ。負け戦と分かっていても東北で、そして北海道で土方は戦い続ける。
 自分の生き方を、まっとうせんがために。
 そしてついに北海道の五稜郭でも負けが確定し、上の連中が降伏の算段をつけて
いる頃、土方は最後の出撃に出る。
 堂々と、官軍の前に。
 あまりに堂々としているので敵かどうか分からず、官軍は誰何する。
 土方は少し考える。本来なら、その時の彼は函館政府の陸軍奉行である。
 そして、答える。

「新撰組副長土方歳三」

 最後の最後まで、己の道を歩き続けた男だった。


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