■銅大の読書万歳(11) 作品名:『銀河博物誌1 ピニェルの振り子』 著者名:野尻抱介 出版社:ソノラマ文庫/株式会社朝日ソノラマ ISBN:4−257−76887−8 土の感触がする。 この作品を読んで感じたのが、まずそれだった。 私は大学時代、ワンダーフォーゲル部に所属し、山に登っていたことがある。 日本アルプスのような格好いい所は登ってなくて、主に中国山地の山だ。林道が 整備されてればいいが、そうでない所は下生えはすごいわ見晴らしは悪いわ、稜線 が五つぐらいあって地図を読み間違えると大騒ぎだわで──楽しかった。 そして、足元には。土の感触があった。 話が逸れた。 異星人によって19世紀の英国人が宇宙に“移植”されてから1世紀。そこで人 々は自分たちなりの(19世紀風)の文明を築き上げていた。 人々が移植された星は一つだけではなく、それらの星には様々な変わった生態系 と生き物があった。 その中の星の一つ。ピニェル。海が広く、人が住む場所は常夏の星。 主人公の少年、スタンは採集人。ピニェル特産の蝶を採集して、余所の星から来 た博物学者に売って生活している。 そして少年の前に現れた不思議な少女、モニカ。 何を見ているのか。何を感じているのか。 スタンは少女に一目惚れして、宇宙船に密航してまでその後を追いかけてしまう。 その際のどたばたで、彼らはピニェルを取り巻くリングとそこに住む生物の謎に 行き当たってしまう。 地質学的にはあっという間に消えてしまうはずのリング。 なぜ、それがピニェルを取り巻いているのか。 なぜ、そこに生物が住んでいるのか。 そして、オープニングで語られる博物学狂いの伯爵の 「ピニェルのものはすべて高騰する。なぜなら──あそこはじきに滅ぶんだ」 というセリフの意味は。 謎を残したまま、スタンは行きがかり上、モニカの助手としてピニェルの生物を 手当たりしだいに採取する羽目になる。 ここで思い出して欲しい。この作品世界は19世紀風の文明レベルと宇宙旅行と が組み合わさっていることを。 宇宙船を動かすのだって、水夫が係留索を放り、六分儀で天測し、計算尺を駆使 する世界なのだ。 生き物を採取し、調べるのだって、手探りである。 しかし、物語が進むにつれ、謎はさらに大きくなる。 常夏の地に生えた大木に刻まれた、飛び飛びの年輪。 寒い所に置くとすぐに栄養体が乳化する種子。 事故で不時着した北極冠で、冬眠したほ乳類。 そして、新しく夜空に誕生した星。 すべての謎が、ピニェルの『振り子』へと収斂していく。 19世紀。 博物学の黄金時代。 人々は未知の世界に、自分たちの五感を使って手探りで進んでいった。 TVやネットワーク、書物を通してではなく。 だからなのだろう。 私がこの本を読んで、土の感触を思い出したのは。
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