D&D3rdプレイレポート 


     友人の滝ノ原様からいただいたリプレイです。
     D&Dには珍しい、地球を舞台にしたシナリオで、Dungeon誌86号に載った、Mysterious Waysを若干短めにアレンジした物です。日頃RPGをやる機会に恵まれない人(アメリカ在住、静岡在住、気質の会社員)の方々に楽しんでいただきたかったとマスターの電光寺先輩は言っています。
     以下、たきのはらさんリプレイです。



     時は12世紀初頭。1099年・第1回十字軍遠征の記憶がまだ新しい頃である。
     神聖ローマ帝国はフローレンス公には数人の妃と多くの子があった。
     その妃は愛妾といってよかったのだろう。
     5人目の妃でありなら、公との間には3人の子をもうけている。
     しかしそれが、その子らにとって幸せであったかどうかは定かではない。
     姫ならまだしも、男の身で、5人目の妃の子として生を享けたとあっては。
     しかも3人目の男子ともなれば、この世に取り分などありはしない。
     ……そう、この世には。

     てな感じで、私のPCであるところのヴィンセンシオ君は世俗を捨て(でも剣と鎧は捨てず)、聖地イェルサレムを目指したのでした。ところが聖地の修道騎士団であるホスピタル騎士団はいいかげん組織化された大騎士団であり、派閥はあるわしきたりは煩そうだわで妾っ子の立場をチャラにするにはどうも釈然としない。そのうえやってることといえば病院の管理運営で……いや、それはいいことなんだけどね。そんなこと、坊主でもできるじゃんか!やっぱり騎士としてやってきたからには剣と槍と騎乗の腕前をこそ神様のために役立てたいというもので……(をい)。

     というわけでくすぶってた彼の耳に、一人の老騎士に率いられた一団の騎馬武者の噂が届く。彼らは「キリストの貧しき騎士」と名乗り、清貧・貞潔・服従を旨として修道士の掟にしたがいながらも鎧をまとい剣を構え、街道沿いの水場を野営地として街道を自主的に巡回し、巡礼の道を脅かす盗賊どもを掃討しているという……これこそ神に仕える騎士のあるべき姿!!

     とかなんとか勝手に握り拳状態になっちゃったヴィンセンシオ君は自ら志願してキリストの貧しき騎士の一員となるのでした(まぁ、実際に盗賊狩りをするうちに、それなりに実戦経験も積み、ホスピタル騎士団員に比べると結構フレキシブルというか現場主義な考え方になったようですが、信仰に関しては非常に真摯でありつづけました。もっとぶっちぎれたジーザス右翼にするつもりだったのですが、わりとバランスのとれたロウフルグッドになったかなぁと思います、ええ)。

    オープニングにはまるで「十戒」か「ベン・ハー」のサントラのような曲が流れ、マスターが「人間の歴史」を朗々と読み上げる中、幕があがったりする。  えらいカッコイイ。

     そして、1114年春。復活祭も間近い頃。
     今年はイェルサレムに聖遺物の最も貴重なものである真の十字架(キリストが磔刑になったという、まさにその十字架)が運ばれ、復活祭はこれまでになく盛大なものになるという噂を聞いて、街道を守る騎士たちもその聖なる十字架をひと目見たいものと街道を南に向かいます。……が、いつまでたっても十字架を守る華々しい行列はやって来ず、かわりに奇妙な噂を耳にします。
     真の十字架はやってこない。十字架を守る騎士達は途中で襲われ、皆殺しになった。いや、騎士たちにサタンが入って持ち逃げさせたのだ。いや、十字架は壊され、聖地の威光も地に落ちた、サラセン人どもの仕業だ……

     噂の真相を確かめる間もなく、ヴィンセンシオは騎士団長のユーグ・ド・バイヤン卿に特別に呼ばれます。団長の云うには、イェルサレムから火急の使いがあり、なにかただならぬことが起こったらしい。信仰においては誰にも劣らぬ自信があるが、この度は私のような老骨よりも若いお前のほうが相応しく思える。……使いの坊様と共にイェルサレムへ行きなさい。神の御恵みのあるように。


    イェルサレムでは事態打開のための人選びに、こんな会話が為されていた模様。

    「……困ったどころの話ではない。
    確実に真の十字架を取り返せるのはどのような者だ」
    「騎士、それも世俗騎士ではなく修道騎士がよいでしょう。
    若く、強く、信仰篤く、そしてできれば領地を持たぬもの。
    そのような者なら持てるもの全てを神に捧げられますから (富める者が神の御心に沿うのはいかにも難いのです!)」
    「では、そのような騎士を選び、数人の領臣と共に探索に向かわせよう」
    「それでは事は成りません。探索に必要なのは、領臣ではなく、 強い雇われ兵、主の教えを深く知る学者、そしてサラセン人どもの言葉を
    よく解する者です……」

     イェルサレムでヴィンセンシオが出会ったのは次の三人。

     

    ガストール
    スイス人の傭兵。第1回十字軍には弓兵として参加。「当時は何もわからずただ泣きながら弓を引いていただけ」というものの、現在ではマイティコンポジットロングボウマスターワークで連射が可能という化け物じみた腕前を持つつわもの。その上ヴィンセンシオ君には良き先輩として接する。同国人の奥さんと二人の子供がおり、現在は家族ごと聖地に引っ越してきていて実は一家の大黒柱状態。普段はレバノン杉を切り倒すのが生業だそうな。ファイター4レベル。34歳。

    クリストファ
    ゲルマンはライン川の上流のどこかを出身地に持つ司祭様。その実はカバラの研究者で教会に目をつけられたので、これはまずいとアリバイ的に聖職者の位階を金で買い、教会に入ったという学者先生。で、ここなら安全とばかりに研究を続け、あげくスーフィズム(イスラム神秘主義)に手を出し、そのあたりの書物を漁りに聖地くんだりまで出向いてきた次第。実は山形魔人の日比野氏のプレイヤーがやってました。彼の筋金入りの現場主義は「日比野モード入ってる」ともっぱらの噂。ウィザード3/クレリック1。35歳。

    ルネ
    飲んだくれで朝寝坊の吟遊詩人。フランスの寒村の出。実は民衆十字軍(第1回十字軍と前後して起こった、信仰篤い(ジーザス右翼の?)一般人による十字軍。その実、結局は世間知らずの行列でサラセン人の物見部隊に一蹴された)の生き残り。今じゃ「神の実在の是非なんざ知ったこっちゃないが、神を信じた人間がその勢いでとんでもないことをするのは本当だ」てなシニカル・無神論者に。
    十字軍で捕虜になり、見目良く音楽の才のある若者だったので奴隷として売られ、わりと親切そうなサラセンの領主に買われ、そこでアラブ語を習得、アラブの音楽に触れる機会を得たもののケツの穴を掘られそうになったのでそこを逐電、rogueな暮らしを……うん、無神論者にもなるかも。もちろんアラビア語が話せるのが買われて一行に加わる事に。バード3/ローグ1。33歳。


    正確には先の二人にまず教会で引き合わされ、ついで、 宿屋で飲んだくれて寝っこけてるルネを拾いに行ったんですけどね。
     「三人の信仰篤き者の中には主が共にいますと云われる。
     それが四人ならばさらに主の光臨は確実と云えよう。
     ○○の宿に行き、ルネという男にこの包み(金包みである、当然)を渡して、共に来るように告げるがよい。
    その男はサラセン人の言葉を解する。探索の大きな助けとなろう」
     てなもんで。
     ちなみにこの前半部分、第1回十字軍を扇動した当時の教皇のセリフだそうで。

     かくして、ヴィンセンシオ(パラディン4レベル。23歳。ひとりで若いよ……)を含め、各々異なった能力に秀でたホーリィ・クルセイド(聖十字軍!)の結成、と相成ったわけ。

     ちなみにヴィンセンシオ、ひとりで若いだけじゃなくひとりで世間知らず。生まれるが早いか「坊主か修道騎士にしろ」ってんで僧院にほっぽりこまれたおかげかな。ガストール(俺はメシの為に戦場に出るんで……つまりは領主様のお供でこっちに来たんで、神サマの話は苦手だなぁと「内心では」思ってる)を第1回十字軍の大先輩として深く尊敬するのはともかく、神は研究の対象であるところのクリストファを、主の教えを深く知る、つまりより主に近いものとして敬い、一方でルネの世慣れた振る舞いは結構畏敬の的だったりして。アラビア語が話せる、というのも、「サラセン人と戦う上で彼らの言葉がわかるというのは大変有効なことであると思います」と素直に尊敬。さらには、よっぽどの金でも積まれないともう危ないところになんか行きたくないルネ、貰った金袋の中身がどうも不足な気がしたので、告解室に出向き「……私、懺悔することが御座います。いただいたこの金袋は前金であり、無事仕事を成し遂げれば後金が戴けるのでしょうか?それが気になって気になってこのままでは足が前に進みません……」とやらかしたのを見て、「ああ、それは後金があるに決まっていますよ。何故なら私は報酬の話は全く聞いておりませんが、団長が団の戦力を減らしてまで私をここに寄越したのは、私が無事任務を成し遂げれば団に大きな御恵みがあると知ってのことでしょうから」ときっぱりと言い放つ始末。
     ……ううむ、それにしてもひょっとしてこの十字軍、信仰心に問題がありすぎやしないか。

     でもってイェルサレムの大聖堂に招かれた彼らが聞いたのはこういう話。

     真の十字架を運ぶ騎士団が何者かに襲われ、騎士達は皆殺し、十字架は奪われた。復活祭の日までに十字架を取り返さなければ、イェルサレム王の威光は地に落ち、また再び聖地がサラセン人どもの手に落ちることさえ危惧される。失敗は許されぬ。必ずや復活祭の日までに真の十字架を聖都イェルサレムに持ちかえれ。……もし手勢が必要なことになったらイェルサレムに書状をつかわして助けを呼ぶように、というので大司教の印章も(これは一番正直そうに見えるヴィンセンシオ君が)預かる。
     (普通、聖遺物の「真の十字架」は、キリストの磔刑の後分割されて各地の教会に分けられた、となっていますが、ここではまさにその十字架が分割されることなく聖地に運ばれる最中で失われた……となっています)。

     騎士たち皆殺しの報を伝えたのはイェルサレムから馬で1日ほどの距離にある街、ヘブロンの領主、ウルフ伯。昼に着くはずの一行が夜になっても来ないので朝になって人を探しにやったところ、ヘブロンから程近いアブー・ヘイトの涸れ谷(ヴィンセンシオはよく知っているが、ここは巡礼達にとっては難所のひとつ、盗賊どもにとっては絶好の狩場のひとつで、ヴィンセンシオの騎士団の巡回コースにも当然入っていた地点だった)で騎士達があるいは矢襖になり、あるいは斬られて絶命しており聖遺物は失われているのを発見した……と。

     というわけで、一行はまずその涸れ谷に向かう(その直前、クリストファは、大聖堂にいたギリシャ正教(カトリック以前にこの地にあった原始キリスト教。カトリックからすると異端のはしくれ。でも喧嘩するほどではないし、この時点では共に聖務に携わっている)の大司祭が『この馬鹿どもが』とでも云いたげな表情をしているのをちらりと目にするが、それ以上のことはわからない)。ヘブロンに寄るかどうか迷ったのだけれど、とりあえず現場(騎士達殺害からまる二日が経過)をなるべく早い時点で検分しておきたいということでヘブロンは素通りし、そのまま涸れ谷へ直行。その途中で戦闘の練習的なエンカウンター(敵はアラブ人の盗賊ナリ)があるが、ヴィンセンシオまで手番が回らないうちにガストールの速射とクリストファのスリープの
    呪文でとっとと片がつく。ヴィンセンシオができたのは悪口限定のアラビア語能力を駆使して盗賊を罵ることだけでした。ちなみにガストールも、ヴィンセンシオのさらに上(下?)をゆく糞汚いアラビア語の悪態をつきながらの連射。二人とも「戦場で覚えた/背景情報として自然な流れ」ということで技能点の消費はナシ。この場合、コミュニケーションではなく殴り合いの一環として扱うので言語技能としては扱わなくていいらしい……ホントか?
     で、そうこうするうちにもう暗くなり、ヴィンセンシオがLightの呪文を使う。……
     日々聖書の教えを実行することに心を砕いていた彼は、ある日聖書の御言葉の意味を強く思うことで、その言葉が指し示す奇跡を実行できるようになってしまったのだ!
     ということで。周り中にあれこれといいわけを云いながら、「大いなる光を作り給える者に感謝せよ、その憐れみは永久に絶ゆることなければなり」と、(この瞬間は確信に満ちて)唱えた途端に手から清らかな光が溢れ出す……という。まさに神は聖遺物の探索に身を捧げんとするものを見そなわし、聖書にある言葉通りにその道に光を与え給うたのである!この時点で復活祭まであと10日
     (実はレポート下読みの段階で指摘があったのですが、ほんとはヴィンセンシオ、Light使えないんですよね。どっかで読み違えたらしい。ま、他にもLightの呪文は余ってたし、ゲーム中は誰も気付かなかったし、やっちゃったもんは仕方ないや。奇跡だ奇跡<ホントはこんなのはいけません) 。

     
    注・マスターによれば真に問題なのはマスターを含めてだれ1人パラディンがライトを使えることを不思議に思わなかったことです。イメージとして自然だと誰もが思ってしまったのでしょう。

    ヴィンセンシオの呪文が切れたあたりで今度はルネがLight。
    ヴィンセンシオは勝手にルネを尊敬し、ルネは内心大いに困るが、
    「神の恩寵!それは、ええ、私の大好きな言葉で御座います」とかなんとか云ってごまかす。この男、いろんな言葉が好きなのである(何しろ詩人だし。言葉は好きなのです。ええ)。

     ところで、このシナリオ、イェルサレム周辺の砂漠での野外シナリオだというので、低いConをカヴァーすべくGreat Fortitudeなどを取っていたのだけれど、この時点でそれがひょっとしたら無駄になったかも……というのが判明。何故ならば復活祭は四月の最初の満月の次の日曜日と決まっており(たとえば今年(2001年)は4月7日(土)から8日(日)にかけての夜が満月の晩なので、復活祭は次の日曜日の15日。よって8日はキリストがイェルサレムに入城して人々の熱狂的な歓迎を受けた「棕櫚の日曜日」(人々が棕櫚の枝を打ち振って、「ホサナ、ホサナ(救いあれ、救いあれ)」と喜んだことから)、13日はキリストが磔刑になったGood Friday(何故か「良き金曜日」って云うんだ。仕事はこの日半ドンになる。やっぱりアメリカはキリスト教国だ。13日の金曜日の起源はここから)で、13日を入れて数えて三日目の15日がキリスト復活のイースターサンデー(私はずっと16日に復活したのだと思っていたのだけど、どうやら違うらしい。それとも16日はイースターマンデーとカレンダーに書いてあるから日曜日はミサをやるための日で、本当の復活は月曜日……なのかな?)となるわけ)、その頃あのへんは適度に雨が降り、いっせいに草木が芽吹く、ごく短い「いい季節」のど真ん中で、気候に苦しめられることは有り得なかったのよね。でもまぁ、フィートを使うよりは気候に苦しめられないことのほうが大事。マスターに確認取ったら「たしかに非常に過ごしやすい季節で、手持ちの水を切らしさえしなければ問題ありません」とのことなんで、安心してプレイできました。

     閑話休題。
     で、涸れ谷に入ると、そこには既にウルフ伯の手勢が入っていて現場を片付けている。でも殺された騎士達の屍骸は確認できたし(典型的なサラセン人のやり口だった)、現場に残された足跡も確認することができた。一行が谷のなかほどにさしかかったところで上から矢の雨を降らせ、浮き足立ったところへ騎馬の軍勢が一気に崖を駆け下りてきて生き残りを斬殺した……という闘いのあとが見て取れたのだけれど、ここで歴戦の傭兵ガストールは奇妙なことに気付く。襲われた側と襲った側の馬の蹄鉄の釘あとが、両方とも同じなのだ。もし襲ったのがサラセン人なら、蹄鉄の釘跡は丸い跡が付くはずだが、ここに残っているのは両方ともヨーロッパ人の使う頭の四角い釘の跡……。
     「奴ら、ヨーロッパ人から奪った馬で攻撃をしかけたのか?」
     「そんなはずはありません」
     と、あっさり応えるヴィンセンシオ。
     「連中が奪うとすれば金品だけです。俺よく知ってますけどね、馬も鎧も、ヘタすれば武器も、つまるところ装備全てにおいて連中のほうがいいもん使ってますから」
     ……実は彼が今着てる鎧も盗賊の頭領が着てたものを分捕ったものだったり。この程度にこの騎士君現実的ナリ。

     どうもきな臭いものを感じながら、とりあえずその夜はウルフ伯の手勢の幕屋に泊まり、翌朝(復活祭まであと9日)、足跡を辿り始める一行。ウルフ伯の臣下たちが言うには、襲ったやつらはサラセンのスルタンの手のもので、このまま街道を南西に抜け、べエルシバを越えてスルタンの都に向かったに違いない……と。(そうでない可能性もあるぞ、何しろ連中の足跡はどうも奇妙なのだし)と思いながら谷を後にし、街道を南西に行く。途中「騎馬武者の一団を見た」とかいうイスラムの坊様に道案内をさせたりして足跡を追うと、果たして足跡は街道を外れ、道なき道を辿ってエル・マジュドという小さな村に入っている。

     小さな村といって馬鹿にしたものでもなく、少し前には偉い学者様も出たのだという。その学者、マジュディ様(マジュディ、とは、「マジュド村の」の意だそうな)は大変な博識で、イェルサレムに上られてたいそう出世なさったということだったが、若い頃はいたずら好きで、トカゲにまじないをかけて大きくし、村で養っていたが、マジュディ様が聖都に上られてからというものそのトカゲが暴れ出して手におえなくなってしまったので南の砂漠に放してしまったとか、そんな話を聞きながらこの村を通りぬけていったという騎士の一団の足取りを追っていると……

     ふと、ヴィンセンシオは背筋になにやら不吉な予感を感じる。そして彼の目に映ったものは、骸骨の馬にまたがり、歯をカタカタと鳴らしながら東へ行く骸骨騎士の一団。その衣装はサラセン人のものでなくヨーロッパ風。もしや、と思う間もなく、映像は消える。神の送り給うた警告に違いない、と彼は確信、仲間達にそのことを告げる。悪い心根のヨーロッパ騎士(その冒した罪により、彼らの姿は骸骨騎士として表現されたに違いない!)が聖遺物を奪い、東に逃げたのだと神はお示し下さったのだ(もちろん仲間達は彼ほど単純ではないから、随分いやあな顔をするのである)。

    このヴィジョン、結局なんだったんだろう。マスターに確認してないんだけど。
    ちなみにこのヴィジョンに関しては、誰もがつい
    「ベツレヘムの星のごとく我等を導くもの」
    と口走り、ヴィンセンシオ君に「一緒にするな!!」と怒られておりました。

     その村で日が暮れてしまったのでそこで一泊して(復活祭まであと8日)また足跡を追いかける。最初は東へ向かっていた足跡はまた街道を外れて今度は西へ。そのあたりからだいぶ追いにくくなり、仕方なく村一番の羊飼いにチャームパーソンをかけてトレッキングをさせる。このへんはルネとクリストファの口八丁とクレリック呪文のコンビがいい感じ。すると西へ向かっていたはずの足跡はそこから大きく曲がって東南へ、つまり元の街道筋方向へ続いていた!ますます奇妙だ。呪文が切れたあたりで羊飼いはまた不機嫌になって家に帰ってしまうが、折り良く足跡はそのあたりから街道に合流している。街道筋の村で一泊(復活祭まであと7日)、ついでにそこにあった小さなキリスト教のお御堂の堂守にいろいろ話を聞く。

     ……やはり騎士の一団はこの村も通過して、今度はさらに南に向かったらしい。翌朝消えかけた足跡を追って発とうとする一行を堂守のじいさんが止めて云うには、
     そっちじゃない、そっちは旧街道で、先にあるのはエル・アラドという廃墟だけだ。
     そこは昔ひどい人殺しがあって、以来神のお怒りを受けて廃墟になった。バケモノが出るという噂もある……

     ここでヴィンセンシオ君以外は本気で嫌ぁな顔をする。……ヴィジョンなんかじゃなくて、本気で出るんじゃないのか?骸骨騎士。さらに、ふと思い出したルネが尋ねる。ついでにこのへんの南の砂漠にトカゲのバケモノが出るってことは?

    「おお、そうじゃった」
    と、じいさん。
    「そのトカゲは目から涙を振りまき、その涙に触れた者はすぐさまにどろどろに融けるとか、その尾には12本のトゲがあって、ひとたびそ奴が尾を振れば巨大な獅子もあっというまに全身にトゲが刺さって絶命するとか、子供らが云うとるが、ま、噂じゃろう」
     ……噂じゃねえよ。プレイヤーいっせいにうめく。

     しかし、行かないわけにはいかない。で、もちろん出会う。トカゲのバケモノってよりは宇宙怪獣みたいな代物に。目はなく、口から酸の霧をコーン状に吹き、あれこれとフィートを持っててその上保護色持ちで極めて不意打ちが得意、という。動かしてる張本人のマスターにしてからが曰く「ふざけんな、誰だこんなもん作ったの」。……全員して学者先生を呪い、一部酸に溶かされたりしながらなんとか倒す。こっちは馬で崖を一気に駆け上るのには成功したものの、近づきすぎてしまってチャージができなかったのがちょっと残念。とりあえずトカゲには聖ゲオルギウスの昔から槍と決まっている!とランスを構えたのは良かったんだけどねえ。でも最後の一撃はヴィンセンシオ君の手番で出来たので、騎士様的にはカッコついてよかったかも。しかしあれはトカゲじゃない。大トカゲは美形モンスターであって、あんな宇宙怪獣みたいな強いだけで物語性のかけらも感じられないシロモノじゃないやい(ま、もともと違うんだけどさ。だいたいイラストの見てくれが悪いモンスターって「お前達を困らせてやるぞー」的なものしか感じられないんだよなぁ、まったく……ぶつぶつ)。ここで怪我をした仲間に「わが友よ、心安かれ。汝の信仰なんじを救えり」と唱えながら手をかざすとみるみるうちに傷が回復してゆく……(あなたの中にある信仰によってあなたは癒されたのです、って云ってるわけで、これで直ってしまった無神論者ルネの敗北感にのた打ち回ることったら!)
    ちなみにここで出たのはダイジェスタ。
    後日のマスターの言動からするにマイナーチューンしてあったっぽいけど。
    ……ほんとかな?

     トカゲを撃退した後廃墟の手前で一泊し(バケモノの出る場所に夜入りたい人間なんかいないってことで……復活祭まであと6日!)エル・アラドの廃墟にたどりついた一行を迎えたのは、無人の砦・入ってきて出ていった足跡・そして生々しい血の匂い。
     入ってきて出ていった以上、ここに十字架があるわけがない、ここは素通りして足跡を追いかけよう、とヴィンセンシオは主張するが、とりあえず何か手掛かりがあるかもしれないので、というほうの主張が通り、一行は血の匂いの濃くなるほうへと歩いて行く……と、そこは地下の墳墓らしき場所。目の前には扉が一枚。血の匂いはその向こうから濃く漂ってくる。思いきって扉を開くと、そこは血の海でその中には骸骨がいくつも転がっている。ただの死体か、それとも悪しき生ける屍か?ここでヴィンセンシオがディテクト・イビル。はい、骸骨全員ぴーかぴかと光ります。無言でドアを閉める。
    「骸骨戦士だ。ほっといて先行きましょう」

    え?言動がパラディンらしくない?
    でも、目の前の悪しきものよりは迫る〆切のほうが重要だと……

     もちろんそうは問屋が下ろさない。
     扉の向こうからがちがちと歯を鳴らしながら、切れ切れのアラビア語。
     ……うらめしい、フランク騎士の奴ら。
     ……分け前をよこさないばかりか俺達をこんな目に……
     そしてばりばりと扉が破られる。戦闘開始。

     結局のところ、このパーティー、この手の雑魚相手にはわりと強くて、まず第一撃が来る前にガストールの強弓が(ダメージ半分になるにもかかわらず)前衛を粉砕、次に詰めてきたものをヴィンセンシオが「あなたの罪は許されました(……この台詞、4レベルパラディンごときが云っちゃまずいんだけどね。何しろ本当はキリスト(か、その代行者)しか云っちゃいけないわけで)」と云ってその前に手をかざすと瞬く間に浄化(成仏、といいかけて全員爆笑。クリスチャンシナリオに成仏は……まずいよなぁ)。ターンじゃなくて手かざしの逆なんだけどね。残りはクリストファが「煉獄の炎に灼かれるがよいー!!」といって戸口にしかけたフレーミングスフィア(仕掛けるときの呪文は司祭様ちっくですが、当然ウィザード呪文ですナリ)できれいさっぱり燃え尽きてしまいましたとさ。

    そのほかに「メギドの火!」とか「ソドムとゴモラの火!」とか
    「ゲヘナの炎!!」とか……楽しそうだったなぁ。
    何せ今回、PHBやDMG以外に妙に厚い本が面子の回りに転がってるの。
    資料と称して……キリスト教の解説本やら聖書(文語訳)とか(笑)

     で、敵のいなくなった部屋を調べると、血は一面に振りまかれているのに、何やら十字架の形に床が汚れから守られていたり、その周りには刃こぼれした剣や斧が転がっていたり、とどうも十字架に血をぶちまけたり破壊しようとしたりしたあとが見える。聖遺物を汚したり壊したりして、いったい何をどうしようと云うのだ……?

     いぶかしく思いながら足跡の後を追う一行。途中で、足跡のひとつが列から離れ、洞窟の中に消えていっているのに気づき、まずはそちらを調べる。と、人の気配。よく見るとアラブ人が一人、目を血走らせて弓に矢をつがえ、こちらを睨んでいる。
    「何のつもりだ!」
    「く、来るな!フランク人め、もう騙されないぞ!!」
    「俺はフランク人じゃない、神聖ローマ帝国人だ!」
    「黙れ、ヨーロッパ人なんてみんな同じだぁ!!」
    「違う!」
     PCは神の加護を信じ、プレイヤーはキャラシーのACを確認して、まぁいいや、とつぶやいて、ヴィンセンシオ君、そのまま件のアラブ人に向かってまっすぐ歩き出す。
    「話を聞いてくれ……」
     放たれた矢は聖騎士の鎧に当たって跳ねかえる。至近距離で撃たれても神様が守っていて下さるから平気らしい(一応このへんでパラディンを演出)。武器が通用しないと知ってパニック状態になったアラブ人をクリストファのスリープの呪文が襲う。

     てなわけで、無事情報源を確保。目がさめたアラブ人の目の前にはCha18の穏やかな眼差しの若い聖騎士様がかがみこんで
    「手荒なことをしてすまなかった」とか云うわけ。「我々は君や君の仲間たちを酷い目に会わせたフランク騎士を追っている。もしよければこんなことになった訳を教えてはくれないか?」

     で、聞いた訳というのが実にとんでもない。
     学者マジュディは昔からこの世にはなぜこんなに魔獣が少ないのだろうと考えていた。そして多くの本を読むうちにある真理にたどり着いた!昔はこの地にも多くの魔獣がいたのである。しかし1000と100年余りの昔にナザレのイエスという坊主が己の身を犠牲にして十字架でもって異界との間の扉を閉ざしてしまったために、この世にはこんなにも魔獣が少ないのであると。だから、真の十字架を奪って破壊すれば、この世には元通り魔獣が蘇るに違いない……そこでマジュディはイェルサレムの王位請求者の一人であり、現王権の失墜を計っているフランク貴族のルートヴィヒ公と手を結んで真の十字架を奪ったのである。真の十字架の破壊には多くの血が必要であるということだったので、昔人殺しがあったというエル・アラドにまずは行ったが、十字架を壊すことはできない。血が足りないのかと新鮮な血を振り掛けてみたが効き目はない(ここで、十字架の櫃を担ぐための人足を残してアラブ人は全て斬られたらしい)。それで、今度はもっと多くのよき人間が希望を待ち望みながら絶望のうちに死んでいった地で、しかも最も不吉な日を選んで十字架の破壊を試みる……と。
    「いいんですか聖騎士様、キリストが悪魔を締め出したとか云ってますが」
    「異端ですよ異端」
    「ああいいんですよ、私キリスト教国アメリカで見てきました。 ジーザスが剣を振りまわして悪魔の群れと殺陣やってましたから」
    「いや、しかしキリストの得意な武器は槍だそうですよ。 イスラムの伝承によれば、生ける身のまま天国に昇ったイエスは定められた日に天国から降りてきて腐敗しきったこの世を見、あきゃきゃきゃきゃきゃきゃあと云って槍を振り回してノアの洪水のごとくこの世を破壊し尽くすらしいです」
    「すばらしいですなイスラムの伝承」
    ……ね、このようにD&Dで宗教の勉強をすることは可能なのですよ。

     もっと多くの血が流れた場所。
    「マサダの砦だ!」
     クリストファ(のプレイヤー)が叫ぶ。多くの信仰篤き人々が十数年に渡って立てこもり、ついに全滅した要害。
     もっとも不吉な日。
    「グッドフライデー……期限は今日込みであと4日……」
     ヴィンセンシオ(のプレイヤー)の顔色が変わる。
     ハサンという、そのアラブ人に、大司教から預かった印章を記した手紙を託し、さすがにイスラム教徒に直接イェルサレムに向かわせるのはまずいのでヘブロン伯のもとへ援軍を頼んでおいてこちらは砂漠を東に越えたマサダの砦へ急ぐ。砦についたところで日が暮れて、その日は砦の外観を軽く観察するだけで終わってしまう。リミットまであと3日。

    この時Knowledgeチェックしたんだっけしなかったんだっけ。
    とにかくこのあたりがこの面子とシナリオの相性のよさだと思うですよ。
    いやそれどころか以下のような会話さえ。
    クリストファPL:「この砦って、たしか隠し砦につながる横穴があったはずですが」
    DM:「……うむあるな」
    クリストファPL:「プレイヤー知識で探すとさすがにまずいですよね」
    DM:「やはりまずかろう」
    ……ま、その、限度の見極めは大事です。

     ちなみに砦はまさに天然の要害で、ちょうど火山の火口から一本通り道を通したような形になっている。入り口はどうもそこ1箇所だけらしいが、そこにまっすぐ乗りこんでいったら矢を浴びせられて一巻の終わりは明白。手を出しあぐねているうちに、向こうのほうから答えがやってくる。アラブ人の人足が二人、水を汲みに砦から出てきたのである。砦には水源がないらしい……

     早速彼らをスリープの呪文で眠らせてこちらがわに回収。起こした後砦の内部事情を確認。一方で水がめのほうはひっくり返してしまい、砦の中の連中が渇きに耐えかねて出てくるのを待つ、という具合。砦の中には騎士が10人とルートヴィヒ公とマジュディ。砦の入り口には常に弓兵が5人控えていて、攻め込むのは不可能らしい……

     昼過ぎ。砦のほうがどうも騒がしい。アラブ人たちが逃げたと思って、今度は騎士達が水を汲みに出てくるらしい。待ち構える一行。しかし、どうも隠れていたのが見破られてしまったらしい。慌てて引き返して行く騎士たち(呆れたことに彼らの装束は同じ修道騎士であるホスピタル騎士団のそれであった!)の後ろからヴィンセンシオは叫ぶ。
    「ふざけるな、神の道を外れた輩ども、出てきて戦え!!」
    「おお、負け犬が吠えておるわ、笑え、みなのもの、笑ってやれ!」
     これが三国志あたりでよくやるところの悪口の言い合いって奴。まだ若いヴィンセンシオ君、かっと来て、それでもさすがに単身駆け出すことはせず馬を取りに行っている隙にガストールが叫ぶ。
    「ああ、水は美味いなぁ。まるで天国の甘露のようだ!!」
     一瞬の静寂。そして一気に砦を駆け下りてくる馬蹄の響き。やーいひっかかった。
     チャージしてきた三騎のうち二騎がたちまちのうちにガストールに喉元を射切られて絶命、残る一騎も対抗してチャージしてきたヴィンセンシオのランスに胸板を貫かれる。その勢いをかって後から駆け下りてきた歩兵もなんなく蹴散らす騎士様。……単身城塞突破はしなかったけど似たようなことは結局してるなぁ……。というわけで砦の人間瞬く間に半減。さすがにあとはもう出てこない。

     その晩、アラブ人達から教わった抜け道をルネが偵察に行き、さらに夜回りの騎士ひとりを片付けて次の日。リミットまであと二日。

    雨が降っていないかぎり月は出ている。それも下弦の半月以上の月が。
    復活祭は満月から8日以上離れないからである。
    よって暗闇によるペナルティは軽い。
    ……というのを「PC(またはプレイヤー)の会話として」できると
    確かに盛りあがるんだよね。

     流石に手勢が減りすぎたか、裏道から登った一行を邪魔だてするものもなく、無事砦の中に潜入成功。あとは最終決戦。

     マジュディとルートヴィヒ公がいるという建物にまっすぐ乗り込む。途中の廊下で物音を聞きつけて出てきたルートヴィヒ公と鉢合わせ。高レベルの相手に散々苦戦しながらどうにか公を斬り捨てる。しかし、ここでホントはSmite Evilとか使えたんじゃないんだろうか。つい素で殴っちゃったけど。真の十字架を壊そうとするなんてどう考えても(ヴィンセンシオ君的には)イビルな行動だし。いや、ただのニュートラルだったんじゃないかって気もしなくもないけどね。とにかく公と騎士の一人を片付けて奥の部屋の扉を開けると、その向こうには人影。そして床に横たえられているのは(見えるとおりの素っ気無い木材ではなく)まさに求めていた真の十字架!
     駆け出すヴィンセンシオ。もちろんただで取り返せるわけはない。

    「なんじゃ、やかましい」
     といいながら髭の老人が振りかえる。一行を見とめるや否や、傍らの大蛇を手招いてひょいとこちらを指差す。かなわない、と見て反射的に逃げ出すルネ。正しい。老人は撃つものを撃ったからである。ファイアーボール。ダメージ19。セーブに失敗したガストールとヴィンセンシオが倒れる。コンマ3秒遅れてクリストファのマジックミサイル。
    「食らえ、メギドの火!!」
    (旧約聖書を読み上げながら、たいそう嬉しそうに撃ってたことでありますよ)マジュディ、あっけなく沈む。蛇は使い手がいなくなったので血迷って、残りのホスピタル騎士に襲いかかる。こうなればあとはクリストファ一人でもなんとかなる。蛇に残りのフレーミングスフィア。よく燃えること。

     すっかり敵を片付けて、あとは倒れている戦士二人を回復させてやればいいというだけ。……になって、ルネは急に思い立った。この世に神は本当にいるのか。私が若く、理想に燃えていた頃、神の為に立ちあがったはずの私たちは滅ぶままにされた。
     以来私は神の実存など信じていないのだが、ここで今ひとたび、私は神を試そうと思う。

     といって、彼は瀕死のヴィンセンシオを引きずり、その身体を十字架の上に投げ出したのである。もし神が本当にいて奇跡を起こすならば、この純真な若者を救うはずだ。それとも神を試したことを咎めて私に怒りを示すはずだ、と。
     ……何も起きない。筋骨隆々たる騎士が十字架の上に倒れている。それだけである。

     そうか、と、ルネは悟る。
     神は存在してもしなくてもいい。そして多分存在しない。奇跡は本人のうちに宿るものであり、そしてその本人が強く望むときにのみ起こるものである。つまり、すべては正しいのだ。神を信じることも、信じないことも、厳しい掟にしたがって生きることも、飲んだくれで朝寝坊のまま命を繋ぐことも、すべて同等に正しいのだ。己の望むままに生きることはすべて正しいのだ。
     これが神を信じる男であったなら、この瞬間私に神は真実を示し給うたと叫んだであろう。ルネは晴れ晴れと笑い、そして最後の治癒の呪文をヴィンセンシオに施した。

     復活祭まであと丸3日を残した昼過ぎのことである。

     あとはおおかた後日の話。

     帰ってきた四人に、数日前とは打って変わったにこやかな顔つきで、例のギリシャ正教の司祭様が来て云ったものである。
    「いやよかった、ヨーロッパ人がかかわっているのは私は知っていたんだ。だが、そういったところであなた方は信じてくださらなかったでしょうしな」
     とりあえずヒトコト先に云ってくれ、信じる信じないはこちらで決める……と、全員が思ったものである。

     マジュディの着ていたローブが魔法のかかった値打ちものだと知れて、ルネはそれを取ることにした。教会からの成功報酬も十分に受け取り、彼は住みなれた宿屋に戻った。それからの彼は深酒にも怠惰にもいっそう磨きがかかり、宿屋の主人は多少心配しないでもなかったのだが、まぁなにも言うことはなかった。件の探索行から帰ってきてからのルネは妙に満足しているふうであったし、何より払いを遅らせたり誤魔化したりということがいっさいなくなった(褒むべきは奴に払いのよかった教会であるよ!)からである。

     部屋にあった本棚の中身はそっくりクリストファのものになった。マジュディはよほどの読書家と見え、その蔵書はあらゆる言語を含んでいた。中には奇妙な象形文字で書かれ、見なれない装丁を施されたものもあった。研究を続けるうちに、それには「先生は云われた、知っていることを知っているといい、知らぬことを知らぬという。それが知るということである」とか「某はある日夢の中で胡蝶になった」とか書いてあることがわかり、なかなか含蓄の深いものであるなと思っていると、そのうち「山海経」と題する本にぶつかった。バケモノが満載の本であった。それを読むうちにマジュディの気持ちがなんとなく想像がつかなくもない気がしてきたが、こんなモノ奴が作る気にならなかったか作る腕がなかったかしてくれて本当に命拾いしたと嘆息するほうが先であった。

     ガストールは傭兵として充分な報酬を得、ついでにマジュディの部屋から金目のものを売り払ってできた金子もそっくり取り分として寄越されたので、満足して家族の待つ家に帰った。単純に計算するなら10日の働きとしてはすばらしく実入りのいい仕事だった。ところが子供らにせがまれて旅の話をはじめた途端に妻が呆れた顔をし、南の砂漠を通りかかったあたりで、ついに「あなた、随分お疲れなんですわ。あたたかい牛乳でも飲んでおやすみなさいな」と言い出したので、ハテ俺は最初の枯れ谷で殉教なさった騎士様たちのむごたらしい死に様をうっかり詳しく話しちまったかしらんと思ったのだが、どうもそうではないようだった。しかし考えてみれば目無しトカゲのバケモノが酸を吹いたり、骸骨騎士と殴り合ったり、火の玉を撃つ魔法使いが出て来たりするのは旅の話としてはどうもちっとも本当らしくないのだった。思い返せば思い返すほど馬鹿馬鹿しくなってきたので、妻の言うとおり旅の話は早々に切り上げてぐっすり眠り、そのついでに同じくらい馬鹿馬鹿しい夢をどっさり見たので、何が本当だったのかわからなくなってしまった。
     ルネはこの冒険で悟りを得た。そして、ヴィンセンシオが得たのは悦びであった。彼は真の十字架をイェルサレムまでその肩に担う栄光にあずかったのである。マサダの殉教の地からイェルサレムまでのすべての道を十字架を担って歩きとおすことが望みだったが、さすがに復活祭まであと三日しかないのだからと説得されて聖都の門までは馬を使った。しかし、馬の背にありながらも両肩に主なる十字架を担い、その姿勢を崩すことなく街道を行く若い騎士は、多くの者の心に信仰を呼び覚ました。ようやく祭に遅れるおそれから開放されて、主の苦難を分かち合う悦びに顔を輝かせ、徒歩で聖都の門をくぐる名もなき騎士の姿に深く心を動かされ、入門を希望して修道院の門を叩く者も数えきれなかったという。中でも喜んだのは騎士団長、ユーグ卿であった。

     「子よ」と彼は云った。「神の恩寵厚きわが子よ、そなたを団の中に持つという栄誉を主がわが身に賜ったことは感謝に耐えない。そして、この栄誉を記念して、我らは正式の騎士団を結成することにしたい……」年の若さ、俗世での身分の低さ、そんなことはその栄誉に一片の影を落とすこともない。謙譲はこの際美徳ではなく臆病の罪ともなろう。主の十字架を担った者は主の栄光を声高に呼ばわる光となるのである。
     人は灯火をともして桝の下に置かず灯台の上に置くと御言葉にもあるではないか。かくのごとく汝らの光を家の前に輝かせ、これ人の汝らの善き行いを見て天に居ます汝らの父を崇めん為なり、と……。

    4年後、ユーグ卿を団長に小さな騎士団が結成されたことは史書に詳しい。イェルサレム城内のソロモンの聖堂跡地を賜ったことから、彼らはテンプル(聖堂)騎士団と呼ばれた。その一団に、真の十字架を担ったことのある家名を持たぬ若い騎士が居たかどうかは既に記録からこぼれおち、後世の知るところではない。
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