千字シナリオ:幸福な死

タイトル
幸福な死
作者
トモス・アキナス
ジャンル
ファンタジー一般
タイプ
心理ドラマ
主題
生の不幸と死の幸福

中心となる人物

ある天使。彼女は遠い昔にこの地上に遣わさた。苦しみながら死を待つ人々のところへ赴き、その者の魂を心から慈しみ、身体を懐に抱くことで幸福な死を与えることを務めとする。苦しみや絶望にむしばまれた人々のある者は微笑み、ある者は涙を流して死んで行く。

彼女の仕えていた神は遠い昔にこの世界とのつながりを断ち、彼女には帰る場所がない。死を与えた者達の魂の行方も、彼女にはもわからない。
 彼女は、生にひたむきな一人のPCに恋をする。彼女には死を与えることなく誰かを抱きしめることはできない。彼女は死に行く者として人を愛することしか知らず、PCに心を傾け過ぎれば、それはやがてそのPCにも死を与えることになる、と考えている。彼女はPCによって愛され、死を与えられたいと願う。
 それが彼女の知る愛情の形であり、同時に、死神のような今の自分の使命からの解放であり、ある種の祝福だと感じている。

神が世界とのつながりを断った頃から彼女のオーラと翼は失われ、外見上は人間の女性となんら変わるところがない。彼女は祝福された身であるため、務めを果たしている限り死ぬことはなく、どんな傷も時と共に癒える。 (彼女が死を望んだ場合だけは別である) 使命に必要な知識はしばしば直観として彼女にもたらされる。
 ただし、世智に長けているわけでもなく、どちらかといえば控え目な女性である。冒険者としては無能、無力である。

舞台

PCと天使の遭遇は、戦乱と飢餓によって破局を迎えつつあるある村で起こる。戦禍は呪い、手足の不自由、家財の焼失、疫病、兵士・野盗による略奪、などの形で残り少ない村人達を苦しめ続けており、生き延びる希望を持つ者よりも死を待ち望む者が多い。

PCの一人はその村の再建に尽力している数少ない健康な者の一人で、旅の僧、義賊、あるいは頑健な村人といった者のどれかだろう。希望を捨てず、ひたむきに前向きな努力を重ねる人物であれば都合がいい。

他のPC達は天使に頼まれてこの村まで護衛をしてきた者達だという設定にする。PC達は、天使の性格、能力、使命について基本的な知識を持ち、この村には天使が死を与える人間以外に誰か出逢うべき特別な人間がいることも知っている。パーティの中に賢者や人格者がいれば、天使はそのPCに相談を持ちかける。
 彼女は自分が殺されることを望んでいる、ということも打ち明けるかも知れない。恋をされているPCが表向きの主人公になる分、それ以外のPC達が早くから事態の真相を知り、あれこれの解決を思案・模索する役を担うのがいいだろう。

課題

天使は誰かの邪魔が入ればそれを押し退けてでも人々に死を与えようとすることはない。但し近くに死を待ち望む魂があれば彼女の心はそれを感じとって激しく痛む。

結末

無難で幸福な結末は、PCが天使と共に生きることだろう。以後天使は、死を待ち望む魂を探り当て、PCはその人々に生きる希望を与えてやることに全力を尽くす、という旅を続けていくことになる。彼女は命を奪う努めから解放され、死への願望が減り、愛する者に殺される代わりに、共に生きることを知る。

PC達がこの可能性を追求する場合、手始めに舞台となる村に役立ちそうな薬草、財宝などの探索のショートシナリオを加え、PC達にそれがやれるかどうかを考えさせる旅を与える。

天使を殺してやる、天使の願いを拒む、などの選択をしてもエピソードは終了する。

天使をか弱い男性に、恋の相手を生き生きとした女性にすることも可能。消え去った神を信仰する敬けんな僧とその使徒の信仰上の苦悩にすることもできる。他にも色々な形で、構図を保って細部を換えることが可能だろう。


2001年分のリスト / TRPG.NETホームページ / Web管理者連絡先