千字シナリオ:『捜索+退治』形式勧善懲悪もの

作者
アキト
題名
『捜索+退治』形式勧善懲悪もの

……そもそもこの騒動は、ある「商人」が市場で財布を落とし、それを「少 年」がひろったことからはじまった。

「商人」はあせった。財布の中には取引きにかかせない「割符(鍵)」がはいっ ていたからである。幸い、現場の近くに「拾い主」のおよその人相を見ていた 者がいたので、「商人」は人を雇って探させることにした。「中には大事な書 きつけが入っていたことにしよう。そして彼らには居場所をつきとめるだけで いいと。私は目立つわけにいかないが同時に秘密をもらすわけにもいかないの だから」

パン職人の見習いをしていた「少年」は、その日も親方のいいつけで市場ま でパンを売りに出かけていた。そして彼は雑踏の中で、うす汚れた袋――財布 のようだ――を拾いあげる。財布にはコインが入っていたので、「少年」はこ れをいそいでポケットの中に落とし込み、何事もなかったようにパンを売りは じめる。そして、いつしかそんなものを拾ったことさえも忘れてしまう。やが て担いできた品物をみな売ってしまった「少年」は、仕事場であり寝床でもあ る親方の家へと帰っていった。

あれこれの雑事を終え、「少年」が屋根裏にある自分の部屋に戻ったとき、 あたりはすっかり暗くなっていた。部屋に入ると懐に見慣れぬ財布が入ってい ることに気が突き、朝のできごとを思い出す。「少年」が財布をあらためて調 べると、中身はわずかな金額のコインだけだった。しかし、彼には自由になる お金というものがほとんどなかったので、大変よろこんだ。「これは盗みじゃ ない。そう、きっと神様がくれたご褒美なんだ。……でも、なんでこの『コイ ン』だけが半分こなんだろう?」

PCたちを前にして、依頼人は依頼内容を確認した。「……ええ、そうです。 私の財布を盗んだ少年を見つけてほしいのです。ただ、なくしてしまったのは 私にも落ち度がありますから、手荒いことはしたくありません。ですから、少 年の居場所をつきとめて、私に知らせてくれさえすれば依頼は終了です。あと は私が出向いて交渉しましょう。」

──実は「少年」が拾ったのは犯罪集団同士の取引きで使われる「割符」で あり、「商人」はすでに手配をされている悪党の変装なのである。

冒険は「少年」の居場所の情報収集のパートと真相の判明するパートと悪党 退治のパートに分かれ、前半ではこれに平行して悪党の正体を示唆する情報を 伏線として与えることが加わる。

情報は妥当な選択肢を選べば手にはいるが、がむしゃらに集めても「少年」 が「ネコババで捕まるのを避けるあまりかえって目立ち」発見することができ る(注:適当なペナルティを課すこと)。同じ物売りの少年や市場を取りしきる 役人など、さまざまなNPCを用いて話をふくらまさないと、基本的な構造が単 純なので、プレイヤーが飽きてしまう危険性があるので注意。

真相の判明は、「少年」との予定外の接触で、依頼人が話していない「割符」 の存在がPCたちに告知されることで発生する。

あくまでも依頼を全うする(=「少年」を突き出す)ことを主張するPCがいる 場合、悪党は賞金首であることを示唆し、思い直してもらうこと。

「盗賊ギルド」が世界設定で存在する世界では、必ず依頼の段階で「ギルド につけこまれるのでやめてほしい」と告げること。ギルドが取引先かその敵対 勢力であることが世界観から要請されすため、その介入によって事件がPCたち の手を離れてシナリオが成立しないくなってしまう可能性が高いからである。


今月分のリスト / TRPG.NETホームページ / Web管理者連絡先