天羅万象掛け合い:遁走編 002

天羅万象掛け合い所:PLAY7の2002年05月13日より2002年09月25日までのログです。


2002年09月25日:23時54分21秒
弁士中止! / Djinny
「とりあえず……」
 金剛機には陰陽師が死んだことでも知らせて無用なしごとを止めさせよう、それがいい/\。
 もう陰陽師は死んだのだ、鎧乗りの方にも仕事の用はなくなったわけだし、ここでナントカ言いくるめて金剛機から降りて貰えば、自分も一仕事分助かる。
 これぞ一石二鳥という事だ、と思ってあたりを見回す、お誂え向きに眼下に酒場がある。
 なにはともあれあそこで服でも着替えさせようかと至って呑気な事を考えつつ足を踏み出したその刹那、どどぅ……んッと大音声、酒場は揺れて中のお客がうわっと四方に逃げ出すのが見えた。
「糞ッ垂れ、もう始めッちまったか」
 唇を噛んだがもう遅い、そもそも金剛機が居なくなった隙を突いて陰陽師に襲い掛かったわけだから間に合うはずもない。
「ええい、ままよ」と許りに一散に坂を駆け下る、ところが両手に鎧乗りの娘を抱きかかえているから始末が悪い。
 藪を避け、木を回り込んでいるうちに腕といい顔といいすっかり傷だらけ、丸きりどこぞの夜盗山賊の類の様になって了った、然し貫影ものともせずに酒場の裏手に走り込む。
 と、既に壁には大穴が空き、中から何やら言い争う声が聞こえる。遅かったか、いやそれでも止めねばならぬ。ここで止めねば態々荷物を抱えて坂を降りた意味がない。そもそも金剛機が何処かに行く前に止めねば、下手をすると廻り回って自分の身が危ない。
「待った待った金剛機、その勝負待った!」
 声を限りに呼ばわって、壁の大穴に突進しようとしたところで、その大穴から誰かひょっこり顔を出した。何やら見覚えのある顔だ、どういうわけかニヤニヤと笑いを浮かべている。その薄笑いがこっちを見て凍りついた。
「あ゛」
「あ……おまえ、1年前の」
 お互い咄嗟に名前が出てこない、代わりにどぉっと厭な記憶が蘇ってきた。然し今はそんなことを如何こうする暇はない。
「ちょっと持ってろ!」と抱えていた娘を押し付ける、相手が慌てて抱きかかえたところを肘を引っ張って酒場に踊りこんだ。
「まてまてまて、その勝負待て! 金剛機、お前の連れはいなくなったぞ、もう勝負する必要はない!」
 
 さてこの闖入者に三人どう答えるか、続きは次回。
2002年09月24日:00時30分25秒
大凶 / 月夢
 神仏の類は信じない、傭兵なぞ初めてからこっち神様なんぞにすがったことはない、御利益なぞかけらたりとも期待しない、だが、もし、
(この瞬間どうにかしてくれるなら何にでも改宗してやる)
「ともかくっ! 何であんたが生きてるのよっ、ええと……たしか……誰だっけ?…………ああもう、誰でもいいわっ、あんたのせいで、この仕事もクビよっ!」
 こちらが答える前に自己完結してすくっと立ち上がる、向こうは向こうでどうやら言い分があるようである。
「っていうかなんで俺のせいだ!」
 言っては見るが多分聞いてくれていないだろう、そのことを証明するように、目の奥に炎を燃やして金剛機を睨み付けると、びしっと指を突きつけ宣言する。
「こらっ、木偶の坊っ! この才田白雲斎が娘、お蘭が案山子にしてやるから――そこ動くなっ!」
(ああああああ、変わってない、変わってない、馬鹿だ、絶対馬鹿だ)
 最強の戦闘力を持つと言われる金剛機だが1対1でやって勝てないと言うわけではない、破壊力で上回るヨロイや、達人の域に達したサムライなど、実際に金剛機を上回る光景を見たことがないわけではないが、しかし目の前の小娘は見える範囲(露出は普通より多いだろう)明らかに生身の陰陽師。
(野外で転んだらぽっくり逝くとか、筆より重いものは持たないまで言われた陰陽師がさしで金剛機をどうすんだよ、勝てるわけ……ああ、そういや、昔いたなあ勝てる言うてた陰陽師が、こう冷静沈着で、優美でぐっと来るような良い女だったなあ、鈴なんとかつってたっけ……そうだよなあ、女陰陽師というのはやはりああでないとなあ……)
 展開の早さに脳味噌がついていけなくなったか、現実逃避の園に逃げ込もうとする矢先、
 ザクッ、ガラガラガラ……店の中、裏口に続き今度は壁が崩れる、店の人間も災難である。
「おにゃん、ぶひぃかぁ!」
 わからんわからん、で、言い直し。
「助けに来たぜ、今度はどんなすっとこどっこいだ?」
 なんとなーく予測はしていたが、またまた戻ってくる過去その2。
「ふっ、お互い渡世の雇われ家業。昨日の味方が今日の敵ってのも良くあることさ。一年ぶりで、こちらにゃ特に含みはねぇが、あんたがそのつもりなら、こちらも腰の物にものを言わすしかねぇやなぁ。」
「…………」
 現在発言吟味中。
「…………おおっ」
 一応なにがどうなったか整理はついたようである。
「いや、特に用事はない!」
 力強くきっぱりと。
「と言うことでつもる話もあるだろうが、取り込み中のようだから出直してくるわ」
 くるのか?
「じゃ、そういうことで詳しいいきさつとかはあっちに聞いてくれ」
 金剛機を指さし、にこやかな愛想笑いを残しつつ、壁の穴のほうへ向かう。
「それでは後は若い方々で」
 やり手婆のような言葉と笑みと態度を張り付けつつ、低姿勢………まあ、そこまでやってもうまくいかないのが人生というものである。
2002年09月12日:20時15分13秒
行くぜ。俺は刀をもった渡り鳥。 / 李
逃がした魚はでかかった。
 正式にはでかかった気がした。
 かもしれないが、何はともあれ、釣竿の先に餌をくくりつけて河に投げる。
 
 正直、これで魚が釣れなかったら、お蘭のヒモである。
 下手したら、あちらの方が稼ぎがいいのだ。
 
 ゾクッ!
 背筋に走る悪寒。
 戦場の空気。
 最も分かりやすく言うと、厄介事がやってきた。
 
 この一年幾度となく感じた空気である。
 ”お蘭が危ない!”
 釣り竿を引っつかんで、川岸を走る。
 
 チュドーン!そんな音を発しながら、店の裏口が火に包まれる。
 やばい、敵はかなりの手練か!
 あの女は、襲われたとき、おとなしく逃げると言う事を知らない。
 平然と矢面に立つのだ。
 今まではそれでも何とか出来た。
 だが、今この状態、これで無事にいられるとは限らない。
 入り口には、敵がいるだろう。
 裏口はすでに崩壊している。
 
 なら、どこから?
 「知れた事、壁から入るのみ!」
 口に釣竿をくわえ、酒場の壁の近くで、抜刀。
 そのまま、壁を切り崩す。
 
 「おにゃん、ぶひぃかぁ!」
 そら、口に釣竿くわえてしゃべったら、そうなるわ。
 釣り竿を口からはなして。
 
 「助けに来たぜ、今度はどんなすっとこどっこいだ?」
 ふと見ると、札を構えたお蘭と、懐かしい顔とみたこともない金剛機。
 「ふっ、お互い渡世の雇われ家業。
 昨日の味方が今日の敵ってのも良くあることさ。
 一年ぶりで、こちらにゃ特に含みはねぇが、
 あんたがそのつもりなら、こちらも腰の物にものを言わすしかねぇやなぁ。」
 
 抜刀してるのはおまえだ、飛燕。
2002年09月05日:23時24分55秒
そこ動くなっ! / みだれかわ枕
「痛い痛い痛い痛い〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」
 振り回されてお蘭は、さすがに悲鳴を上げた。腰やら尻やらがあちこち当たって痛い。あいにく、胸は抵抗が少ない形状をしているので、痛くなかった。
「な、なんだ、借金取りか?」
 お蘭を振り回した本人が、そう呻く。
「知らないわよっ、あたしは借金してないもんっ!」
 ぶんぶん振り回されながらも、お蘭はそう答えた。
 そう、襲われる心当たりはあるが、借金はしていない。
「だああ、もう、こんな国に帰って来るんじゃなかったあ!!」
「だったら帰ってくるんじゃないわよっ! これでもそれなりに平和だったんだからっ!」
 そう言い返してから、内心、ヘンなの、とか冷静に考えた。平穏な生活というものとは、この一年間も無縁だったと思うが……
「ともかくっ! 何であんたが生きてるのよっ、ええと……たしか……誰だっけ?」
 頭を一生懸命ひねってみるが、この傭兵崩れの男の名前は出てこない。一年前、散々な目にあわされたというのに。
「ああもう、誰でもいいわっ、あんたのせいで、この仕事もクビよっ!」
 頭をかきむしりながら、すっくと立ち上がる。
「こらっ、木偶の坊っ! この才田白雲斎が娘、お蘭が案山子にしてやるから――」
 大福帳から一枚札を千切り取り、念を込めると――髪に塗りたくっていた白髪染めが消し飛んで、本来の紅毛が姿を現した。
「そこ動くなっ!」
 もう一枚札を千切り、びしっと金剛機に突き出した。
 
――ふっ飛ばしてヤルっ!
2002年08月29日:00時35分28秒
二幕 / 月夢
「あ、ああ、あるけどっ」
 自分でもよくわからんまま思わず摘み上げた店員が必死に返事をする、まあ、いきなり持ち上げられたら普通は驚くだろうが、
「あっ、あっ、あんたわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」
 振り向いた相手が盛大に驚く、大げさなやつだなあと思ったが、何かが違う。
「ん?…………」
 現在思考中…………髪の色やら、体の曲線やら色々変わってはいるが………、
「…………え?どぅああああああああああ」
 負けず劣らず盛大に叫ぶ、客の視線が集まるがなんのその。
「ば、化けて出たか!!」
 死んでない、死んでない。
 相手の手が大福帳に伸びても、思考が停止して反応もできずそのまま呆然と(摘んだまま)立ちすくむ、先ほど別れを告げたばかりの過去が棺桶から起きあがる姿を見たような気がする。
「な、なんで?」
 多分お互い様の感想だとは思う、その答えか、もしくは式がとんでくる前に扉を開く、と言うよりたたき壊す音に振り返る。
「ん?」
 そこには見慣れぬ金剛機、
「………って金剛機!?」
 見慣れた金剛機なぞ知り合いにいないが、なにはともあれ不吉の象徴みたいなものが目の前にいる、条件反射の傭兵の本能とでも言う物に突き動かされて、近場の机を飛び越す、その過程で皿が割れる音に混じって手に持った物がドンとかゴリとかゾリとかその手の音を出したような気がするが黙殺。
 飛び越えた机を力任せに蹴り上げて遮蔽物とするとその影に隠れる。
「な、なんだ、借金取りか?」
 いくら何でも金剛機で金は取りたてんだろ、まだ錯乱しているのかぶんぶんと手に持った相手を揺すりながら聞く。
「だああ、もう、こんな国に帰って来るんじゃなかったあ!!」
 先人曰く、後悔とは後で悔いるから後悔なのである。
2002年08月25日:23時36分08秒
弱き心は消され… / tomy
 ごんごんっ、めきょっ
 桃香としての習慣が抜けないのか、黒い金剛機は宿屋の扉を叩き、…勢い余って拳で扉を突き破る。
 
 ガッ、ガガガガッ
 
 拳をめり込ませたまま、少し外れて動きにくくなった扉を力任せにこじ開ける。
 
 「ひぃっ」
 金剛機の乱入に気付いた客達が出口を求めて、店の裏口に殺到する。
 
 キュイーーン
 金剛機の腰に備え付けられた泣砲が悲鳴のような音を立て、裏口に向かって火の玉を発射する。
 
 …そして、金剛機はゆっくりと、千里とお蘭の方を向いた。
2002年08月24日:06時46分20秒
猫つまみ / みだれかわ枕
 さらに入ってきた客の姿を認めて、お蘭は内心、
「おいおいマヂかよ」
 と思った。
 しかも、一人のようである。これからまだまだ混むのである。一人だけに席を用意していたら、もう限界になってしまう。
 相席させよう、ウン。このお蘭ちゃん様がお願いしてあげるんだから、とーぜん従うわよね。
 とか思ったり。
 と、その瞬間。
 
 ひょい。
 
 と、摘み上げられた。
「うにゃあっ!?」
 わたわたわた、と、手を振り回す。
 ナニナニ、いったい何事!?
「これから飲む席あるかい?」
「あ、ああ、あるけどっ」
 猫の子のように摘み上げるのはやめてよ、お客さん。
 そう言おうとして、頭だけくりんと回して。
 客の顔を見た瞬間、お蘭はカチンと止まってしまった。
 
「あっ、あっ、あんたわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」
 
 手が、すっと腰の大福帳に伸びた。
 一年前のことが、すっと頭をよぎる。
 遁走劇は終わってなどいないのだと、思い知らされるのは、これからである。
2002年08月23日:01時03分10秒
遭遇 / 月夢
 あてもなくぶらぶらと、軽く酒も入っていることもあり、ゆるゆると少しずつ増えていく人の流れにのまれるように。
 傭兵なんてものをやっているとたまに考えることがある、人というのがどこまでもしぶとくたくましい生き物だと、1年前戦争を行っていた国、いまだって平和で満ち足りているというわけでもないだろうが、それでもこうして酒を飲みに人が集まり、酒を出す店が建ち並ぶ、にぎやかな声が通りを行き来する、殺伐とした世界からこうしたとこに戻ると思う、人は強い生き物だと。
「ちと、感傷的になったな」
 ふっと苦笑いをすると懐をたしかめる、もうちょっとぐらい飲んでも罰は当たらないぐらいはある、別に無理して屋根のあるところに泊まる必要もないのだし。
 あたりを見渡す、目に付いた酒場、芸者を上げて派手に遊ぶような金の食うところではないが、そこそこにぎわっているようだ、どうせ馴染みがある訳でもない街なのだし、客が入っているのならはずれもないだろう、千里はのれんをくぐり店内に足を踏み入れる、客の入りは上々、思ったよりも混んでいる、どこでもかまわないが飲む場所がないとなればそれはまた別の話だ。
「どうすっかな」
 こだわることはないが、店を変えるのは面倒でもある。
「まあ、駄目ならその時うつりゃいいか」
 店内を忙しく立ち回る店員、その中でもひときわ走り回っているのが側に来たときに一応確認のつもりで声をかける。
「これから飲む席あるかい?」
 ひょい、なぜだかわからないが思わず襟首をつかみながら。
 傭兵なんてものをやっているとたまに考えることがある、人というのがどこまでもしぶとくたくましい生き物だと………いやになるぐらい。
2002年08月15日:22時31分38秒
傭兵崩れ / Djinny
「安心していってらっしゃい」
 桃香の傍らの男は、女のような細い顔に、まったりとした微笑を浮かべた。
 小さな両眼鏡を吊った、背の高い男だった。服装は地味なものだったが、雰囲気だけでどことなく陰陽師の風情を感じさせるような、そんな男だった。
 金剛機が幽かに頷くような仕種をして、走り出す。その場には、男と、魂を明鏡に落とした桃香の身体だけが残った。

「ク……クククク」
 金剛機が走り去ったあと、男の笑みは急に酷薄なものに変わった。顔が歪み、こらえきれぬような笑いが、薄い唇の下から漏れ出す。やがてそれは哄笑に変わりかけたが、男はそれを飲み込んだ。
「危ない危ない……誰が見ていないとも限りませんから。ねぇ、桃香さん」

 一番見られてはまずいだろう人物の抜け殻に、嫌味たらしくそう語りかけると、男はひどく嬉しそうにクックッと笑った。もう、そこには愛想のよさなどひとかけらも残っていなかった。
「このお仕事が済めば、大きなお金が手に入りますから……そうしたら、もっともっと、あなたを強くて立派にしてあげられますよ」
 男は薄い唇を桃香の手の甲に押し当てた。彼の頭の中では、金剛機と桃香が混同されているようだった。
 女のように白い手は人形のような桃香の頬を撫でまわし、視線は体の線を舐めまわす。
「貴方は最高の素材だ……暫くしたらもう、この邪魔な肉の塊などいらないようにしてあげます。ええ、そうですとも」
 口の中でもこもごと言い、一瞬、目を光らせる。
「邪魔な肉体を捨てる前に……少しだけ、楽しみましょうか。クククククク」
 男はだらんと脱力した桃香の身体を、丁寧に草の上に寝かせた。大きな胸が揺れ、胸元が露になりかける。男の顔は一気に上気し、吐く息が急に荒くなった。
「私の桃香、わたしの人形、私の私の私の……」

 かがみこんで彼女の服に手を掛けようとした瞬間、男は、冷たいものが体の中を走りぬけたような気がした。
「……わ、え?」
 彼は冷たくなった場所を見た。
 左の胸から、刃が生えていた。どこにでもある薄刃の刀だった。
「あ……あれ」
 焼けつくような痛みが左胸と背中を突き抜けた。刀は引っ込み、その代わりに赤いものが霧吹きで吹いたように吹き上がった。
「げ……ぼっ」
 それ以上は物が言えなかった。何者かが後ろから彼の口を抑え、頚椎のあたりにもう一刀食らわせたからだ。
 息絶える前に彼が見たものは、自分の血で真っ赤に染まった桃香の体と、人形のように動かないその表情だけだった。


「ふん、助平さんが」
 貫影は刀を首に突き込んだまま男を放り出すと、向こうに蹴り飛ばした。そのあとで、仰向けになった男にわざとらしく手を合わせた。
「ま、悪いやつかいいやつか知らないけど、珍しく前金で貰ってたからな。恨まず成仏してくれよ」


 男は定まった主を持たない鎧鍛治だった。金剛機を作るのに情熱を傾けている、まあかなりの変人で、最近はいい「素材」を得たとかで、金を稼ぐために自作の機面金剛機とともに傭兵もどきのような仕事をしていた。
 今回はなんでも、どこかの領主に雇われて誰かを付け狙っていたらしい。楽な仕事だったのか、難しすぎるからか、単独での仕事だったようだが、詳しいことは貫影の知ったことではない。
 彼が仕事を受けた相手は、なんでも昔その男に酷い目に遭わされたとかで、男を殺してくれるのならと前金で報酬を呉れた。全財産とかで、金以外にも、ちょっと値段のつけがたいようなものまで含まれていた。
 貫影はまだ「意気に感ずる」ような青いところが多分にあったから、勇んでその仕事を受けたというわけだった。


「さて……と」
 貫影は傍らを見下ろした。男の血で赤黒く染まった衣装を着た娘が、相変わらず死んだように横たわっている。
 明鏡に魂を降ろしているからだということは、貫影にもわかった。形は違うけれども、昔は彼もそうしてヨロイを操っていたこともある。
「……」
 依頼主からの依頼の内容には、ヨロイ乗りの処分は含まれていなかった。
 しかし、このままにしておくわけにも行かない。野盗の類はおろか、こんな無防備な身体を晒していては野犬やら烏やらにつつかれかねない。
「いっそ殺すか……」
 口に出して呟く。が、心の中では、そうできないことは判っていた。
 彼自身がヨロイを降りた経緯が、脳裏をよぎったからだ。
「仕方ねぇな」
 彼は唇を噛むと、そっとかがみこみ、顔にかかった血をごしごしこすって拭き取った。
「ヨロイのりにしちゃ、育ちすぎだ。そのうちにもう魂を落とせなくなるぞこのやろう」
 毒づきながら、そっとかがみこみ、娘を横抱きに抱き上げた。思ったよりは軽い娘だった。
 近くで見ると、どこかの人相書きで見たことがあった顔のような気がした。が、よく思い出せなかった。見たにしても一年は前のことだろう。
 一年前と言えば……今にして思えば不思議な数日間を送ったことがあった。
 まあ、今はどうでもいい話だ。


「とりあえず……」
 彼はあたりを見回した。眼下はるかに一軒の酒場がある。
 あそこにでも降りるか、と彼が思った瞬間、そこから悲鳴と轟音が響いてきた。


2002年08月11日:22時21分38秒
釣るぞ!今夜の晩御飯! / 李
 一年・・・それは長いようで短く、短いようで長い時間・・。
 
 今、自分は何をやっているのか?
 自分自身に自問自答する。
 
 日の光を反射し、まばゆく輝く川の水面を眺めながら・・・。
 
 この一年間は、彼にとって不本意ながら、そう、まことに不本意ながら
 逃走の連続だった。
 そもそも最初は、連れを狙ってきた奴を片っ端から斬り伏せていただけなのだ。
 だれだって、自分の商売道具って言うか、金目のモノを奪われそうになると自然と庇うだろう、あれだ。
 そんな調子でやってきたら、いつのまにか自分自身もお尋ね者になってしまったらしい。
 
 チチチ・・・頭上で小鳥が鳴きながら飛んでいく。
 のどかである。
 
 ふと考えが同行者におよんだ・・・。
 めげない娘である。
 生きるために戦う事を知っている。
 そんな娘だ・・・。
 
 「ぜんぜん似てねえんだけどなぁ・・・。」
 独り言。
 記憶の中にある女・・・黒髪黒瞳、たおやかでおとなしく、
 いつもこちらを見るとやさしく微笑んだかの人・・。
 
 それに比べて!
 そう、自然と目立ち、わがままいっぱい。
 起こると怖いし、感情的だ。
 自分も人のことは言えないが、平然と犯罪を犯そうとするのは止めてほしい。
 簡単に足がついちゃうだろうに。
 
 いや、そうではなく。
 
 「ふむ、顔は似てきたのか・・・。」
 それとも、記憶が変わりつつあるのか・・・。
 最近、記憶の中の顔が、同行者に似てきたような気がする。
 
 「いや、似てねぇ。落ち着け俺!
 そうとも、あんな感じじゃねぇだろう。」
 水面の浮きが沈む。
 少しあわせて、釣り上げる。
 が、すんでのところで、針からはずれ、魚が水面に戻っていく・・・。
 
 「・・・ちぇ。」
 
 
2002年08月02日:01時11分48秒
一人では生きられぬ弱者 / tomy
 純白の着物に身を包み、頭に無間鉢金を付け、桃香は立っていた。
 一年前でさえ凹凸の激しい成熟した身体だった桃香の身体は、もはや着物にちゃんと収まってはいない。
 だというのに、桃香は顔色一つ変えていない。というより、実際には姿を現わして以来、これといった表情は見せていない。
 
 「…目標を、補足」
 抑揚の薄い声で桃香がつぶやく。
 桃香の目線の先には一軒の酒場がある。
 
 「それでは、体を、よろしく、お願いします」
 傍らの人物に対してそう告げ、無間鉢金を通じて魂を機面金剛機に降ろす。
 
 桃香の新たな機体である漆黒の金剛機は、宿屋に向けて突っ込んでゆく。
 新たな戦いの鏑矢のように。
2002年08月01日:18時46分52秒
お蓮 / みだれかわ枕
 かれこれ、一年である。
 16年の人生で、一年というのは、かなりの割合である。
 その一年。
 彼女は、ずっと逃げることに費やしてきた。
 何度か、金で雇われた機人やら銃鎗使いやらに襲われたりもした。
 そのたび、同行者に助けられてきたのだが。
 だが、彼女は、一度たりとも礼を言わなかった。
 
 逃げ始めて2ヶ月ぐらいで、路銀が尽きた。
 彼女は目に付いた商家に押し入り強盗をすることを提案したが、同行者がそれを良しとしなかった。
 で。
 その代わりに、彼女は、仕事を見つけてきたのである。
 
 
「ネーチャン、酒が足りねーぞーっ!」
「はーい、ただいまーっ!」
 夕暮れ時。
 怒涛の忙しさを迎えつつある、酒場である。
 まだまだ本格的な忙しさからは程遠いが、夜の当番に当たっている者たちが、まだ店に入っていない。昼からずっと出ずっぱりで働いている彼女のほかに、二人、いるだけである。しかも最近入ったばかり。要領が悪い。
 結果として、彼女に結構なしわ寄せが来ていた。
――あー、もうっ! 何でこんなに忙しいのよっ!
 一年前なら、口に出して叫んでいた。
 だが、この数ヶ月の暮らしで、彼女は我慢する、ということを少しだけ学んでいた。
「はーい、枝豆のお客さーん、おまたせーっ!」
 皿をいくつも腕に乗せるようにして運ぶ、女中。服装は、動きやすいようにたすきがけをした、紬である。仕事を始めた頃、あまりに裾を踏んづけて転んだために、頭にきて、太ももがちょっと露わになるぐらいにまで丈を短くしてしまっているが、それ以外は普通である。
「おせーよ、お蓮ちゃんよぉ」
「あっははー、ごめんねぇ〜」
 彼女は、ここではお蓮、と名乗っていた。本来の名とは、ちょっとだけ変えてある。まるっきりの偽名では、慣れないうちにボロがでそうだし、かといって、そのままではまずい。そう思って、そう名乗っていた。
「罰として、尻触っちまうぞ〜ぉ」
「もう酔っ払ってるのっ? ヤだなぁ」
 短期は損気、短期は損気。一生懸命心の中でそう唱えながら、尻に触れてくるゴツゴツの手を、軽く振り払う。力いっぱい振り払ってはいけないのだ。だが、嫌なものは嫌なので、相手の機嫌を損ねない程度に、きっぱりと拒む。この力加減を身に着けるために、どれだけの給金を減らされたことか。
 紅かった髪も、白髪染めで思いっきり染めてある。くせがかかっていたのだが、白髪染めをたっぷりとつかっているせいで、まっすぐになっている。その白髪染めの代金は、結構バカにならない。何のために働いているのやら。
 だが、腰の大福帳は、相変わらずだ。今は本来の用途として使われている。だが、後ろのほうの頁は、一年前と同じ。
『万が一』を考えてのことである。
 まだ、逃走劇は終わってはいないのだ。
 
 
 お蘭は、それなりにたくましく、ちゃんと生きていた。
2002年07月25日:00時13分44秒
一年 / 月夢
「全ては一夜の夢のごとしか」
 ぐいっと酒を呷る。あまり品の良くない類の酒場、人のことを言えた義理ではないが、ごろつき呼ばわりされても仕方ないのばかりが集まっている。
「一年か、気づけば早いものだな」
 日頃あまり日を数えるような習慣がないため、はっきりとはわからないがだいたい一年前、負け側についたばかりに巻き込まれた(本人談)大騒ぎ、短いつき合いで分かれた面々、それ以後は何の噂も聞かない。
「迷わず成仏しているといいんだけどな」
 なにやら希望的観測を交えている気がするが、千里の中ではすでに鬼籍に入っているようである。
 あの場を離れた後、ヨロイを巻くような道で国境を越え、千里はもとの傭兵暮らしへと戻った、最後までなぜヨロイが出たかがわからなかったが、国を越えてしまえば後は今までと変わらない暮らし、流れで傭兵をやって金を稼いでぶらぶらと、そんな生活を続けていたとき、ふっと久しぶりに聞く名前、行ってみようかと思ったのは単なる気まぐれ、所詮雇われ物の傭兵ゆえの気軽さだったと言える。
 そして場末の酒場で酒を呷っている、どんな形であれこの国のけりは付いた、残念ながら千里が金を稼ぐ場所はなさそうだが、それならそれで良い、長居をせずに次の戦場にいくだけ、いつものことだ。
 死んでしまった(千里主観)短い旅の連れに供養の言葉をかけ酒を呷ると、千里は店を出る。
 時刻は夕刻、ちょっと飲むには早い時間から始めてしまったため、あたりにはまっとうな仕事を終わらせて家路に帰るか、飲み始める人の流れ、その中をぶらぶらと千里が歩く。明日にはここを立ち、金を稼げる場所に移る、そのために今晩雨露をしのげる場所があればいい、そんなことを考えながらとくに当てもなく適当に歩いていた。
2002年07月18日:20時50分48秒
山中にただ一人 / tomy
「せぇ〜ん、っと。えーと、後は紙にまとめるんでしたっけ? …あっ!」
 バカ正直に千まで数え終わり、ようやく紙も筆も持ってきていない事に気付く桃香。
 
「あのー、今、紙も筆もないんですが、どうしたら…、ふぇっ?」
 もちろん、そこに千里の姿はない。
 
「どどど、どこですかー。千里さーん」
 霊導夢の範囲内には…、誰もいない。
 索敵盤の範囲内には…、居るかも知れないけれど、木々にまぎれてよく解らない。
 
「はう〜、もしかして桃香、騙されちゃったの?」
 もしかしなくても、そのとおりである。
 
「お、追いかけなきゃっ!」
 もちろん、千里が何処へ行ったのか当てはないが、鉄蟹に乗っていれば見つかる気がした。
「だって、鉄蟹も千里さん(のカラクリ)も同じ人が作った兄弟だもんね」
 
 …それからおよそ半刻(一時間)後。
 
「わぁ〜っ、美味しそ〜♪」
 千里を探す途中で、桃香は美味しそうな果実のなる木を見つける。
 ずっと接合していたため気付かなかったけれど、桃香は結構長い時間休憩していない。
「お腹、減ってるはずだよねぇ」
 試しに接合を解いてみると、たちまち、お腹がくぅーっと鳴る。
「じゃ、ちょっとだけ、休憩しよっか」
 鉄蟹を降りて、果実を取ろうとする。
 
 …さらに半刻(一時間)後。
 
「や、やっと取れたよぉ」
 元々運動神経のキレている桃香にとって、果実を取るのは至難の業であった。
 さんざん苦労して、ようやく果実を口にする。
 
「ふぅっ、じゃあ、そろそろ千里さんを追いかけないと」
 休憩を終え、再び鉄蟹の明鏡に接合しようとする。
「あ、あれ、あれれ、ど、どうした、のかな。てっ、鉄蟹ぃ、のっ、乗せてよ、動いてよぉ!」
 悲鳴を上げる桃香。
 だが、いくら泣き叫んでも、桃香が鉄蟹に接合する事はもう出来なかった。
2002年07月15日:05時05分03秒
再び走れ走れ / Djinny
 鳶に油揚という言葉がある。
 傍から見れば、貫影の状況はまさにその言葉どおりかもしれない。
 
 ただし、当の本人の現状認識はやや異なっていた。
 
 目の前で、お蘭がひょいと小脇に抱えられた。
 抱えられるときにもぞもぞと手を動かしていたところを見ると、どうやら死んではいなかったらしい。頭の中の冷静な部分が、言おうとした言葉を飲み込んでおいて正解だったなと考えた。
 抱え上げた飛燕はこちらを振り向くと、何か早口に捲くし立て、照れ笑いのようなものを浮かべて一散に走り出した。いや、実際には照れ笑いではなかったのだが、貫影にはそう見えた。
 
 貫影はそれをぽかんと眺めた。その間も足だけは機械的に動いて、相変わらず歩いている。
 
 そういえば出会ったときから、飛燕はそういう素振りを隠そうともしていなかった。
 随分手荒に扱ってはいたが、大事な場面では飛燕は常に(おそらく足手まといになるだろう)お蘭を抱え上げて走り回っていた。つい先ほど洞穴が崩れたときも、お蘭を庇って外に出ていた。
 そして、今のあの照れ笑い。
 
 お蘭の方も、一緒に居たのはごく短い期間だったが、その間、雑用は大抵貫影か機人の千里に言いつけ、飛燕に頼むことはほとんどなかった。
 かといって嫌っていたわけでもないらしい。そういう目で見れば、飛燕とは結構喋っていたようにも思う。
 
 なあんだそうか、と手鼓を打ちたい気分だった。
 つまり、二人はそういう仲だったわけだ。
 
 足が止まった。
 とりあえず、お蘭がそういうことなら追いかける意味はない。それに走りつづけるには少しばかり疲れすぎていた。
 それにしても、飛燕の行動はいささか不可解だった。
 何も慌てて逃げ出すことはないだろうに。ヨロイは止まっているのだし、ほかに追っ手も見当たらないのに。
 
 なんとなく気が抜けたようになって、貫影はヨロイの方を見た。動こうとしたヨロイを機人が一喝して止めたところだった。
 
 一喝?
 
 すると仕留めたわけではなかったのか?
 
 更に大声が聞こえてくる。
 「ああ、ほんとによくわからん!!いいか、まず落ち着け、状況を整理してから話せ、いいな?
 まず大きく深呼吸しろ、それから一から千まで数えろ、そうしたら気持ちが落ち着く、そこで初めて誰がいったい、何のために、どうしたいという事をまとめて、そうだな、まず紙にでも書いてまとめて見ろ、それができてから話し始めろ、いいな?問題ないな?では始めろ!!」
 
 まずい。
 機人はヨロイに状況の説明を求めている。
 つまりそれは、ヨロイと……あの、敵に寝返った鉄蟹と気脈を通じていた、ということだろう。
 
 そうか、そういうことか。
 
 今度の認識は薄ぼんやりとしたものではなかった。急に今までの事柄が一つに繋がったように思えた。
 
 貫影の思い違いを整理するとこうなる。
 
 ヨロイの出現は千里が呼び寄せたものだ。恐らくお蘭を鉄蟹に攫わせるために、なんらかの方法で渡りをつけたのだろう。
 鉄蟹が、千里に攻撃もせずにああやって大人しくしているのが、それを裏付けている。
 いまああして状況を説明させているのは、生け捕りが目的のお蘭に対して、鉄蟹が直接攻撃を仕掛けたからだ。その証拠に、立腹したように怒鳴りつけている。
 
 誤認もはなはだしいと言うほかない。しかし、元々深く考えるのが苦手な上に疲労した彼の頭の中では、そういう筋道が組み立てられてしまっていた。
 
 貫影は脱兎もかくやという速度で走り出した。疲れたなどと言ってはおれない。いくら彼が自分の腕に過大な自信を持っていたとしても、ヨロイと機人の2体を相手にして勝ち目はなかった。
 どこまでもつかはわからない。だが、なにはともあれ走って逃げるしかなかった。なにしろ、彼は相手のどちらにも面が割れているのだ。
2002年07月15日:00時55分21秒
散会 / 月夢
「さーて、どうするか」
 なんだかよくわからないことを話しているヨロイの言葉は半分聞き流して、じっと状況を見ていると、飛燕が眠り姫のもとに駆け寄って抱き上げ……ずに担ぎ上げる、なにか抗議の声もあがっているが無視、そしてそのまま結構な早さで走り去る。その様子を見てヨロイが何か動こうとするところに声をかける。
「おい!説明がよくわからん、もう一回順を追ってちゃんと説明しろ!」
 ヨロイがこちらの声に反応する、なんだかおろおろしてるようにも見える。
(たぶん、2つ一片には物事反応できんのだろうなあ)
 深く物事を考えるようになったらヨロイからは卒業の時期、何人かヨロイ乗りという人種を見たことあるが、全員周りの人間に自己判断することを極力妨げられていた、考えなくても誰かが選択してくれる、楽な生き方ではあるが、
(捨てられるときは惨めだな)
 ちらっと、ヨロイ狩りのほうに目をやる、とその時うん?と首を傾げる。
 ヨロイ狩りはぼろぼろになりながらも戻ってくる、一人で、まあ、それはいいとして、
(もう一人はどこ行った?)
 ヨロイ狩りと全く違う方に目をやると、今まさに木の陰に隠れて見えない位置へと走り去るところだった、ちなみに止まる気配まるでなし。
(…………なるほど、傭兵に向いたやつかもなあ)
 何となくなにをしようとしているかの見当がついて感心する。
(あれがついてるなら大丈夫だろ)
 森の中に入ってしまえばヨロイの巨体では追いかけるのは至難、しかも隠れがあったのならこのあたりは得手だろう、多分あっちは問題ない、半分自分に言い聞かせるように、納得できる理由を並べ立てて、次の行動を考える。
(なんかよくしらんが、俺が目的みたいだな、迷惑な話だ)
 関わるのは得策ではないと判断、お姫様も逃げた今、わざわざ残っている意味もない。すうっと息を吸い込み、また何か言っているヨロイに向かい、偉そうに。
「ああ、ほんとによくわからん!!いいか、まず落ち着け、状況を整理してから話せ、いいな?
 まず大きく深呼吸しろ、それから一から千まで数えろ、そうしたら気持ちが落ち着く、そこで初めて誰がいったい、何のために、どうしたいという事をまとめて、そうだな、まず紙にでも書いてまとめて見ろ、それができてから話し始めろ、いいな?問題ないな?では始めろ!!」
 有無を言わさずまくし立て、それからそっとその場を離れようとする。
(さすがに、ここまで子供だましは聞かないかもなあ)
 等と思いながら。
(ま、うまくいったら儲けものだ、これで晴れて自由の身だ!)
 ぐっと拳を握りしめる、世の中そんなに甘くないと言うことをそのうち彼は噛みしめることになるのだが。
2002年06月30日:03時21分10秒
走れ!この世の情けに背を向けて! / Dr.李
状況は激変した。
 
 そういっても過言ではあるまい、何故か?
 いきなり現れて広域兵器を打つようなキレた(脳みそが足りないのかも知れぬ)ヨロイ乗りの目的は、
 こちらではなくて千里という名前の機人だったからだ。
 
 式ももういない、そしてヨロイ狩りの青年はやっとこ疲れた足をひきづってこちらに戻ってきたばかりのようだ・・・。
 
 腕の中で、お蘭がうごめく・・・。
 「おい、起きろよ。」
 なにかぶつぶつ寝ぼけたような声とともに、怪しげな腕の動きを見せる・・・。
 なにをつかもうとしてるのだこの小娘は?
 
 「しかたねぇなぁ・・・・。」
 
 ひょいっと、お姫様抱っこから、まるで手荷物のように腰ダメに駆け込み・・・。
 「な、なによぉ、夢も浪漫もないぃ……やり直しを要求するわぁ……」
 などと寝ぼけたことをいう小娘の台詞と、切迫した状態偽を向けて・・・・。
 
 逃げた。
 
 「どのみちヨロイ狩りも、機人もどこかで振り落とすつもりだったんだ。
 これが千載一隅ってもんだろう。
 短い間だったが、そこはそれなりに楽しかったぜ。
 あばよ、二人とも・・・。
 
 俺の幸せのために、がんばってくれ!」
 
 さわやかに笑いつつ手前勝手なことをいい、走り始める・・・・。
 
2002年06月26日:23時04分45秒
夢と現と / みだれかわ枕

「おい、起きろよ」
 
 どこからともなく、そんな声が聞こえたような気がする。
「むにゃむにゃ……もうちょっとぉ……」
 たしかにあたりは明るいような気もするが、まだ眠いのだ。もうちょっとゆっくり寝たい。
 お蘭は、つぶやきになってるんだかなってないんだかよくわかんない声で、もぞもぞ口を動かして、布団をぐぐぐっと引っ張り上げた。頭の先からつま先まですっぽり布団に包まれて、ぬくぬくとしていたい。
 だが、目の辺りまで布団を引っ張ったところで、逆に布団が取り上げられた。
「んん〜……?」
「ええい、寝坊娘だな、お前は。早く起きろよ。飯の支度はもう出来ているんだぞ」
 なるほど、言われてみれば、なんだかいい香りがする。何かを焼いたのだろう、香ばしい。
 だが、眠いものは眠いのだ。
「やぁ〜……もうちょっと寝るぅ……」
 布団を奪還すべく、ふわふわと両手を動かす。だが、目蓋がまだくっついたまんまなので、布団がどこにあるのやら。
 布団を取り上げた主の顔も見えない。
 だが、お蘭には、誰かわかっていた。
「お布団〜……返してぇ〜……」
「ダメだって。起きろよ、早く」
「ん〜……やだぁ〜……」
 わかっていたから、お蘭は拒否した。もっと寝たいのだ。あたしの睡眠を妨げるものは、何人たりとも許さない。
「仕方ないな……」
 相手はそうつぶやいて、
「なら、無理やり起こすぞ。顔を洗って服を着て飯を食って、そしたら遊びに行くんだ」
 いきなり、お蘭を抱きかかえた。
「あんんっ」
 なんとなく鼻にかかった声で、悲鳴をあげるお蘭。
 もしかして、姫様だっこ!? 姫様だっこで、あいつにかしずかれるのねっ!?
 
 と思ったら。
 
 まるで風呂敷を抱えるように、腰ダメに抱えられた。これでは手荷物だ。

 
 
「な、なによぉ、夢も浪漫もないぃ……やり直しを要求するわぁ……」
 お蘭が寝ぼけ眼で覚醒したとき。
 その場は、やり直しのききそうにない、なかなかに緊張したような……(主に桃香の、間の抜けた声のせいで)してないような、そんな雰囲気だったりして。
 
 
 陰陽師お蘭、風前の灯火。
2002年06月26日:22時28分50秒
1人の小人 / Djinny
「くそったれ……」
 体中泥と汗まみれになって、貫彰は元きた道を戻っていた。時間が過ぎて消えたのか、どこか別のところに行ったのかはわからないが、気が付くと式の姿はなかった。
 今日はもう1日分走った、と貫彰は疲労で7割くらいの稼働率になった頭でぼんやり考えた。歩いて戻ることにしよう。それから、お蘭に一言言ってやる。
 ヨロイのことは彼の頭の中からは消えていなかったが、とりあえず式のことが先だった。
 
 逃げた距離はそう長くなかった。半里も走っていなかった。足を引きずるように歩いたが、すぐに元の場所に辿り付いた。
「とりあえず……」
 彼は辺りを見回した。ヨロイはまだそこにいたが、動きは止まっていた。
 ───機人のおっさんが前に立っているから、案外仕留めたのかもしれない。
 それより、お蘭だ。何処に行った?
 
 探すまでもなかった。お蘭は、元のままの場所にいた。
 飛燕の腕に抱かれて。
 
 金色の髪が風に揺れて、白い顔にかかっていた。
 その顔は、まるで眠っているようで……。
 
 嘘だろう。俺は……俺はまだ、お前に、言ってないことが……。
 
 彼の目には、お蘭の胸が規則正しく上下していることは見えていなかった。
2002年05月20日:23時09分28秒
後は野となれ山となれ / tomy
「へっ、あのっ、えとぉ、何のようだとおっしゃられましてもぉ。ですから、叔父上様が、会いたいって…、何でか迄は私にはちょっとぉ」
 理由までは教えられていなかった桃香は、思わず焦って考え込む。
 そして、何故自分なんかが千里の探索を命じられたのか、その理由の一つを思い出した。
 
「あ、そ、そうです。確か、叔父上様が千里さんと鉄蟹は、兄弟みたいな物だっておっしゃってましたし、きっと兄弟仲良く暮らせるように〜、とか、そんな理由じゃないでしょうか? 私、鉄蟹に乗って、『なんとなくこっちかなぁ〜』って思う方角に歩いてたら千里さんに会えましたし。これって、兄弟の絆って奴ですよね? ですから、きっとそうですよぉ」
 
 ヨロイ乗り 桃香 千里に向けて
 
 tomy:ドジで口の軽い下っ端って基本だよね(笑)
2002年05月19日:01時09分27秒
賽子 / 月夢
(俺?)
 実は同じ名前でしたという落ちでもない限りたぶんそうだろう、と言うより明らかにこちらを見ているのだからほぼ間違えないはず。
(あのちんまいのじゃないのか?)
 普通に考えればそうだ、ヨロイが使えて、なおかつ堂々と戦争に突入した相手国を高々と名乗って、十把一絡げの傭兵なぞを探すなどと言うこと自体がおかしい。
(縁もゆかりもない相手に探される種なぞあるか?)
 一応それでも自問自答してみる、金、地位、名誉どれも自分とは無縁どころか恩恵にあずかったことさえない。力は一般人より強いとは言え同等以上のやつもそれなりにどちらの陣営にもいる。
(………わからん、騙しか?)
 相手の様子を伺うが一気に畳みかけるという雰囲気はない、だまし討ちしないといけないほどヨロイにがたが来ている様子もない。
(どうする?ちんまいのに義理はないが……信用できるか?)
 こっちがわが信用できるかどうかは別の問題だが、あっちに行けば事態が良くなるのか?
(………愚問だな、俺らは一山いくらの傭兵だ、俺らに名前なぞつくわけがない)
 自嘲気味に笑うと反対方向に目をやる、寝てるのが一人に起きてるのが二人、場の成り行きを見守っているのを確認するとヨロイから見えないように寝ているお蘭を指さしてヨロイと反対方向の森を指す。
(用事はわからねえが名指しで来るやつはたいていろくなもんじゃない、これからどんな目が出るかわからねえがもはや振ってみるしかない)
 覚悟を決める、そっと武器の準備。
(まず場を変える、そのためにもあのちんまいのをとっとと担ぎ出さないとな)
 その役は後の二人に任せると、陰に隠れたまま声を上げる。
「何の用事だ?見ず知らずのやつに呼ばれるいわれはないぞ」
 
2002年05月13日:00時49分46秒
光の後 / tomy
「はぁ〜っ、まぶしぃ〜」

 自分で蟹螯砲を撃っておきながら、蟹螯砲の爆発が治まって桃香が最初につぶやいたのはそんな言葉だった。
 蟹螯砲を撃った後、気のせいか(気のせいではあり得ないが)辺りの景色もすっきり見晴らしが良くなったようだ。その景色を見ながら、桃香は出陣前に聞いた叔父上様の命を思い出す。

「桃香、よいな? くれぐれも千里なる機人の捜索は秘密裏に行なうのだぞ」
「えとえと…、秘密裏にって、どうすれば良いんですか?」
「要するに目立つなという事じゃ」


 …何やらまた大失敗をしてしまったような嫌な予感が桃香の心を駆けめぐる。
 自分では理由が分からないけれど、急がなくてはならないような気がする。でも彼を素早く掴まえる自信は全くない。
 焦った桃香は、思わずヨロイから外部に向けて声を出して千里に話しかけた。

「あ、あの〜、千里さん、ですよね、機人の。わ、私っ、巴倉の桃香姫、と、申します。あのっ、私と、その、一緒に来て、もらえませんか?お、叔父上様が、せ、千里さんに会いたいって、お、おしゃってるんですっ」

 桃香の声は明らかにうわずっていた。

ヨロイ乗り 桃香 千里に向けて
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