天羅万象掛け合い:浴場編
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天羅万象掛け合い所:PLAY7の1998年04月05日のログです。
1998年04月05日:01時59分41秒
「浴場・欲情編、その一」 / みだれかわ枕
石川県金沢市にある、湯涌温泉。
みだれかわ枕の住所に程近いこの温泉地に、すがの、さのえ、夕林、聖、こまちの五人はやってきた――が、おおむね予想通り、今そこに危機は近づいていた。
他の参加者のキャラクターも、出番をよこせとばかりに、石川の地に集結していたのである。
かぽーん。
蒼馬は息を呑んでいた。
さまざまな女性の肢体が、いま彼の前にある。
露天風呂の薮の中で、蒼馬たちは息を潜めていたのである。
「す、すごい……あらかじめ下調べしていて、よかった……まさに『敵を知り、己を知れば』だ……」
明らかな用法の間違い。だが、今ここに、それを指摘できるほどの余裕を持ったものは、一人としていなかった。
「……ごくっ」
アレスは、蒼馬に引きずられてきた。本来、こんな事をするアレスではないのだが、すがのも入っていると聞いて、思わずついてきてしまった。結構年上趣味な、少年である。
「どうだ、アレス……ばっちりだろう?」
何がばっちりだというのか。そこら辺のイメージは、良識ある読者の皆さんにお任せしたい。『あますところなく』というほどではないことは、お断りしておこう。
「は、はい……」
かろうじて肯くアレス。うぶな少年には、かなりの刺激らしい。さっきから生唾を飲みこみつづけている。
「知らんぞ、こんなことしているのがばれたら」
一件いさめているように見える、九道。だが、彼の視線は夕林の小ぶりの胸に注がれていた。
「大丈夫だって! ここは完璧なポジションだ。湯船の近くにいる限り、ここにいるのは判らない!」
力強く断言する蒼馬。
それに安心したのか、アレスや九道も、自分の意中の人物の裸体を鑑賞しつづけた。
「すがのさんて……綺麗だ……」
「あんな馬鹿でかい胸が好きなのか? 俺はどちらかといえば夕林の引き締まった胸の方がいいが……」
真顔で言う九道。
「へへへへへ……どうだすげえだろお……お……おおお」
さのえが立ち上がったところを目撃して、声を上げる蒼馬。果たしていま彼は、何を目撃したというのか。
「……お前の嗜好はよーっくわかった……後でシイラによーっく言って聞かせておこう」
自分のことは棚に上げて、九道は蒼馬にそう釘を刺した。万が一ばれた時のために、自分の保身を図ろうというのだ。この辺は、戦略に通じた彼らしい言動である。
だが、スケベの前に、戦略など、あまりに無力な気もする。
「うーんうーんうーん、お、女の人の裸がぁ……」
そのころ、ヨロイの甲腔の中では若い命のともしびが、主に鼻からの出血によって、消えようとしていた。
「死ぬな! 巳鏡! ねえさんは、そんなヤワな男に育てた覚えはないぞお!」
監視の任務に就いていた火京たちであったが、こまちの『正面全体図』をヨロイの高感度光学センサーによって目撃した巳鏡が、鼻血を吹き出してしまったのだ。
あわてて巳鏡に呼びかける火京。だが、巳鏡は朦朧としている。
「きゅう……うーんうーんうーん」
「巳鏡! しっかりしろお!」
このままでは、本当に出血多量で死んでしまうかもしれない。そう思った火京は、とにかく叫んだ。
「誰かあ! 救急車呼んで! それと、輸血用の血液まわしてぇ!」
奈須華の腹部の装甲の隙間から真っ赤な血がじわりじわりとにじみ出ていた。
冗談抜きで、大変なことになっていた。
「な!? ば、馬鹿!! やめろ!! 絶対ゆうんじゃねーぞ、こら!!」
シイラに言っておこう、そう言われた蒼馬は、慌てて九道に吠えていた。
この事がシイラにばれたら、どう思われるか。
ちょっぴり後悔し始めた蒼馬であった。
「ん?」
「どうかしたんかよ、すがのの姐さん?」
不意にきょろきょろしだしたすがのを見て、さのえはお猪口を傾けつつ、尋ねた。
「いやねぇ……いま、誰かの声がしなかったかい?」
「……え? そーうですかぁ? わたし、気づきませんでしたけどぉ?」
湯あたり直前までのぼせている夕林が、答える。
「いい加減出たらどうだい、あんた?……気のせいじゃ、ないねぇ。誰かいるよ、あたし等のほかにさぁ」
「マジ!? そういうの、デバガメって言うんでしょ? 確か日本の伝統だって聞いたことある! 最っ低ね!」
「誰から聞いたの、こまちちゃん?」
「え? 氷室からだけど、母さん?」
覗きは決して日本の文化ではないだろうし、金沢の風習でもない。
さて。この露天風呂に来ていたのは、何も、女性と覗きばかりではない。
いたいけと呼ぶにはあまりにたくましい女性陣を守るべく、動き出した面々もいたのである。
「そっちは配置に付いたか? 分かった。合図と共に突入だ」
氷室誠一郎は、自称フェミニストである。ただ、普段の言動からか、その事はあまり認められていない。
今回も、内心はどうだか分からないが、名目上『不埒者を成敗する』と言うことで、数人の者たちと作戦行動を取っていた。
ハンドトーキーは雑音交じりに、彼の「戦友」の声を伝えている。
「こっちも大丈夫だ。……何? ああ、安心しろ。一人残らず血祭りに上げてやる」
蟲サムライ雷吼の、強い決意の声。さのえが覗かれているということで、彼は少々逆上していた。
「此方も、準備できた。いつでもよいぞ」
“喪門神”村雨 六郎。彼もこの作戦に参加していた。不埒な悪行三昧に、少々腹を据え兼ねているようだ。
「それではわたしが正面から彼らにぶつかりますから、逃げ出したところを皆さんで押さえてください」
そういったのは柴舟。ちなみに金沢には「しばふね」というお菓子があるのだが、あまり関係ないことである。
いずれも、強さの質は違いこそすれ、一騎等千のつわもの達。
蒼馬たちの命は、風前の灯火のようであった。
そのころ、まだ掛け合い所には登場していないのに、すっかりみんなの人気者となった千早が、脱衣所の入り口で困惑していた。
「……どちらに入ればよいのだろうか……」
目の前には、でかでかと
男 女
と書かれた暖簾が下がっている。
千早としては、どちらに入るのも、憚られた。いまここで正体がばれるのは、いろいろとまずいのである。
「お、千早。どうかしたのか?」
その時、一番知られたくない人物が現われた。その朴念仁ぶりでは掛け合い所で一二を争う、健司である。
「なんだ、風呂に入るのか? ちょうど俺も入る所なんだ」
だからと言って、一緒に入るわけにはいかない。いかないったら、いかないのだ。
『絶体絶命』という言葉を、身を持って知った千早。だが、どこまで誤魔化すことが出来るのだろうか。
その頃、莱覇は。
「……ふう」
ひとり、建物の中にある湯船に浸かっていた。
ここは、平和である。
「わぉ♪」
年頃の娘のように見えるが、心はかなり幼い、九郎。彼女は、いつのまにかみんなが部屋からいなくなってしまったので、寂しかった。
で、みんなはどこかな〜? とばかりに、あちこちを歩きまわっていたのである。
そして、ついに見つけた。
男の人たちが薮の中でこそこそしている。
何かを見ているようなのだが、九郎からは見えない。
一体、何だろう。
「ねーねー、何してるの〜?」
非常に大きな声であった。
そして、みんなはいっせいに動き出した。
「く、九郎っ!?」
「ねーってばぁ!」
「貴様ら、寸刻みにしてやる……そこを動くなぁっ!!!」
「ら、雷吼!? なんであんたがここに!?」
「や……やべえーー!! 見つかった!! 逃げろーい!!」
これだけ騒げば、風呂に入っている女たちも、気がつく。
「いま〜」と、聖。
「声が」と、すがの
「しましたぁ」と、夕林。
「わね?」と、こまち。
「まちがい、ない!」と、さのえ。
彼女たちは、その場を移動すべく……よりにもよって、立ち上がった。
逃げようとする、蒼馬たち、覗き組。だが、彼らはすでに誠一郎の手のひらの上で踊らされているに過ぎなかった。
「甘いよ」
誠一郎が手に握った、スイッチをぽちっと押すと、いきなり蒼馬たちの退路が全てふさがれた。
「ソウマ〜どこに居るの〜?」
歩き回っていたのは、何も九郎ばかりではない。シイラも(主に蒼馬を)探し回っていたのである。
その声が聞こえた時、蒼馬の脳裏に、絶望の二文字が浮かんだ。
「ら、雷吼! どうしてこんなところに!」
「止めるな、さのえ! 俺は、この破廉恥な連中を殺す!」
「誰が止めるか! あたしにも殴らせろ!」
そう言って、さのえはざぶざぶと湯船を進み、上がろうとする。
「ま、ま、待て! その格好で出てくるな!」
何しろ、一糸纏わぬ姿である。雷吼だって、とてもじゃないが、そんなさのえの姿を正視することなど出来ない。慌ててさのえを押しとどめる。
「へ?」
一瞬だけ、さのえの思考が停止する。そして、気がついた。
「あ! うわあああ! 雷吼、こっち見るなっ! 」
どぶんっ、と、さのえは湯の中に沈んで、しばらく浮いてこなかった。
そんな雷吼とさのえに比べると、すがのは平然としていた。
「あらぁ、アレスぅ。そんなところで突っ立ってないでさぁ、こっちにおいでなよぉ♪」
なんて言いながらアレスに近づいていったのである。
「あ、あうあう……」
酸素の足りなくなった金魚のように、口をぱくぱくさせるアレス。すがのの豊満で熟れた肢体は、少々どころか、かなり少年にとって刺激的すぎた。
「うふふ、ウブだねぇ」
少し悪戯心の働いたすがの、アレスをからかって見ることにした。
そのままアレスのすぐ側までいき、胸のところで抱きしめる。
「む、むむむ!」
呼吸困難に陥るアレス。すがのが、ちょいと力をゆるめると、なんとか口を動かせるようになった。
「……すがのさんの胸って綺麗ですね……あ……もちろん美人だし……あ……僕……何言ってるんだろ……」
そう言ってアレスは、息苦しさと恥ずかしさと興奮で真っ赤になった顔を下に向けた。が、すがのの股の部分がまともに目に入ってしまい、もっと顔を下に向ける。すがのの爪先が見えるあたりだ。
「坊やだと思ってたら、意外と口が上手いじゃないか♪」
悪戯心のつもりだったが、少年の言葉にうれしくなってしまったすがのは、もう一度彼を抱きしめた。窒息しないように、自分の体を感じてもらえるように。
裸のまま、異性を抱きしめる。そんなことは、一度も考えたことすらない娘がいた。僧籍にある、夕林である。
彼女の精神は、覗かれていたという事実を認識した時、タガが外れた。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
認識するまでにたっぷり一分かかったのだが、それはともかく。
夕林は、手当たり次第、近くにあるものを殴り始めた。
殴るといっても、小娘がぽかぽかと殴るのとは桁が違う。
不動明王拳を正式に継承した彼女が、全力で殴るのである。
近くにいた赤備えの雑兵(かつて夕林が食べるはずだった粥を台無しにした、脱走兵たち)は、あっという間に夜空の星と化した。
風情を出すために置かれた銘石は、砕かれて砂利となった。
ケロリン印の桶は、底が突き破られて、ただのゴミにされた。
だが、夕林は止まらなかった。
「ふえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええんっ!」
ああ、このまま湯涌温泉はたった一人の娘のために廃虚と化してしまうのか。
それを食い止めたのは、これもやはり一人の男の、英雄的行動であったのだ。
すなわち。
九道が、夕林を、背後から、抱き留めたのである。
「……あ……危ないぞ夕林……君の腕だと今以上にこの温泉を壊してしまう」
ちょいとおそるおそるではあったが、九道は、優しく、かつ、力強く夕林を抱きしめた。
「ふぇ……?」
泣き止む夕林。
「風邪、引くぞ……」
彼女が止まったのを確認して、九道は持っていたバスタオルを手渡した。
素直に受け取り、体に巻きつける。
「は、はい……」
上気していた夕林の頬が、ほんの少しだけ、さらに赤くなった。
蒼馬を探しに来たシイラも、理性が吹っ飛びかけていた。
柴宗が、こんな余計なことを言ったからである。
「あ、これはシイラ殿。実は朝倉殿が……」
そして、蒼馬が率先して覗きをしていたことを、こと細やかに説明してみせたのだ。
聞き終わった時、シイラは自分の頭の中で、鍋を思いっきりひっぱたいたような気がした。が〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん、という音が響き渡る。
信じてたのに
《信じてたのに・・・》
心話と音声の、二重奏。
つづく。
こんなに長くなるとは、思わなんだ(笑)
#まだシイラとこまち、火京たちの話が残っている(笑)
1998年03月28日:01時24分08秒
TEST / sf
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