姉
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ただひたすら、君は走った。
自分がしたことがぐるぐると君の脳裏の中で回っている。
君は親方の血を吸った。耐えきれない欲望に負けて。その血の美味さを味わい、今まで感じたことのないような幸福感をも味わった。
しかし、それじゃあまるで……。
“吸血鬼みたいじゃないか”君は自分のアパートの前まで帰り着いていた。ずっと立ち止まらずに走ってきたはずなのに息は切れていなかった。不思議なことに。
気を取り直して、君はアパートの中へと入っていく。階段を上り、自分の部屋の扉を開けた。
微かなアルコールの匂い。
目を上げると、白いローブ姿の女がコップを手に君を見ていた。長い髪を結わえもせず、ただ立ち尽くしている。テーブルの上には、ジンの瓶があった。
「姉さん」
君は彼女に声をかける。「起きてたの?」
しかし彼女は答えずに俯いただけだった。手に持ったコップに目を落とし……それを一気にあおった。
──!
君は咄嗟に駆け寄って、彼女のコップを弾き飛ばした。
からん。乾いた音をたてて、コップが転がった。床にこぼれる液体は決してジンではなかった。ジンは敷物を溶かしたりはしない。
「ご、ごめんなさい……」
君が声をかけるよりも前に、姉は膝を折り、床に泣き崩れてしまう。彼女は君の名を何度も何度も呼び、許しを乞うた。
「あなたにもう迷惑をかけたくないから──。あたしみたいな役立たず、死んじゃった方がマシでしょう?」
君には返す言葉がない。
姉は、また自殺をしようとしたのだ。この間二人で教会に行って“もう自殺はしない”と誓ったばかりなのに。「姉さん、僕が好きかい?」
君は冷たく言った。
まるで自分じゃない誰かが喋り出したような気分。
「──僕のために死ねるかい?」ぴたりと彼女の動きが止まる。彼女は顔を上げ、君の顔を見る。
彼女は君の名をもう一度呼んだ。君が何を言っているのかよく分からなかったのだろう。
「姉さん。僕は貴女のことが好きだ」
だが、君は返事を待たなかった。「──だから、貴女を欲しいと思う」君はそっと彼女に近づく。その細い手を取って、優しく立たせてやった。
彼女は震えていた。君はそれを落ち着かせるように抱きしめる。
君は彼女の首筋に牙をむいた。
そして、彼女の身体が君の腕に掴まる力をなくしても、君は彼女の身体を抱き寄せていた。
ふと顔を離し、君は彼女の顔を見る。
命を失った彼女は、笑顔を浮かべていた……。