戻る

5−1:神官の話

「ねぇ、おにいちゃん。僕達の住んでいる所って、どうやってできたの?」

 青年を取り囲んでいる少年達の一人が、おもむろに質問の言葉を投げかける。神殿が設けている平日の青空教室の一風景である。青空教室の担当である青年神官は、少し微笑みながら少年に答えた。

「いい質問だね。じゃあ、今日は、僕達の住んでいる世界がどうして生まれたかというお話にしよう。・・・・・・まず、一番始めにこの世界には『最初の方』がいらっしゃったんだ。彼か彼女かはわからないが、その御方がどうやってこの世界に来たのかは誰にもわからないんだ。そして、『最初の方』がこの世界に現われた時に、もうこの世界は存在していたんだよ。

 『最初の方』は、この世界では一人ぼっちだった。君達も一人ぼっちだと寂しいよね?そこで、寂しく思った『最初の方』は、自分の息子と娘を産んだんだ。『最初の方』の子供達は、三人いたんだ。長男の『オーガン』、長女の『テリエラ』、そして次男の『イヴァン』の三人だよ。『最初の方』と三人の子供達は、そうして幸せに暮らしていたのさ。

 ある時、彼ら四人の前に、何処からともなく一人の女性が現われたんだ。彼女は、自らを『アリス』と名乗った。そして、自分が世界そのものであると言ったんだ。彼女も『最初の方』と同じ様に寂しかったんだ。だから、『最初の方』とその子供達と暮らそうと思ったんだ。

 『最初の方』は、『アリス』を受け入れた。でも、その時、『テリエラ』は『アリス』と一緒に暮らすのを反対したという。でも、結局は、長い間、彼らは五人で幸せに暮らしたんだ。

 長い時の後、『最初の方』は、病に掛かってしまって亡くなってしまったんだ。『最初の方』を失った寂しさを押さえ切れない彼らは、自分を産んでくれた『最初の方』を見習う事にした。自分達の力を使って、子供達を作り出したのさ。それが人間、そう僕達だ。『アリス』は、自分の子供達を作る力が無かった。だから、子供は作らなかったんだ。

 そして、更に長い時が過ぎた後、『アリス』と『イヴァン』はお互いを愛するようになっていた。その時、悲しい事件が起こった。『アリス』を自分のものにしようとしていた『オーガン』が誤って『アリス』を殺してしまったんだ。『イヴァン』は、欲望にまみれた『オーガン』を憎んでお互いに争うようになった。『テリエラ』は、『アリス』が現われたのが全ての悲劇の始まりだと『アリス』を呪った。『アリス』は世界そのものだった。そんなアリスが死んでしまったら世界はどうなると思う?……世界は『アリス』を失って壊れてしまったんだ。

 『神界の大崩壊』と呼ばれる出来事だよ。

 『大崩壊』で世界は壊れてしまったけど、完全に壊れちゃったわけじゃなかった。『最初の方』の子供のそのまた子供、つまり僕達人間の一部と、世界の一部はこの世界に残ったんだ。でも、『最初の方』の子供達はこの世界から去ってしまった。僕達の世界が少しでも残るようにした為に、その体が『アリス』の様に壊れてしまったとも言われているんだよ。

 『アリス』の体は、粉々になって大地に降り注いだ。降り注いだ力は、やがてほんの少しずつ力を蓄えていつしかそれぞれ魂を持った。そして『妖精』と呼ばれる存在が生まれた。僕達は、『アリス』と呼んでいるけどね。そして、壊れてしまった『最初の方』の子供達は、同じく大地に降り注ぎ、それぞれ神様となった。もちろん、『最初の方の子供達』とは力は比べ物にならないけどね。

 そして、この壊れた世界で、人間と神様は一緒になって生きていこうとしたんだ。そして、それは成功した。『最初の方の子供達』がそれぞれ創造した人間は、お互いに憎み合いながらも、愛しあって、いつしか、その血は交じり合っていった。でもね。人がこの世界に再び生まれた『アリス』の存在を知った時に、物事は狂い始めたんだ。

 『アリス』の持っている力を知った人間達は、彼女を利用する事を考えたんだ。そう、その時の人間は、『オーガンの血』が強くなってしまったんだ。嫌がる『アリス』を自分達の為に利用して、虐げ、いつしか人間達は『オーガンの分身』たる神様を尊び、他の神様を殺してしまおうと考えるまで力を持ってしまったんだ。もちろん、人間達の中にも『テリエラ』や『イヴァン』の血が濃い人もいたけど、それはその当時、少なかったんだ。

 かくして、人を交えた神々同士の戦いが引き起こったんだ。数多くの『オーガン』の子達は、アリスを虐げ、力として全てを自分達の意のままにしようとした。『テリエラ』の子達は、『最初の方』の子供達を狂わすアリスを拒絶して全てのアリスを殺す事で『オーガン』の子達の目的をくじこうとした。だけど、『イヴァン』の子達は、アリスを守り、 虐げる事無く共に生きようとしてアリスと共に戦ったんだ。この戦いで、多くの神の命が失われて、人も数を減らし、アリスは虐げられ、そして世界は傷ついたんだ。人々の殆どは死んでしまって、その文明は失われたんだ。

 これは、『人界の大崩壊』と呼ばれているんだ。

 神々の決着は、実際にどうなったかは分からないけど、その数を大きく減らしながらも 引き分けに終わったと言われている。そして、そこから生き延びた人々は、その事から学んだんだ。『アリス』と共存しようってね。アリスは、私達と暮らしたがっているけど、それは虐げられるのではなく、共に生きる為なんだって事を学んだんだ。

 そして、今、私達は『イヴァンの子』としてこの世界に生きている。力の多くを失ってしまったけど、この平和な世にね。もう、『大崩壊』は起こしちゃいけない。アリスは、滅多な事では人の前に姿を現さないけど、君達もアリスに会ったら共に生きていこう、と言えるぐらい。いい子にしなくちゃね。じゃあ、次は何の話をしようか?」

 イヴァンの子たるレキス神の神官である彼は、そう言うと、暖かな笑顔で子供達を見回す。子供達もその笑顔につられる様にして笑顔を返した。暖かな日差しが彼らを包んでいた。

戻る