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コンベマスター回想録

平田剛士

承前

去る6月21日に行われた、TGC主催第2回コンベンション。まだ皆さんの記憶にも新しいことと思います。今回は、そのイベントにおいて僕がゲームマスターを務めた卓の状況、話の推移などを、私感を交えつつお話ししましょう。

コンベンションに際して、僕の用意したシナリオの主題は以下の通り。

「政治的思惑から離れて暮らしていた、多感で優しい姫は、病床の王の遺言として王位継承者に指名されてしまう。強い責任感故にそれを受諾せざるを得なかった姫ではあったが、内心では周囲の重鎮たちの『王など務まるはずがない』という否定的な評価を真に受け、悩んでいた。そして、その苦悩は復活した魔女の呪いによって増幅され、姫は心を閉ざし眠りにつく。PCは姫の苦悩を知り、そして解消することができるだろうか……」

まあ、細かいデータや導引などは書かれていませんが、あらすじとしてはこんなものです。もちろん、マスターとしてシナリオを書いた時点では、の話ですが。この筋書きがプレイヤーの手によってどうなったか、それを今から語ろうという訳です。


キャラクターメイキング

「テーマは『お姫様』──御伽噺です」

このストレートである意味恥ずかしくもあるアピール文に恐れを為して(いや冗談ではなく)人が集まらなかったらどうしよう、などと内心恐々としながら開幕を待っていたのですが、意外にも真っ先にこの卓を選んでくれたプレイヤーが2人。さらに、他の卓に入れなかったプレイヤー2人を加え、プレイ開始です。
……が、その前に。キャラクターがなければ話になりません。という訳でキャラクター作成から入ります。基本的には出来合いのキャラクターの中から選んで貰うのですが、これが社会的な立場別に3系統(つまり、宮仕えか、旅人か。宮仕えは2パターンなので、計3系統)の全9種類、しかもある程度のカスタマイズは可能、というかなり時間を取るものでした。
この話を事前に聞いた知人の曰く、

「お前さん、そりゃ本当に終わるのか?」

ごもっともで。しかし、キャラクター同士の交流を促進し、ひとつの物語を多数の視点から見るための演出として、「立場の違うキャラクターがひとつの目的に向かって協力する」というシチュエーションは入れたかったし、キャラクターに自分を投影するためには、完全に出来合いのものよりも、どこか一個所でも自分の手で選ぶ部分があった方が、感情移入の度合いも深まる……そう思っての措置だったのです。
今にして思えば、コンベンションにあるまじきスタンスのような気もしますが。
しかし、ここまで考えた末に導入した複数立場、ならびにキャラクターカスタマイズにも関わらず、プレイヤーの反応は……。

「俺、旅の傭兵やりますわ」
「私は旅の魔法使いがやりたいですね」
「では、僕は旅の僧侶を……」

……まあ、マスターの思惑、深慮遠謀というのは、大抵宛てが外れて空振りに終わるものではありますが。
ともあれ、揃ったキャラクターは以下の通り。

プレイヤーA:旅の傭兵(以下「傭兵」)
 楽しい事、つまり冒険を求めて放浪する凄腕の剣士。

プレイヤーB:旅の老僧(以下「老僧」)
 聖なる呪文を民のために使うべく敢えて定住しない放浪の僧侶。

プレイヤーC:旅の魔法使い(以下「魔法使い」)
 修行のため、見分を広めるため、放浪を続ける呪文のスペシャリスト。

プレイヤーD:公爵に仕える貴族(以下「護衛官」)
 公爵に仕え、姫の護衛官を務める、呪文も剣もそこそこ使える貴族。


プレイ・リプレイ 前半戦

さて、肝心のプレイの方ですが、ほぼマスターの思惑通りに話が進みます。病床の実父たる国王の身を案じ、養父である公爵の城を抜け出す姫。それを追いかける公爵の部下の貴族と、行きがかりから姫を助けた旅人たちとの出逢い。そして、彼らは姫を護衛して都へと向かう事になります。
と、こう書くと順調そうに見えますが、さにあらず。実は、時間の都合から説明を簡略化し、予定していた戦闘シーンも省いて、物語を進展させることだけを念頭に『飛ばして』マスタリングしていたのです。
現段階ではまだ時間的余裕はありましたが、実はこのシナリオの最重要シーンはラスト。枝葉末節にこだわって本題の部分で時間が足りなくなっては本末転倒ですからね。
ところが!落とし穴とは思わぬところにあるものです。「必要ない」と思って省いた戦闘シーン──姫の乗る馬車が魔物に襲われているところに旅のPC一行が通りがかるというシチュエーション──でしたが、これをカットしたために、何故一介の旅人ごときが姫の信頼を得られるのか、という理由付けの部分が希薄になってしまい、それを誤魔化すために四苦八苦しなければならなくなったのです。やはりシナリオ作成時の練り込みは重要ということでしょう。

ともあれ、シナリオはハイペースで進行します。病床の国王が姫を後継者に指名し、息子のいる王妃を始めとする国の重鎮たちはこぞって反対。しかし、王の遺言とあって(そして王子は幼少にして暗愚、王妃は性悪という状況もあって)次第に姫を支持する方向で宮廷内はまとまっていく……と、ひたすらプレイヤーに語ります。というのも、王宮の政治に口出しできるPCがいなかったため、流すしかなかったのです。そういったキャラクターも、一応用意はしていたのですが……。
余談ながら、旅人PCも一応、王宮に賓客として招かれたことになっています。さすがにメンバーの3/4を無視して話は進められなかったもので……。

さて、そしていよいよ前半のクライマックス、新女王となる姫の戴冠式です。滞りなく進む式典、末席でそれを見守るPC。しかし、姫の頭上に王冠が載せられたその時、王妃が狂気に血走った目で乱入してきます。そして、厳重に保管されていた秘宝を用い、魔女を復活させてしまうのです。
復活した魔女は王妃を一瞬にして焼き尽くし、姫に呪いをかけます。短い悲鳴を上げて倒れる姫。PCは何とか魔女を討ち取ろうとしますが、剣で斬られた魔女は煙となって姿を消します。人間に対する復讐を果たし、この土地を再び我が物とする、そう呪詛の言葉を残して。

ここで一旦トイレ休憩。頭をクールダウンして、後半へ。


プレイ・リプレイ 後半戦

さて、いよいよ後半。まずは怒涛の状況再確認からスタートします。あれから1週間、倒れた姫は目覚めず、国王は混乱の中ついに崩御(ホントは戴冠式前に亡くなってもらう予定だったのですが)。PCは何時の間にか魔女対策会議に巻き込まれている、という状態です。
姫を目覚めさせるには、魔女を倒し呪いを解く他にない。そう結論づけたPCを始めとする対策委員会(とプレイ中に名乗っていた訳ではありませんが)。ですが、相手は伝説の魔女。建国王が竜と妖精の力を借りて、ようやく討ち果たしたという難敵です。しかも、空飛ぶ城に居を構え、容易に手出ししかねる状況です。しかし。

「姫を、この国を救うため……喩えいかなる苦難が待つとしても、私はやるぞ!」

そんな英雄的な発言をしたのは、PCの一人である護衛官。マスターがそう仕向けたとは言え、よくぞ断言してくれた!と熱いプレイに思わず心の中で拍手喝采。ともあれ、この絶望的な状況にあって、PCは伝説に倣い、竜の助力を仰ぐべく、荒れ果てた山脈へと向かうのです。そして、苦難の果てに竜と対面したPCは、かつて魔女を倒した宝剣を授かり、竜の背に乗って魔女の待つ天空の城へ……。
しかし、実はここで僕はとんでもないことをやっていました。今だからこそ白状しましょう。以上の竜に出会うために旅立ってから、空飛ぶ魔女の城に辿り着くまでの経過は、実は全てアドリブの産物なのです。準備したシナリオ原稿の中にも、「PCは艱難辛苦の末、魔女の元に辿り着き……」としか書いていませんでした。
なぜ、こんな真似を?いやいや、実はこれはシナリオ作成段階で組み込んでいた「テーブルトーク初心者対応」のためなのです。つまり、きっちりと形を定めず、PC(プレイヤー)の決定した進行方向に道を作ってあげる、というスタイルを取る事で、「自分で決定し、それが事件解決への道となる」ことの楽しみを教えてあげよう、というのが、マスターの密かな目論見だった訳です。
まあ、結果的には僕の卓には初心者がいなかったため、手抜きと評されても仕方の無いところではありますが……。

閑話休題。
ともあれ、PCは魔女の元に辿り着きます。しかし、魔女は自らの命の源である黒水晶を破壊されない限り死ぬ事はありません。かつて王宮での戦いで、PCの剣が効かなかったのはそのためです。実は、その黒水晶を破壊するためのキーアイテムが、竜から授かった宝剣なのです。
しかし、宝剣を使うにはデメリットがひとつ。宝剣の力の源は大地の生命力、そして黒水晶を破壊できるだけの力を引き出した暁には、王国のかなりの土地が『枯れ果て』て、人の住めない土地になってしまうのです。もちろん、PCはこれらを承知の上です。
魔女を倒すため、土地と民を犠牲にできるか!?というテーマなのですが、実はマスターは抜け道を用意していました。PCに剣を授けた竜は、その時点で自らの命を大地の力のかわりに剣に捧げる決意をしていたのです。後で竜の元を訪れたPCが、骸となったその姿を見てその献身を思う、という展開にするつもりだったのですが、ここでPCの一人、老僧が意を決して宣言します。

「神よ奇跡を!我が命をもって、剣に邪悪を打ち砕く力を授け給え!」

さすがにこれには驚きました。僕のオリジナルシステムでは、聖職者系キャラクターには1シナリオ1回、奇跡を起こす力があります。まあ実際には、魔法と同じように判定を行い、その成功の度合いで起こる奇跡の強さが決まるという代物なのですが……。
よもやこの場面で、しかも自らの命を犠牲にしての神聖祈願とは!よぉしよく言った。竜の命が助かることにしてやるから、気合を入れてダイスを振れ!マスター、再び内心で拍手喝采。しかし。

「うぎゃあぁぁぁぁ!失敗いぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

……教訓。成功して欲しくない時と同様、失敗して欲しくない時もダイスを振らせてはいけない。かくしてこのシナリオの唯一の犠牲者が誕生したのでした。
それはともかく、竜とPCという2つの犠牲もあってか、黒水晶は打ち砕かれ、魔女は灰となるのでした。終わった終わった、という気分になるプレイヤーを眺めつつ、マスターは内心でにやり。そう、これからが本題なのですから。


プレイ・リプレイ 大団円!

さて、王宮に戻ってきたPC一行は、姫がまだ目覚めていないことを知ります。その理由は、冒頭の部分で記したように、「周囲の圧力に耐えかね、現実から目を背けている」ためです。魔女の呪いは、そのきっかけに過ぎなかったのです。
全てを察したPCは、本当の意味で姫を呪縛から開放するため、宝剣の力を借りて最後の戦いに赴きます。そう、姫の心の中へと。
というのが、マスターの用意した筋書きでした。この後、姫の『本心』と対面したPCは、これを説き伏せて再び目覚めさせることになる予定だったのですが……。

「やっぱさぁ、眠れる姫を目覚めさせるのは王子様のキスしかねぇよなぁ」

半ば茶化すように、護衛官を見やる傭兵。マスターも当初は冗談だと思っていたのですが、どうやら本気らしく、「その気がなかったとは言わせないぜ」などと護衛官を煽る煽る。そして……

「姫様はなぁ、寂しいんだよ。誰か側で支えてやる人間を求めてるんだよ!」

マスター、三度心の中で拍手喝采。まあ、考えてみれれば分かることなのですが、ここまで的確にシナリオのテーマを言い当てられては、もはや何も言う事はありません。むしろ、サイコダイブなどという直接的で無粋な手段を経るより、よほど『御伽噺』に相応しいじゃないですか!
PCや国の重鎮など、多くの人が見守る中、護衛官は姫に優しく囁きます。

「もし私で良いのなら……いつでも、力になります」

そして、重なる唇。しばらくして姫はゆっくりと瞼を開き、このシナリオは幕を閉じました。


あとがきにかえて

思えば、このセッションほど「プレイヤーとマスターが共同で作り上げるドラマ」ということを認識させられたことはありませんでした。僕の用意したシナリオなど、三文芝居に過ぎません。それをかくもドラマチックで思い出深いものにしてくれたのは、ひとえにプレイヤーの対応なのです。特に、予想だにしていなかった老僧の自己犠牲、あまりの恥ずかしさにマスター自ら没としたキスによる目覚めなど、即興劇故のドラマの最たるものと言えるでしょう。
これだからRPGはやめられない。

では、すばらしいドラマを見せてくれたのみならず、RPG故の楽しさを再認識させてくれたプレイヤー4人に感謝しつつ、僕のレポートを終わらせて貰いましょう。


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