トレイシーを囮に使う方向で作戦を練る一行。
 だが、今度は交渉の持っていき方で揉め始める。
 20分くらい揉めた挙げ句、やはりトレイシーをブリギッダとして交渉を進め、ニキータを取り返した時点 で本物のブリギッダが場に乱入するという、囮作戦としてはきわめてオーソドックスなものに決定した。
 PCたちは(軍の車両ではバレやすいということで)カボスに車の手配を依頼し、PCたち、ジョン、 フェリエの五人で教会へと交渉に向かいます。

                                   ブラッディ
GM 「ふふふ、よく来たな…さぁ、こっちに来てもらおうか、“血まみれ”ブリギッダ」
ブリギッダ(トレイシー) 「子どもをこちらに寄越して頂戴」
ハンス 「そうだ! 子どもが先だ!」
GM 「よし、わかった」と、スパイは手錠を放ります。「ブリギッダ、後ろ手にこれを付けても らおう。そして、同時に歩き始める…いいな」
ブリギッダ(トレイシー) わかりました。じゃ、手錠を付けて歩きだします。そしてニキータと すれ違うときに、「お母さんが来てるから、心配してないで」と言います。私だということは解るでしょ うから、「とにかく、逃げることだけを考えなさい。今日は、最高のクリスマスにするんでしょ」
GM 「え…でも…」とニキータ。
ブリギッダ(トレイシー) 「大丈夫よ」
GM 「わかった…ありがとう」
 ニキータは無事にみんなのもとにやってきました。人質交換はとどこおりなく済みます。スパイは「なら ブリギッダ、本国へと帰ろうか。電気イス(あ、電気なかったっけ?)がお前を待っている」と言って、ト レイシーの背に銃を突き付けます。
ハンス いかにも悔しそうにしてるぞ。
GM が、その時。パリンと、窓ガラスが割れ、スパイの腕に何かがきらめきます。銃を取り落と した男の腕に刺さっているのは、見覚えのある短刀。見上げた方向にはもちろん、ブリギッダの姿がありま す。
「何、ブリギッダが二人!?」
ハンス 「今だ! 突撃〜!」


 動揺したスパイたちに、ハンスは抜き撃ちをしつつ警棒を抜き、突撃します。もちろん、それ以上に早い 反応でジョンとフェリエも飛び出しています。


GM じゃ、とりあえずトレイシーには逃げ出してもらわないとね。運動判定をどうぞ。相手は手 練のスパイだけど、混乱してるから標準判定でいいです。
トレイシー いきます、えいっ…(ころころ)…失敗!
ハンス WOLだ! WOLを使うんだ!
トレイシー えいっ…(ころころ)…成功!
一同 おお〜っ!(喝采)
スコット 幸運の風が吹いた!
トレイシー 神さまありがとう!
GM じゃ、こうしましょうか。


 ブリギッダが侵入してきた際にヒビが入っていたガラスが、その時吹いた突風によって割れた。飛び散る 破片に一瞬、スパイの手が弛む。その隙にトレイシーはスパイに体当たりを食らわせ、逃げ出すことに成功 した。
「あっ、待て!」
 スパイが慌てて構えた銃をフェリエの放った弾丸が弾き飛ばし、そのスパイをジョンが膝蹴り一発で沈め る。
 また、すぐに外に待ち構えていた軍人たちも突入してきた。
 トレイシーの手錠は戻ってきたハンスが銃で撃ち切った。
 確保しておいた退路から、一行は逃走を図る!
 カボスも車を用意し、駆け付けてきた。


ハンス 「とりあえず、ヴォルム川の方に逃げよう」
スコット 「ニキータはどうする? 劇の公演場所に連れていかないと…」
ハンス カボスに任すか…
トレイシー でも、危険じゃない?
ハンス そうだな…
スコット もう一人くらいボディガードがほしいところだね。
ハンス ジョンに頼むか。(笑)
GM よ、弱い…だけど、ジョンとしても望むところ。「任せとけ」とさっさと車に乗り込みま す。
ハンス なら、我々は追っ手を引き付けよう。
GM トレイシーをブリギッダとして逃げ回るわけですね。なら、ブリギッダは変装して劇の観客 に紛れ込みましょう。それに際して、ブリギッダは言います。「すまない、恩に着る…」と。不器用ですけ ど、感謝の気持ちは感じられますね。
スコット よぉし、逃げるぞ〜!
ハンス いや、スコットはニキータたちに付いていってくれ。ジョンが暴走しないためにも。(笑)
スコット わかった。なら、カボスの車に乗り込みます。
GM 「じゃ、行きます! しっかりつかまっててくださいよ!」とカボスは車の内燃エンジンを 始動させます(海軍に1台だけあった内燃エンジン四輪車を、カボスが外観だけを改造したもの)。そし て、グォン! という音を立て、内燃エンジン四輪車は急発進する。
スコット 「だ、大丈夫かなぁ?」
カボス 車の腕だけは信用して。2レベル取ってあるから。ただ、お得意のドジだけは保証できないけど。(笑)
スコット やっぱり信用できない!
GM まぁまぁ。それと、追っ手引き付け組のハンス、トレイシー、フェリエ さんは2時間は逃げ回ってもらわないとね。30分に1回逃走判定してもらうから、合計4回だ。


 必死に逃げ回る3人。
 ハンスの提案によって、警察署の方に逃げ出す。
 途中、トレイシーが1発だけ被弾し苦痛状態に陥るが、その外にはたいした被害もなく、3人は無事に 警察署に逃げ込む。


ハンス 自分の顔を殴って…上司に――もちろんエムス部長じゃないぞ(笑)―― 「この女、本官に暴力を振るったのであります。今から取り調べますので、ブチ込んでおきます!」と 報告します。
トレイシー 「何言ってんのよ、このチカン警官!」…ごめんね。(笑)
GM しかしその時、表で、ドゴォォン! という大音響がとどろきます。
ハンス 「テロリストか! この女の仲間かも知れません!」
GM 「そうか、ならばその女、見せしめにブチ殺してしまおう!」(笑)
ハンス 「そうです、ブチ殺し…え?」
トレイシー 「なぁに言ってんのよ! 訴えてやる〜!」(笑)
GM 「とにかく応戦だ! 総員出動っ! 軍にも応援を要請しろっっ!!」と署長が号令を飛ばし ます。
ハンス あ、そうか。軍に逃げれば良かったんだ。
GM まったく、騒ぎを大きくしよってからに。フェリエさんも複雑な表情だぞ。
ハンス ま、まぁ、これでこっちは大丈夫だろう。(笑)


 さて一方。
 カボス駆る内燃エンジン四輪車は人並みあふれる街路を猛スピードで駆け抜けていました。
 途中、やはりフィラムのスパイたちによる襲撃もありましたが、NPCの時のカボスは絶好調。次々に 操作判定を成功させてゆきます。スコットとジョンの攻撃もスパイたちを薙ぎ倒し(それにスパイたちは ほとんど警察署の方――トレイシー――に引き付けられていたので、こちらの追っ手はわずかでした)、 なんとか無事に駅前広場に設置された特設ステージに到着します。


GM 「いやぁ、良かった良かった。ボクでもたまにはドジなしで行くこともあるんですね(笑)。 さ、ニキータ、早く!」
 劇はまさに今にも始まらんとしていたときで、劇団員たちはみんな不安に駆られていました。ニキータが 団員たちに歩み寄ると、歓喜の輪が彼女を囲みます。トマスも「無事だったんだね!」と安堵の表情です。
 そして、衣装さんやメイクさんのプロの技によって素早く役に扮したニキータは、なんとか出番に間に合 い、劇は無事に進行されてゆきます。
スコット ブリギッダは観客の中にいます?
GM 観客の人数が多すぎてわからないけど、きっといるでしょう。何せカボスがたどりつけたく らいなんだから。(笑)
スコット でも、まだこれからが本番だ。劇の間中、ここを守らなきゃ。ボクは袖の奥からニキー タを見守ってよう。
GM なら、劇の最中に一人のスパイが侵入したことにしよう。銃撃だ!
スコット わ、どうする? え…と、回避って?
ハンス 対弾防御か? それなら反撃を放棄して弾を回避できるんだ。
スコット ならそうする。


 スコットは回避判定に失敗するも、WOLによって辛くも成功。幸運の風に巻き上げられた袖の 幕が、スパイの撃った弾道上に舞ったことによって命中を逃れた。


スコット よし、ダーツ同好会の力を見せてやる!
GM あれ? そんな設定あったの?
ハンス あったんだ。ダーツは常にケースに入れて8本持ってるらしい。
スコット 投げま〜す! 当たった! …でもダメージは1点。(笑)
GM なら、ちょっとかすって「いてぇ!」とひるんだ隙に、裏方さんたちに袋叩きにあったこと にしましょう。(笑)
 以降はたいした侵入者もないね。どうやら、まきそこねた奴だったみたい。
 まぁもっとも、こちらはあまり襲ってこないけどね。それに、広場の周囲にはライゾ少将発する命令によ ってジョン麾下に多数の私服兵士が配属されているから、小競り合い程度の騒ぎしか起こらないよ。観客た ちもお祭り気分で意に介さないしね。
ハンス 「お、歓声が聞こえる。どうやら間に合ったみたいだな」
GM それより大変なのは警察署の方だ。
 ついに業を煮やしたフィラム側が極秘裡に隠していた飛行船を出動させ、そこから落下部隊を出動させ た。それに対しヴァルモン海軍側もライゾ少将御自ら陣頭指揮を取り、応戦に出るという、誠にとんでも ない状況なのでありました。
ハンス おいおい。
GM ま、それもやがて劇の終了時間、つまり24時がきた時点で終了します。祭りは盛り上がりを 増していく一方で、何かのリミットが過ぎたらしく、「間に合わなかったか」とか言いながら、フィラム軍 は潮が引くように撤退してゆきます。もちろん、ライゾ少将は追撃命令を下しますが、とりあえず皆さんに はもう関係のないことですね。


 劇は幕を下ろした。
 カーテンコールの中、ニキータは眩しいくらいに光り輝いている。
 そんな〈娘〉の姿に目を細めながら、ブリギッダはそっと観客席を抜け出した。
 そして、合流したハンスたちの前に姿を現す。


GM ブリギッダは言います。「ありがとう」と。そして、「これで心置きなく、私はあの娘のも とを去れる…」とも。
ハンス 質問。「連中、『間に合わなかったか』とか言ってたが、どういうことなんだ?」
GM 「世の中にはね、知らない方が幸せってこともあるの」とブリギッダは薄く、しかし哀しげ に笑います。「ひとつだけ言えるとすれば、あたしの持っている情報に価値が無くなった、ということね」
ハンス そりゃまともな理由で良かった。
GM は?
ハンス オレぁ、また凄いオチが付くのかと…
トレイシー これからクリスマスパーティがあるから帰った、とか。(笑)
GM まぁ、ブリギッダは去りぎわに宝石袋を手渡します。これはラビエル・カットといって通貨 として通用する宝石で、ひとつ当たり10金貨、つまり10万ケルンに相当する価値があります。それが何十個 と入っていますね。
「ニキータの養育費くらいにはなるだろう。よろしく頼む」
トレイシー 「いらないわ。そんなものより、もっといいものをもらったから」と、ステージ上の ニキータを見つめます。
GM 「そうか…なら、これはあたしからニキータへのプレゼントとして、預かっておいてくれ。 最初で、最後のクリスマスプレゼントとして…」
トレイシー 「わかったわ…」
GM 宝石袋を渡すと、クリスマスソング響く雪の中、ブリギッダの背中は闇の向こうへと消えて いきました。このことをニキータが知るのは、もう少し後になってからのことです…。



エピローグ

 ギュッ、ギュッ――
 ブーツが新雪を踏みしめる音が、空虚な心に響く。
 充たされたはずなんだ、これでいいんだ――そう思うのだが、なぜか胸に開いた穴に吹き込む風は、ひど く冷たく、何もまとえなくなってしまった心を切り刻んでいた…。
 通りの向こうに気配を感じて、ブリギッダは歩みを止めた。
「――誰だ?」
 フィラムの刺客か、と思った。いかに自分の持つ情報が無意味なものになったからといって、その沽券に 関わるだけに、自分を必ず殺しにくるだろうとは覚悟していた。
 だが、そうではなかった。
「本当に、行ってしまうんですか?」
 カボスだった。
 帽子を目深にかぶり、衿を立てて雪のなかに立っている。
「ニキータが悲しみますよ」
「あたしと一緒にいれば、危険なんだよ。あの娘にはこれがいちばんいいんだ」
「自分の愛する、家族と離れ離れになっても?」
 ブリギッダは低く笑った。
「別にあの娘と血のつながりなんかないよ。ただ、拾っただけ」
「そうですか…。ボクにはそうは思えないんですがね」
 カボスは人差し指で帽子の鍔を上げ、ブリギッダを見た。
「いつも危険にさらされているあなたが、どうして更に危険を冒してまでニキータを育てることにこだわっ たのか…そして、組織を抜けたのか」
「組織を抜けたのは、単に嫌気がさしただけさ」
 ブリギッダは吐き捨てるように言った。
「違うでしょう。ニキータのためだ…そうまでしたんなら、どうして一緒にいてあげてくれないんです?  今日、あんなに輝いていたニキータの顔を、また悲しみに曇らせたいんですか?」
 手を握り締めるブリギッダ。下唇を咬みながら、彼女は苦しげに声を絞りだした。
「あんたは組織の恐ろしさがわかっちゃいない。奴らは必ずあたしを殺すだろう。それにあたし自身、これ 以上逃げ回れる自信も気力もないんだ…」
 カボスはブリギッダの目を見つめた。その瞳は濡れていた。そして、やつれてもいた。
「…わかりました。ニキータは責任を持ってお預かりしますよ。でも、預かるだけです。あなたが彼女を引 き取りにくれば、いつでもあなたのもとへお返しますし…」
 言ってカボスはブリギッダの肩越しに目をやった。その視線の向こうには、まだ喝采に沸き返る駅前広場 があった。
「ニキータ自身が望んだときは…引き止めませんよ」
「え…?」
「やっぱりボクは、子どもは家族と一緒にいるのがいちばんいいと思うのでね」
 ブリギッダは歩き始めた。
 カボスの傍を通り過ぎ、街灯のない闇の中へ…。
 すれ違いぎわに、こんな言葉を残して。
「なら、あたしは逃げるよ。あの子がどんなに探しても見つからないくらい、遠くへ…。あの子が諦めちま うくらい、遠くへ…」
 カボスは振り向かなった。ただ、たたずんでいた。ブリギッダの姿が、粉雪舞い散る夜闇の中へ溶けた後 も、しばらく…
 やがて、カボスの背後から、一発の銃声が響いた――。


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