Sb101
機械の鳥は夢を見た。遥けき彼方から此方まで。
機械の鳥は空を見た。
さっきから警告音が止まらない。
二体の機動兵器は廃墟の街を駆ける。
男は電装品のチェックを行い、操縦桿を前に倒した。
廃墟の街に雨が降る。暗雲たれこむ空はやたら高圧的だった。
男の戦車迅速なれど、彼の巨人強大にして脅威。
二つの陰はかつての摩天楼の間を追尾式ミサイルが交錯する。
「有効ブソウハ7.62チェーンガン、側部ミサイルポッド、ナラビニ猟犬弾主砲ダケデス」
未来の戦車は後退しつつ煙幕弾を放出した。
一切の闇の中で、光が一閃、二閃、きらめく。熱を孕んだ薬莢が転がっていく。その時である。
一条の光の矢が男の戦車を貫いたのである。
「おいしい話がある」
いつものことだが、よくも大ウソをついてくれる、と男は思った。
「いえよ」
男はうんざりしながら耳を貸す事にした。どうせ聞かされるのだ。
湿り気混じりの酒場には準備中の札がかかっていた。
男とおやじだけが空間を持て余していた。
「1万ドルだ」
法外な金額である。
「ナ〜ニ、簡単な仕事だ。アルバカーキまでちぃとばかりデカブツを運んでくれればいいだけだ」
口調は軽いが、どこか空々しい。
「いつまでだ?」
「三日後だ」
男は懐からタバコをとりだし、灯をつけた。
「依頼は?」
「ちょっとした好事家だ。『着ぐるみ』の剣を集めている」
「とどけりゃいいのか」
「そうだ」
「だきあわせか?」
「そんなところだ」
男は一服おいてから聞いた。
「軍隊か?」
おやじは何も言わなかった。
「この街も住みにくくなったな」
酔えない酒ほどナンセンスなものはない。
「メガ=シティなんかよりは遥かに住みやすい」
「おまえ、いつまで地球にいるつもりだ? もう未練はあるまい」
初老のおやじは男の目を見た。
「重力に縛られているからさ」
男はタバコをぞんざいに押し潰した。
おやじは一枚の光ディスクをカウンターに滑らす。
男も一枚のIDカードを代わりに滑らせた。
そしておやじは手で諌めた。
「わかった。 俺は3日後までにデカブツと剣を届ける」
天井のプロペラは静かに虚空をかきまぜていた。
巨人の放った光線は男の戦車のシールドを突破しその機体に風穴を空けていた。
『動力性能30パーセントテイカ、ユウバクノ恐レガアリマス。』
男の戦車はよろめき、静かに横転した。
雨はもう止んでいる。
巨人はゆっくりと歩み始めた。もう目標は補足しているのか。
「敵残存兵装ハビームキャノントアトミックバズーカノミデス」
男は全ての操作をマニュアルに切り替え、角を矯めていた。
間違いない。
巨人の背中にはとんでもない爆弾が備わっている筈だ。
どうやって退治するか、男はおよそ考える限りの選択を考えた。
戦車は主砲を打つと同時に反動の勢いをかって真後ろに後退する。
直径108ミリの固まりは巨人の左臑を吹き飛ばした暫時、その巨体の支えを失った。
しかし
巨人の光線は戦車のパワープラントを直撃した。
戦車は音を立てて倒れた。
『これだ』
さびれた工場の中には一つだけ異彩を放つものがあった。
全長5メートルの巨人である。
そもそもが都市国家闘争時代に都市制圧用に創られた人型増加装甲である。それが有視界、特に繊細な作業
が要求される局地戦に有効である事が分かるにつれて恐竜的に進化を遂げたのである。
今では都市公安の虎の子や軍隊の諜報活動に大活躍しているシロモノだ。
全体のフォルムは鎧武者のそれをかたどってあり、なるほど腰に脇差しを下げている。
どうやらこれが今回の荷物らしい。
「おい」
男は巨人の背中を指さす。
「ランドセルじゃないか」
おやじは事もなげに言った。
背部には上昇の推力を得るためにスラスターが二基装備されている。
そこには巨大な大筒が装着されていた。
全く異様な光景である。
「物騒な物つけてやがる」
人が乗り込むことが前提にあるこの兵器には本来、ランドセル、つまりメインバーニアは必ずしも必要でな
い。
近代において、局地戦をするに至って『飛ぶ』もしくは『跳ねる』要素も格闘戦において重要になってきた
のである。
もちろん、その加速Gたるや並々ならぬものである。
おやじは苦笑いを浮かべた。
「約束だ、勘ぐったって疲れるだけさ」
男は奥のシートがかぶせてあるコンテナカーゴを指さした。
「使いな」
男は懐から通信機を取り出し、愛機をよびだした。
戦車に搭載したAIが応答するも、干渉波が厳しい。
「ここも電波状態がよくないな」
「今に始まった事じゃない」
倉庫に戦車が到着するまで10分とかからなかった。
「娘さんによろしくな」
男は後ろ手を返して出て行った。
そこには片足を失ってもなお、もがき苦しむ姿があった。
男は立ち上がり、断末魔にも似た巨人の駆動音を確認していた。
男とて無傷ではない。
男はゆっくりとブラスターを巨人に向けた。
「そこまでにしてもらおう」
そこには一人の男と数人の武装集団の姿があった。
「自分はガルボック=バイオテックの者だ」
「西海岸のお上が何の用だい?」
「率直に言おう、そこの『着ぐるみ』をひきとりたい」
「いやだ」
「時間がない。できれば手間はさけたいのだが」
「都市公安がこぞって集まるんだろ?」
男は一旦は収めたブラスターに手をかけた。
「『メリット』はないと思うが」
「デメリットはある」
「メガ=シティ同士のつまらん覇権争いにこんな物騒なモノはいらない」
「そこまで知ってて何故ここまでやってきた」
「『非合法保安官』を水面下で抹殺するグループがあると聞く」
男は懐からハンドグレネードを投げた。
破裂と同時に炎が舌を出し、一面火の海となった。
炎の中、先方もブラスターを構えていた。
体中の皮膚が爛れ落ち、変わって鈍く光る金属があった。
「人間でいる事に不都合は感じないかね?」
凶弾が放たれる。
男は渾身の力を込めて銃口をつきつけた。
コードネーム『モロハ』西部アルバカーキ付近にて消息不明。
各都市の支配企業の社長室ではこう報告された。
大陸に点在するメガ=シティ、それは人類最後のより所である。
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