気ままにアドベンチャー



「はにゃー、いい天気だね♪」
 私は透き通った青空を望みながら思わず背伸びをしてしまった。
 青い空に白い雲…っと、天気が良い時の定番だけど、やっぱり気持ちがいい!それに元気印の剣士ファミ ル(♀)さんとしては『快晴=エネルギー源』てなわけで、こういう日にはフツフツと力が湧いてくる。
「おまえ、今。『ものすごーく暴れたいなぁ』とかって思ってるだろ」
 元気に光合成にはげんでいるわたしの横で疎ましそうな声がした。
 わたしとパーティを組んでいる盗賊のカイン(♂)である。
「なによ!人を狂戦士みたいに言わないでくれる?」
 ほっぺたを膨らまして反論した。全く、失礼な奴!
「おまえが暴れだしたら勢いが有り過ぎて収拾がつかないから心配してやってんだろ。ったく、困ったやつだぜ」
「それ、どーいうーことよっ!」
 わたしたちは互いに冒険好きのコンビである。冒険と言ってもまだ冒険らしい冒険はしたこと無いんだけ どね。
 減らず口ばっかりたたいていてもいざというときには頼りになる同じ年で十八才のカインと、自称『好奇 心の塊』(単にトラブルメーカーという人もいるが)のわたくしファミルで成り立っている。さてさて、こ の先どうなることやら。
「なんだか曇ってきたな」
 空を見上げるとみるみるうちに青空が灰色の雲に覆われてゆく。もうほとんど青空は望めない。
「えーっ、さっきまでいいお天気だったのに、なんだか悲しくなっちゃう」
 わたしは不機嫌な声で呟いた。
「一雨きそうだな。とりあえず、今日の宿を探そっか」
 不気味な空を気にしつつ、わたしたちは近くの町に宿を取り一休みすることにした。
 宿の酒場は思ったより人気が無かった。冒険者風の男が二人カウンターで飲んでいるだけで、大きな部屋 は音楽もなく『しん…』と、静まりかえっている。
「わりと大きな町だから活気があると思ってたけど冷めたもんだな」
 カインが辺りを見渡しながら言った。
「あれ、なんだろ」
 酒場の壁に何かポスターが貼られていた。ポスターには次のように書かれている。

 剣に心得のある者集え!
 この天候異変を戻せるのは君しかいない!!
 今こそ真の英雄になるチャンスだ!詳しいことはアリスト城まで。

「なにがなんだか、さっぱりわかんないわね。なんで天候異変を戻すのに剣士がヒツヨウなんだろ」
 わたしたちがお互い顔を見合わせていると、「やめとけ、やめとけ」という声がした。カウンターで飲ん でいる男の人たちからだった。よく見るとこの人たちの横には立派な剣が立てかけられてある。どうやら剣 士のようだ。
「やめとけって…、あんたたち、アリスト城に行ったのか?」
「まぁな、英雄という言葉につられて行ったものの、とんだ無駄足だったぜ」
 一人の長髪の男はそう吐き捨てると一気にお酒を飲み干した。
「何か起きているのですか?」
 そうわたしが聞くと、もう一人のまっ黒に日焼けをした男が話してくれた。
「今、この辺りは異常なまでの天候異変に襲われているんだ。大雨の日が一ヵ月以上続いたり、日照りの日 が二、三ヵ月続いたり。そうなると食料はなくなっていくし、もう、住めたもんじゃないぜ。そこを見兼ねた このへんを支配するアリスト城の王セルシオ王がある対策を考えたんだ」
「それがあの『剣に心得のある者集え』ですか」
「ああ、どうやらアリスト城に代々伝わる王家の剣で山の麓にある石版を刺すとこの天候が元に戻ると言う んだ」
「…で、それをやられたんですか?」
「いいや、剣さえ持てなかった。その剣、人を撰ぶのだそうだ。俺たちはその刀身を鞘から抜くことさえで きなかった」
 そうして二人は寂しそうに笑った。
『人を撰ぶ剣』…か。なんか、興味あるなぁ。
「わたしにも、持てないかな」
 つい、思ったことを呟いてしまった。すると、失礼なことにこの二人組と何故かカインまで大声で笑い始 めた。
「ははは、お嬢ちゃん、いくら君が剣士でもちょっと無理だよ」
「ばっかだなぁ、ファミルは。この人たちで抜けなかった剣がなんでおまえが抜けるんだよ。まだまだ、盗 賊の俺のほうが剣の腕が上なのによ」
 カインはしつこくまだヒーヒー言いながら笑っている。
 無性に頭にきた。わたしだって剣士のはしくれなんだからねっ!
「わたし、アリスト城に行って剣を抜いてくる!」
 わたしはそう言い残すと、酒場を勢いよく出て行った。もう、知らないっ!
 アリスト城に着いた頃にはわたしはずぶ濡れだった。酒場を飛び出した時から小雨がぱらついてたんだけ ど、引き返すにも引き返せなくて結局雨の中ここまで来てしまった。
 でも、カインの言う通りいくらなんでもあのお兄さん方で抜けなかった剣が、わたしなんかに抜けるわけ ないよね。自己嫌悪。
 内心弱気になりながら、門の前に居た兵士に用件を言うと快く通してくれた。
「よく来てくれたな。礼を言うぞ」
 城に通され真っ先に出てきたのは驚いたことにセルシオ王だった。しかし、疲れているのか、いささか顔 色が悪い。
 ここも酒場同様人気はあまりない。気象の影響はかなり深刻のようだ。
「さぁ、早速剣を抜いてくれ」
 そう言うと、わたしの手を引きどんどん進んでいく。
 長い廊下の突き当たりまで行き、大きな部屋に通された。
「すごい!」
 机の上には立派な彫刻が施された剣があった。
 これが人を撰ぶ剣かぁ。
 わたしの頭の中には気候を戻すということよりもこの剣への好奇心が先行していた。
「では、抜きます!」
 右手で柄をぎゅっと握った。
 渾身の力を込めた…が、刀身は鞘から抜けない。まるで何かでくっつけたようにびくともしない。「なに お〜っ」
 むきになって引っぱってみたが、やはり抜ける気配は無い。
「はぁ、はぁ…ごめんなさい。だめでした」
 セルシオ王は幾分肩を落としたように見えたが
「わざわざ出向いてくれたことを心から感謝する。すまなかったな」
 と、声をかけてくれた。
 城を出たものの、怒って飛び出したものだから宿に帰りづらい。おまけにまだ雨がしとしとと降り続いて いて、追い討ちをかけるように落ち込んでいるわたしの心を更にブルーにしてくれた。
「どーしようかな」
 宿までの小道をふらふらしながら歩いていると、足首に何かがべちょっとへばりついてきた。
 見ると直径三十センチほどの緑色のぷよぷよとした球がある。
「はにゃ――――――――――っ!」
 どうやらこの辺に生息するモンスターらしい。小道の先にある森からうじゃうじゃ出てきた。みるみるう ちに小道は緑で覆われていく。
 足首にへばり付いてきたモノは調子に乗って(!?)足をたどってもう腰まではい上がってきていた。
「やーっ!気持ち悪いよーっっ!」
 わたしは腰に掛けていたショートソードを取り出すと、お腹の上にいる奇妙な物体目掛けて振り下ろした。
 ぱんっ!
 風船が割れたような音を立ててその物体ははじけた。
 レベルが低いモンスターだということは見かけからしてわかっていたけど、とにかく数がすごい。こんな のを全部相手になんかしていたら どれだけの精神力と体力を消耗するだろう。考えただけでもぞっとす る。
 こんな時、カインがいてくれたら――心の中でそんな甘い考えが過る。
「逃げろ!」
 ふいに後から声が聞こえた。
 振り向くと、色白のお兄さんが全力疾走で向かっている。
「お兄さんこそ来ないでーっ!」
 ……と、叫びだしたいくらいひ弱そうだ。
「あつ、こけた…」
 お兄さんは頭から道に突っ込んでいった。ひ弱そうな上、鈍くさいとはこれいかに。
「だ…大丈夫か!お嬢さん」
 わたしの横にたどり着いた頃には、お兄さんは疲れきっていた。絶対お兄さんの方が大丈夫じゃない。
「わたしはまぁ、今のところは大丈夫です。でもこれから大丈夫じゃなくなると思います…」
 緑の集団はもう目前まで迫っていた。絶体絶命とはまさにこのことだ。
「お兄さん、さがっててくださいねっ。なんともならないと思うけど、なんとかするから。えいっ!」
 わたしは地面に貼り付いている『みどりん』(勝手にわたしがつけた)を刺していった。
「えいっ!えいっ!」
 あーっ、きりがないよーっっ。
「お嬢さん、僕がやるよ!剣を貸して!!」
 このひ弱なお兄さんは何を考えたのか、わたしの剣を奪おうとした。
「お兄さん。お願いっ、邪魔しないでよー」
「女の子がするより僕の方がまだ体力あるから貸してみなって」
 わたしたちはみどりんそっちのけでもみ合いになった。
「わたし、これでも剣士なんだから信じてよーっ!あっ…」
 こともあうに剣をみどりんがうずまく中へ落としてしまった。
「ひゃーっっ!もうだめっ」
 わたしはパニックになってきた。
「あっ、あんなところに剣が」
 お兄さんが指差す方を見ると、後方の木の根元に剣が横たわっている。
 あれっ、あの剣どこかで見たような…。あっ!アリスト城にあった剣だ。なんでこんなところに!?「よ し、僕が助けてやるからな、お嬢さん!」
 お兄さんは素早く木に駆け寄ると剣を手に取り勢いよく抜いた。
 瞬間、薄暗い小道を刀身からの閃光が照らした。
「ひゃっ!」
 閃光はものすごいスピードでみどりんの体を貫いていった。それと同時に、みどりんの体が割れるすさ まじい音がこだました。
 数秒後、小道はみどりんの液体でどろどろになっていた。さっきまでの状況が嘘のようだ。
「この剣…一体どういう品物だ?」
 お兄さんは剣の刀身を見つめながら呟いた。
「ファミルのばか!こんな雨の中、デートしてんじゃねーよ」
 森の方からカインの姿が見えた。
「カイン、天候を元に戻せるよ!!」
 わたしは笑顔で応えた。
「なんでこんな『軟弱兄ちゃん』がこの剣抜けんだよー!」
 山の麓に向かう途中カインが大声で文句を言っていた。まぁ、気持ちはわかるなぁ。カインも何度も剣を 抜こうとしたけど、わたし同様びくともしなかったわけで。おまけに、抜くことができたセレスという名の 兄さんは、別に剣士でもなんでもないただの商人なのだそうだ。なぜ、あの現場に現れたかというと、旅の 途中水が無くなりアリスト城にもらいに来た帰りなんだって。
「本当に僕みたいなものがそんな大役を務めてもよろしいのでしょうか?」
 オタオタしながら先頭を歩くセルシオ王に問い掛けた。うーん、無理もないか。一大任務だもんね。
「そう心配することはない。その剣を抜けただけでも立派なもんだ」
 うんうん、それはとっても思う。セレスさんは剣に撰ばれた人なんだもん。それに、あのみどりんとの戦 いの時にそばに剣があったのは、『剣がセレスさんにひかれたからではないか』とセルシオ王は言っている。
 剣が求めていたのは剣の達人ではなくて、心が清らかな人だったんじゃと思う。
 みんなでわいわい話をしているうちにアリスト城の裏にある山の麓に着いた。麓には洞窟の入り口らしき ものがあり、なんだか不気味な雰囲気を漂わせている。セルシオ王はどこからともなく松明を取りだし、火 をつけるとその洞窟に入っていった。
「これがその石版じゃ」
 洞窟に入ってから三十分くらいしたところに土に埋もれた石版があった。洞窟の中は広く、四人入っても まだゆとりがあった。
「さぁ、その剣をここに刺してくれ!」
 セルシオ王はがセレスの腕を引いた。セレスは緊張した面持ちで石版の前に立った。
「それじゃあ、やるよ」
 スラリと鞘から剣を抜くと柄を両手で握った。刀身から放たれる光で辺りがうっすらと明るくなる。
「たぁ!」
 セレスは剣を石版目掛けて振り下ろした。
「あっ、剣が!」
 剣は一瞬、すさまじい光を放った。その後、光は天に向かってのびると、やがて消えていった。
「これで元の天候に戻ったのだろうか」
 セレスは心配そうに石版をずっと見つめていた。
 わたしたちは何の確信もないままとりあえず洞窟から出ることにした。出口に近付くにつれ、まぶしい光 を感じる。
「わぁっ」
 この頃忘れていたような懐かしい風に触れた気がした。天には青のキャンバスに、ところどころ白が描か れている。
「おまえ、こういうの大好きだろ」
 カインに肘でつつかれる。
「うんっ!だーい好きっ!!もう、これでこの辺りの気候は大丈夫だよねっ」
 なんだかわからないけど、わたしの中にそんな実感が湧いていた。きっと、みんなもそうだと思う。
「それでは、わたしたちはおいとましよっか」
「そうだな、新たな冒険を求めて…か」
「うんっ!」
「どうも、世話になってしまったな。気をつけて行くのだよ」
「元気でね、お嬢さん」
「セルシオ王もセレスさんもお元気で!」
 わたしたちは笑顔で別れた。
 青い空に白い雲…と、さてさて
「今日も頑張っていっくよーん!あっ!」
「ばーか、張り切りすぎてこけるなって」


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