2002.4.16.


 死せぬ屍、不死の怪物が宇宙の片隅に少数ながらひっそりと住み暮らしていると聞き、永遠の生に対する執着一方ならぬ少年は旅に出た。目的はその生物に会い、そして不老不死とは如何なるものか自分の目で確かめることであった。すなわち不死の生物であればこそ抱くであろう悲哀──過ぎ去ってゆく年月への感慨、いわれなき迫害、終わりのない生に対する倦みなど、イモータルにしか持ちえない様々な苦悩について逐一尋ね、その厳しい現実を知り、かなわぬ夢を思い切ることこそが少年の望みだったのだ。
 だがその生物が途方もなく美しく、また永遠の日々に飽きることなく楽しげに生きているのを船の中から見て、少年は苦しんだ。これでは熱を冷ますどころか、羨ましさ妬ましさが尽きることなく溢れてくるだけではないか。

 そんな少年の思いをよそに宇宙船はその星に降り立ち、少年は旅人として盛大に歓迎された。不死の種族は美しく、恐れを知らず、屈託なく、楽しげで、奔放だ。彼らの一人として永遠の永さを感じさせる者はなく、生への疲れを見せる者もなかった。だがその夜の歓迎会が終わり、次の朝を迎えると、少年は奇妙なことに気づいた。
 誰も少年のことを覚えていないのだ。
 あれだけ様々な人と話を交わしたはずが、誰も彼も少年に「はじめまして」と声をかけるのである。少年に対してだけではない。長年ともに暮らしてきたはずの仲間に対してさえ、彼らはこの朝はじめて出会うもの同士であるかのように振る舞うのだ。

 少年は訝しんだが、すぐに合点がいった。つまりこれこそ彼らが若々しくある秘密なのだ。彼らはなるほど永遠の生を楽しんでいる。傷病も老いも気にすることのない完璧な体、歳月の重みに押しつぶされることのないタフな精神を持っている。だがその精神、心までも若く保つというのは並大抵のことではない。一体彼らは何千年生きるだろう、何万年生きるだろう。その間、どのようなものもその精神を蝕まないなど、考えられないことではないか。無限に続く、果てない生命の牢獄は囚人を絶望させるに違いない。そこで彼らの体は構造上、自らの精神を守るために、毎朝前日の記憶を消してしまうようになっているのだ。


 しかし、経験と記憶の喪失は、すなわち人格の死ではないか、と少年は思う。それならば彼らは夜毎死んでいることになる。宇宙でもっとも長命であるはずの種族は、毎日死んでいる。この考えは少年を満足させた。彼の中で、不老不死に対する憧れは急速にしぼんでいった。少年は目的を達したのだ。

 けれどもその日の朝食が終わると、少年はいっそう驚くことになった。彼ら不死の種族が口々に「朝食はまだか」と騒ぎ出したのだ。



 もう一度言おう。 少年は目的を達した。




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